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お前……馬鹿だろ

「つきました」


「あ、あはは……す、すごいなぁアイさんはぁ……あっという間だったねぇ……はぁぁ……」


「全く、相変わらず乗り心地が悪いっ!!」


「でも風が気持ちよかったぁ……またやりたいなぁ」


 文字通りあっという間に王都ハラルへと戻ってきた俺たち。


(ああ苦しかったぁ……)


 余りの風圧に呼吸ができなかった。


 もう二度としたくない。


(帰りは何か別の手段を見つけたいなぁ……)


「さて、サーボ先生どうしますか?」


「このパーティのリーダーはこのフウリ様だっ!! フウリ様に聞くがよいっ!!」


「ではフウリ様、何かお考えはありますか?」


「考えも何も父上の元に行き聖剣で照らし出せばそれで終わりだっ!! 行くぞっ!!」


 言い切ってさっさと歩きだしてしまうフウリ様。


「はぁ……困った人だねぇ……」


「自分の父上を信じたい気持ちはわかるけどね……悪いけどカノちゃん、いつも通り透明化してついてきて」


「はぁい」


 カノちゃんが透明化して、俺の服の一部を握る。


「そしてアイさん、この聖剣を使ってください」


「それはサーボ様……先生にこそふさわしいです」


「……俺は生まれつき魔力がないんだ、残念だけどこの剣を使いこなすことはできないんだよ」


「……ごめんなさい、わかりました」


 何故か謝って聖剣を受け取ったアイさん。


(顔に出てたかな……やっぱり俺は振り切れてないのかもな、劣等感を……)


 違う理由ながらもやはりコンプレックスを抱いていたアイさんはそれを感じ取って謝罪したのだろう。


(そうさ、俺は多分……本当は誰よりも勇者に……)


「何をしておるっ!! さっさと行くぞっ!!」


「すみません、今行きます……」


「はい」


 思考を打ち切ってフウリ様の後を追う。


 俺にとって大事なのは今だけだ。


 そう決めつけて生きてきた……今更変えるには遅すぎた。


(考えるべきはこれからどうするかだ……仮に王様に聖剣の輝きを当てれたとして……俺はどうする?)


 考えられるパターンは大別して二つ、魔物の本性を現すか人間のままかだ。


 そして人間の場合は魔王軍と通じているか俺の勘違いのどちらかということになる。


(魔物の本性を暴けた場合はアイさんに退治してもらうか逃げるかだ、俺の勘違いだった場合は考える必要すらない……)


 問題なのは人間のままで魔王軍と通じている場合だ。


 この場合は魔王軍との関連を調べ上げて突き付けなければ戦うことすらできない。


(しかし証拠といってもなぁ……ドウマ帝国の王様みたいに日記でも残していてくれれば話は早いけど……)


 そんな俺たちにとって都合のいいものがあるなどとは考えないほうが良さそうだ。


 万が一の時はカノちゃんに探してもらうとして、もう少し現実的にありえそうな証拠はないだろうか。


(……駄目だ、まるで思い浮かばん)


 困ったものだ。


(まあ、どちらにしてもなる様にしかならんか……)


 こうなった以上いつも通り行き当たりばったりでいくしかない。


 俺はフウリ様の後を追いかけることにした。


「ふ、フウリ様……王様の命令によりここを通すわけには……」


「黙れっ!! いいから通せいっ!!」


 門番と問答しているフウリ様に追いつく。


「すみません……少し大事な要件がありますので通してはいただけないでしょうか?」


「あ、あなたはっ!? 勇者サーボっ!?」


「ええ、どうし……っ!?」


 俺を見た門番は驚愕に顔を歪ませると首からぶら下げていた笛を吹いた。


 途端に集まってくる兵士達もまた俺を見て驚きながらも、剣を抜いてこちらへと突き付けてくる。


「す、すみません……王様の命令によりあなた様を拘束させていただきます……」


(ちぃ……わざわざ最速で戻ったのに……ドウマ帝国の親玉を退治したことに気づかれたか……)


「な、何をしたのだサーボっ!?」


「いいえ、特に何も……ちなみにどのような罪状であるかは聞いておりますか?」


「ゆ、勇者サーボはその称号を元に人心を惑わして回る詐欺師……この領内に混乱をもたらそうとしていると……」


(うわぁい……ある意味物凄く的確な評価だなぁ……)


 どうして味方ではなく敵に理解されるのだろうか。


「やはりお主は詐欺師であったかっ!! 困った男だサーボめっ!! だが安心せよ皆の者、こやつは今はこのフウリ様の僕なのだっ!!」


「……命令ですので行動を共にしている方も一緒に拘束させていただきます、例外はないそうですのでフウリ様も……」


「なっ!?」


「……たとえフウリ様でも抵抗するようならその場で処刑するようにとのことです……どうか従ってくださいませ」


 そういって抜き身の刃を本当にフウリ様にまで突き付けてくる。


(やっぱりなぁ……こいつらにも魔物は潜んでんじゃねぇか?)


「……アイさん、一度聖剣で彼らを照らしてみてくれないかな?」


「はい」


 そう言ってアイさんは剣を掲げると魔力を込めた。


「うわぁっ!?」


「ななぁっ!?」


「うおっ!?」


 途端に世界中を閃光が照らしあげた。


 魔力量の差なのか、フウリ様が使った時より遥かに輝かしい。


 予想外の展開だったがお陰でこの国中が光に包み込まれて、誰一人余すところなく聖剣の効果を受けた。


 しかし兵士たちの中には魔物は混じっていなかった。


「な、何が……っ!?」


「な、なんだこれは……」


「お、お城が……っ!?」


(おいおい……マジかよ……)


 代わりに王宮が……不気味な形状に変質していた。


 壁には怪しげな蔦が絡み、庭には牙の生えた植物がガチガチと歯を鳴らしている。


 王宮まで続いていた道は通れそうだが、敷き詰められた石畳が黒ずんでいてボロボロと崩れている。


(何でこんなことになってんだ……まさか封印されてた聖剣を建物ごと封鎖しようとでもしてたのか?)


 まあこれならば余計なことを考える必要はなさそうだ。


 後はアイさんをけしかけて勝てればよし、勝てなければ逃げることにしよう。


「こ、これは一体……っ!?」


「聖剣の輝きで魔物が見せていた幻想が払われたのでしょうね……この調子では恐らく王宮内は……」


「ち、父上ぇえっ!?」


 あっけにとられていたフウリ様が弾かれたように駆け出した。


「俺たちも後を追いましょう……兵士の皆さまもついてきてくださいね」


「あ、ああ……」


 流石にこんなものを見せつけられた今、王様の命令に従おうとする者はいなかった。


 俺とアイさんで先陣を切りながら全員でフウリ様を追いかけて王宮へと侵入した。


 内部もまた怪しげな蔦があちこちに絡みつき、あちこちの壁や円柱がボロボロになっている。


(いつ崩れ落ちてもおかしくねぇなこれ……迂闊に飛び込んだ俺が愚かだったな……)


 やはりどこか判断力が変になっている。


 昔の俺ならこんな敵の本拠地のような場所に自ら乗り込んだりはしなかった。


 反射的にフウリ様を追いかけてしまった俺は、どこかおかしいのかもしれない。


(いや……もう済んだことは考えるなっ!!)


「フウリ様、一人で進むのは危険ですっ!!」


 一直線に王座の間へと向かっていたフウリ様をぎりぎりで押しとどめる。


(子供の足だから間に合ったぜ……本当に勘弁してくれ……)


「離せっ!! 父上の様子を見に行かねばっ!!」


「お気持ちはわかりますがこのような場所で単独行動はいけませんよ」


「うるさいっ!! フウリ様を止めるなっ!!」


「止めますとも……フウリ様は俺たちのリーダーなのでしょう?」


「っ!?」


(勝手に突っ込まれて人質にでも取られたら迷惑なんだよっ!!)


 俺はフウリ様を押しとどめるべく言葉を続ける。


「共に参りましょう……そう命じてくださらないと俺たちは動けませんよ」


「さ、サーボ……お主本当にフウリ……私をリーダーだと思ってくれているのか?」


「当然ですよ」


 言いながら軽く周囲を確認すると兵士たちが俺たちの盾になる様に囲み、頷いている。


「サーボ様のおっしゃる通りです……王様がどうなっているかわからない以上はあなた様の指示がなければ……」


「そうか……わ、わかったぞ……では皆で参ろうっ!!」


 どうやらフウリ様も納得してくれたようで、ようやく足並みを揃えることができた。


(このノリなら兵士たちは職務を全うして……立派に俺たちの壁になってくれそうだぜ……)


 三十人ほどいる兵士たちを使い捨ての盾として換算しながら、俺は皆と共に先へ進んだ。


 兵士の一人が開いた扉を覗き込み、玉座に誰かが座っているのを見かけた。


 明かりが消えて窓も蔦でおおわれていて、薄暗い空間ではそれが誰なのか見分けがつかない。


「父う……っ」


 駆け出そうとしたフウリ様の肩に手をかけて抑え込みながら、このままゆっくりと姿が見える距離まで近づいていく。


「まさか勇者の使う聖剣がこれほどの効力を放つとはなぁ……相変わらず我らの予想を軽く超えて来よる……敵ながら見事だ勇者サーボ、そして勇者『あ』よ……歓迎するぞ」


 そして玉座に座り俺たちを出迎えたのは……一匹の魔物であった。


 外見はかろうじて人型と表現できなくもない。


 ただ背中からは蝶のような羽と蝙蝠のような羽が互い違いに生えている。


 さらに本来髪の毛がある部分には無数の瞳が開かれている。


 顔の残りは下半分は凶悪な牙と舌が覗く大口が開いている。


 首から下はさらに異様だ。


 腕は無数に枝分かれ、肉食獣の分厚い肉と爪が生えそろっている。


 お腹には大きな口が開き、こちらからも舌が垂れ下がっている。


 足は俺の身長ぐらいの長さを誇る鳥類のようなしなやかな脚部を組んで椅子に座っている。


(化け物だな……前のマンティコアが可愛く見えるレベルのなぁ……)


「どうも初めまして……ご存じかと思いますが俺がサーボです」


「アイです」


「はははっ!! この我を見てもその態度か、本当に大した男だよお前は……最強最大の勇者という称号も伊達ではないなぁ……」


 嘲り混じりだが、どこか嬉しそうに笑う魔物。


(うわぁ魔王軍にまで勘違いされてるぅ……まあそれはともかく、この余裕ぶった態度……大物すぎるなぁ……)


 しかし俺はどこか落ち着いている。


 前のキマイラすら上回るであろう威圧感を感じていながらもだ。


「そ、そんなことより父上はどうしたっ!! お前なんかがその場所に座るなっ!!」


「はは……お前の父親などとっくに始末したよ、ここはもはや我の居場所だ」


「なぁ……っ!?」


 顔面蒼白になって崩れ落ちるフウリ様。


「……いつの間に入れ替わっておられたのですか?」


「それぐらい貴様ならとっくに気づいているのではないかサーボよ?」


「俺のような無能にわかるわけがないじゃないですか……目的は聖剣ですか?」


「ふん、もう貴様らの手に入ってしまった以上はもうごまかしても仕方あるまい……その通りだ」


 やはり聖剣が目的だったようだ。


「なるほど……そしてこの王宮ごと呪いでもかけて聖剣を抑え込もうとしたわけですね?」


「はははは、何だ貴様ですら気付いていなかったのか……いやそれともこれも我から情報を引き出す作戦かな?」


(違うのか……くそ、今までの奴と違って中々ぼろを出しやがらねぇ……)


 どうやらこの王宮を変質させたことと聖剣は関係ないようだ。


 しかし聖剣が目的であるとの言質は取れている。


(となると聖剣の封印を解いたのは……そもそも魔物が聖剣の封印を解けるのか?)


 悪しき者に利用されないためにだろうが、聖剣は封印されていた。


 それを解けるのはセキュリティを考えれば恐らく王族だけのはずだ。


(ひょっとして、その封印が掛かったままでは聖剣を処分できないからワザと動きを察知させて王様に封印を解かせたのかっ!?)


 後はドウマ帝国に誘導して聖剣ごと閉じ込めればいい。 


 だが偶然にもフウリ様が剣を奪って領内で暴れだしたがために上手く行かなかったのだろう。


(そうしているうちに俺たちも来て……案外紙一重だったかもなぁ……)


 全て推測だがこんなところだろう。


(どうせ聞いても答えは返ってこないだろうし……大体その経緯はそこまで重要じゃな……っ!?)


「おのれ……おのれぇええええっ!!」


「フウリ様っ!?」


 突然弾かれたように起き上がったフウリ様が魔物に向かって駆け出した。


 よく見ればその手には兵士の腰に差してあった剣が握られている。


「父上の仇ぃいいいっ!!」


「やれやれ……愚かな……」


 迫るフウリ様を意にも介さず、勢いよく突き立てられた剣を身体で受け止める魔物。


 走り寄る勢いごとぶつかったというのに、刃はその皮膚の表面に傷つけることすらできなかった。


「下がれ、下郎」


「あ……っ!?」


「フウリ様っ!?」


 無造作に魔物の手が払われ、それだけでその場に暴風が生まれフウリ様は壁に叩きつけられて気絶した。


(攻撃が当たってもいないのにこれか……強いな……)


「さて、何の話だったかな……確か我が魔力の影響を受けたこの王宮についてだったか……」


(魔力の影響を受けてこうなった……意図せずにこうなったっていうのかよ……)


 今まで見てきた魔物にはそのような兆候はなかった。


 つまりこいつはそいつらとは比べ物にならない敵だということだ。


「……それよりも、せめてお名前ぐらいは教えて頂けないでしょうか?」


「教えてもいいが……止めておこう、お前ならそれでもペテンにかけてきそうだからなぁ」


「キメラント様のことですか……やはり敗北について情報を共有なされているのですねぇ」


「ああ、魔力で作られた魔物は死ぬと制作者の元に……はは、またやってしまった、我ながら愚かというか油断も隙もないというか……」


(なるほどね、キマイラが巨大化したのもそういう理屈なのかぁ……)


 魔力で作られた魔物が死ぬと制作者の元に戻って情報が伝わるということなのだろう。


 そして魔王軍で二番目の親玉である四大幹部の元にはすべての情報が集まるというわけだ。


 しかもキマイラの例を見るに、部下を作るために分けた魔力も戻り力も増してしまうようだ。


(逆に言えば部下をどんどん作らせれば、親玉はパワーダウンしていくわけかぁ……)


 有益な情報だった……ここから生きて帰れればだが。


「しかし本当に冷静だなぁサーボよ……我が姿と成した凶行を知りながら恐れも怒りもしないとはなぁ……そしてそこの勇者アイとか言ったか……そいつまで味方に引き入れてしまうとはなぁ……」


「何でしたらあなた様もこちらにつきませんか……歓迎しますよチーダイ様?」

 

 あえて俺の知り得る限り一番上の奴の名前を告げてやる。


(キメラントの上司はチーダイ様だった……そのやられ方を知っているということはこいつもその派閥の可能性は十分ある……) 


 これに反応して僅かにでも調子を崩してくれればもう少し情報を引き出せるかもしれない。

 

 そう思っての当てずっぽうな発言だったが、何故か魔物は目を見開き……高笑いを始めた。


「ふ……ふはははははっ!! ああ、流石だよ勇者サーボっ!! やはり見抜かれていたかっ!! 我が正体までもっ!! そしてそのうえでその軽口よ……笑わせてくれるなぁ……ふははははははっ!!」


(マジかよ……こいつ直々に出張ってきやがったっ!?)


 当たったことも驚きだが、それ以上に魔王軍の最高幹部がいることに衝撃を受ける。


「正解でしたか……ではご褒美に一つだけ聞きたいことがあるのですけれど?」


「はははっ!! どうやら知略ではお前には敵わんようだな……どうせ黙っていてもバレるであろうし、答えてやろうではないか」


「ありがたい……魔王様の居所はどこですか?」


 何だかんだで未だに判明していない魔王の居場所。


 面倒だから放置してきたが……いい加減目を向ける時だ。


「あぁ……なるほどなぁ……既に我を倒した気になっているわけかぁ……舐められたものだなぁ……」


「違いますよ、頭を下げて仲間に入れてくださいって言いに行きたいんですよ」


「よく言うわ……ふん、魔王様の居場所は我ら四天王の魔力によって覆い隠されている……その全てを倒せば自然と判明するだろうよ……倒せればだがなぁ……」


(本当になぁ……倒せんのかこいつ?)


 間違いなくキマイラを凌ぐ実力者、それに対してこちらはアイさんと聖剣しか戦力がない。


 俺や兵士は論外だし、聖剣の威力を俺は一度も見ていない。


 だから正直どちらが勝つかは判断が難しい。


(テキナさんも連れてくるべきだったなぁ……はぁ……)


「さてこれぐらいにしようか……我が部下の策略を悉く見抜いたサーボとやらが気になって会話に付き合ってみたが……やはり頭では敵わんらしいからなぁ……力づくで潰させてもらうぞっ!!」


 チーダイ様がついに玉座から立ち上がり、魔力を開放する。


「うおっ!?」


「ひぃっ!?」


「なぁっ!?」


 それだけで室内の空気が圧力に押されてすさまじい暴風となって吹き荒れる。


 チーダイ様の周りに目に見える形で魔力がまとわりつき、炎のように体を包んでいる。


 兵士たちが悲鳴を上げるのも無理がない話だ。


(これは……真っ向からぶつかったらヤバそうだなぁ……)


 ならばと俺はある覚悟を決めて口を開いた。


「アイさん、あの魔物をお願いします」


「はい」


 アイさんが聖剣を構えて進み出る。


「兵士の皆さまはフウリ様をお願いします」


「え、あ……いつの間にっ!?」


 壁にもたれていたフウリ様だが気が付けば俺の隣に横たわっている。


 隙を見てカノちゃんが連れてきたのだろう。


 兵士たちが慌ててフウリ様の元へ駆け寄るのを見ながら、俺はそっと後ろに下がり群れの中から抜け出した。


 そしてアイさんにアイコンタクトして頷いて見せると、改めてチーダイ様を睨みつけた。


「では……後はお願いしまーーーーーすっ!!」


 真面目ぶった顔で言い放つと同時に、俺は一目散にその場を走り去った。


「「「「「はっ?」」」」」


「じゃあな馬鹿どもっ!! 俺は自由だぁあああっ!!」


 間抜けな声を洩らす全員を置いて俺は駆け出した。


(……さて、どうでる?)


「あ……な、に、逃がすものかぁあああっ!!」


 まさかここで俺が何もかも放りだして逃げ出すのは予想外だったようだ。


 一瞬あっけにとられていたチーダイ様は、反射的に俺を追いかけようとした。


「どけ……っ!?」


 だからかつてのキマイラのように、途中にいる人々を無造作に吹き飛ばそうとして……明確な隙を曝け出した。


十文字斬(グランドクロス)っ!!」


 アイさんという規格外の勇者は当然その隙を逃すことはない。


 すれ違いざまに聖剣にスキルを乗せた強烈な一撃を放ち……あっさりとチーダイ様の身体を縦横に切り裂いた。


 スキルの効果か聖剣の性能故か、切り口から浄化の炎が広がりチーダイ様の身体は修復されることなく消滅していく。


「ば、ばか……な……」


「いや、ただの馬鹿だよお前」


 力無く呟いたチーダイ様の残骸の前に立ち、思いっきり見下して言い放つ。


(わざわざ大物ぶって……あんなに俺に執着してますってアピールしなきゃよかったのによぉ……)


 真っ向からぶつかったらどうなるかわからないなら、搦手で隙を誘ってやればいいだけの話だ。


 それには敵が執着している俺が囮になるのが手っ取り早い。


(まあ、もしも隙をさらさずにアイさんと戦闘になったらそのまま逃げる気だったけどなぁ……)


「ぐ……ぐぅ……」


 悔しそうに俺を睨みつけながら、チーダイ様はあっさりと消失した。


(何も考えず襲い掛かってくれば、俺は殺せたかもしれねぇのになぁ……)


 そう、下手に会話をしたりして知的な面を覗かせたからこそ俺はどこか落ち着いていたのだ。


 口先だけが全ての俺にとって何も聞かず暴れまわる存在のほうがよっぽど恐ろしい。


 そういう意味では今までで一番やり易い相手でもあった。


「何とかなったね……ありがとうアイさん、俺の考えをわかってくれて助かったよ」


 もしもアイさんが俺の行動に気を取られて攻撃するタイミングを逃していたら大変だった。


 俺を慕っているアイさんならやってくれると信じていたが、それでも賭けであったことには変わりない。


「はい……サーボ先生を信じていましたから」


「そうだよねぇ……サーボ先生が何もせずに逃げるわけないもんねぇ」


 姿を現したカノちゃんと一緒に俺に笑顔を向ける二人。


 その好意が……今更ながら重く感じるが同時にありがたかった。


「さ、サーボ様っ!? 王宮がっ!?」


 王宮が音を立てて揺れ始めた。


 周りを見回せば怪しい植物が枯れ果てていくのがわかる。


(あの蔦が壁や円柱を支えてたのかっ!?)


「急いで外に出ようっ!!」


「はいっ!!」


 全員で慌てて外へ飛び出して王宮を振り返ると、ひび割れが広がりゆっくりと崩れ落ちていくところだった。


「……父上ぇ」


 気絶しているフウリ様が虚しそうに寝言を言った。


(やれやれ……とりあえずは片付いたけど……どうしたもんかなぁ……)


 王宮がつぶれた衝撃に気付いた王都ハラルの住人が近づいてくるのを見ながら、俺はどう説明するべきか頭を悩ませるのであった。

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