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帰路にて

「じゃあテキナさん、修行だと思って頑張ってほしい」


「わかりましたサーボ先生っ!!」

 

 人力車へと改良した元馬車をテキナさんが押しながら走る。


「うわぁっ!! 凄いやっ!! 流石テキナさんだっ!!」

 

「馬車よりずっとはやぁあいっ!! テキナさん頑張ってーっ!!」


「任せてくれ……サーボ先生、目的地は王都イショサでいいのですよね?」


「ああもちろん、もう情報にあった村は全て解放したからね」 


(そろそろ評価シートも届いているだろうし、評価が楽しみだなぁ)


 俺は人力車の荷台で座り込んでいるムートン君に寄りかかりながら今後の展望を考えていた。


 王都に戻ったら王宮にこちらからも報告を入れた上で情報収集するつもりだ。


 それで魔物の情報があればまた向かえばいい。


 問題は何もなかった場合だ。


(いつもの俺なら宿屋に籠ってサボろうとするところだが……宿屋は危険すぎるからなぁ)


 前の村で宿屋に泊まった際のことだ。


 みんなで一つの部屋で一つのベッドで眠っていると全員が狭いと言って身体を密着させてきたのだ。


 はっきり言って拷問だった。


 性欲断ちをしている俺だが、性欲そのものがないわけじゃない。


 だから美少女三人の柔らかい身体だとかいい匂いだとか……正直よく我慢できたと思う。


(というか逆に誰か一人と寝てて人目が無かったら……ヤバかったかもしれない)


 もうあんな目にあうのはごめんだ。

 

 だから出来るだけ野宿がしたい。


 風呂に入れなければ女のいい匂いとて臭くなる。


 柔らかい身体も美貌も汚れていれば魅力は薄れる。


 何より個室ではなく大空の下では彼女たちも下手な行動はとれないだろう。


 魔物の襲撃は怖いが、誰かを見張りに立てておけば何とでもなるだろう。


(野宿ならムートン君とも一緒に寝れるしなぁ……ああ、本当に心地いい……癒されるぅ)


 モフモフさを堪能しながら俺は優しくムートン君の身体をくすぐってやる。


「めぇえええ……っ」

 

「ふふ、どうだ気持ちいいだろう……よしよし、いい子だいい子だぁ」


(動物っていいなぁ……なんか荒んでた気持ちが晴れていくようだ)


 将来はムートン君と一緒に田舎に籠って隠居したいものだ。


「もうサーボ先生ったらぁ……ムートン君を独占しちゃってぇ」


「全く、少しは僕たちの相手もしてよぉ……」


「こらこら、サーボ先生は疲れているのだ……せっかくの休養を邪魔してはいけないぞ」


「「はーい」」


(昨夜はあんなにギスギスしてたように見えたのに……女ってのは本当によくわからんな)


 それに対してムートン君の分かりやすさはまるで天使に見える。


「あはは……ムートン君の羊毛は素敵だなぁ」


「めぇえええ……っ」


 俺たちはお互いを労りあうように声を掛け合っていた。


「やれやれ……んんっ!? サーボ先生っ!! 前方で馬車が魔物に襲われておりますっ!!」


「えぇっ!? た、大変だ……先生早く早くっ!!」


「ほらサーボ先生っ!! しっかりしてぇっ!!」


(あぁ……ムートン君、俺はお仕事をしてくるからねぇええっ!!)


 元運転席に連れていかれる俺を見るムートン君の目が悲し気に見えたのは気のせいではないと信じたい。


「ええと、どれどれ……うわ、本当だ」


 倒れた白馬の近くに豪勢な意匠を感じさせる馬車の残骸が転がっている。


 その周りで蠢いているのは……ジェル状の何かだ。


(まさかジェルスライムか……こんなところで通行人相手に暴れてたのか?)


「サーボ先生どうしますかっ!?」


(通行人助けても大した評価にならないんだが……あそこまで豪勢な馬車だと助けたら謝礼とかもらえないかなぁ)


「よしテキナさん、早速退治してきてくれっ!!」


「はい、わかりましたっ!!」


「カノちゃんはステルス状態で様子を伺いつつ、隙があれば生存者の救出を頼むっ!!」


「うん、任せておいてっ!!」


 前の一件で色々とカノちゃんは振り切れたらしい。


 大盗賊の称号こそ嫌がっているがトラッパーの装備を使うことへの抵抗は無くなっていた。


 すっと姿を消してカノちゃんも移動を始める。


「うぅ……サーボ先生私は……?」


「シヨちゃんには俺の警護を頼むよ、状況次第で指示を出すことを優先するからね……大事な仕事だ」


「は、はいっ!! 全力で頑張りますっ!!」


(いざとなったら身体を張って俺の盾になれってことだが……伝わってないよなぁ)


 最もそんな心配は必要ない。

 

 真っ向勝負ならテキナさんに敵うやつはそうそういないのだ。


 今も手を振りかざすだけで氷の飛礫が不自然に舞い散り、触れたジェルスライムを凍り付かせていく。


「せ、先生っ!? あ、あの人っ!?」


 16歳ほどの女性が空中を移動してくる。


 恐らくカノちゃんに抱きかかえられているのだろう。


 重要なのはその女性の格好だった。


 白が基調となっているのに煌びやかに感じる高貴なドレスを身にまとい、金髪を縦ロールにした少女。


 手に抱えた王冠らしきものが眩い。


(まさか……王族かよっ!?)


「ええい、何がどうなっておるっ!? お、お主たちは何者じゃっ!? わらわの救援に来た者かっ!?」


「そ、そうですっ!! 私たち勇者ですからっ!!」

 

「勇者じゃと、お主はどう見てもわらわより子供……勇者許可証っ!?」


 シヨちゃんが首から下げている勇者の許可証を食い入るように見つめる女性。


「恐れながら勇者として活動させていただいておりますサーボと申します」


「私はシヨですっ!!」


「僕はカノだよ」


 フードをめくることで一時的にステルス効果を無効化したカノちゃんも名乗りを上げる。


「終わりましたよサーボ先生……初めまして、私はテキナと申します」


「苦しゅうないぞ、わらわはプリスじゃ……よし早速じゃがこのままわらわのバンニ国へと向かうのじゃ」


「確か隣にある国だよね……プリス様はそこの王女様なんですかっ!?」


「わらわの高貴さを見ればわかるであろうがっ!!」


(思いっきり高圧的だなぁ……甘やかされて育ちすぎだろう)


「その前に何が起きているのか教えていただきたい、情報がなければ俺たちも動きようがありませんよ」


「わらわの言う通りにすればよいのじゃっ!! さあ行くがいいっ!!」


 話を聞こうともせずに人力車内に陣取ると先に進めと促してくる。


「……どうしますかサーボ先生」


「決まっている、俺たちは勇者として行動するだけだ」


「ほほう、中々話の分かる……」


「だから俺たちを勇者として認めている王都イショサへと戻るのを優先しよう」


「な……っ!? お、お主は魔物に襲われているわらわの国を見捨てる気なのかっ!?」


 叫び声をあげたプリスに俺はあえて驚いた風を装って見せた。


「何とバンニ国は魔物に襲撃されていたのか……全く気付きませんでしたよ」


「わらわが魔物に襲われているのじゃぞっ!! 見てわからんのかっ!?」


「この辺りも魔物の動きが活発ですからね……このような行き違いをなくすためにもきちんと何が起きているのか説明をお願いしますね」


「くぅぅ……時間がないのじゃっ!! 一度しか言わんからよく聞くがいいっ!!」


 ようやく話す気になったようだ。


(全くこいつは今までの三人とは違う意味で面倒くせぇな……)


「流石先生……お見事な誘導ぶりです」


 テキナさんが俺を眩しいものを見る……というか陶酔しきったうっとりした目で見てる気がする。


(気付かないふり、気付かないふり……ほかの二人も露骨に似たような視線を向けないでぇ)


 強引に意識をお姫様の話に集中することにした。 

 

「先日のことじゃ、わらわの国に先ほどの魔物が群れ成して攻めてきたのじゃ」


「ふむ……」


「わかったかっ!! では急いでわらわの国に向かうのじゃっ!!」


(終わりかよぉっ!! こいつシヨちゃんとは違う意味でつかえねぇえっ!! いやそれ以下だっ!!)


 世の中下には下がいるものだと恐ろしくなる。


「あの、もう少し情報を頂きたいのですが……攻めてきた魔物の種類だとか数だとか、プリス様の国がどのように対抗したかなど……」


「黙らんかっ!! そんなことを言ってる暇があればすぐに救助に向かうのじゃっ!!」


(それしか言えねーのかよ……捨ててくか)


「サーボ先生、お気持ちはわかりますが……困っている人が居る以上は一刻も早く向かうのも一理あるかと思います」


(全くお気持ちがわかってねぇよっ!! 俺は危険な場所には向かいたくねえんだよっ!!)


 もしもバンニ国が抱えている軍隊をもってしてなお陥落するような敵がそこにいるのなら絶対に行きたくない。


 最も王女様がお国から逃げ出している時点で答えは出てるも同然だ。


「テキナさん、忘れたのかい前の村であった出来事を……この子自体が敵の誘いである可能性もあるんだよ」


「うぅっ!? そ、それを言われては……」


 真っ赤になってうつむいてしまうテキナさん。


(本当に何を見たんだよこいつは)


「何をこそこそと話しておるかっ!? いい加減にせぬと許さんぞっ!!」


「ぷ、プリス様落ち着いて……サーボ先生どうしましょう?」


「はっきり言おう、情報が少なすぎてこれでは動けない」


「なっ!? お主は先ほどのわらわの話を聞いておらんのかっ!?」


「あの程度の話では何も判断できませんね」


(本当にな……まあ詳細を聞いてもどうせ断ったけどな)


「さらに言わせてもらえば、プリス様……あなたが本当にバンニ国の王女であるかすら俺たちには判断できません」


「お、お主わらわを疑うのかっ!! わらわの姿に見覚えがないとは言わせんぞっ!!」


「プリス様の国の人間ならともかく、別の国のそれも田舎村にいた俺たちに面識があるわけないでしょう」


 プリス様は俺の弟子たちのほうへと視線を向けるが全員視線を逸らすばかりだった。

 

「な……お主ら、何と不敬なのじゃっ!! 信じられぬっ!!」


(本格的に面倒くさくなってきた、無視してさっさと帰ろう)


「テキナさん、当初の予定通り王都イショサへと戻り王女様を安全な王宮へと案内しよう」


「は……はい、先生がそうおっしゃるのでしたらそうしましょう」


「くぅっ!? もうよいっ!! お主たちがそのような態度をとるのならば共になど居られるものかっ!!」


(やったぁあっ!! 厄介ごとが向こうからいなくなってくれるなんて最高だなぁ)


「しかしわらわに去られては困るじゃろう、お主らが土下座し許しを請うのならば特別に……」

 

「いやー王女様とお別れなんて残念だなー、でも本人様がお望みなら仕方ありませんねー」


「っ!? い、いいのかっ!? わらわに見捨てられてしまうのじゃぞっ!!」


(はは、謙虚になって土下座して連れてってくれって言えないのかよ……まあ連れてかねーけど)


「さ、サーボ先生……いいんですか?」


「本人がそう望んでいる以上は強引に連れ回すわけにはいかないよ」


 俺は王女様を人力車の入り口へと誘った。


「ではまたご縁があればお会いしましょう」


「くっ!! お、お主らなどもう知らんっ!!」


 プリス様は虚勢を張って人力車を降りるとそのままスタスタと去って行こうとする。


「あ、あのサーボ先生……本当に放っておいていいのかなぁ」


(いいに決まってるだろ、自分が望んだんだから)


「仕方あるまい、彼女には彼女なりの考えがある……俺には俺の考えがあるようにね」


「そ、そうですよね……先生はちゃんと考えて答えを出してますもんね」


 俺に心酔している弟子たちだ。

 

 考えがあると聞けばそれ以上余計なことを言うこともなく納得するだろう。


「うぅ……先生、これでいいんですよね?」


 テキナさんだけ罪悪感を感じているような声を出している。


 少し距離が離れたプリス様が露骨に肩を落とし、こちらへチラチラと視線を投げかけているのだ。


 恐らく俺たちが考え直して声をかけるのではないかと期待しているのだろう。


「テキナさん、俺たちはまずこの領内の人々を救わないといけない……何もかもを助けられるほど俺たちは万能ではないよ」


(わざわざ隣の国の人まで救っても本当に評価されるのかすら曖昧だからなぁ)


 はっきり言って勇者という制度自体遥か昔に魔王が暴れていた時代につくられたものだ。


 当時は全世界の危機ということで全ての国が順守するルールであったがそれ以来一度も使われたことはない。


 勇者の里があるイショサ国は、それこそ勇者年金という支出があったこともありしっかりと厳守されている。

 

 だが他の国がどうなのかはわからない。


 それこそ中には勇者という制度を忘れて、ただ便利に人を助ける存在だと思っている人のほうが多い可能性もある。


(魔王が生まれなきゃ必要ない制度だから上手く施行できなくても仕方ないんだが……俺はタダ働きはごめんだ)


「わ、わかっています……ですが、助けを求める人を放置することにどうしても抵抗がありまして……」


「うぅ……僕もなんか……先生の言葉が正しいとは思うけど……」


「サーボ先生、ごめんなさい……私も少し……」


(どいつもこいつも真面目に勇者してやがる……まあ当然かぁ)


 このまま放置してやる気が下がるのは頂けない。


 かといってあいつを連れて行くのは論外だ。


(うーん、俺たちの代わりにあの我儘女の言うことを聞きそうなやつがいれば良いんだけどなぁ)


「君たちの言いたいことはわかるが……ん、あれはっ!?」


 ちょうどいいところにいいものを見つけて俺は笑顔を浮かべると、大声で叫んだ。


「おーいカーマ殿っ!! セーヌ殿っ!! そしてプリス様っ!! 全員集合してくれっ!!」


「えっ!?」


 俺の叫び声に顔を上げた弟子たちは周りを見回し、ちょうど視界に移っていた馬車二台に気が付いたようだ。


 別の勇者候補たちだ。


 俺たちが周りの村の厄介ごとを解決したためにやることがなかった彼らも帰るところだったのだろう。


(丁度いい、あいつらに押し付けてやれ)


 プリス様はぱっと顔を上げるとこちらへと駆け寄ってくるのが見えた。


 問題はカーマとセーヌだがこっちは俺の呼びかけを無視するように走り抜けようとしていた。


「皆も彼らを呼び止めてくれないかな」


「はい、カーマ殿っ!! セーヌ殿っ!! こちらへっ!!」


「あんまり好きじゃないんだけど……カーマさんっ!! セーヌさんっ!!」


「先生が言うのなら……カーマさんっ!! セーヌさんっ!!」


 三人の美少女の呼び声を受けた二組の馬車は今度こそこちらへと近づいてくるのだった。


「どうしましたテキナ殿、このカーマに何用でしょうか?」


「ふふ、カノちゃんにシヨちゃん……私セーヌが要件を聞こうじゃないか?」


 近づいてきた代表者二人は露骨に女性陣にアピールを始めた。


「何じゃっ!! お主ら考えを改めたのかっ!?」


 そこへ近づいてきたプリス様。


 見た目は麗しい彼女を見た二人は、俺に対し露骨に嫉妬めいた視線を向ける。


(安心しろ新しい女とかじゃねえし……そいつはくれてやるからさぁ)


「カーマ殿とセーヌ殿にご紹介します、こちらの女性はバンニ国のお姫様であらせられるプリス様です」


「っ!? 失礼致しました、拙者はカーマと申しますっ!!」


「っ!? 初めまして王女様、私はセーヌと申しますっ!!」


「ふむ苦しゅうない、わらわがプリスじゃっ!!」

 

 両者が挨拶を済ませたのを確認したうえで俺は重々しく口を開く。


「実はプリス様の国は魔物に襲撃されていて救助をお求めなのだ」


「おおっ!! これは痛々しいっ!! ぜひともこのカーマにお任せくださいっ!!」


「いえっ!! ここは私セーヌめが救助に向かわせていただきますっ!!」


「そうであるかっ!! お主らはどこぞの輩と違い見どころがあるぞっ!!」


 俺のほうを見下すように睨みつけるプリス様。


 それを確認して納得したいように頷きやはり俺を見下すカーマとセーヌ。


「なっ!? 貴様らその目は……」


「まあまあ……すみませんが後のことはよろしくお願いします、俺たちは一度王都イショサに戻りますから」


「ふん、相変わらず自分勝手な奴だっ!! プリス殿もこんなやつは放っておいて拙者たちと共に参りましょう」


「はっ、流石愚図で怠け者のサーボだっ!! テキナさんもカノちゃんもシヨちゃんもいつでもこっちに来ていいからね」


(好きなだけ言ってくれ、それぐらいで面倒ごとを引き受けてくれるんだからありがたいぐらいだわー)

 

「どうしてそん……」


「みんなひどいで……」


 反論しようとする弟子たちを抑えて俺は彼らに頭を下げた。


「プリス様はお任せします……行こうテキナさん」


「……わかりました」


 顔をそむけたテキナさんはもう躊躇もなく走り出した。


 あっという間にプリス様たちの姿が遠くなり見えなくなった。


「あんな人に同情した僕が馬鹿だったよっ!! せっかく先生が他の勇者を紹介してあげたのにっ!!」


「他の人たちも酷いですっ!! あれだけ無様なことしておいていまだに先生を見下しているなんてっ!!」


「全くです……私は正直悔しいっ!! サーボ先生は何故そうも落ち着いていられるのですかっ!!」


(厄介払いできて清々してるだけだよ……というかあいつらの言ってることは事実だからなぁ)


「彼らも彼らなりの考えのもとで人々を助けて回っているのだ……ある意味で同じ志を持つ仲間なのだよ」


 むしろ俺より遥かに勇者しているはずだ。


 少なくともあんな生意気な小娘を助けようとしているのだから。


「前にも言った通り折角勇者が三組もいるのだからいがみ合わずに協力し合い、手分けして多くの人々を救おうではないか」 


(正確には俺に便利に利用されてくれって感じだけどなぁ……いやぁ今回は本当に助かったわぁ) 


「サーボ先生の言葉はいつだって正しい……ですが私は、勇者失格と言われようともあの者達を仲間だとは思えません」


「僕も……サーボ先生を侮辱する奴らなんか嫌いだ」


「私もあの人たちと仲良くなんかできません」


 子供二人はともかくテキナさんまで感情的にそんなことを言うのは珍しいと思った。

 

(ただプリス様を見捨てる罪悪感とかは消えたみたいだな……それだけで俺には何も問題はないんだけどなぁ)


「君たちの先生として本来はその考えを叱るべきだろうが……ありがとう、そこまで弟子に想われている俺は幸せ者だ」


 一応精神面のフォローを試みる。


 勇者としてそういう考えを持ったことを、後で冷静になった時に落ち込まれても困るからだ。

 

「サーボ先生……へへ……」


「サーボ先生……えへへ……」


「サーボ先生……ふふ……」


 弟子たちが一様に笑顔になった。


 この調子ならもう大丈夫だろう。

 

 俺はムートン君の元へ向かうとその羊毛に身体を預けるのだった。


「……あのカノちゃん、どうして右手を取るの?」


「へへ……ちょっとサーボ先生に触れたくなっちゃった」


(ムートン君に触れていたいのにぃ……離してくれぇ)


「……ねえシヨちゃん、どうして左手を取るの?」


「えへへ……サーボ先生と触れ合いたくなっちゃいました」


(ムートン君と触れ合えなくなっちゃたぁ……離してくれよぉ)


「……そのテキナさん、どうして後ろから頭を抱きかかえるの? 車は……?」


「ふふ……人力車は安全なところに止めてあります、私も少し休憩させていただきます」


(ムートン君との貴重な休息がぁ……離れてくれぇ)


「……めぇぇ」


(む、ムートン君っ!! 離れてほしいのは君じゃないのぉおおっ!!)


 ムートン君は悲しそうな泣き声をあげると三人の為に場所を譲り少し離れた所へ移動してしまった。


 その目がまっすぐ俺を見つめているのは俺を責めているためか、或いは同情しているのか。


「サーボ先生……僕こうしてると凄く幸せ」


「サーボ先生……私とても嬉しいんです」


「サーボ先生……私は貴方と共に在れてよかったと思います」


(俺はどうしてこう……はぁ……もうどうでもいいかぁ)


 やけくそ気味にカノちゃんとシヨちゃんを抱きしめ、前に回ってるテキナさんの手を握った。


 女性三人の体温は妙に暖かく感じられた。


 美少女三人から好意を向けられ抱擁されて……普通なら幸せを感じるところだろう。


 だけど俺は知っている。


 こいつらの好意の根源は俺に対する勘違いからきているのだと。


 俺の本性に気づいたとき、全ては終わる。


 そうわかっていてこの心地よさに浸れるほど俺は無神経な人間ではなかった。


(いずれは冷める夢だ……しかもその際には反動でこいつらの視線は里の誰よりもきついものになるだろうなぁ)


 カーマやセーヌの態度が甘く思えるほどの辛辣さが想像される。

 

(だからその時にダメージを受けないためにも情を抱いては駄目だ……駄目なんだぞ俺)


 自分に言い聞かせる。


 こうしてはっきりと向けられる好意が気持ちよすぎて、言い聞かせないと溺れてしまいそうだから。


(やっぱり弱いなぁ俺は……早めにこいつらとは別れないとなぁ)


 冷酷さスレスレの判断力が維持できているうちに逃げ出す算段をつけなきゃいけない。


 俺は目を閉じて三人の姿を視界から消しさり、冷静に今後のことを考え始めるのだった。

 【読者の皆様にお願いがあります】



 この作品を読んでいただきありがとうございます。

 

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