出会い
ここはニルセンブリナ王国。
国土は気候が良く農作物に適した土壌なので収穫量も安定して自給自足ができている。
国内にある山々では鉱産資源が次々と発見され、特に金に関しては十分な量が採れることから鉱業が発展し金の採鉱が盛んに行われるようになった。
このように恵まれた国土を狙う周辺諸国を常に警戒しているが、200年前から戦争にはなっていない。
しかし国境付近の領地には領兵の確保や育成、必要な物資の購入などに対して十分な軍事費を与えて王国の安全を確保している。
ニルセンブリナ王国の周辺には東はイルマルーン王国、西はライゼン王国、南はミナトリアナ王国、北はメッシュバルン王国がありメッシュバルン王国以外の国々とは平和友好条約を締結している。
俺の名はフィルバート・ギサ・メンデス。メンデス伯爵家の三男に生まれ21歳である。
身長は平均より少し高く、体型も標準であるが着痩せするので痩せ型に見え、髪も瞳の色も淡褐色だ。
剣術の才能があったので騎士団に入団後、しばらくしてから近衛兵に任命され第三王子であるニードリッヒ殿下に仕える第三近衛隊に所属している。
理由は分からないがニードリッヒ殿下は同じ歳の俺を気に入り第三近衛隊の隊長に任命する。つい先日まで殿下の視察に同行し王都に戻ったばかりだ。
俺は王都の実家で生活するよりも自活をしてみたかったので集合住宅の一室を借りて住んでいるが、あまり自宅に帰らないので最近は騎士団寮へ引っ越した方が良いような気がしている。
仕事も忙しく両親も三男の俺を自由にさせているので実家にはほとんど帰らず領地の屋敷にも行かない。
今日は久しぶりの休日である。自宅に食料や日用品が全く無く、自炊もできるがあまり手の込んだ料理は作りたくないので買い出しを軽く済ませ昼食は屋台で購入した。
木陰にあるベンチで屋台で購入したものを食べていたのだが、女性と男性が争っているような騒がしい声が聞こえてきたので食べかけていた物を急いで口に放り込み声のする方へ行く。すると風貌の悪そうな男3人が女性1人に対して花屋の店前で暴言を吐き腕を掴んで引っ張ろうとしているではないか。
「やめてよ、離してください。あなた達のことは知らないし私は店の留守番中なので帰ってください」
あっ、危ない! 少女は男達に勢いよく引っ張られて前に転倒した。
「用があるのは俺達だからお前は知らなくていいんだよ。それにお前は14日経てば忘れるんだろ?」
「へへっ、怖がらなくてもこれから俺達がお前にいいことを教えてやるからさぁ」
「さっさと立って早く来いよ。ほら、行くぞ」
「やめてください。嫌、助けてお願い離して。お父さん……」
発端は分からないが周りの人達は身体の大きい男達に立ち向かうことはできずに困惑している様子だ。俺は男達の言動が見るに耐えないので女性を助ける。
「おい! お前らそこで何をしているんだ?」
「はぁ? 関係ないお前は怪我をしたくなかったら黙ってろ」
男達は少女から離れて見下すように俺を見下したように笑い睨みつけながら近づいてくる。
「少女はお前達のことを嫌がっているだろ? しかもこんな少女に男3人で無理矢理連れて行こうとして恥ずかしくないのか」
「別に無理矢理じゃねぇよ。こいつは俺達が用があって可愛がってやる予定なんだからお前は口出しするな」
話が全く通じない…。すると突然殴りかかってきたので相手をしていたところに騒ぎを聞きつけた町の警吏がようやく到着した。男達は俺が鳩尾や膝の側面など急所を攻撃したので痛みに顔を歪めながら苦しそうに地面に倒れている。
「やめろ! これは何の騒ぎだ! 喧嘩か?」
「俺は第三近衛隊のフィルバート。今日は休日だがこの男達は被害者である少女に暴言を吐き無理矢理連れて行こうとした。男達を捕縛して警吏詰所の牢へ入れておけ。明日、俺が取り調べをする」
「はい、承知ました。しかしフィルバートさんにお手間を取らせてしまうわけには…」
「直接関わったのだから構わない。明日は宮殿に行ってから警吏詰所に向かうのでよろしく頼む」
警吏は3人を捕縛し連れて行き、振り返ると花屋の前に少女が体を震わせながらうつむいて自分の体を抱きしめ座り込んでいる。それに呼吸も上手くできていないようだ。
「もう大丈夫だよ。ゆっくりでいいから大きく息を吸うんだ」
俺は恐怖から早く彼女を解放してあげたいので背中を摩り気持ちが落ち着くのを待つと呼吸も整ってきたようだ。
「君、落ち着いたかな? とても怖かっただろう。あの男達はいないから安心していいよ、ほら立てる?」
腕を取り立ち上がらせると少女は俺に頭を下げたが、足に力が入らないようなぎこちない立ち方に違和感を感じる。
「ぁ、ありがとうございました。怖かったので立ち上がれなくてすみません…」
「もしかしてどこか痛い? 怪我をしたかな」
「転んだ時に足を捻ったけどこのくらい大丈夫です」
「足首か? 見せてみろ」
足首を見ると腫れてしまって膝にも擦り傷があり血が滲んで垂れてきている。
「あいつら、余程強く引っ張ったな。もっと早く助けてあげれば良かった、今から医者に行こう」
俺は少女の横抱きにして近くの医者を思い浮かべる。
「おい! お前、俺の娘に何をした? 触るな、今すぐ下ろせ!」
突然、父親らしき人が顔を真っ赤にして怒りの色をあらわしながら俺に向かって大きな声で怒鳴ってきた。
「お父さん、この人は私を助けてくれたの。だから怒鳴らないで」
父親は俺をまじまじと見終わると緊張が解けたようで大きく息をつく。
「そうか…あの突然怒鳴ってしまいすみませんでした。配達中に娘の友人から男に襲われていると聞いて慌てて駆けつけたので事情が分からず勘違いをしました。
この度は娘を助けていただき本当にありがとうございます。あの…それで娘はなぜあなたに抱かれているのですか?」
父親が不安げな顔をしているので少女をそっと地面に下ろす。
「あぁ、足に怪我をされているようで医者に連れて行こうと思っていたのです。お父さんは娘さんを心配なさったのですから気にしないでください」
「大怪我ではないからお医者さんに診てもらわなくても大丈夫です。それにこの花屋はお父さんのお店だから休めばいいので」
「こちらはあなた方の店でしたか」
「はい、私が花屋で妻が隣の雑貨店を営んでおりますが両方の店の留守番を娘にお願いしてあったのです。
まさかこんなことになるなんて思いもしませんでした」
「そうでしたか。私は近衛隊に所属しているので捕縛しただけですが、あの男達の先程の言動が気になりましてね。
娘さんが14日しか覚えてないとか、良いことをしてやる、可愛がってやるとかです。
娘さんを無理矢理連れて行こうとしていたので明日私が取り調べてみますが何か心当たりはありますか?」
「い、いいえ。心当たりがないので理由はわかりません」
咄嗟に視線をそらしながら動揺した父親は何か隠しているような気がした。
「あの騎士さん、本当に助かりました。もう大丈夫なのでありがとうございます」
少女は何も心当たりがなさそうな表情をしている。そこへ娘さんの父親を呼びに行った友人が戻ってきた。
「はぁ…はぁ…エミル、怪我してない? 大丈夫だった? なんとかおじさんは間に合ったみたいね」
「うん、少し足首を捻って膝を擦りむいたくらい。そこにいる騎士さんが私を助けてくれてお父さんも来てくれたから平気よ。メイ、お父さんを呼びに行ってくれてありがとう」
「怪我をしたのね…。私、エミルに会いに行く途中で怖そうな男達に絡まれているのが見えたから慌てておじさんを探したの。まさかあの男達は知り合いじゃないよね?」
「うん、全く知らない人だし運が悪かったのよ」
「おじさん、これからはエミルを1人で留守番させるのは危ないからやめたほうがいいよ。それにエミルがまた怪我するのは嫌よ。もう心配で堪らないわ」
「メイ、本当に助かったよ。おじさんが悪かったしこれからはエミルを1人にさせないようにするから。騎士の方もありがとうございました」
「いえ、当然のことをしただけです。娘さんは怪我をしていますし早く手当てをした方が良いです。何かありましたら警吏の詰所にお知らせください。それでは失礼します」
俺はなぜか父親の態度が腑に落ちない…。
少女は飾り気のない可愛らしい容姿をしているが男遊びをするような子にも見えないし、如何わしい店などに出入りしているような感じにも見えない。
本当に泣きそうになりながら必死に抵抗して嫌がっていたのは間違えない。両親に借金でもあってあの男達が取り立てにきた際に娘を連れて行こうとしたのだろうか?
それに友人の女の子は父親に対してまた怪我をするのは嫌だと言っていたが少女は大怪我でもしたことがあるのか?
でも一番気になるのは…14日しか覚えてないというのはいったい何だろう??
いいことを教えて可愛がるとも言っていたが可愛がるのは当然あのことだよな。
考えても全く予想がつかないし、このままあの少女が男達の辱めを受けるのは絶対に許せない。
明日は牢へ行き、男達を取り調べて真相を聞き出してやる。
あんなあどけない少女を……無性に腹が立って仕方がない。
2作品目の投稿になります。よろしくお願いします!