ツエフ大陸へ
「アイさん……フウリ様……そろそろ行かなければ……」
「サーボ先生についていきたいです」
「サーボ……私をおいていくのか……」
(だから……事前に行くって言っておいただろうが……)
港町で船を前にして俺の身体に抱き着いて離れない二人。
既に一時間近くこの状態が続いている。
ようやくシヨちゃんの許可が下りて、出航しようという段階になってこれだ。
「アイさん、あなたにはこの大陸を守る様お願いしてあるでしょう?」
「いいえ……私が守るのはサーボ先生です」
(それはテキナさんがやるよ……そう話し合ったんだろうが……)
「フウリ様、あなた様もこの国の正当後継者として人々を統治する義務があるでしょう?」
「そんなものサーボにやる……やるから行くな……言うことに従え……」
(俺もいらねぇよ……良いから前みたいに威張ってろよ……)
本当に困った。
力づくで振り払うこともできない。
「何度も言いますが魔王退治はこの世の全ての人間で協力して成し遂げなければならないことなのです……どうか自らの役割をご理解ください……」
「……いいえ」
「嫌だ」
(我儘言ってんじゃねぇよ……俺ですら我慢してやろうとしてんだからよぉ……)
仕方ない、また適当なことを言って騙してやろう。
何処か胸が痛む気がするが、あえて無視して口を開いた。
「また必ず戻ってきますから……少しだけ我慢してください」
(嘘だけどな……俺は絶対に誰の目も届かない場所に逃げてやるんだ……)
「…………本当ですか?」
「また……戻ってくるんだな?」
まっすぐ見つめてくる二人の目を……何とかそらさずに見つめ返して頷いた。
前なら何ともなくできた行為が、どうしてこんなにも辛く感じるのだろうか。
(人を騙すことに……純粋な気持ちを踏みにじることに……嫌悪感を覚えるとか……そんなんじゃないだろ俺は……)
「ええ、約束しますよ……」
「はい……ですが、証明が欲しいです」
「サーボがここに帰ってくる……帰るだけの証拠が欲しい……」
(この流れは……いつもの奴か……)
「サーボ先生……どうか、口づけを……お願いします……」
「私もサーボの……第何人目の夫人かわからないけど……なるからキスしてほしい……」
アイさんはともかくフウリ様までいつの間にそんな心情になっていたのだろうか。
(弱り切ってるところに救いの手を差し伸べたのと……周りに蔑まれるなか俺だけが慕ってくれた感動が混ざり合って……てか?)
本当に、どうしてこうなるのか。
「……今の俺にはそのような事する余裕がございません、どうか魔王退治が終わるまでは控えさせてください」
「サーボ先生……意地悪です」
「サーボ……ずるいぞ」
「自覚しているよ」
(本当になぁ)
心の底から自分をどうしようもない人間だと思う。
だけどどうしようもない、これが俺だ。
「とにかく新たな大陸へ向かい、もし魔導の使い手が見つからなければすぐにでも戻ってきますよ……だからここは行かせてください」
「……はい、約束です」
「わかった……行ってこい……」
ようやく離れてくれた二人を頭を下げて、俺は船へと乗り込んだ。
「サーボ先生、もう準備は出来てるよ」
「いつでも出航できます」
会話を見守っていた三弟子は俺の態度に呆れた様子を見せながらも、もう何も突っ込んだりしなかった。
「……流石サーボ先生、フウリ様も確保してついに名実ともにゼルデン大陸を完全に手中に……」
一人だけ何かつぶやいている子がいるが気にしないことにした。
「では行きましょうか、ツエフ大陸へ」
「はいっ!!」
俺の指示を聞いて船員が走り回り、ゆっくりと船が動き出した。
「サーボ先生っ!! お帰りをお待ちしておりますっ!!」
アイさんが大声で叫んだ。
初めて見る姿だった。
「サーボ……先生っ!! 無事に帰ってきて……くださいっ!!」
フウリ様……ちゃんが俺に頭を下げた。
丁寧な言葉遣いを聞いたのも初めてな気がする。
(また……勘違いさせちまったなぁ……)
俺なんかを信じて変わってしまった二人を見て、罪悪感を感じながら手を振り続けた。
「しかしゼルデン大陸にまで魔王軍の手が及んでいたとは驚きでしたね」
「びっくりだよねぇ……しかも、両方の国を手に入れた後だったなんて……」
「互いに争って戦争中だったから介入しやすかったんだろうねぇ……」
(本当に魔王軍は恐ろしい……けどもう動かせる手駒は殆どないはずだ)
チーダイ様が自ら乗り込んできたほどだ。
恐らく魔王軍は後がないほどに追い詰められているのだろう。
それに対してこちらは聖剣が手に入った。
後は霧さえどうにか出来れば全て終わる気がする。
(小島に攻め込んで残る幹部を退治して、魔王の居場所を突き止めて倒すだけだ)
「……これから行く島にも魔王軍が攻め寄せている可能性はありますね」
「それがまた厄介だし……何より仮に魔王軍が居なくても魔導の使い手が見つからなければどうしようもないよ……」
「そうだよねぇ……そうしたら打つ手なしだもんねぇ……」
(一応全ての人間の居住区に結界を張って、下手な魔物では手出しできない状況を作って向こうから攻め込ませる手もあるが……)
ただ四大幹部直々に攻められて結界を破られでもしたらシャレにならない被害が出る。
そんなことは……別に構わないはずなのだ。
(前の俺なら色々理屈をつけて結界に引きこもっていることを選んだはずなんだけどなぁ……)
「ドウマ帝国内にもその手の資料は残ってませんでしたからねぇ……代わりに魔術兵器に関しては幾つか再現できましたけど……」
「道理で船に見慣れない筒や……巨大な鎧が乗ってるわけだ……」
「マジカルカノンちゃんにマジカルタレットちゃんと、マジカルアーマーちゃんですよぉ」
船の縁に複数配置されたカノンとタレットとやらからは、白い線が伸びていて甲板の中央にある謎の台座に繋がっている。
(多分ここに魔力を流して制御するんだろうけど……どんな武装だよ?)
まあ実際に使えばわかるだろうからそれはいい。
問題はマジカルアーマーとかいう縦横高さそれぞれ3m程もある巨大な鎧の方だ。
人間が一人丸ごと内部に乗り込んで動かす、一種の乗り物のような作りをしている。
前に空を飛んで追いかけてきた兵器なのだろうが、乗り込んだ人間の魔力で動かすものだろう。
それが四機も積まれている。
俺たちのメンバーで魔力を扱えるのはテキナさんとカノちゃんだけだ。
しかもカノちゃんはこんな鎧を着ていては大盗賊の能力を生かせなくなる。
つまり実質テキナさん専用だが、彼女にしたって身軽さを失い聖剣を扱えなくなる以上こんなもの使いたがるとは思えない。
(何を考えて……と言いたいけど、シヨちゃんのことだから考えがあるんだろうなぁ……)
「一応どんな武装なのか聞いておいていいかな?」
「はい、カノンちゃんは大きい規模の攻撃で……タレットちゃんは小さい範囲への攻撃用ですぅ」
「なるほどねぇ……それでマジカルアーマーは?」
「見た目通り中に入って操縦する作りですぅ……本来は中の人の魔力で動かすんですけどぉ、ドウマ帝国が開発した特殊な魔力タンクを利用することで誰でも動かせるんですよぉ」
そう言って鎧の一部を押し込むと、何やら半透明のカプセルが飛び出てきた。
「これがタンクになっていて魔力を貯えておけるんですぅ……それを動力源にすることで誰でも動かせちゃうんですよぉ」
(なるほど……外付けで魔力を乗せておけるわけだ……)
「どれぐらい持つんだい?」
「これ一本満タンで丸一日戦闘を続けても平気みたいですぅ……それが二本積んでありますし、いざとなればテキナさんに補充してもらえればいくらでも稼働できますよぉ」
「それは……凄いな……」
「おまけにこの四機だけテプレ様に無理言って結界機能も付属してもらいましたから大抵の攻撃なら弾いちゃいますよぉ」
(それは……最高じゃないかっ!?)
少し興奮してしまう。
安全に結界に包まれたまま移動できるのだ。
ようやくパーティ分が積まれていることに納得した。
「だけど上手く操縦できるかなぁ?」
「そんなに難しくはないですけどねぇ……確かに事前に練習する時間をとってもよかったかもしれませんねぇ……」
どうやらシヨちゃんは操縦したことがあるようだ。
「まあ最悪は俺とシヨちゃんだけ着ておけばいいよ、カノちゃんにはトラッパー様の装備があるしテキナさんには聖剣があるからね」
「そうですねぇ……じゃあサーボ先生にマニュアル渡しておきますねぇ」
そう言ってシヨちゃんは部屋へ戻ると、少しして綴じた紙の束を持ってきた。
「これですよぉ、わからないことがあったら言ってくださいねぇ……」
「分かったよ……じゃあ俺は部屋に戻って読んでるから何かあったら呼んでくれ」
みんなにそう言って俺は早速自室に引きこもった。
そしてベッドに横になると書類に目を通し始めた。
あの鎧を上手く操縦できるようになれば俺の生存率も上がるはずだ。
だからサボることもなく真面目に取り組んでいるのだ。
(そうに決まってる……別に皆の役に立てるようにとかじゃない……はずだ……)
自分に言い聞かせるも、どうしてもそうだと思い込めない。
いつの間に俺はこんなにも弱くなったのだろうか。
(多分、あの試練がきっかけだ……あれで自分の本心を知ってから俺はおかしくなった……)
イーアス様の試練で俺は勇者にあこがれていた自分を知ってしまった。
周りを見下して嗤えていたのはただの虚勢でしかないと悟ってしまった。
自分を慕う弟子たちを……大切に思っているとわかってしまった。
(そんな自分を……俺自身が受け入れたいんだ……)
屑で無能な俺であることを止めて、誠実に現実と向き合って生きていきたい。
皮肉にも勘違いを積み上げて築き上げた俺の印象が、どうしようもなく理想の自分に近すぎたのだ。
だからこそ俺は、だんだん耐えられなくなってきている。
自分へと向けられる人々の視線に……ずっと求めていたそれが誤解を元に向けられている事実に。
(きついなぁ……けど、今更どうしようもないんだよ……)
全てを正すには、俺の歪みを戻すには……時間が経ちすぎている。
気づくのが遅すぎたのだ。
(ならせめて……最後まで屑で無能な俺を貫き通すべきだよなぁ……)
これまで騙してきたやつらのためにも……魔王退治を終えるまではこの愚かな自分を演じ切るのが最低限の筋というものだ。
俺ははっきりとため息をつきながら、改めて目の前のマニュアルと格闘することにした。
あくまでも俺自身の為だけにだ。
そうでないといけない。
(左のレバーが移動用で、右のレバーが方向転換……正面のボタンが各種魔法攻撃と飛行モーション……)
頭の中に操縦法を叩き込みながらシミュレーションしてみるが、どうにも上手く想像できない。
それでも何とか二日ほどかけてマニュアル自体の暗記は終わった。
(実際に動かしてみるのもありだな……この甲板の広さなら多少動いても平気だろうし……)
流石にぶつけ本番で実戦に赴くのも恐ろしい。
俺は一度甲板に戻って実際に鎧を装着してみることにした。
「あ、サーボ先生……どうしたの?」
「ちょっとマジカルアーマーを実際に操作してみようと思ってね、一応カノちゃんにマニュアル渡しておくね」
目ざとく俺に気づいて近づいてくるカノちゃんにマニュアルを手渡し、鎧の置いてある場所へと向かった。
甲板の一部に収納庫が作られていて、そこに収められている一体に近づいた。
「もうマニュアル覚えちゃったんだ……流石サーボ先生」
「あはは、まあ実際に操縦してみて必要になったらまた借りるけど……カノちゃんも覚えておくに越したことはないと思うよ」
「そうだよね……後数日はかかるだろうし暇なとき読んでみよーっと」
「そうするといいよ……さて、早速乗ってみますかねぇ」
頭の部分を持ち上げるとちょうど内部に一人が座れる搭乗スペースがある。
何とか乗り込んでレバーと各種ボタンの位置を確認してから、電源を入れる。
虫の羽音に似てるようで異なる音がなったと思うと頭部が閉じて内部は完全な暗闇となった。
「おおっ!?」
すぐに光源が発生して内部はまるで昼間のように明るくなった。
またどのような仕掛けなのか正面に外の光景が映し出される。
『サーボ先生、どんな感じ?』
カノちゃんの声が僅かに間延びこそしているがはっきりと聞きとれる
「うーん、居心地は悪くないねぇ」
閉じ込められている窮屈感こそあるが気温や湿度などは調整されているようで、熱がこもっていたり冷たかったりせずに中々快適だ。
『へぇー、それは凄いね……会話もできるみたいだし、本当に便利そうだね』
(本当に大したもんだなこれは……)
「早速動かしてみたいからちょっと拘束を外してくれるかな?」
『はーい』
カノちゃんが縛り付けてあった鎖を外してくれた。
早速歩かせてみる。
左のレバーを倒すとその押し込みに比例して歩き出す。
右のレバーを動かすとその方向に視線が移動し、その状態で歩くことで方向転換ができるようだ。
(中々これは角度の調整が……まあ慣れれば問題なく操作できそうだな……)
甲板の上を船員の邪魔にならないように往復する。
『だんだん慣れてきたみたいだねぇ……どんどん足が速くなってるよ』
(どうやら歩くのは問題なさそうだ……つぎは掴みだな……)
腕の操作法を思い出しながら、レバーについているボタンを操作する。
すると身体の動きが止まり、レバーは腕の操縦のための機関となる。
(歩きながら腕を動かすことは出来ないか……となると戦闘中は基本的に魔法攻撃になるのか?)
「ちょっと海に向かって魔法攻撃してみるから、誰もいないか確認してくれないかな?」
『はーい……こっちなら平気そうだよ~』
『カノ、それにサーボ先生……ですよね……どうしました?』
「ちょっと鎧の性能チェックをね……テキナさんも見ていてくれないかな?」
ちょうどペットに餌をやっていたテキナさんの隣に立ち、攻撃ボタンを押してみる。
すると正面を光が薙ぎ払い、ぶつかった海面に小規模の爆発を頻発させる。
(こ、これって……テキナさんがたまに使ってるあの魔法かっ!?)
『破邪光線ですね……下手な勇者コンテスト入賞者が使うよりよほど威力が高いですよ』
確かにテキナさんの見立て通り、恐らくカーマやセーヌの仲間が使うものと同レベルだろう。
(こ、これを一般人が使えるのは強すぎる……ドウマ帝国の科学力ヤベェ……)
もしもこれが攻めてきた場合、最低でもカーマやセーヌのレベルでないと倒せない可能性が高い。
逆に言えばこの鎧を来た一軍と単独で渡り合っていたアイさんやテキナさんのすさまじさがよくわかる。
他の攻撃のボタンも試してみたが、どれも同じぐらいの威力があった。
今は海を狙っているがマニュアルが正しければ自動で近くにいる敵に照準を合わせてくれるはずだ。
「これは……凄すぎるなぁ……」
『そうですよねぇ……一応バンニ国から鉱石を持ってこさせて大量生産させてますけど配備先は考えたほうが良さそうですねぇ』
(何に使うつもりなんだシヨちゃん……ま、まさか勇者の里を物理的に陥落させるつもりじゃっ!?)
恐ろしすぎる、関わらないようにしよう。
(しかし……装備の力とはいえ俺が魔法を使える日が来るなんてなぁ……)
魔力が無いことを認められず、喉が枯れて血を吐くまで呪文を唱え続けた在りし日を思い返してしまう。
何やら複雑な胸中だ……ふわふわしてどこか夢見心地でもある。
「……まあとにかく残る機能は飛行機能だね……ちょっとだけ試してみようかな……」
『飛行機能は結構扱いがデリケートだから気を付けてくださいねぇ』
「わかったけど、それならそれで今のうちに練習しとかないとね……」
少しワクワクしながら皆から距離をとり、飛行機能を起動するボタンに手を伸ばした。
頭部から何やら異音が聞こえたかと思うと羽が回転する振動が伝わってきた。
恐らく頭の上に空を飛ぶための羽が生えたのだろう。
どんどん音が激しくなり回転速度が上がっていくのが分かった。
「お、おおっ!?」
『サーボ先生、浮いてるよっ!!』
視界がゆっくりと上にずれていく。
そして俺は、空を飛んでいた。
顔を上げれば水平線の果てまで見通せる。
下を見れば船の上でみんながこちらを仰いでいる。
上を見るとどんどん雲や霧が近づいてくる。
(あの霧が問題の奴かぁ……)
入るのは危険なので少しずつ高度を落としていく。
そこで船がどんどん先に進んでいることに気が付いた。
(そりゃあ俺も動かないと置いて行かれるわなぁ……)
レバーを前に入れると背面から異音が聞こえて、ゆっくりと前に進み始めた。
恐らく背中の排出口から魔法の風でも吹き出して加速しているのだろう。
(はは……これ……面白いわっ!!)
楽しくなってきた。
ワイバーンでも空は飛んでいたが、操縦はテキナさんだよりだった。
そうではなく自分の意志で自由に飛べるということが、何故か妙に痛快だった。
レバーを倒して速度を調整し、時に船を抜かしたり抜かされたりして移動を楽しむ。
『サーボ先生っ!! そろそろ降りてもいいんじゃないですかぁっ!!』
「いやぁ、もう少し操縦に慣れたいんだっ!!」
シヨちゃんに叫び返しながら、俺は空の旅を楽しんだ。
(……そういえば急加速用のボタンがあったな)
まだ押していないボタンを思い出して、せっかくだし試してみることにした。
「うおっ!?」
途端にマジカルアーマーはすさまじい速度で加速し始めた。
(こ、この速度は……アイさんのオーラ突きっ!?)
『さ、サーボ先生ソレは駄目ぇえええええっ!!』
シヨちゃんの叫び声がみるみる遠ざかっていく。
(や、ヤバいっ!? と、止まらないっ!?)
途中で止める術も無く、俺は海上をひたすら一直線に進んでいった。
ようやくアーマーが動きを止めたときには、俺の視界から船は消えた後だった。
(や、やっちまったぁあああっ!?)
前後左右どちらを見ても同じ光景が広がるばかりだ。
多分こっちだろうと後ろを向いて移動してみるが、一向に船は見えてこない。
かといって高度を上げ過ぎると霧に囚われてどうしようもなくなってしまう。
(お、落ち着け……この状態で俺はどうするべきだ……)
一人で遭難してしまった事実に困惑しながらなんとか冷静に判断を下そうとする。
(一番困るのはこのままどこにもたどり着けないまま魔力を使い切って海に落ちることだ……)
逆に言えばどこかの大陸にさえついてしまえばとりあえずは助かる。
(……ならいっその事、霧に突っ込むか)
方向感覚が惑わされて大陸に引き戻されるのが霧の性質だ。
ならワザとそれに引っかかればどこかしらの大陸には行けるはずだ。
俺はあえて霧の中に突入すると、レバーを思いっきり前に倒した。
視界が効かないほどの濃い霧の中をどんどんと進んでいく。
(落ち着け俺……大丈夫だ落ち着け……)
ともすれば焦ってしまいそうになる自分に言い聞かせながら、ひたすらかわり映えのしない外部の状況に目を凝らし続ける。
そしてどれだけの時間がたっただろうか。
不意に霧が晴れて、目の前に大陸が広がったではないか。
(よし、何とかなったっ!!)
後は降り立って顔見知りを探すだけだ。
そう思い着陸しようと近づいて、見覚えのない景色が広がっていることに気が付いた。
何だかんだで俺はゼルデン大陸もディキュウ大陸も上空を飛んだことがある。
なのに目の前に見えるのはどちらの記憶にもない光景だった。
人の手が入った様子が殆ど見られない森が海岸付近まで続いている。
(ここって……ツエフ大陸かっ!?)
まさか目的地に着いてしまうとは思わなかった。
しかしそれならそれで問題ない。
適当に時間を潰せばあいつらもここに来るはずだからだ。
そう思い大陸へ近づいた俺は、突然矢の雨に襲われた。
「うおっ!?」
どうやら森の中から無数に矢を打ち込まれているらしい。
その全てがマジカルアーマーの結界に阻まれて表面にぶつかることもなく弾かれていく。
(結界が発動してるってことは人間じゃない……悪意ある魔物か異種族の攻撃かっ!?)
降り注ぐ矢の数からして数百人単位で打ち込まれている。
(こ、こんな危険な場所近づきたくもねぇ……けどいつまで飛んでいられるかわからねぇ……)
考えに考えた結果、結局俺は着地することにした。
海に溺れて死ぬよりはましだと思ったのだ。
(何とか魔力消費を抑えてテキナさんたちが到着するまで持ち堪えねぇとなぁ……はぁ……調子乗った俺の馬鹿ぁ……)
俺は自らの浅はかさを悔いながらツエフ大陸へと乗り込むのだった。
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