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トゥルーエンド

 魔王が討伐されたことで世界は再び平和になった。


 いや考えようによっては前以上だ。


 何せ世界中が一つの国に統一されてしまったのだから。


 お陰で国境もなくなり、各地での交流は盛んとなり国ごとの格差も埋まりつつある。


 また支配者層への苦情も少ない。


 元々各国を管理していた指導者がそのままサーボ帝国の重鎮として働いているのだ。


 何より各地を巡り全ての村々を実際に救い、果てに魔王を倒した勇者サーボに逆らおうとする者が居るはずがない。

 

 俺が死んだ後はどうなるかわからないが、逆に生きている間はこの平和は続いていくことだろう。


 ただ少なくとも魔王軍の脅威に怯える必要はもうなくなった。


 どうもこの度の戦いで魔王は完全に消滅したらしい。


 魔王が最後に放った魔法は、文字通り全てを込めたものだったようだ。


 それを打ち砕いた以上、もう復活することもないらしい。


 魔王自体があらゆる生き物の悪意が集まった存在であったこともあり、それが消滅したことでも人々は少し穏やかになったようだ。


 まあそれが本当だろうが間違っていようがどうでもいい。


 ぶっちゃけて言えば俺が死んだ後のことなど気にしても仕方がないからだ。


 俺にとって大事なのは生きている間のことだけだ。


(そう、今の俺にとって大事なのは……この場をどう乗り越えるかだ……)


 ため息をつきながら、俺は船の上を移動して船首へと向かい海を眺めた。


 夜の帳に包まれた世界は遠くを見渡そうとしても、何一つ見えてこない。


 代わりに空には綺麗な星空が広がっている。


(どうしたもんかなぁ……)


 だけど俺の心はまるで晴れてくれない。


「サーボ先生、いい加減に決めてよぉ」


「誰を正妻にするんですかぁ?」


「決められないのだとしても……せ、せめて……だ、誰と最初に……い、一夜を共にするかぐらいは決めてください」


 後ろから聞こえる三弟子の言葉を無視して波の音に耳を傾ける。


 とてもいい音だが……俺にもう逃げ場がないのだとはっきり伝わってくる。


「サーボ先生……その、なんでしたら……他の人と一緒でも……いいんですよ?」


「そうだぞ……ですよサーボ先生っ!! 私も早く赤ちゃんが欲しいのだ……ですっ!!」


「サーボ先生、誰を選ぼうとも私たち精一杯お相手する所存でございます」


 やはり後ろをついて回っているプリスちゃん、タシュちゃん、テプレさん。


 彼女たちの言葉も聞こえないふりをして、振り向かずに素振りを始める。


「サーボ先生、勇者として清廉潔白なのはいいですけどそろそろ男らしさも見せてくださいっ!!」


「サーボ先生、やっぱり私が色々手ほどきして差し上げましょうか?」


「そうであるぞサーボ先生っ!! 妾達はもう覚悟はできておるのだっ!! 早く手を出してくださらぬかっ!!」


 更に聞こえてくるのはミイアさん、ミリアさん、ヒメキちゃんの声だろう。 


 三人の声も無視して海に向かって素振りを繰り返す……いっそ飛び込んで有耶無耶にしてやろうか。


(いや、無駄だろうなぁ)


「サーボせんせーっ!! セーレもな、いつでもいいんだぞーっ!!」


「サーボ先生が望むのでしたら陸上でも頑張りますっ!! セーレちゃんと二人掛かりでたくさん気持ちよくして差し上げますよっ!!」


 セーレちゃんとマーメイさんの声も聞こえる、人魚が居るのに海に逃げたところでどうしようもない。


 かといってスキルをフルに利用して逃げようにも難しい、追いついてくる奴が多すぎる。


「サーボ先生、いつでもいいです……頑張ります」


「サーボ先生っ!! さあこのフウリ様とアイを一番に選ぶというのだっ!!」


 やる気満々なアイさんとフウリちゃんはどこへ行こうともついてくるだろう。


 他の人たちも同様の覚悟を決めているはずだ……本当に困る。


「サーボ先生、どうかエルフ族と人間の懸け橋になるべく私たちの間に沢山子供を作りましょうっ!!」


「サーボ……先生、ねえドワーフを増やすのも手伝ってほしいなぁ~」


 実際に種族の繁栄を望んでいるルーフさんとドーマさんも俺から離れそうにない。


「サーボ……先生、歴史の為にも私ともたくさん子供作ろうねぇ」


「そうですよサーボ……先生、過去に戻っても寂しくならぬようたくさんの思い出をくださいませ」


 俺の子供を産むまでは過去に戻るつもりがないらしいイキョサちゃんとイーアスさん。


(イキョサさんはそれいいのか……俺との間に出来た子孫の果てに俺が生まれるってどうなんだ?)


「あっはっはっ!! ほらほらぁ~早く決めろよぉサーボせんせぇ~?」


「サーボ殿……いえサーボ先生でしたね、どうぞお心のままに……できれば僕を選んでいただければ幸いです」


 遊び半分に見えて目がマジなトラッパーさんにマーセさん。


 たくさんの女性が俺を逃げ場が無いように囲い込んでいる。


(どうしてこうなった……ああ、俺が屑で無能だからだよ……)


 魔王退治が終わった後、俺は全員に誤解を解こうと一人一人と顔を合わせて事情を説明したのだ。


 自分がいかに屑で無能であったか……しかしいくら説明しようともわかってもらえなかった。


 それどころか婚約をごまかそうとしていると逆に誤解されてしまった。


 流石にこれ以上誤解を重ねるわけにはと思い、必死で弁解した……のがいけなかった。


(まさか船の上で合同結婚式&ハネムーン旅行を同時開催するなんて思わなかった……)


 俺たちが旅をした船は船員を下ろせば全員で旅行するだけのスペースが十分にある。


 話の流れとしてこの提案を拒絶すればそれこそ婚約拒否と取られかねないため、俺は受け入れるしかなかったのだ。


 こうして俺が絶対に逃げられない状態での、誘惑大会が開始されたのだった。


(事情を知ってるはずのイキョサちゃんたちまで結婚式したいがために俺の言葉を嘘認定するし……酷いよぉ)


 一体どうすればいいのだろうか。


 誰か一人を選ぼうものなら大変なことになりそうだし、かといって選ばなければこの通り大変なことになっている。


(ただ多分……最終的に俺は選ぶんだろうなぁ……)


 それが正妻をという意味なのか……あるいは全員を相手にする覚悟なのかはわからない。


 ただ未来の俺の様子を見る限り、恐らくは彼女たちと良い仲になるのだろう。


(じゃないと……寿命スレスレで後悔なんかするわけねぇからなぁ)


 思い出すのは出航前に俺が誰かを選んだら行うという結婚式の予行練習、その中で出てきた一節。


『死が二人を分かつまで、共に歩むことを誓いますか?』


(あそこで過去に戻って死んだら……その約束を破ることになっちまうからなぁ)


 もう嘘をつくのはごめんだ、屑で無能な俺とはお別れしたい。


 だからこそあの俺は必死で修業を積み上げて、運命を打ち破ろうとしたのだろう。


 それだけ……彼女たちと過ごす時間には価値があったのだ。


(俺も頑張らねぇとなぁ……今度こそ運命に負けないように……屑で無能な俺に戻らないためにも……)


 多分これこそがずっとその場しのぎでごまかし続けてきた俺への報いだ。


 あの場で清算をためらった俺は、運命に勝てなければ皆と思い出を積み重ねた果てに後悔しながら死んでいくことになる。


 冗談じゃない。


 俺はどんなことをしようとも、今度こそ絶望を乗り越えてやる。


 そのためにはどれだけ辛いことでもやり切ろう。


(……だけどこれが最初の試練ってのはひどくないかなぁ?)


「「「「「「「「「サーボ先生?」」」」」」」」」


 俺の返事を皆が待ち構えている。


 この女性たちの好意をどうさばくかが俺の当面の課題だろう。


(流石に全員を相手にしたら干乾びちまうわっ!!)


 しかしこのまま誰も選ばないでいたらいつまでも張り付かれて……下手したら襲われかねない。


(ああ、畜生……こうなったら……口から出まかせで煙に巻いてやるっ!!)


 屑で無能な俺とはお別れしたいと思いながらも結局またごまかしで押し通そうとしてしまう。


 俺の本性はやっぱりどうしようもない奴なのかもしれない。


 だけど仕方ない、この情けなさこそがサーボという男なのだから。


 俺は内心で盛大にため息をつきながら、かつてのようにこの場を凌ぐべく……口先から出まかせを並べることにするのだった。


(こうして勘違いがどんどん積み重なっていくわけだが、これ崩れたら……いやそもそも崩れるのかこれっ!?)

 【読者の皆様にお願いがあります】


 この作品を最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

 途中から書き溜めが尽きたために楽しみにしてる皆さまに申し訳ないことをしてしまいました。


 今後は見たいエピソード等を感想欄にでも書いていただければその話を外伝として投稿します。


 それが終わった後はしばらく期間を置いた後で、強くてニューゲーム編でも書き溜めて投稿してみたいと思います。


 恐らくネタ&ヤンデレ満載の話になりますが、興味があればまた読んでいたければ嬉しいです。


 本当に最後まで読んでくださった皆様、感想をくださった皆様、評価やブックマークをしてくださった方……全て凄く嬉しかったです、ありがとうございましたっ!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても良くまとめられて 最終的に未来は読者の想像に…という終わり方をした所 [気になる点] 結構使いまくってたけどわりと長生きできるなら そんなに寿命の代償って無いのかなぁーと [一言] …
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