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龍人族のタシュちゃんと……こ、これはヤバいっ!?

「ふははっ!! どうやら魔物如きを信じた俺が馬鹿だったようだなっ!! やはりこの手で直接始末したほうが早いな」


「ぎ、ギリィ……ほ、本気で私を殺す気なのかぁ……」


「当たり前だっ!! どうして貴様のような無能な小娘と結ばれねばならんのだっ!!」


「うぅ……ギリィ……」


(……なにこの修羅場?)


 同じドラゴニュートの元にタシュ様を届けたのだが、とても不穏な空気が流れている。


 このギリィとやらは族長の娘であるタシュ様の婚約者らしいのだが、何故か殺意全開でこちらを睨みつけてくるのだ。


(タシュ様が魔物に連れ去らわれるのも分かってて放置してたみたいだし……権力争いの一端なのかねぇ?)


「さあ覚悟しろ、そこの人間ごと叩き潰してくれるわっ!!」


「っ!? に、逃げ……っ!?」


「ふはは、遅すぎ……っ!?」


 ギリィの振り下ろした巨大な鎌を素手で掴んで止めてやる。


(本当に遅すぎるわ……カノちゃんに比べれば止まって見える)


「ば、馬鹿なぁっ!? く、くぅううっ!?」


 ギリィは必死で武器を引き寄せようとするが、全くびくともしない。


(非力すぎるだろ……仮にも女のテキナさんより弱々しい)


「お、お前……そ、そんなに強かったのかっ!?」


「これでも勇者ですから……それよりこの方はどうしますか?」


「に、人間がぁあああっ!! このギリィ様を舐めるなぁあああああっ!!」


 大声で叫び、武器を放棄して素手で殴りつけてくるギリィだが感情的になり過ぎて隙だらけだ。


聖祈鎖(セイント・リストリクション)


「っ!?」


 お陰であっさりと拘束することができた。


 魔法の光で縛り上げられたギリィは地面に突っ伏して動くこともままならない。


「くぅううっ!? ば、馬鹿なこんなことがぁああっ!!」


「う、嘘ぉ……あのギリィが……里で一番強いギリィが……」


(龍族のトップであるドラゴニュート……その中で最強がコレって……どうなってんだ?)


 はっきり言って敵ではない。


 どうやら俺たちはぶっちぎりで強くなりすぎていたようだ。


(ここの所二重魔法もろくに使ってねぇ……弟子たち以外に苦戦した覚えすらねぇ……)


 前にカノちゃんの才能を見て、世界にはもっと強い奴がいるに違いないと修行を続けたがどうもそれ自体が間違いだった気がする。


(少なくとも弟子たちをあんなに鍛える必要はなかったかもなぁ……)


 なんだか虚しくなってきた。


「……と、とにかくこの方をどうするかはタシュ様にお任せします」


「えっ!? わ、私が決めるのかっ!?」


(何で驚くんだよ……仮にもお前は長の娘でしかもこいつは婚約者だろうが……)


 どう考えてもタシュ様が裁く以外に選択肢など見られない。


「た、タシュ……た、頼む助けてくれぇ……」


 唐突に涙ぐみながら許しを請い始めたギリィ……演技なのはバレバレだ。


「うぅ……あ、あのギリィが私に……そ、そうか……どうしても助けてほしいかぁ?」


「あ、ああ……私が愚かだった……どうか許して……」


「ふふふ……あはははっ!! そうか助けてほしいかぁっ!! だったらもっと同情を買うように泣きさけべぇえっ!!」


「た、タシュ様ぁっ!?」


 急に目を吊り上げてギリィを睨みつけれると足蹴にし始めるタシュ様。


「な、なにを……ぐぅ、や、やめ……っ!?」


「うるさいっ!! お前らが……お前らが私を馬鹿にしてたことに気づいてないと思ったかっ!! 私がどれだけ努力しても陰で嘲笑って……どうだ、見下される気分はっ!?」


「き、貴様……そ、そうやって他人の力によって威張り散らすから貴様は……ぐ、ぐぅ……っ!?」


「そうしないとお前らは私を排除しようとするだろうがっ!! わ、私がどんな気持ちで……このこのぉっ!!」


「お、落ち着いてくださいタシュ様っ!! 頼むから、そんなことしないで……」


 涙すら滲ませてギリィを踏みつけるタシュ様を必死で宥める。


 彼女のそんな姿は見たくない……見ていると胸が張り裂けそうに痛む。


(プリスちゃんの時と同じだ……この子にはこんな顔をしてほしくない……)


「は、離せっ!! どうせお前も私のことを愚かで無能な女だと思ってるんだろっ!!」


「そんなことないっ!! タシュちゃんはそんな子じゃないっ!! それは俺が良く知ってるっ!!」


 気が付けば叫んでいた……名前も慣れ親しんだ人を呼ぶようにちゃん付けでだ。


「あ、会ったばかりのお前が何を知ってるって言うんだっ!!」


「タシュちゃんは本当は優しくて良い子だって事だよっ!! 俺が保証するからっ!!」


「お、お前の……人間の保証が何の役に立つって言うんだっ!! どうせ私から離れて行ってしまう癖にぃいっ!!」


「そんなことないっ!! 俺はずっとタシュちゃんのそばにいるからっ!!」


「っ!?」


(って俺はなんてことを口走ってんだっ!?)


 勢いでとんでもないことを言ってしまった。


 慌てて口を押えたが既に遅く、俺の言葉を聞いたタシュちゃんはあっけにとられたようにこちらを見つめてくる。


「ほ、本当か……こ、こんな私のそばに……ずっと居てくれるのか……」


「はっ!? 物好きな人間が居たものだなっ!! そしてタシュ、お前もこんな簡単に懐柔されるとはなぁ……安い女だっ!!」


「う、うるさいっ!! 黙れギリィっ!! そ、それよりもお前……た、確かサーボとか呼ばれてたな……サーボは私と一緒に居てくれるんだな? 伴侶になってくれるのだな?」


「え、ええとそれ……っ!?」


「だ・め・に・き・ま・っ・て・る・だ・ろ・っ・!!」


 咄嗟にタシュちゃんに抱き着いて飛び退くのと、いつも通りカノちゃんが飛び出してくるのは同時だった。


「あはははぁっ!! サーボ様はぁっ!! このシヨのぉものなんですよぉっ!!」


「サーボ様は私の主だっ!! 勝手に奪おうとするなっ!!」


 何とかカノちゃんの攻撃を避けたところに、残る二人が飛び掛かってくる。


(三人同時は無理でぇ~す)


 こんなのどうしようもない。


「タシュちゃんっ!! 飛んで逃げるんだぁああっ!!」


「さ、サーボぉおおっ!!」


 何とか三弟子に押し倒される前に、ぎりぎりで上空にタシュちゃんをぶん投げることに成功する。


「何で逃がすのサーボ様ねえどうして庇うのサーボ様ねぇせっかく僕が退治してあげようとしたのにねぇどうしてサーボ様ねぇ邪魔するのねぇねえねぇ……」


「もぉサーボ様は駄目駄目ですねぇ……仕方がないから他の子を見れないようにぃシヨが今日という今日こそしっかりと調教して差し上げますよぉ~」


「サーボ様、出すぎた真似をお許しください……いえこの度は代わりに私の身体でどうかストレスを発散してくださいっ!! どのような仕打ちでも喜んで受け入れ……ふふ……さあサーボ様どうぞっ!!」


「くぅ……我が婿から離れろお前らっ!!」


「「「我が婿ぉだぁっ!?」」」 


「ひぃっ!?」


 三弟子から殺気を叩きつけられてタシュが怯えてさらに高度を上げる。


「お、俺は平気だから……タシュちゃんはそのまま里に帰るんだ」


(あの高さに入れはあの子は平気だ……後はおれが耐えれば済む話だ……うぅ……)


「さ、サーボ……わ、わかったこの場は下がる……だけど少しの我慢だっ!! 私は必ず里の意志を統一して皆でお前を……私の旦那を助けにくるっ!! その人間どもを叩きのめして救い出すっ!! だから待っててくれっ!!」


「ちょっ!? そ、それは……っ!?」


 とんでもない発言を残してタシュちゃんは飛び去って行った。


(お、俺……人間とドラゴニュートの戦争の引き金を引いちまったぁっ!?)


 何とかして止めたいところだが、三弟子たちがそれを許してくれない。


「お、お前ら……いい加減に……っ!?」


「ふははっ!! 油断したなぁ貴様らぁっ!! 死ぃね……っ!?」


 その時、どうやったのか俺の魔法の拘束を破ったギリィが切りかかってきて……武器を振り下ろす前にカノちゃんに斬り捨てられた。


「雑魚が変な真似しないでよね……それよりサーボ様あの子の言ってたことはどういうことなのねぇどういうことなの教えてよサーボ様ねぇサーボ様ったらぁ……」


 僅かに意識のあったらしいギリィの顔が雑魚呼ばわりされて歪んだが、もう声を出すこともなく息絶えていった。


(哀れな……まあ俺ほどじゃないけど……はぁ……この状況どうすれば……)


「シャァアアアアアっ!!」


「あ……忘れてた」


 空中に浮かんでいた無数のワイバーンが、ギリィが死ぬと同時に急にバラバラに動き出した。


 あちこちに飛んでいくもの、こちらに向かってくるもの……とりあえず襲ってきたやつらは三弟子が瞬殺する。


 しかしお陰で何とか身体を起こすことができた。


(これで何とか抵抗できる……それより問題はワイバーンだなぁ……)


「あのままワイバーンがリース国内に入ったら大変な被害が出る……その前に退治しておこうじゃないか」


「サーボ様、話をごまかしてない? 僕たちはあの子との関係を聞きたいんだけどぉ」


「そんな関係なんかないから……それよりワイバーンを倒しに行くよっ!!」


 強引に話をそらして駆け出す俺、自然と三弟子もついてくる。


「あれ? サーボ様ぁ、リース国に入ろうとしたワイバーンが弾かれてるよ?」


「ほんとぉですねぇ……国境から先に進めてない……何かあるんですかねぇ?」


「うーん……何か独特な魔力の流れが……魔物が入れないよう結界が張ってあるみたいだねぇ」


 見れば国の中心のあたり……恐らく王都から魔力が供給されて結界のようなものが維持されている。


「これならばこの国は魔物の脅威に怯える必要はなさそうですね」


「だけど国境沿いにワイバーンを放置するのも危険だ……やっぱり退治しておこうじゃないか」


「りょーかい……っと、終わったよ」


「……流石だよ、カノちゃん」


 俺が言葉を言い終わるかどうかのタイミングで姿をかすめたカノちゃんが、あっという間にワイバーンの群れを始末してくれた。


(もう格下相手だとどれだけいても一秒も持たない……恐ろしすぎる……)


「とりあえずワイバーンはこれでよいとして、この後はどう動くべきでしょうか?」


「魔王軍の進行を迎撃するという意味では、もう結界の張ってあるこの国に居る理由はないよねぇ」


 カノちゃんの言葉は口外に違う国へ……この大陸に残る最後のツメヨ国に向かおうと言っているようであった。


(うぅん、正論なんだけど……プリスちゃんの手は伸びていないと良いんだけどなぁ……)


「その前に一度王都へと寄って行きましょう、この結界の詳細を聞いてみたいですぅ……もしも他の国にも張れるようならそれを利用して魔王軍の進行を限定できるかもしれませんからねぇ」


「なるほどなぁ……よし、それでいこうっ!!」


 シヨちゃんの提案は渡りに船だった。


 喜んで頷いて早速移動を開始しようとして、結構日が落ちかけていることに気が付いた。


「シヨちゃん、無理して王都に向かって夜中に着いたら門前払いを喰らうかもしれない……近くの村で休んでいかないかい?」


「確かにその可能性はありますよねぇ、じゃあそうしましょうっ!!」


 リーダーであるシヨちゃんに許可をもらって俺は……俺がリーダーではなかったのだろうか?


(お、俺自身いつの間にかシヨちゃんに指示を仰ぐように……お、恐るべしシヨちゃん……)


 しかし逆らっても仕方ない、何せ今のところ全ての判断が俺より優れていて正しいことばかりなのだから。


 だから何も言わなかった……弟子を矯正するのが面倒だったわけではない……と思う。


 とにかく今度こそ移動を開始した俺たち、完全に暗くなる前につけばいいだけなので珍しくスキルを使わずのんびりとした旅だ。


「ムートンくぅん、さあモフモフタイムだよぉ~」


「めぇええ……」


「サーボ様、着きましたよ」


「っ!?」


 何故かあっという間に目的地に到着して、慌てて顔を出すと確かに先ほどまで影も形もなかった村が見えていた。


(ま、またオーラ突きで移動したなこいつ……俺とムートン君の貴重な時間を……)


「さあサーボ様ぁ早くお風呂に入って早く一緒の宿に泊まって早くいいことを早くねえサーボ様早く早くぅっ!!」


「えへへ、シヨの身体をきちんと丁寧にあらってくださいねぇサーボ様ぁ……上手くできたらご褒美を上げちゃいますからぁ~」


「サーボ様ぁ、どうか私の身体をタオルの代わりに利用して……もちろん熱湯をかけてくださっても構いません……」


 どうやら俺といちゃつく時間欲しさに急いで移動したようだ。


(宿に泊まるって言ったのはミスだったかなぁ……)


 今までは野宿で済ませていたので、基本的に俺は見張りをするふりをして一睡もしないことで強引に乗り切っていたのだ。


(お、俺今夜生き残れるかなぁ……うぅ……恐ろしい……)


 この後のことを思うと気持ちが重くなってくる。


 しかし今更撤回しようとしてもシヨちゃんをごまかすことなどできるはずもなく、逃げ出そうにもカノちゃんがそれを許さないだろう。


 俺はため息をついて、訪れるであろう過酷な運命を受け入れる覚悟を決めるのだった。

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[一言] ヤンデレハーレム要員がまた増えたw
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