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イキョサ達との別れ

本編終了後の話です。


トゥルーエンド後にお読みください。


12/02 後書き部分変更

(ついにこの日が来たか……)


 魔王を退治してから……いや合同結婚式を終えてから五年が過ぎた。


『そろそろ……帰らないとね』


 誰から言い出したのかは覚えていないが、自然とイキョサちゃんたちは帰り支度を始めた。


(正直物凄く名残惜しい……残ってほしい……)


 何だかんだで仲良くやってきた……子供もたくさん出来た。


 その子たちも含めてのお別れだ、寂しくないわけがない。


 俺だけじゃない、他の妻である弟子たちも皆同じ気持ちのようだ。


 だから帰還する当日になって、こうして身内だけでのお別れ会を開くことになったのだ。


 しかしそれもそろそろお開きだ。


 送り返す前に少しでも話がしたくて、俺は一人一人の元へ向かう。


 一番近くにいたドーマの元へ向かうと、ルーフとアイとフウリに囲まれていた。


 特にアイは涙目でドーマを切なそうに見つめている。


「アイったらぁ、ほらしっかりしないと……子供たちに示しが付かないぞ」


「いいえ……行かないで……お祖母ちゃん」


 ご先祖様であるドーマはアイを実の孫のように可愛がっていた。


 家族愛に飢えていたアイは、外見的な理由もあってあっさりとそれを受け入れてとても幸せそうにしていた。


(ひょっとしたらこの別れは一番辛いのかもしれないなぁ)


「ドーマ……今更私が言うことではないかもしれないが、ドワーフのこと申し訳ない」


「ううん、ルーフは悪くないよ……それよりあなたと仲良くなれたことが嬉しかったよ」


 ドーマがドワーフであることを知っても、ルーフは彼女を嫌うことはなかった。


 むしろ同じ大陸に住んでいた異種族として仲良くなれることを身をもって証明してくれた。


「や、やはり残ってはどうだ……一緒にゼルデン大陸を収めてくれたらアイもフウリも嬉しいぞ」


「ありがとうフウリ……だけど帰らないと色々と歴史がおかしくなるかも……それだけは受け入れられないんだぁ」


 フウリの言葉に静かに首を横に振ったドーマ。


(ドワーフで生き残るのは恐らくドーマだけ……彼女が戻って血筋を残さないとアイにつながらない……)


 それだけじゃない、トラッパーの装備もまた彼女でなければ作れない。


 歴史必然説が正しければ何とかなるのかもしれないが、それでもドーマは帰ると明言した。


 俺と同じで、万が一にも歴史がずれて……俺たちに影響が出ることを恐れてのことだ。


「ドーマ、今日まで本当に色々とありがとう……情けない旦那で悪い」


「そんなことないよ……サーボは本当にいい旦那様だったよ……子供出来て……私幸せだよ」


 笑うドーマの両手には小さい赤ん坊が二人抱きかかえられている。


 できればこの子たちが育つまで、せめて物心つくまで見守りたかった。


(……無責任な俺を許してくれ……まあ新装備という名目で拘束されて襲われた結果なんだけどさぁ)


「この子たちをちゃんと育てて、サーボっていう立派なお父さんのこと話して伝えて……絶対にこの時間まで繋いで見せるからね」


「頼んだよドーマ、愛してる」


 俺は顔を寄せるとドーマに最後の口づけをした。


 そして後のことをアイたちに任せて次に近くにいたイーアスの元へと向かう。


「では後は頼みましたよテプレ……頑張ってくださいませ」


「はい、お任せください……イーアスも頑張ってくださいませ」


 大僧侶同士行動を共にしていたこともあって、テプレとイーアスの関係は本当の姉妹のようですらあった。


 その割に別れがさっぱりしているのは、ある程度覚悟をしてきたからだろう。


「うぅ……行っちゃうのかぁイーアスぅ」


「寂しくなりますわ……私たちの島に結界を張っていただいたこと本当に感謝しております」


「それほどでもありませんよマーメイ……ごめんねセーレ、だけど私が戻らなければ歴史がどうなるか……」


(あの洞窟の仕掛けもしないといけない……彼女が戻らないと俺たちの旅は途中で終わってしまう……)


 やはりイーアスも、俺たちの幸せを守るために万が一にも歴史を狂わすわけにはいかないと帰ることを決意したのだ。


「イーアス、今日まで本当に色々とありがとう……情けない旦那で悪い」


「良いんですよサーボ……私はとても幸せでございました……赤ん坊も授かりましたことですし……」


 微笑むイーアスはまだ目も開いていない赤ちゃんを抱きかかえている。


 できればこの子が育つまで、せめて顔を見てもらえるまで見守りたかった。


(……無責任な俺を許してくれ……まあ魔法で拘束されて襲われた結果なんだけどさぁ)


「サーボのことはしっかりとこの子に語り継ぎます……貴方のお父さんはとても立派な方でしたと……」


「頼んだよイーアス、愛してる」


 俺は顔を寄せるとイーアスに最後の口づけをした。


 そして後のことをテプレたちに任せて次に近くにいたマーセの元へと向かう。


「ふむ、わかりました……本当に色々とご教授いただきありがとうございました」


「いいえ、マーセも頑張ってくださいねぇ……」


 マーセはシヨに頭を下げている、ずっと国の管理について勉強させてもらっていたのだ。


 どうも色々と考察したところ、ディキュウ大陸にある四つの国の基盤は全て英雄たちが作ることになっているようだ。


 尤もイキョサやトラッパーがまともに国を経営できるとは思えないから、実質はシヨから学んだマーセが全てをこなす羽目になりそうだ。


「道理でいくら調べてもマーセの情報が残ってないわけですね……何せ全ての国を作るために放浪し続けるんですから」


「気にしておりませんよミイア……調べて頂いたことは感謝しております」


 冒険者ギルドの人間として情報を集めたミイアだが、やはり魔王退治におけるマーセの活躍は殆ど見つからなかったようだ。


「何でしたらシーサーペントを倒したことを言い広めておきましょうか?」


「おやめくださいミリア、あれはもうなかったことにして……そういえば結局サーボは誰からあの話を聞いたのですか?」


「はは……まあ今更いいじゃないか」


 マーセの言葉を笑ってごまかした……結局イーアスがばらしたことは秘密のままだ。


 煙のイーアスは魔王を退治した時点でその役目を終えたかのように消えてしまい、過去の彼女たちと会うことはなかったのだ。


(俺も話を聞いておきたかったんだけどなぁ……悪いことをしたよ……)


 尤も過ぎたことを考えても仕方がない、せめてまだ目の前にいる彼女たちとの交流に集中しよう。


「とにかく……マーセ、今日まで本当に色々とありがとう……情けない旦那で悪い」


「いいえ、こちらこそ妻としては至らぬことばかりで……子供も未だに上手くあやせませんし……ですが幸せですよ」


 マーセが三人の子供を器用に腕の中に抱え込んでいるが、皆ぐずっている。


 できればこの子達が育つまで、せめてマーセに懐くまで見守りたかった。


(……無責任な俺を許してくれ……酔っぱらったマーセに号泣して迫れたらとても断れなかったんだよぉ)


「いずれこの子たちが育った暁にはサーボという偉大な父親のことを語っておきますよ……素敵な方だったと」


「頼んだよマーセ、愛してる」


 俺は顔を寄せるとマーセに最後の口づけをした。


 そして後のことをシヨたちに任せて次に近くにいたトラッパーの元へと向かう。


「じゃああたしは行くけどな……寂しくて泣くんじゃねぇぞぉ~」


「むしろ清々するよ……そっちこそ僕が居ないからって他の人に絡んじゃだめだよ」


 ニヤニヤ笑うトラッパーをカノもまた笑いながら見返している


 何だかんだで大盗賊同士、修行という名目でよく二人で遊んでいたために仲良くなったのだろう。


「あっちに帰ったら大人しくするんだぞ……ですよっ!! あちこちに罠を仕掛けて……解除するの大変だったんだぞ……ですよっ!!」


「あっはっは、いやぁあんたらのリアクションが面白くてねぇ……流石ドラゴニュートだわ」


 身体が丈夫で生き生きした反応が楽しかったらしく、タシュはたくさんトラッパーに弄られてきた。


 しかし呆れたように言ってはいるが、何だかんだタシュも楽しかったようでその顔はどこか寂しそうだ。


 そんなトラッパーは他の四人と違って帰る必要はないのだが、自分だけ残るのは悪いと付き合うことにしたのだ。


「トラッパー、今日まで本当に色々とありがとう……情けない旦那で悪い」


「んな改まるなって……あたしが好きでしたことだ、本当に幸せだったぜ……子供も可愛いもんだしなぁ」


 嬉しそうにしているトラッパーの背中で子供がとても気持ちよさそうに眠っている。


 できればこの子が大きくなるまで、せめて言葉を話すまで見守りたかった。


(……無責任な俺を許してくれ……トラッパーが恥ずかしさを堪えて似合わないドレスを着てまで誘惑してきたから断れなかったんだ……断ったら殺すって顔に書いてあったし……)


「まあ子供が大きくなったらあんたの……サーボのことはちゃんと伝えるよ、いい男だったってな」


「頼んだよトラッパー、愛してる」


 俺は顔を寄せるとトラッパーに最後の口づけをした。


 そして後のことをカノたちに任せて最後にイキョサの元へと向かう。


「うぅ……やっぱり別れたくないよぉ……うぅぅ……」


 相変わらず涙もろいイキョサは、このお別れ会が始まってからずっと泣いている。


「ゆ、勇者がそのように、な、涙を流しては……うぅ……」


 直接指導を受けていたテキナもまた、寂しさのあまり涙を堪えきれないでいる。


「て、テキナまで泣いていてどうするのだっ!! こ、ここは元気に送り出そうでは……ぐじゅっ……」


 英雄譚に憧れがあったヒメキも物凄く懐いていたために、強気な言葉とは裏腹に顔中ぐしゃぐしゃだ。


「も、もおヒメキまで……し、しっかりしましょう……わ、私たちまで泣いて……ぐすっ……」


 プリスも虚勢を張ろうとしてはいるが、やはり感情を堪えきれず涙を流している。


(本当に楽しそうにしてたもんなぁイキョサ……)


 あちらでは伝説の英雄として何処か近寄りがたいと思われている彼女は、ここでは一人の女の子として相手をされていてそれが嬉しかったらしい。


(俺と会ったばかりの時も他に勇者が居るのかいっぱい聞いて来てたもんなぁ……特別扱いされたくないんだろうなぁ)


 そんなイキョサも子孫である俺を確実に存在させるため、辛い気持ちを抑えて元の時代に戻るつもりなのだ。


「イキョサ、今日まで本当に色々とありがとう……情けない旦那で悪い」


「そ、そんなことないよぉおおっ!! さ、サーボは素敵だったよぉっ!! サーボと結婚出来て私幸せだったもぉんっ!!」

 

 号泣しているイキョサ、その足元には立てるようになった子供が二人引っ付いて俺を見上げている。


(俺の子孫の末裔から俺が生まれて……どうなってんだろうなぁ……まあ血縁が馬鹿みたいに遠いから大丈夫だと思うけど……)


 できればこの子が大きくなるまで、せめて修行をつけてあげられるまで見守りたかった


(……無責任な俺を許してくれ……修行後でヘロヘロなところを襲われたら太刀打ちできなかったんだよぉ)


「ぜ、絶対この子たちを立派に育て上げて見せるからぁっ!! お父さんは凄い人だったって教えるからぁっ!!」


「頼んだよイキョサ、愛してる」


「わ、私も愛してるぅ……ぜ、絶対サーボまで繋げるからぁ……」


 俺は顔を寄せると号泣しているイキョサに最後の口づけをした。


「じゃあ……そろそろ行こっかぁ」


 寂しそうに近づいてくるドーマ。


「名残惜しいですが、キリがありませんからね」


 悲しそうに近づいてくるイーアス。


「本当に未練が残る……帰れなくなる前に行きましょう」


 辛そうに近づいてくるマーセ。


「そうだなぁ……これ以上いると戻りたくなくなっちまうもんなぁ」


 切なそうに近づいてくるトラッパー。


「うぅ……け、けどぉ……も、もう少しだけぇ……」


 苦しそうに嫌々と首を振るイキョサ。


「駄目だっての……ほら、行くぞ」


「と、トラッパーっ!? 掴まないでぇっ!?」


 イキョサを引っ張り五人とその子供が一カ所に固まる。


「準備はいいですよ……お願いしますサーボ」


「下手に寿命が減らないようにしっかり一度に飛ばしてくださいね」


「ええ、わかっています……皆さん、本当にありがとう……さようなら」


 俺は涙をこらえて……いやこらえきれず涙を流しながら魔法を口にした。


「我が命を糧に生まれよ新なる魔の法則よ……遥かなる時の彼方へ彼の者たちを運びたまえ、時空跳躍(タイムワープ)


「「「「「サーボっ!!」」」」」


 眩しい輝きに包まれた五人が最後に俺の名前を呼んで、弾けて消えていった。


 後にはこの時代で生きる者だけが残される。


「帰っちゃったんだね……うぅ……やっぱり寂しいよぉ」


「あうぅ……皆さん元気で……」


「くぅ……もう二度と会えないのだと思うと涙がとまらぬ……」


 イキョサ達の姿が見えなくなると同時に、皆が涙を流し始めた。


 湿っぽくならないよう堪えていたのだ。


 俺もまた例外ではなく、大切な人たちとの永遠の別れに涙が止まらなかった。


 こうして歴史はあるべき形を取り戻したのだった。


「……ふぅ、いつまでもこうしていても仕方ない……泣いてばかりいたらイキョサ達に笑われて……っ!?」


 不意に会場の中心に不思議な光が満ち溢れた。


 魔導の使い手である俺は、すぐにその正体に気づく。


「こ、これは……時空移動魔法っ!?」


「そ、それって……っ!?」


 驚き固まる俺たちの前で光は弾けて……彼女たちが姿を現した。


「サーボぉっ!! 会いたかったよぉっ!!」


「い、イキョサっ!? そ、それにみんなっ!?」


 送り出したばかりの五人が戻ってきた。


「ど、どうやって……そ、それになんでっ!?」


「あのねぇ、私たちも魔導の使い手になったんだよっ!!」


「向こうでやるべきことは済ませましたのでこうして報告の為に戻ってきたというわけです」


「いやぁ五年とはいえ長かったぜぇ……んでこっちはどんぐらい時間が過ぎたんだ?」


「本当に皆さまお懐かしい……ふふ、涙が溢れてしまいますわ」


「だけどまた会えたねっ!! すごく嬉しいなぁっ!!」


 そう言って笑う五人が連れている子供たちは、確かに別れた時より少しだけ大きくなっていた。


(……って、感動が台無しじゃねぇかぁああっ!!)


「というわけで……サーボ、五年ぶりに私とイチャイチャしようねぇ」


「あぁ、ずっりぃぞっ!! あたしが先だっ!!」


「お待ちなさい、一番活躍した僕こそ最初にサーボとイチャつく権利があるはずですよ」


「いいえ、この後もたくさん働く私こそサーボの愛を受けるにふさわしいのですよ」


「イーアスはまた会えるでしょ……それより私とイチャつこうよ」


 俺に飛び掛かってくる五人、どうやら五年分飢えているようだ。


「あぁっ!! そ、そんなのずるいっ!!」


「だ、駄目ですぅっ!! サーボの愛を受けるのは順番ですよぉっ!!」


「そ、そうだっ!! 一度は戻ったのだからもう一度並び直すがよいっ!!」


 他の弟子たちも俺に飛びついてくる。


(な、泣いて損したぁああっ!!! 離れろお前らぁああああっ!!)


 全員に抱き着かれながら、俺は涙を流し……同時にまた会えたことに嬉しさを覚えるのだった。

その後


「これからも定期的に戻ってくるからね」


「一年行って一年戻って……という感じで良さそうですね」


「どうせ飛んだ時間に戻れるんだから、タイムラグは気にしなくて良さそうだしなぁ」


「五人で手分けして魔導の使い手の力を使いますから寿命もそう減らなそうですしね」


「そういうわけだから、これからもよろしくねサーボ」


「……はぁい」


 こんな感じでサーボは頑張ります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大半襲われてる件w [気になる点] 子供を連れてきて大丈夫なの…? (イキョサ様達はまだ大丈夫だとは思います。) [一言] 今後とも夜戦は続く…
[一言] トゥルーエンドの先……!(涙は引っ込んだ)
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