ワンナ村にて
馬車に揺られて俺たちは失踪事件が起きているという村を目指していた。
とりあえず何が起きているのか確認し解決できそうならば早速成績に加えてしまいたい。
(早く金を集めてこいつらと縁切るチャンスを見つけ出さねえとなぁ)
いつまでも魔王退治の旅などという危険なことはしていたくない。
「サーボ先生、さっきから黙り込んで何を考えられているのですか?」
(お前らと別れる方法だよ)
「いやちょっとね……今回の失踪事件も魔王軍の仕業だとしたら何が目的なのかと思ってね」
「前の村の時と同じだもんね……あの時の魔物が居たら僕今度こそお役に立ちたいな」
カノちゃんが新調した鋼製の剣を振るって戦いへの意欲を口にする。
(無理に決まってるだろ、いい加減無能なのを自覚して大人しくしててくれよ)
「絶対に大丈夫だよ、だって私たち勇者なんだもん」
シヨちゃんが許可書を提示してニコニコしている。
(それを手に入れても実力は変わってないだろうが……本当に役に立たんなこいつら)
「二人ともその意気だ……しかし先生がおっしゃることも気になりますね」
何だかんだでまともに会話になるのはテキナさんだけだ。
「あの時俺は敵と少し会話したけど、あの魔王軍の手下は俺たちが勇者の里から出てきた人間だと知っていたようだった」
「えっと……それってどういうこと?」
「つまりはだ、あれ自体が俺たち勇者を誘い込む罠だった可能性がある」
(万一にも俺の元に被害が届かないよう対策とか色々と考えておかないとなぁ)
「そ、そんなことがっ!?」
「魔王は一度勇者に倒されている……ならば対策をと考えるのは当然の話だ」
少なくとも俺ならそうする、というか全軍を率いて準備の出来てない勇者の里を落とす。
「もしもその話が事実だとすれば……一つの村を開放したことは向こうも承知のはず、何か新たな策を打ってくる可能性がありますね」
「その通りだ、だからこそよく考えて行動すべきだと思う」
(具体的には俺の身の安全をな)
「うぅ……そういう頭を使うの僕苦手なんだよなぁ……」
(頭だけじゃないだろうが……こいつに得意な分野ってあるのだろうか?)
「大丈夫だよカノちゃん、正義は必ず勝つよっ!!」
(脳みそピンクちゃんかな、こいつマジでいらねぇ……)
いざとなったらシヨちゃん、カノちゃんの順で魔物の餌にして身の安全を図ることを決意した。
「サーボ先生、村が見えてきました……やはり様子がおかしいです」
「うむ、ではここからは慎重に進むんだ」
「はいっ!!」
村は異様に静まり返っている。
ただ前の時とは違い住宅などに一切の被害は出ていなかった。
「ふむ……これでは何もわからないな」
「どうしますか?」
流石に魔物の姿が見えなければどうしようもない。
「……少し危険だが内部に入って詳細に調べて回ろう」
村の中で馬車を止めて皆で一丸となり近くの一軒にお邪魔する。
「お邪魔いたします……どうにも勝手に人の家に上がるのは泥棒のようで気が引けるな」
「う、うん……だけど調べなきゃ何もわからないもんね」
「平気だよっ!! だって私たち勇者だもんっ!!」
シヨちゃんはわざわざ首からひもを通した許可証をぶら下げている。
「確かに勇者である以上は多少の家財の横領が許されている……とはいえ失礼のない範囲で行おう」
「失礼のない範囲……む、難しいな」
「うぅ……頑張ってみます」
「やるぞーーっ!!」
珍しくカノちゃんとテキナさんが消極的だ。
対してやる気満々なシヨちゃん。
(幼いだけあって罪悪感が薄いのかな……いまいちよくつかめん)
とにかく物色タイムだ。
俺は住人の生活に大きく影響が出ない範囲で金目の物を集めることにした。
(全然ない……まあ普通の村人がそうそう大金を貯蓄なんかできないもんなぁ)
「みんな調子はどうだい、金目の……魔物の痕跡らしきものは見つかったかな?」
「す、すみませんサーボ先生……私はどこをどう探していいものかわからず、ベッドの下は探したのですが……」
「テキナさん……何を探しているんですかあなたは?」
(エロ本さがしてるんじゃないんだぞっ!?)
「えへへ、先生~どうですかぁ~」
「ぬいぐるみに絵本に玩具……返してきなさいシヨちゃん……」
(流石にそんなもんはいらない……というか自分が欲しいもの取ってきてんじゃねえかこいつ)
「先生とりあえずこんなもの見つけたけど……返したほうがいいよねぇ?」
「カノちゃんは……っ!? 土地の権利証っ!? こ、こんなものをどこでっ!?」
「衣装ダンスが見た目と違って奥行きがちょっと狭かったから背板をいじったら出てきたんだ……」
実際に衣服のタンスを調べてみても違和感すら感じない。
(な、なんでそんな差に気づけるんだこいつっ!?)
「と、とりあえずそうだね気づかれないように戻してきなさい」
(そんなもん売りさばけねーしなぁ)
「はーい」
カノちゃんがササっと権利証を元に戻してきた。
「よし、じゃあ次に行こうか」
今度はせっかくなので一番デカい村長の家であろう住宅を尋ねてみた。
「意外と何もみつからないなぁ……」
大きいことは大きいが質素な生活をしているようで家財道具も最低限しか存在しない。
「これでは探すだけ無駄かもしれませんね」
「目立ってる床下収納庫も鍵が掛かってて開かないし……手詰まりですね」
「うーん、ちょっとシヨちゃんどいてみて……」
カノちゃんが床下収納庫に顔を近づけて、周りを見渡し小さい針金のようなものを見つけるとそっと隙間に差し込んだ。
「多分この辺が引っかかって……うん、外れたよ」
「はっ?」
「えっ?」
「うそっ?」
驚いてあっけにとられている俺たちの目の前で床下貯蔵庫の錠前が開く音がはっきりと響いた。
「か、カノさん……ど、どこでそんな技術を……」
「そんな大したことじゃないよ、僕昔はやんちゃでこういう悪戯良くしてたから……」
(貯蔵庫の鍵を開けれるって悪戯って言葉でくくっていいのか?)
「ま、まあせっかくですし中を確認して……ほほう、これはこれは」
中には金貨がかなりの量ため込まれていた。
(ヘソクリにしては余りにも多い、悪徳村長というところだなぁ)
「ど、どうしましょうかサーボ先生っ!?」
これだけあれば数枚無くなっても気づかないだろうし、生活にも問題は出ないだろう。
「少しだけ頂いていきましょう、活動資金としてね」
「あ、開けた僕が言うのも何だけど……いいのかなぁ」
「大丈夫、勇者である先生の言葉だもん」
(おいシヨちゃん、今さりげなく俺のせいにしたな)
意外にシヨちゃんはしたたかなのかもしれない。
(だけどそれよりも……カノちゃんって盗賊としての才能があるんじゃないか?)
「うぅ、先生すみません罪悪感がとても耐えられそうにありません……やっぱり手を付けるのは止めておいてください」
テキナさんが本当に調子悪そうに言っている。
(俺たちにとっての生命線であるテキナさんの調子を無視してまで回収するのは得策じゃないかぁ……勿体ない)
「分かりました、じゃあこれは見なかったことにして次に行きましょう」
「本当にいいんですか先生?」
「ああ、勇者である俺の判断だからね」
念を押すシヨちゃんの言葉をそっくり返してやった。
「じゃあ閉めておくね、多分勝手に鍵がかかると思うから……うん、やっぱりね」
カノちゃんの言う通り扉は閉まると同時に自動的に施錠された。
(カノちゃんの目は確かだなぁ……こいつ意外と使えるんじゃないか?)
別に泥棒とかして回るつもりはないがこの手のスキルはあるに越したことはない。
「じゃあ次はどこを探しますか?」
「カノちゃんに選んでもらおう、何だかんだでさっきからとても目端が利いているからね」
「ぼ、僕ですか……えっと、じゃああの家で」
カノちゃんが指し示したのは変哲もなさそうな一軒家だった。
「いいけど何でだい?」
「入り口付近の壁を一度剥がしてから元に戻した後があるからなにかあったのかなぁって思って……」
さも当然とばかりに言うが俺の目には普通の壁にしか見えない。
「……テキナさん、シヨちゃんどう思う?」
「……全く分かりませんが、カノが言うのでしたら間違いないのでしょうね」
「……うん、私も全然わからないよ」
「え、えっと……やっぱり止めておく?」
「いやカノちゃんの勘を信じるよ」
俺たちは早速その家に入っていく。
中はいたって普通の木造建築な一軒家だ。
やはり特に変わったところは見られない。
「ええとぉ……こっちだね」
「……何がだい?」
「ほら先生、よく見たら床の木目の調子が変だよ……多分何か仕掛けた跡をごまかすために張り替えたんじゃないかなぁ?」
「……ああ、なるほどね」
(分かんねえよ、どこがどう違うんだよっ!?)
ちらっとテキナさんとシヨちゃんを見たが首を横に振っている。
「ここかなぁ、やっぱりちょっと音が変だね……となると」
もう訳が分からない。
はだしになって床をたんたんと音を立てて踏んだかと思うと何かを伝うように移動を始めた。
そして壁に手をついていくと、ある地点を急に叩いた。
くるんと板が回転して外れ落ち、奥にボタンのようなものが見えた。
「多分これが開閉スイッチなんじゃないかな……ほら開いたよサーボ先生っ!!」
俺たちの目の前で何の変哲もなかった床に穴が開いて階段が出現した。
ちょうどさっきカノちゃんが飛び跳ねてたところだ。
(今まで無能ってバカにしてごめんカノちゃん、訂正するわ……お前才能ありすぎるわっ!!)
「は、はは……み、見事だよカノちゃん素晴らしい活躍だね」
「ほ、本当だな……こ、これほど綺麗に隠れた隠し通路を良く見つけ出せるものだ」
「カノさん凄いっ!! まるで本当の泥棒さんみたいっ!!」
俺とテキナさんが一生懸命ぼかして伝えたというのにシヨちゃんは無邪気に思ったことを口にしてしまう。
「あうぅっ!? ど、泥棒じゃないよっ!? せ、正義だよねサーボ先生、テキナさんっ!?」
「……ああ、君は勇者としてやるべきことをしただけだよ」
仕方ないからまっすぐ目を見て言ってやる。
「そ、そうだとも先生の言葉に間違いはないぞっ!!」
(テキナさんさぁワザとじゃないんだろうけどその言い方じゃ俺の責任みたいじゃないかぁ)
「勿論だよ、これは勇者であるサーボ先生の言葉通り正しい行いに決まってるよっ!!」
(シヨちゃんは、ワザと言ってるだろこれ……絶対にお前魔物の餌にしてやるからなぁっ!!)
「と、とにかく先に進もう……さあ行こうじゃないか」
落ち込んでいるカノちゃんの背中を押すようにして俺は中へと潜っていった。
「あ、あのどうして僕が先頭なんですかっ!?」
「カノちゃんの感は頼りになるからね、罠とかあったら教えてね」
(こんな怪しい隠し部屋、絶対罠の一つや二つありそうだからなぁ)
「そ、そんなぁっ!? ぼ、僕盗賊じゃないんだからぁっ!!」
悲鳴を上げているが知ったことじゃない。
俺は俺以外の奴をうまく利用させてもらうだけだ。
「さ、サーボ先生の言葉を信じるんだカノ……きっと貴方の能力こそがこの事態を打開する鍵になるのだっ!!」
「鍵扱いしないでよぉっ!! 僕は勇者なのぉっ!! 盗賊じゃないのぉっ!!」
テキナさんに泣きつこうとするが俺は絶対に背中を抑えて離さない。
「ほら早く先に進もうじゃないか」
「うぅぅ……どうしてこんなぁ……あ、先生ストップっ!!」
「はいどうしましたカノ先生っ!!」
「その言い方止めてよぉ……その辺の石ころ投げてみて?」
言われるままに近くの石を拾って投げる。
地面に当たった途端、何か光輝いたと思ったら無数の槍が飛び出してきた。
「なっ!? こ、これは魔術トラップっ!!」
どうやら魔法の罠らしい。
その証拠に少しすると槍は跡形もなく消失した。
「一応聞くけどどうしてわかったの?」
「周りは土を掘っただけって感じなのに、ここだけちょっと四角く整地されてたから……まさか魔法の罠とは思わなかったよぉ」
言われてみると確かに少しだけ整地されている。
だが手前から徐々に整地されていってるから指摘されるまで気づけなかった。
「さすがカノ先生、ちなみにどのように解除すればよろしいのでしょうか?」
「先生は止めてっ!! 僕は魔法はからっきしだよぉっ!?」
「予想でいいから、ね……ほんのちょっぴりの推測でいいからっ!! 推理の先っちょだけでいいから聞かせてっ!!」
(テキナさんで強引に突破する手もあるがそれは最終手段、当面はこいつに任せよう)
「うぅ、先生が壊れたぁ……床に触れてから反応してたから地面を壊すかこの辺りを飛び越えちゃえば平気だと思うけどぉ」
「よし、テキナさん床に向かってパンチだっ!!」
「え、あ……わかりましたっ!! はぁっ!!」
テキナさんのパンチはいとも簡単に地面をぶち抜いた。
バチバチっと虹色の閃光が走ったと思うとすっと空気に溶けるように消えていった。
「もう大丈夫だと思うが、テキナさんがカノちゃんを抱いて先行しつつ様子を見てきてくれ」
「わ、わかりました……カノ先生行きましょうっ!!」
「テキナさんまでぇっ!? いやぁ僕は勇者なのぉっ!! 盗賊役なんかやだぁ~~っ!!」
カノちゃんの言葉を無視して俺たちはテキナさんの後ろをついて歩くのだった。
それからも幾つもの罠が張ってあった。
釣り天井に毒矢射出、落とし穴に大岩落としから果ては魔物の召喚装置に地雷原。
その全てをカノちゃん……いやカノ大先生は完璧に見抜き突破していった。
「おお、またしてもお見事カノ先生っ!!」
「みんな嫌いだぁ……そこ地面に線が走ってるから踏んじゃダメ……ああもうどうしてわかっちゃうの僕ぅっ!?」
「良く気づくなこんなの……いや本当に素晴らしいよ怪盗カノ氏」
「怪盗じゃないもん勇者だもん……あ、ここは妙に反響しているから音だすと危険……うぅ……」
「……カノさん、いつか私にも技術を伝授してほしいなぁ」
「こんなの覚えなくていいよぉ……そこから壁の色が変わってるから手を触れないで……しくしく……」
悲しいまでに本人の望みとは裏腹に完璧な盗賊っぷりだった。
(こいつが居ればどんな難関なダンジョンも攻略できそう……頼りになるやつだぜっ!!)
「おや、行き止まりだけどカノせんせ……ごめん調子に乗り過ぎた、カノちゃんどうだい?」
結構本泣きだったので流石に真面目に対応することした。
「うぅぅ……こっちの壁のこの部分だけ何か感触が違うけどどうしていいかわからないよぉ……魔力でも流すんじゃないかなぁ……」
「テキナさんGOっ!!」
「お任せくださいっ!!」
もう俺たちはカノちゃんの言葉を疑うこともない。
案の定、奥の壁は煙のように消え失せた。
「おおついに……な、なんだこの空間はっ!?」
壁の向こうは開けた空間になっていて壁が見えないほどの広さになっていた。
「隠し通路の奥にある隠し部屋……なんか宝物でもありそうで期待しちゃいますねっ!!」
「確かにシヨちゃんの言うとおりだ、ちょっと楽しみだね」
「しかしこのような広い空間ではもっと過激な罠が仕掛けられている可能性があるのでは?」
「大丈夫だよ、私たちには世界一盗賊の才能があるカノ先生がいるんだからっ!!」
「シヨちゃんまでぇ……僕もうやだぁ……えぇん……」
(シヨちゃんさぁ、カノちゃん本泣きしちゃったよぉ……どうしちゃったのよ?)
勇者証明書を手に入れてからシヨちゃんの様子がおかしい。
恐らくは目標を達成してふわふわとした夢見心地が続いているのだろう。
とはいえ今は気にしている場合ではない。
「ともかく、ここからは気合を入れていかないと……カノちゃん辛いだろうけどもうひと踏ん張り頼むよ」
「うぅ……ぐすぅ……わ、わかりましたがんばりますぅ……うぅぅ……」
「うむその意気だ、ではテキナさんとカノちゃんが先行しその後ろをシヨちゃんが続いて進みたまえ」
「サーボ先生が一番後ろですか?」
「ああ、俺は挟み撃ちにならないよう後方を警戒するっ!!」
(なんてな、後ろの道は解除しきってない罠があるから誰もこなくて安全なんだよ)
「なるほどわかりました、ではカノ先生もし道中にまた罠があれば教えてください」
「も、もうぅテキナさんいい加減に先生は止めてよぉ……僕そろそろ本気で怒るよっ!!」
真面目なテキナさんは本気でカノちゃんを先生扱いして怒られている。
「でも羨ましいなぁ……カノさん、盗賊とは言え才能あるんだもん」
「シヨちゃん、きっと君にもまだ埋もれている才能があるはずさ」
(魔物に美味しく頂かれる才能とか、男に美味しく頂かれる才能とか……ああ後者はこいつら全員だったわ)
「サーボ先生……はい、私も頑張ってみんなのお役に立てるようになります」
「その意気だよ、頑張りたまえ」
(絶対に無駄だと思うけどな、まあせいぜい俺の足を引っ張らない程度に頑張ってくれ)
皆で一列になり声を発しながら先を進んでいく。
「あ、せ、先生っ!?」
しばらく進んだところで先のほうに怪しい輝きが見えてきた。
恐らく蝋燭か何かの炎だろう。
俺たちは顔を見合わせると慎重に距離を詰めていった。
もぞもぞと目の前の空間が揺れ始めた。
「先生……あれは黒ずくめのローブを被った集団です……」
テキナさんの言葉に目を凝らしてみると確かに闇に溶け込むようにかなりの人数が集まっている。
(この間の敵によく似た格好だ……こいつらが村人を攫った犯人か?)
「だ、誰だっ!?」
一人がこちらに気づいたようでその言葉に反応して全員がこちらへと振り向いた。
「お前らがあの罠だらけの道を仕掛けた奴らか……こんなところで何をしている?」
「えっ!? 君たちは人間……というか、罠だらけってまさかトラッパー様の隠し通路を通り抜けてきたのかっ!?」
「と、トラッパー様って大昔にご先祖様と魔王退治したっていう伝説の大盗賊ですよね?」
シヨちゃんの言う通り、トラッパーというのは凄腕の盗賊で特に罠の技術は他の追従を許さなかったと言われている。
「あの道を……10歳の頃とは言えトラッパー様が自ら仕掛けられた罠の道をくぐり抜けられる生き物がこの世にいるなんてっ!!」
(10歳であの道を作り上げたってどんだけ化け物だよ……そしてそれを完全攻略したカノちゃんも凄まじい……)
「い、一体どなたがあの道を攻略なされたのですかっ!?」
「それはこちらのカノ……」
「僕たちの大先生のサーボ先生ですっ!! 罠なんかへっちゃらだって簡単に解除したんですよね先生っ!! 流石先生だよっ!!」
「うぉおおいっ!!?」
(何を人に押し付けてんだっ!! そういうことしていいのは俺だけだって教わらなかったのかぁっ!!)
「おお、偉大なるサーボ様っ!! 皆の者トラッパー様の再来であるサーボ様を拝まれるのだっ!!」
「ははーっ!! サーボ様万歳っ!!」
黒づくめの一団にひれ伏される。
前の村の時と違い怪しすぎてすさまじく居心地が悪い。
「あはは……サーボ先生は大人気ですねぇ、僕憧れちゃうなぁ」
「……皆の者よく聞いてくれ、ここにいるカノという少女こそ俺の後継ぎとしてトラッパーの名を継がせるためにここに来たのだっ!!」
「えぇぇええええっ!! な、何言ってるんですか先生ぃいいいいっ!!」
(弟子の分際で舐めた真似するからだ……でまかせで俺に勝とうなんて十年早い)
「おお、それはそれは……しかしトラッパー様の名称を継ぐにはそう簡単にはいきませんよ」
「いいから……僕は勇者だから盗賊じゃないからねっ!! ほら許可証もここにあるしっ!!」
「な、何とわざわざ勇者としての称号を捨てて大盗賊トラッパー様の後を継ごうとするとは……なんて見どころのある少女だっ!!」
「ちがぁああああああうっ!! サーボ先生ごめんなさいっ!! 謝るから助けてぇええっ!!」
半泣きで縋りつかれた。
流石にこの辺にしておいてやろう。
「テキナさん、このままじゃ収集付かないから君から話を聞いてあげて」
「わ、わかりました……皆さん一旦私の話を聞いていただけないでしょうか?」
「はい、これトラップボックス……これを解除して中身を開くのがトラッパー様の名前を継ぐための第一試練だ」
どうやら向こうは話を聞く気はないようだ。
立方体をしたトラップボックスとやらは側面にカラフルな色が付いたブロックが複数くっついている。
恐らくはひねったりして位置をずらして色をそろえるのだろう。
さらにはカウントが進んでいる。
0になるまでに解除する必要があるようだ。
「とにかく中身を出せばよいのですね……えいっ!!」
テキナさんは力づくで握りつぶして強引に中身を取り出した。
「えぇ……その、力づくでやるとペナルティに毒針とか出るんですけど痛くないですか?」
「ああ私には毒は通じないのだ……ほら印を取り出したぞ、これでいいかな?」
「は、はい……」
余りにも人外染みた行為を見せつけられて意気消沈した人々。
この隙に会話をねじ込むとしよう。
「すみませんがトラッパー様は置いておいて……あなた方はここで何をしているのですか?」
「はい、ええとぉ……というか勇者様でしたよね、助けに来てくれたんですねっ!!」
「村人が行方不明になっているとのことを聞いてやって来たわけですが……どうなっているのですか?」
話を伺った結果、ここにいるのは村人であることが判明した。
何でも魔物が襲来してきたので慌ててトラッパー様が作ったこのシェルターに逃げ込んだのだそうだ。
ちなみに服装はかつてのトラッパー様を真似しているだけのようだ。
(紛らわしいわ……)
「あなた方もあの罠の道を通り抜けたということですか?」
「いや長老の家には非常時に一方通行の入り口があったんだ……そこを通って籠城してたんだ」
聞いてみると万が一にも間違いで人が通らないように床下収納庫のお金の下に隠してあったそうだ。
(確かに強盗とかがあれだけのお金を回収した後で怪しい道を見つけても、お金を確実に持ち帰りたいから入らないだろうなぁ)
「必ず救助は来てくれると信じて備え付けの食料を食いつないで待っていたわけです」
「しかし勇者様が来てくださったということはあの水が固まったようなジェル状の魔物の群れを退治してくれたというわけですねっ!!」
(倒してねーよ、一匹もいなかったからなぁ……しかし話を聞く限り攻めてきた魔物はジェルスライムかなぁ)
ジェルスライムもまた魔王が退治されるとともに絶滅したと言われている魔物だ。
液状の身体はあらゆる衝撃を吸収してしまう。
また踏みつぶしたりして取り込んだものを一切の例外なく取りこんで溶かし自らの体積に加えて成長していく。
退治するには魔法を使って消滅させるしかないため戦士には決して勝てない強敵。
(何も被害がないように見えたのは被害を受けた物体は消滅した後だったからか……)
「いや俺たちが辿り着いたときにはもう何もいなかった……恐らくここに籠城されて手が出なくて諦めたのだろう」
(多分だけどな、少なくとも俺ならこんな面倒なところに攻め込みたくない)
「そ、そうだったのですか……では我々はもう外に出ても安全だということですね」
「恐らくは大丈夫でしょうが、一応外まで俺たちが先導いたします」
外に出てきて王都に評価シートを送ってもらわないといけないからな。
「ぜひお願いします……実は罠のせいで我々も出られなくて困っていたのです」
「それはそれは……では早速俺の弟子の腕前を見ていただくとしましょう」
「せ、先生……やっぱり僕が先行するの?」
「真面目な話としてカノちゃん以外にあの罠を突破できる人はいないんだよ、村人たちのためにもちょっと我慢してくれ」
(テキナさんを盾にして強引に突っ切る手もあるけど危ないからなぁ、安全第一で行こう)
「うぅ……皆さん、僕の指示にしっかり従ってついてきてくださいっ!!」
「「「「「「「「はーいっ!!」」」」」」」」
やけくそ気味に涙を流しながらもカノちゃんはみんなの前で見事な腕前を披露したのであった。
「ワンナ村住人一同、カノ様に大盗賊の称号と共にトラッパー様の装備を送らせて頂くことをここに決定いたしましたっ!!」
「いぃいいいいやぁあああああああっ!! どうしてこうなるのぉおおおおおっ!!」
(そこまで才能があるんじゃ仕方ないだろ、さっさと諦めろよ有能)
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