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王都イショサにて

「ついに見えてきましたね王都イショサ……」


「えぇ……」


「ぼ、僕なんだか緊張してきちゃったぁ」

 

「えぇ……」


「わ、私ちゃんと勇者らしく振る舞えるかなぁ」


「えぇ……」


 眠すぎて訳が分からない。


 みんなの言葉も右から左だ。


 結局前回の事件から一睡もできないまま王都まで移動し続けている。


 いくら馬車に乗っているからって疲労が馬鹿にならない。


 というか適度に揺らされているせいで何度か寝落ちしかけた。


(こいつらがキャンキャンうるせえから仮眠もできねぇし……ああ、辛いなぁ)


 とにかく早いところやることを終えて宿をとって休みたい。


 勇者登録には当たり前だが事務処理が関わるために一日は滞在しなければいけない。


 そうなれば流石のこいつらも休むことを認めざるを得ないだろう。


 何とかそれだけを頼りに俺は自らを支えていた。


「止まれ、王都イショサへ何用だっ!!」


「我々は勇者の里より参った者だ、魔王復活の報告と退治するための活動を認めてもらいに来たっ!!」


 番兵に対して馬車を運転しているテキナさんがはっきりと告げてくれる。

 

 ちょうど頭が回らないから助かる。


「随分と遅かったな、他の二組はとっくに登録を済ませたぞ」


「ぼ、僕たちは道中で人助けをしてたんだっ!!」


「ま、魔物に襲われていた村も救出したんですよっ!!」


 番兵の言葉にムキになって反論する子供二人。


「そのような報告は聞いていない、とにかく勇者登録をするのなら馬車を馬宿に預けて徒歩で中に入るがいい」


「仕方あるまい、サーボ先生早速行きましょう」


「えぇ……」


 馬車を預けてふら付く足取りで街中を進む。


「先生大丈夫ですか……一体どうなされたのですか?」


(大丈夫な訳ねぇだろぉ……お前が勝手に平気だと決めつけて強行したんだろうがぁ)


「先生も緊張してるんですね……へへ、僕と一緒だぁ」


(緊張じゃなくて極度の疲労だよ、ぐっすり寝やがって……)


「先生も人の子なんですねぇ……あ、あの落ち着くように私と手をつないでみますか?」


(手を繋いで疲労を移せたら全部押し付けてやるのになぁ……)


「皆心配しないでくれ、俺は平気だそうだから勇者として当然だよ」


 自分でも何を言ってるかまるでわからない。


 重傷だ、数少ない俺の特徴である口からでまかせすら上手くできない。


(まあここの所変なこと言っては悪いほうに進んでるから逆にいいのかもしれないなぁ……)


「とにかくだ、テキナさんに手続等の話はテキナさんに頼むからテキナさんに任せておくとしようじゃないか」 


「え、ええ……わ、わかりました」


 何とか俺の言いたいことは伝わったようだ。

 

 わざわざ三回も名前を告げたのがよかったのかもしれない。


 そんな話をしているうちに王宮の入り口にまでたどり着いた。


「止まれ……あなたたちは王宮に何の用だ?」


「我々は勇者としての活動を認めて貰うべくやって来た者です」


「ああ、遅かったねぇ……まあいい、上の人に連絡を取るから少し待っていてくれ」


 門番の一人が王宮の中へと入っていく。


(早くしてくれ、立ってるだけで辛いんだよぉ……)


「許可が下りた、まっすぐ進み階段を上がって王座の間まで行くように……そこが謁見の間を兼ねているのだ」


「畏まりました……行きましょうサーボ先生」


「あの、王座の間は何階に階段を登ったところにどれぐらいにあるのですか?」


「……大丈夫か君? 王座の間はちょうど三階にある、結構長いぞ」


「ああ、そうですかありがたいお言葉に感謝が絶えないのですみませんがありがとうございます」


 お辞儀をしたが、頭の重さでそのまま倒れ込みたくなった。


(そんなに階段を登るのか……今までで最大の難関かもしれない)


「サーボ先生、しっかりなさってくださいっ!!」


「もうサーボ先生ったら緊張しすぎだよぉ、なんか見てたら僕のほうが収まってきちゃったよ」

 

「ほらサーボ先生、私たちの手を取ってください」


「……モテ男爆発しろ」


 何か門番の声がぼそっと聞こえた気がしたが意味はわからない。


 とにかく俺は両手をカノちゃんとシヨちゃんに引かれ、背中をテキナさんに押されるまま階段を登って行き王座の間へと立ち入った。


 大臣が美少女三人に支えられている俺をすさまじく疑心に満ちた目で睨みつけてくる。 


「王様の眼前で何をいちゃついておる……控えられよ」


「す、すみません……サーボ先生、それに二人も跪くのだ」


「う、うん……ほらサーボ先生」


「サーボ先生」


「へへぇー」


 訳も分からず頭を下げる。


 きっと多分もう少しで休めるのだ。


「よくぞ参った、前に来た二組より話は聞いている……よくぞ世界の存亡の危機に立ち上がってくれたな、まずはお礼を述べたい」


「とんでもございません、我々は勇者の里の者として当然のことをしているまでです」

 

「頼りになる言葉だ、しかし魔王の脅威は依然として増している。最近は近隣での魔物の活動も目に余るものがあり、この辺りでは見かけない強力な魔物も姿を現すように……」


 何か言っている。


 重苦しい声だ。


 まるで眠りに誘うような。


 長い、ひたすら長い。


 何を言ってるかまるでわからない。


 もう限界だ。


 頭が重い。


(土下座した状態なら顔は見えないかな?)


 見えないに決まっている。


 もう無理です。


「…………グーっ……」


「さ、サーボ先生っ!!」


 叩かれた、目が覚める。


「……何と無礼な、本当にその者は勇者にふさわしい存在なのか?」


「せ、先生たらもう……ま、間違いございません僕、いえ私たちの尊敬する素晴らしいお方ですっ!!」


「とてもそうは見えぬ、全く王様の眼前で居眠りするなど敬意のかけらも見受けられぬ」


 大臣が何か言っている。


「我々には毎年の勇者コンテスト優良成績者の情報が届くのだが、サーボなどという男の話は一切聞いたことがないぞ」


「他の二人にしても未成年ではないか、テキナという名前こそ全人員の中でも最有力者だとは聞いているが……」


 王様も何か言っている。


 三人が俺を見ている。


 何か言うべきなのか?

 

 王様と大臣も……入り口付近にいる番兵も見ている。


 どうやら何か言うべきところらしい。


(何を言えばいいんだ……眠くて何もわからないんだが……)


 とにかく口を開いてみよう、もうどうにでもなれだ。


「どのようならば王様も大臣のような番兵もまた俺の私が疑われているのだと思いますがどうでしょうか?」


「……何を言っているのだ?」


「ええ、つまりはですね……ええと……貴方のような話としてはつまらないと言っているのだ」


 もう自分の思考を取り繕うこともできない。


「なっ!?」


「せ、先生っ!?」


 王宮に驚愕の声が響き渡る。


「今も魔物がこの瞬間も魔物は暴れているのだから眠れない日々を送っている今は一刻も早く行動に移るべきなのに何をやっているんだろうね?」


 そうだ魔物が暴れているから眠れないのだ、一刻も早く眠らなければいけない。

 

「俺たちは勇者として迅速なる活動のもとである勇者としてだ、行かなければならないのだから退屈な話は耐えられないのだ」


「き、貴様無礼にもほどがあるぞっ!!」


「さ、サーボ先生っ!!」


 どうやら不味い展開になってきたようだ。


 また言いつくろおう。


 よくわからないけど口を動かそう。


「貴方がたはこんなところで何をしているのだ、世界を見たまえ心地の良さそうな世界をだ……既にたくさん眠り損ねているのだぞ」


「……サーボ先生のおっしゃる通りですっ!! 私たちはこのようなことで時間を使っている場合ではないっ!!」


 テキナさんが乗ってきた。


 よくわからないが後は任せていいだろう。


「王よ、我々はここに来るまでに既に魔物に襲われている村を見た……強盗に襲われている人々を見た……」


(そういえばあの強盗はどうしたのだろうか、一応縛ってはおいたけどその後が思い出せないぞ?)


「分かりますか、世界中の人々が苦しみ絶望に震え眠れぬ夜を過ごしているのですっ!!」


 そうなのだ、眠れないのだから早く寝たいと思うのが当然だ。


「そんな中でこのような場所で時間を費やしている余裕はない……一刻も早く勇者としての許可証を発行していただきたいっ!!」


「黙れ無礼者どもっ!! 貴様らにそのようなものを発行できるかっ!!」


 大臣が怒っている。


「そ、そんなぁ……」


「せ、先生……ここは謝ったほうがいいんじゃ?」


 謝れば眠れるのだろうか、というかもう何もかもどうでもいいから宿に行って眠りたい。


「もうそのようなものはいらないと思うので行こうではないか」


「えっ!? だ、だってそれがないと勇者として認められない……」

 

「いいのじゃないかと思うよ認められなくてもいいじゃないか、勝手に行動できればすればいいんだからね」


「っ!?」


 そうだ別に勝手に動いて寝てしまえばいい、許可なんかいらない。


「ああサーボ先生、私は自分の心の浅ましさを再認識いたしました……確かに人々を救うのに許可など必要ありませんねっ!!」

 

 テキナさんが立ち上がった。


「……そうだよ、僕は一番大事なことを忘れてたっ!! ごめんなさい先生、目が覚めましたっ!!」


 カノちゃんが立ち上がる。


「私も……私も認められなくても今すぐ人を助けに行きたいですっ!!」


 シヨちゃんも立ち上がった。


「分かっていただけてよろしい限りですから行きましょうね今すぐにね」


 なら俺も立ち上がっておこう。


「では失礼いたしますっ!!」


「失礼しますっ!!」


「失礼しましたっ!!」


「失礼さまでございました」


 さっさと立ち去ってしまおうとした俺たちの前に番兵が立ちはだかる。


(邪魔するなよ、俺は眠いんだよっ!!)


 睨みつけてやると怯えたように後ずさった。


 よし行けそうだ。


 このまま暖かい布団に潜り込もう。


 他のことは後で考えればいい。


「待たれよ皆の者、いやそちらのサーボ殿のおっしゃる通りだった……無礼なのは私のほうだったようだな」


「お、王様……何をおっしゃられているのですかっ!?」


「控えておれ大臣、彼らは一刻も早く領民を……ひいては世界中の人々を助けたいと言っているのだ」


 そんなこと言っただろうか。


「それに対して我々は偉そうにこの場に呼び寄せ、許可証を餌にして臣下のごとき礼を強制した……恥ずかしいとは思わないか?」


「そ、それは……」


「更に彼らは人々を助けるのに一切の援助はおろか称賛もいらないと断言したのだぞ……このような立派な者を見たことがあるか?」


「……」


 王宮内が静まり返る。


 これはこれで眠くなるからやめてほしい。


「気になさらずにいてください、俺は勝手なとても自分本位なことを言っているだけでございますから」


「なるほど自分本位とな、つまりは心の底から人々の救済を望んでいるということだな……まさしく勇者としてあるべき姿だ」


「……確かに王様のおっしゃる通りです、形式にこだわり我々は大事なことを忘れていたようですな」


「うむ……サーボ殿とお仲間の皆々よ、こちらからお願いさせていただく……ぜひとも勇者許可証を受け取り活動をしていただきたい」


 王様に頭を下げられる。


 流石にこっちも下げなきゃ不味いだろう。


「色々と失礼だったようで無礼で申し訳ございませんでした」


「申し訳ございませんでした」

 

 俺とテキナさんが謝罪を口にする。


 子供二人も合わせて頭を下げている。


 どうやら何とかなったようだ。


「この私、大臣として自ら責任をもってそれこそ今日中に発行は終わるように取り計らせて頂きます」


「うむ、頼んだぞ……サーボ殿、世界をよろしくお願いいたします」


「勿論でより良い睡眠を求めてますからいきますよです」


「頑張ってくださいませ勇者サーボ様一行っ!!」


 王様と大臣、さらに番兵にまで熱い目で見送られて俺たちはようやく王宮を後にした。


「はぁ……も、もうサーボ先生ったら僕びっくりしちゃいましたよっ!!」


「てっきりただ緊張してるのかと思ったら……王様に早くいきたいって主張しようとしてたからなんですね」


「全くサーボ先生はどこまで偉大なのか……このテキナ、何度目になるかわからぬ感服をいたしてしまいました」


「いいから宿、少しでも時間休もう」


 俺はふら付く足取りで宿屋を目指した。


「すぐに発行していただけるとの話ですし、わざわざ宿屋を取る必要はないのではないでしょうか?」


「休めるときに僅かな時間も休めるように休むべきですぅっ!!」


「あ……だから先生はさっきあそこで眠ったんですね……」


「王様の話より体調管理を優先するなんて……凄すぎますよぉ」


 よくわからないがもうどうでもいい。


 ベッドだ、柔らかい布団が俺を呼んでいる。


 宿屋に入りもうどんな問答をしたかも分からないままお金を適当に机に置いた。


 そしてふらふらと部屋に行ってベッドに倒れこんでそのまま眠ってしまった。


 どれぐらい寝たのだろうか、ようやく目が覚めたときは全身ガチガチになっていた。


 思いっきりほぐそうと身体を伸ばそうとして、両腕に何かが乗っかっていることに気が付いた。


「……なんで君たちがそこにいるのよ」


 右腕をカノちゃんとシヨちゃん、左腕をテキナさんが勝手に枕にして眠っていた。


 通りで身体が痛むわけだ。


(邪魔だから起こそう……)


「ねえみんなそろそろ……」


「失礼しますっ!! 勇者サーボ様、勇者許可証をお持ち……し、失礼いたしましたっ!?」


「ちょ、ま、待って誤解だからぁああっ!!」


 俺の叫びも虚しく入ってきた兵士は慌てて出て行ってしまった。


「な、何だ……サーボ先生、起きられましたか?」


「ふぁぁ……サーボ先生おはよう」 


「さ、サーボ先生と一緒に寝ちゃいました……はしたないって思わないでくださいね」


「……みんなおはよう、とりあえず兵士に許可証を貰わないといけないからどいてくれ」


 起きたばかりだがもう気力もない。


 俺は部屋の外で待機してた兵士からランクCと印字されている許可証を頂いた。


「え、英雄は色を好むと言いますが……三人同時に相手をなされるとは恐ろしい」


「完全に誤解だからね、変なこと言い広めないでよ?」


「も、もちろんであります……では失礼いたしますっ!!」


 走り去っていく兵士。


(凄く口軽そう……うぅ……美少女三人を侍らせた誑しだと思われてるよぉ……)


 涙が出そうだ。


 けどまあゆっくり眠ったおかげで大分体調は治った。


「サーボ先生、許可証はいただけたのですね」


「ああ、この通りだ」


 みんなにそれぞれ配って回る。


「僕が勇者……やっと、やっとぉ……うぅ……」


 涙を流して許可証を抱きしめるカノちゃん。


(何だかんだずっとそれを目指して、無能なことを自覚しながらもあきらめず何年も頑張ってきたんだもんなぁ……)


「君の努力が実ったんだ……おめでとう」


「せ、先生……あ、ありがとうございますぅっ!!」


 俺の懐に縋りついて号泣するカノちゃん。


(服が汚れる……といいたいところだが今日ぐらいは、まあ許してやるか)


 俺には似合わないと思いながらも特別に頭を撫でてやった。

 

「わーいわーいっ!! えへへ……先生、やりましたぁっ!!」


「ああ、よかったねシヨちゃん」


 こちらは純粋に喜んで飛び跳ねている。


(うるさい……というのも野暮だな、まあ特別にこれも見逃そう)


「これはついにサーボ先生の偉大さに皆が気づき始めた証拠でしょうね」


 テキナさんだけは当然と言わんばかりの顔で、ただ俺の許可証を見て満足げに頷いている。


「いやいや、彼女たちには悪いがこんなものに大した意味はないよ……大事なのはこれからの行動だからね」


 テキナさんの態度に合わせるように謙遜してみたが、内心やはり自分らしくもないがちょっと嬉しい。


(何の努力もしないで楽々勇者に成れてしまった……里で努力してきた皆ごめんねぇ~)


 面倒なことも増えそうだが、たまには素直に喜んでおこう。


「サーボ先生のおっしゃる通りだ二人とも……これはむしろスタートラインに立ったというだけでしかないだからな」


(そのスタートラインにすら立ちたくても立てない人がいっぱいいるんですけどねぇ)


「うぅ……ぐすぅ……わ、わかってますぅっ!! 絶対絶対に頑張りますぅっ!!」


「わかりましたっ!! もっともっと頑張っていきますっ!!」


(お前ら無能が頑張っても何にも……いや、一応許可証には届いたわけだしなぁ)


 俺とは違って実力はともかくきちんと努力して手に入れたからだろうか。


 きっと二人の感じる喜びは俺のより遥かに良質で……本当に誇らしいのだろう。


(さっきから本当に俺らしくないな……まあ今日だけ特別だ)


 勇者の里で育ったものとしてどうしても勇者という称号に対するあこがれはついて回る。


 それは俺ですら例外ではなかったようだ。


(俺はいつから何もかもに諦めたんだったかなぁ……)


 魔法が使えないと分かった時か、剣術で年下に負けたときか……思い出せはしない。


(はぁ……やめよう、俺は無能なりに……俺らしく生きると決めたんだ)


 過去は過去でしかないし、未来の栄光を見据えて努力することもやめた。


 そんな俺にとって大事なのは今だけだ。


「さてこれからなんだけれども、せっかく王都に居るのだからしっかりと支度を整えてから出発すべきだと思う」


「……王様にあそこまで言ったのですからてっきり今すぐにでも飛び出していくのかと思いました」


(あそこまで……全く思い出せない、俺は王様に何を言ったのだろうか?)


「あはは、一度外に出れば次いつここまで立派な国に寄れるかわからないし……情報を集めないと次の目的地が決まらないじゃないか」


「ぐすっ……そ、そうだよね……ちゃんとご飯とかも準備しないと」


「どこで魔物が暴れているのかも聞いてこないと駄目ですもんね」


 みんなが俺の意見に従う。


 やはり俺はリーダー扱いらしい。


(責任を背負いたくないから嫌なんだが……もうなるようにしかならんか)


「ああ……街中だし流石に安全だろうから皆で手分けして準備を整えよう、俺は情報を集めてくるよ」


(比較的安全そうな情報をな)


「分かりました、私は早速皆の装備を整えてまいります」


「僕は生活用品を集めてくるよっ!!」


「え、えっとぉ私は……カノちゃんと一緒に行きます」


 皆で時間を決めて解散した。


 俺はちょうど領内の警護に当たっていた兵士を捕まえた。


「何か魔物の襲撃等の話は出ていないかな?」


「はっサーボ様っ!! ここだけの話ですが近くの村々で住人が行方不明になる事件が多発しているのですっ!!」


 妙に熱い目で俺を見る兵士に詳しく話を聞いてみると前に解決したような事例があちこちで発生しているらしい。


(あれと同じなら解決できなくはなさそうだしな、試しに向かってみてもいいかもな)


 早速場所を聞いて地図にチェックを入れる。


 数日で行き来できそうな場所が何カ所もある。


 最初の目的はココでいいだろう。


 これで活動して許可証の番号を救助した村に教えて王宮に報告してもらうことで評価が加算される仕組みだ。


 毎月決められた時期に王宮へと足を運ぶことで評価に比例した活動費用が給付される。


(つくづく最初の村の一件が惜しいな)


 お礼を言って兵士と別れその足で王宮へと向かった。


「ゆ、勇者サーボ様っ!!」


 門番まで物凄く熱い目で俺を見ている。


 どうやら王宮と兵士の中で俺は既に有名人らしい。


(眠すぎて何をしたのか思い出せねぇ……)


 まあ好意的みたいなので気にしないことにした。


 活動費の給付場所に行って初回分を頂いてくる。


「あれ、少し多くないですか?」


 四人でも節約すれば五年は遊んで暮らせそうだ。


 一人なら二十年というところだ。


(逃げ出して隠居するには足りないが、なんでこんなに貰えるんだ?)


「大臣からの直々の許可があってね、君たちは最初から評価が高めなんだよ」


 話によると勇者制度は本来Eランクから始まって活躍ごとにSランクまで上昇するらしい。


 それがいきなりCランクからとはよほど気に居られたようだ。


(本当に俺は何をしたんだ……思いっきりへりくだったのかな?)


 資金が多い分には文句を言う必要もない。


 俺はお礼を言って王宮を後にして、更なる情報を求めて酒場へと向かう。

 

「ととぉっ!?」


「危ないな……ってお前はサーボっ!?」


 酒場の入り口から勇者候補の一人であるセーヌが出てきて、危うくぶつかりかけてしまった。


「おや、セーヌ殿まだここにいたのかい?」


「当たり前だ、許可証の発行には時間がかかるんだよ……お前はそんなことも知らないのか?」


「ああ、そうだったね……」


「審査は物凄く厳しいぞぉ……俺たちですら兵士たちと模擬戦をさせられて志を語ってそれでも二日審査に掛かると言われたんだ」


 どうやら審査次第で発行までの時間に差が出るらしい。


「カーマ達なんかさらに一日かかるって言われたし……お前らなんかテキナさんが居ても一か月ぐらい許可が出ないんじゃないか?」


(見せびらかしてぇえええっ!! 見せびらかしてどや顔で見下してやりてぇえええっ!!)


 全力で見下してやりたい衝動に駆られるが我慢した。


 こんな奴でも俺より遥かに実力は上なのだ。


 テキナさんがいない状態でわざわざ不興を買って身を危険にさらす必要はない。


(まあこの道化っぷりを見てるだけで充分面白いし……ぷぷ、まだ貰えないんでちゅかぁ)


「ははは、どうだろうね……それより酒場から出てきたってことは何か情報でも手に入れたのかな?」


「はっ!! お前なんかに教えね……どうやってあの三人を独り占めしてるか教えるなら特別に答えてやってもいいぜ」


「いいよ教えても」


「はぁっ!?」


 俺の答えが予想外だったようで目を白黒させながらもセーヌは食いつくように顔を迫らせてくる。


「ど、どうやったんだよっ!!」


「己の正しいと思う道を説いただけさ……君にも彼女たちが心酔するほどの志があるなら素直に口にすればいい」


「ほ、本気で言ってるのか?」


 適当だがまるっきり嘘でもない。


「何なら本人に聞いてみたらどうだい?」


「ぐっ!?」


「さて俺は話したよ、君のほうこそ情報をくれないかな」


「そ、そんな嘘っぱちに騙されるかよっ!!」


(ちっ……やっぱり駄目だったか?)


「勇者たるものが嘘なんかつくものか……そちらこそ最初に口にした条件を反故にするのはどうかと思うよ」

 

「く、下らねぇ……じゃあなっ!!」


(おお、惨め惨め……)


 早足で走り去ってしまった。


 まあ上手くいけば儲けものぐらいのつもりだったからどうでもいい。


 酒場の入り口をくぐって中に入りマスターの居るカウンターに座る。


「……あんたも自称勇者か? 悪いが許可証もない奴に情報は渡せない」


「いや、あるけど……ほら」


「嘘をつくな、お前らが来たのは今日だって情報は入って……ぎ、偽装か?」


 振り返ったところに許可証を見せつけてやるが、即座に偽物だと疑われてしまった。


「これを偽物だというような目の無さなら情報の正確さも信用できないな、いいよ他をあたるよ」


「ちょ、ちょっと待ってくれ……この朱印は本物、しかもランクCだとぉっ!?」


(そんな面白そうな顔するなよ、笑いをこらえるのが一苦労だろうが……)


「ああよかった、目は確かみたいだね……勇者だと分かれば情報をくれるって言ったよね?」


「そ、それは……も、もちろんだ市民の義務だからな」


 実に協力的だ、素晴らしい。


「しかし何故今日の今日で許可証が……テキナという女性が優秀だとは聞いていたが他のメンバーは余りにも酷いとの話だったのに」


(素晴らしい大正解だ……だけど俺もそこんとこはよくわからないんだよなぁ)

 

「まあそれよりもだ、勇者が解決するにふさわしい事件の情報でもないかな?」


「ココだけの話だが近隣の村で行方不明者が出ているのだが、機密情報ということでいまだに表には……」


「もう知ってるよ……この地図にチェックしてあるだろ」


「……あ、あんた何者なんだっ!?」


 マスターが面食らった様子を見せている。


(兵士が快く教えてくれたけど、あれ機密情報だったのかぁ)


 これはこれで面白いのでこれぐらい常識と言わんばかりの態度を見せつけてやる。


「そんな話はどこでも聞けるよ、ここだけの情報は他に何かないのかな?」


「いえ……特にこれといった話は……」


「そっか、残念だなぁ……貴方ほどの人ならば何か知っていると期待したんだけどなぁ」


「ぐっ!?」


 心底残念そうに告げてやるとマスターは悔しそうにうつむいた。


(はっはーっ!! 偉そうに許可証が無きゃ情報を渡さないとかほざいているからだバーカっ!!)


 人を見下すのはやっぱり実に気分がいい。


 俺は笑いそうになるところを必死で押さえながら謙虚なふりをして立ち上がった。


「もしも新しい情報が入ったら教えてくださいね」


「は、はい……」


 俯いたマスターをしり目にさっさと酒場を後にした。


「サーボ先生っ!! ここに居たんですか」


「先生、情報は集まりましたか?」


「やあカノちゃんにシヨちゃん、こっちは順調だよ」


 二人の手には食料品が詰まったバックが握られていた。


「そっちも順調そうだねぇ」


「うん……だけど途中でね意地悪な勇者候補の人たちに出会っちゃったよ」


「あの人たちまだ許可証貰えてないんですって……私たちが見せびらかしたらすっごい変な顔してて面白かったんですよぉ」


「……そういう使い方はどうかと思うよ」


(人が必死の思いで我慢したってのにこいつらぁあああああっ!!?)


 恐らくはこれから彼らの嫉妬というか追及の視線はまた強くなるだろう。


 面倒なことになりそうだった。


(どうしていつもいつもこうなるんだよぉっ!!)

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