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恐ろしい魔王軍……よりもっと怖い人ばっかりだぁ……

「まずは魔……」


「魔王様の居場所はどこかわかりますかぁ?」


 早速魔物へ質問しようとした俺の言葉を遮ってシヨちゃんが話し出した


(し、シヨちゃ……いやもうこういうのはこいつに任せよう……)


 少し注意しようとも思ったが、冷静に考えればこの手の才能はシヨちゃんに遠く及ばない。


 ならばいっそのことすべて任せてしまったほうが話が早い。


 俺は一歩下がって見守ることにした。


「ふん、我らの偉大なる魔王様はこの残る三つの大陸の中央にて世界中を見下しておるわっ!!」


「中心って言うとぉ、内海の中ってことですかぁ?」


「ふはは、そこに魔王様が大陸を作り上げ浮遊させて住まわれておるのだっ!!」


「ですけど大陸なんかが浮かんでたら少しは噂になるはずですよぉ……嘘つきはいけませんよぉ?」


 シヨちゃんの言葉に、キメラントと自称する魔物は露骨に怒りを見せる。


「このキメラント様が嘘などつくものかっ!! 現在は四大幹部様の魔力によって覆い隠されておるのだっ!!」


「へぇ……つまり四大幹部さんを倒さないと魔王様のところへはいけないってことですかぁ?」


「ふははははっ!! しかしあの方たちのところへ向かおうにも海上には方向を惑わす霧がある……どうやっても辿り着くことなど不可能よっ!!」


「ふんふん……それは困りましたぁ……」


 肩を落として落ち込んで見せるシヨちゃん……だけどさりげなく俺へ目配せしたのがわかる。


(切り札でどうにかできると踏んでるんだろうなぁ……まあ多分行けると思うけど……)


 何ならば直接四大幹部とやらが居る島まで飛ばしてもいい。


(居場所さえわかってれば何とでもなるからなぁ……頭上からカノちゃん爆弾を落としてやろうか?)


「ふはははっ!! しょせん人間如きが我ら魔王軍に敵うはずがないのだっ!! これも全てチーダイ様の策略によるものよっ!!」


「それはそれは……ですけどぉこれだけ魔王軍の進行を食い止められたら、そのチーダイ様って方も次の手に困ってるんじゃないですかぁ?」


「そのようなことがあるものかっ!! 既に隣のゼルデン大陸に存在するドウマ帝国を利用する計画を練っておられるわっ!!」


 チーダイ曰く、そこには魔導兵器を利用する軍事国家があるらしくそれを乗っ取り魔王軍の戦力とするつもりのようだ。


「そんなに上手く行くんですかねぇ~?」


「ふん、乗っ取り自体が失敗しようとも元々隣のハラル王国と争って居る国だ……適当に焚きつけて人間同士の内輪もめに持ち込めば上出来だと考えておられるのだっ!!」


「ふんふん、確かにそんなことになったら困っちゃいますねぇ~……うふっ」


(今嗤ったのが見えたぞシヨちゃん……争いになったらそのどさくさで乗っ取る気なんだろうなぁ……)


「そう言うことだっ!! これでチーダイ様の優れたる知略が分かったであろうっ!!」


「ええ、よぉくわかりましたぁ……」


(確かによくわかったよ……部下に恵まれてないことも含めて……)


 策略自体は確かに厄介だ、もしも秘密裏に進行していたら非常に面倒なことになっただろう。


(ここで聞いといて大正解……流石だよシヨちゃん)


「ならばいい加減にこの拘束を解くがよいっ!! この屈辱、貴様らをバラバラにしてやらねば気が済まんっ!!」


 キメラントは大地に突っ伏したまま威勢良く吠える。


(うーん、何と言うか……物凄く哀れだなぁ……)


 どうやらシヨちゃんが約束を守ると思っているようだ。


(前にヴァンヴィル様は俺のことを勇者だって認めてくれたし……案外魔王軍てピュアな連中の集まりなのかなぁ?)


「いいですよぉ……テキナさん、魔法を解いてあげてくださぁい」


「えっ!? い、いいのシヨちゃんっ!?」


「いいに決まってますよぉ、私たち勇者なんですから幾ら魔王軍が相手とは言え嘘を付いちゃ駄目駄目ですよぉ~」


(大僧侶相手に大ウソついてるじゃねぇかよおめぇは……誰が王宮吹っ飛ばしたと思って……いや今そんなこと言っても仕方ないな……)


 尤も拘束を解いたところで俺たちの敵ではない。


 だから俺もそこまで食い下がろうとは思わなかった。 


「分かったぞシヨ……ほら、解いてやったぞ」


「ふははははっ!! 愚かなぁ人間どもがぁああっ!! 死ねぇえええっ!!」


 自由になったキメラントが魔法を解くために近づいていたテキナさんに全力で拳を振り下ろした。


「て、テキナさ……っ!?」


「ぎゃぁあああああああっ!!」


 そして見事に攻撃が当たり悲鳴が上がった……キメラントの口から。 


「……何がしたいのだ貴様は?」


「ぐ、ぐぅうううっ!?」


 呆れた口調で魔物に話しかけるテキナさん、その身体は見事に魔物の体液で汚れているが傷一つない。


 どうやらテキナさんの身体が固すぎて、ぶつかった拳のほうが砕けてしまったようだ。


(えぇ……どうなってんのこれぇ?)


「お、おのれぇえええっ!! く、喰らえぇええ……ぎゃぁああああっ!!」


 今度は爪を振り上げてテキナさんに切りかかり……やはり傷を負わせえるどころか逆に爪のほうが剥がれてしまう。


「う、うわぁ……すっごくいたそぉ……」


「あららぁ、可哀そうですねぇ……」


「こ、これがサーボ様の弟子のお力……ああお見事ですっ!! 私の修行不足を実感いたしますぅっ!!」


「さすがてきなさんっ!! すごいつよいやぁっ!! つよいつよい~っ!!」


「うふふ、流石サーボ様のお仲間ですねぇ……ムートンちゃんもここから一緒に応援しましょうねぇ~」


 他人事のように眺める俺の仲間たち。


「……ヒメキ様、これ夢じゃないですよね?」


「……夢かもしれん、いや夢に決まっておる」


 出会ったばかりで目の前の現実を受け入れられないミイアさんとヒメキ様。


 そして……俺もこっち組だ。


(弟子たちよ、お前らは多分勘違いしている……テキナさんがどれだけ規格外(バケモノ)なことをしているかを……)


 恐らく弟子たちはテキナさんの実力を知っていて……二重魔法を使って防いだと思っているからああも平然としていられるのだろう。


 だけど俺にはわかる、テキナさんは何の魔法も使わずに素の身体能力だけであの現象を引き起こしているのだ。


「がぁあああああああっ!!」


 物理攻撃じゃかなわないと見たキメラントが、四つある口から強烈なブレスを放ってきた。


「やれやれ……ふっ!!」


「ぎゃぁああああああああっ!!」


「……えっ!?」


「ふぇえっ!?」


「ちょぉおっ!?」


(て、テキナさん……口から軽く吐息を吹いただけでそれを跳ね返せるんですかぁっ!?)


 ようやくテキナさんが何をしているか気づき始めた弟子たちも俺と顔を見合わせて、驚きを共感し始めた。


「がぁああああっ!! ぐぅうううっ!!」


「自らが放った攻撃でそこまで大げさに痛がるでない、全く情けない限りだ」


「き、貴様……ば、化け物かぁっ!?」


 だんだん実力差がわかりかけてきたようで、キメラント君が目に見えて怯え始めた。


(気持ちわかるわぁ……俺ももうテキナさんと戦いたくねぇ……強いとかいうレベルじゃないよこいつ……)


 確かに移動の合間合間に、真面目なテキナさんは時間を見つけては修行をしていた。


 しかしまさかここまで強くなっていたとは予想外過ぎた。


(てか予想できるか、こんな強さっ!!)


「何を言うかと思えば、私などサーボ様の弟子の中でも最弱……カノやシヨ、そしてサーボ様はこれ以上に強いのだぞっ!!」


「ちょぉっ!?」


「ふぇぇっ!?」


「なぁあっ!?」


(な、なに言ってんだこいつはぁっ!?)


 テキナさんに名指しされた俺たちは例外なく驚愕の声を上げる。


「なぁっ!? そ、そんな馬鹿なぁ……」


「勇者は嘘などつかぬっ!! 先ほどシヨがそう言ったのを忘れたかっ!!」


「ひ、ひぃいいいいっ!!」


 もはや捨てられた子犬のように怯え切った目を俺たちに向けるキメラント。


「そ、それほどまでに強いとは……わ、私少し恐ろしいですわ……」


「さ、サーボ様達ってそこまで……」


「あ、あはは……ひ、ヒメキ様もうあきらめましょう……」


「う、うむ……これほどバケモノでは……どうしようもあるまい」


(ち、違うからぁあああっ!! 俺たちあそこまでじゃないからぁあああっ!!)


 まるで怪物を見るような目を向けてくる仲間たちに、俺とカノちゃんとシヨちゃんは必死で首を横に振って見せる。


「違うから僕あんなことできないからねっ!! サーボ様やシヨちゃんと違って僕はまだ人間だもんっ!!」


「ち、違いますぅっ!! シヨはあんな真似したら死んじゃいますぅっ!! サーボ様やカノさんと違ってシヨはまだ人間なんですぅっ!!」


「ち、違うからねっ!! 俺は魔法を使わなきゃなにもできない屑で無能のサーボ……屑で無能の、サーボ……?」


 反射的に口から飛び出した言葉に、俺は何やら無性に引き付けられる。


(お、おかしい……俺はこいつらを育て上げて勇者として活動しているのに……一体どこが屑で無能だって言うんだっ!?)


 あり得ない思考に惑わされながら、俺は救いを求めるように頭を上げる。


 そこには立派に勇者として育ち、活動するカノちゃんたちが……あちこちで破壊活動をしてきた化け物たちが居た。


(ああ、うん俺屑で無能だわ……こんなテロ活動する奴らを弟子として育ててんだもんなぁ……はぁ……)


 何やら妙に納得できて、急に疲れてしまった。


「シヨ、それにサーボ様……このキメラントとやらはどうなさいますか?」


「え、ええとぉとりあえず退治……っ!?」


「きゅぅぅん……くぅうぅん……」


 テキナさんの方へ視線を移すと、山のような巨体を小さくすくめて必死で頭を下げるキメラントの情けない姿が映った。


 どうやら心が折れたようだ。


 ビクビクしながら俺たち三人へ視線を投げかけたかと思うと、すぐにそらしてしまう。


(あ、あはは……こんな化け物から逆に化け物扱いされちまってるよ俺たち……はぁ……)


「ど、どうしようかシヨちゃん?」


「飼い慣らして見世物……いや身体中に色んな属性が渦巻いているから意外と薬の材料に……ふふ、これは掘り出し物ですぅ……」


「ああそう……じゃあ君に任せるよ……」


 何だかもう考えるの面倒だ。

 

 あっさりと立ち直ったシヨちゃんにこの場は任せてしまうことにする。


(癒されてぇ……ムートン君に癒されてぇ……)


「うぅ……ムートンくぅん、僕バケモノじゃないからねぇ」


 しかしカノちゃんもまた俺と同じ目的を抱いていたようで、あっさりと追い抜かれた。


(貴方は立派なバケモノ枠でしょうが……はぁ……先にとられたぁ……)


 ショタっ子状態ということもあり、ミリアさんとカノちゃんの二人がくっついていてはもう俺が触れられる余地はない。


 だから諦めて他の癒しを求めようとして、またしても嫌なものを目にしてしまう。


「良いですか、サーボ様に逆らおうとするから悩ましいのです……我々は偉大なるサーボ教を開き彼の者から信託を受け……」


「テプレ様ぁっ!? 何人の名前使って勝手に宗教作ってんですかぁっ!?」


 慌てて割って入るが時すでに遅し、話を聞いていたミイアさんとヒメキ様が俺へうつろな視線を向けてくる。


「おおー、我らの偉大なる指導者サーボ様ぁっ!! どうか哀れな我らをお導きくださいませぇーっ!!」


「サーボ様ばんざぁいっ!! この妾に救済をぉっ!!」


 どうやら目の前の非現実じみた展開で心が完全に圧し折れてしまっていたようだ。


(もう駄目だ……この二人も……この大陸も……い、いやまだイショサ国に残してきたカーマ殿とセーヌ殿がきっと俺の指示に従って国を正常に戻して……)


「んっ!? この音……それに声は……サーボ様ぁ、カーマさんとセーヌさんがこっちに近づいてきてるよ?」


「えぇっ!? な、なんでぇっ!?」


(あ、あいつらにはイショサ国の維持管理を任せてきたのに何でこんな場所までっ!?)


「あれぇサーボ様はご存じなかったのですかぁ?」


「あの二人はこの大陸をサーボ帝国に統一するために片っ端から村や街へ勧告をかけておるのですよぉ」


(ちょぉっとぉおおっ!! なんでそうなるのぉおおおっ!?)


「流石はカーマさんとセーヌさんだぁ、ちゃんとシヨの言う通りに動いてくれたみたいですねぇ~」


「シヨちゃぁあんっ!? なにやってんのぉおおっ!?」


「シヨたちが北から制覇して南下して、カーマさんとセーヌさんが南から制覇して北上する……どうですかぁシヨの計画は完璧でしたでしょぉ?」


 サラっととんでもない事実が飛び出してきた。


(そ、そのためにリース国へ……お、俺はこんな馬鹿げた計画に利用されてたのかぁああああっ!!)


 壮大なテロ活動に巻き込まれたことを知って、目の前がふらついてくる。


「おまえらぁあああっ!! サーボ帝国に屈し……サーボ先生っ!?」


「もうこの国の王都も屈したの……おお、シヨ殿っ!?」


 そこにカノちゃんの言う通りカーマ殿とセーヌ殿も顔を出して……シャレにならない発言をかましてきた。


(あ、あはは……こ、この国の王都が屈したって……終わりじゃねぇかよぉおおっ!!)


「ごくろぉさまですぅ……では今この時をもってこの大陸はサーボ帝国に統一されたことをここに宣言するですぅううっ!!」


「ひゃっほぉおおっ!! 流石サーボ先生だぁあああっ!!」


「やりましたなサーボ先生っ!! これで我らの天下だぁあああっ!!」


「……ぐはぁ」


 露骨に喜ぶシヨちゃん達を見て、今度こそ限界を超えた俺は……その場にぶっ倒れるのだった。


(も、もうヤダぁあああああっ!! 誰か助けてぇえええええっ!!)

 【読者の皆様にお願いがあります】


 この作品を読んでいただきありがとうございます。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] この大陸はサーボ帝国に統一されたw もう魔王以外の何物でもないのでは
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