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厄介者とのお別れ

「さ、サーボぉ……怒ってなぁい?」


「あはは……勇者サーボは怒らないよ、セーレ様は心配性だねぇ」


「さ、サーボ様……本当に怒っていないのですよね?」

 

「やだなぁマーメイ様までぇ……勇者サーボは人々のミスに苛立ったりは致しませんよ」


 戻ってきたセーレ様の背中で俺は菩薩のような笑顔を浮かべて猫なで声を出してやる。


 俺は悟った。


 もうこいつらには言うだけ無駄だ。

 

 何か言われたら表面上だけの言葉を返し続けるだけでいい。


「で、でもサーボさっきもセーレのせいで溺れて……」


「サーボ様は私のせいで暗闇で死にかけて……」


「逆ですよ、お二人が助けてくれたから今があるのです……それに勇者サーボは無敵ですから……」


 ニコニコと笑顔を絶やさない俺。


(何も考えるな考えるな考えるな考えるな考えるなかんがえるなかんがえるなかんがえるなかんがえるな……)


 思考を絶やすことで何とかストレスを抑え込んでいる。


「そ、そうか……ならいいんだ……」


「え、ええ……」


「はい、勇者サーボですから」


 勇者ネームごり押しだ、勇者の称号は会話にも使えて便利だ。


「と、ところで……中々見つかりませんね」


「そーだなぁ、大分進んだのにコアって奴はどこに隠れてんだ?」


「恐らくは身体の中央でしょうねぇ、この身体の核となるコアなだけにかなりの大きさだろうし見逃すことはないと勇者サーボは考えております」


「うーん、じゃあもっともっと進もーーっ!!」


「い、急いじゃ駄目よセーレちゃん……ほら前っ!!」


「うわぁっ!? 壁が歪んで向かってきたぞぉっ!?」


「恐らく蠕動運動とい……あうぅ……がぼぐぼぉ……」


 天井が弛んで顔のあたりまででっぱり、それを移動を止めずに首の動きで避けて躱したセーレ様。


 当然背中に乗っている俺に直撃して落下して胃液の海に落ちた。


 だけどもう焦ることはない。


 だってこれで五回目だもの、流石に慣れた。


「さ、サーボ様っ!? だ、大丈夫ですかっ!?」


「ああ、勇者サーボだからね」


 マーメイ様が即座に救い上げてくれる。


 お礼を言っておいた、命の恩人だからね。


「ご、ごめんなサーボ……怒ってなぁい?」


「あはは……勇者サーボは怒らないよ、セーレ様は心配性だねぇ」


「さ、サーボ様……本当の本当に怒っていないのですよね?」

 

「やだなぁマーメイ様までぇ……勇者サーボは人々のミスに苛立ったりは致しませんよ」」


 セーレ様の背中に乗って再度飛行移動を開始する。


「ほ、本当に怒ってな……あうっ!?」


 俺のほうに意識が言っていたセーレ様は天井にぶつかった。


「い、痛ったぁあいいいっ!! マーメイ頭打ったぁあああっ!!」


「セーレちゃんのこの世で一番輝かしくも鮮明で美しいお宝のような頭に傷ができちゃうっ!! こっちにいらっしゃいっ!!」


「大丈夫ですかセー……がぼぐぼぉ……」


 俺を放り出してマーメイ様のところへ駆け込むセーレ様。


 俺を放置してセーレ様の頭を撫でてるマーメイ様。


 二人をしり目に胃液の海に溺れていく俺。


 だけどもう焦ることはない。


 だってこれで六回目だもの、流石に慣れた。


「さ、サーボ様っ!? だ、大丈夫ですかっ!?」


「ぷはぁ……ああ平気さ、何せ勇者サーボだからね」


 少し遅れて気が付いたマーメイ様が救い上げてくれた。


 お礼を言っておこう、命の恩人だからね。


「ご、ごめんなサーボ……怒ってなぁい?」


「あはは……勇者サーボは怒らないよ、セーレ様は心配性だねぇ」


「さ、サーボ様……本当の本当の本当に怒っていないのですよね?」

 

「やだなぁマーメイ様までぇ……勇者サーボは人々のミスに苛立ったりは致しませんよ」


(かんがえるなかんがえるなかんがえるなかんがえるな……)


 笑顔を絶やさないことだけを心掛けて、他の全てを殺して耐える俺。


「よぉし、じゃあ今度こそ気を付けて飛ぶぞぉっ!!」


 俺を置いて飛んでいくセーレ様。


「セーレちゃん、サーボ様を忘れているわっ!!」


 俺を投げ捨ててセーレ様を追いかけるマーメイ様。


「がぼぐぼぉ……」


 光源も失い真っ暗な胃液の海に溺れていく俺。


 前後左右は愚か上下すらわからない。


(俺……ここで死ぬのかなぁ……)


 もう考えないことすらできない。


 涙が止まらない。


 どうしてこんなことになったのだろう。


(ああ……物凄く三弟子に逢いたい……あの三人と一緒に居たい……離れたのが間違いだったよぉ……)


「サーボ様、大丈夫ですかっ!?」


「げほぐほぉ……ああ、ありがとうございますマーメイ様」


 何とか死ぬ間際に引き上げてもらえた。


「さ、サーボぉ……何度もごめんねぇ……セーレ悪い子だぁ……ぐすん……」


「せ、セーレちゃんは悪くないわっ!! ご、ごめんなさいサーボ様、全て私の責任ですっ!!」


「いいんだよ、そうやって少しずつ反省すれば……勇者サーボは気にしないよぉ……」


(というか……怒っても仕方がない……より悪化するだけだ……生きるためだ……我慢しろ俺……)


「人の為には怒るけど自分のことじゃ怒らないんだな……サーボは優しいなぁ……」


「ええ……本当に立派な方ですわ……」


「勇者サーボですから当然ですよ」


 何故か二人の俺を見る目が変わってきた気がする。


「凄いなぁ……セーレはどうしても自分に何かあると取り乱しちゃうんだ……やっぱりリーダー失格だよね……」


「そんなことないわ、セーレちゃんはしっかりやってるじゃない」


「それはマーメイが手伝ってくれてるから……セーレ何もわからないもん……全部言う通りにしてるだけ……ぐすん……」


「言う通りにすると決めているのはセーレ様なのでしょう、それで上手く行っているのなら立派にセーレ様の手柄ですよ」


 すぐ泣こうとするセーレ様を反射的に慰めてしまう。


(というか……早くいこうよぉ……時間ないんだよぉ……)


「そ、そうなのか……セーレ頑張ってるけど……これでいいのか?」


「ええ、セーレ様は頑張っておられます……ですからコア探しもこの調子でいきましょう」


「そうよセーレちゃん……私はあなたが族長で……私の婚約者でよかったって心の底から思ってるわよ」


「そ、そうかぁ……よかったぁ……セーレも女の子だから……子供出来ないから……心配だったんだぁ……」


 安堵するように胸を撫でおろしたセーレ様は、すぐに元気を取り戻した。


「ならセーレ平気だっ!! マーメイが居てくれるならいくらでも頑張れるぞっ!!」


「その意気よセーレちゃんっ!! 私もセーレちゃんさえいてくれれば何もいらないわっ!!」

 

「えへへ、セーレもだよぉ……よぉし、二人でこんな魔物さっさと倒しちゃおーっ!!」


「そうねっ!! 二人で倒しちゃいましょうっ!!」


(俺はいらない子なのかなぁ……ぐすん……)


 普段なら仲間外れにされて喜ぶところだが、この状況では見捨てられた感しかない。


「よぉし、行こうマーメイっ!!」


「ええ、行きましょうセーレちゃんっ!!」


 そして実際に置いて行かれる俺、胃液の海に沈んでいく俺。


(……もうこのまま死んじゃおうかなぁ……ぐすん……)


 何度も酸欠の苦しみを味わわされて、何度も精神的に虐められて……流石に心が折れてきた。


 もちろん生きるために足掻きはするが、体力もなくなってきた。


「さ、サーボ様ぁっ!! 申し訳ございませぇんっ!!」


「さ、サーボごめんっ!! 本当にごめんなっ!!」


「あはは……気にしないで勇者サーボだから……忘れないで勇者サーボだから……」


 戻ってきたマーメイ様に引き上げられた。


 もう感謝を口にする気力もない。


「さ、サーボぉ……せ、セーレやっぱり悪い子だぁ……し、叱ってくれていいよぉ……」


「わ、悪いのは私ですっ!! ど、どうか私を叱ってくださいっ!!」


「二人とも悪くないよぉ……良いから今度こそ三人一緒に探索に行きましょうねぇ」


 気が付いたら近づいてきた二人の頭を撫でていた。


 セーレ様にし過ぎたせいで完全に条件反射だ。

 

「サーボは優しいなぁ……マーメイの次ぐらいに優しい……」


「本当に……立派な方です……セーレちゃんの次ぐらいに立派……」


「勇者サーボですから、よろしくお願います……皆様の記憶に残りたい勇者サーボですから……」


 自分でも何を言っているかわからない。


 とにかく何でもいいから忘れられたくない。


 もう置いて行かれるのはごめんだ。


(ひょっとして三弟子も……あいつらも俺に置いて行かれた時はこんな心境だったのかなぁ……)


 絶対に違うとは思うが、少し優しくしてあげようと思った。


「じゃあ今度こそサーボを背中に乗せて……よし、行こうっ!!」


「行きましょうセーレちゃんっ!!」


 今度こそ三人で移動を開始する。


 本当に余計な時間を使ってしまった。


 あとどれぐらい防御魔法は持つのだろうか。


(これ間に合わないかもなぁ……はぁ……)


 考えても仕方がない。


 とにかく見落とさないよう周囲に気を配ろう。


「うーん、やっぱり無いなぁ……マーメイはどう?」


「……やっぱり水中にも見当たらないわ、困りましたねぇ」


「まだ先にあるのかもしれないし、移動を続けよう」


「わかったぞっ!!」


 移動を続けるが目ぼしいものどころか見える光景にすら変化が見られない。


(くそ、長すぎるな……)


 見えるのは食道と思われる壁ばかりだ。


 マーセ様が口から入って倒した以上はこの道のどこかにはあるはずなのだが見つかる気配がない。


(ひょっとして一番奥だったりするのか……本格的にヤバいかもしれねぇ……)


「な、なんか肌がピリピリしてきたぞっ!?」


「た、確かに……魔法が切れてきたかっ!?」


 徐々に皮膚全体に痛みを感じてきた。


 この調子では長く持たないだろう。


「が、頑張りましょう……もうすぐ見つかりますよ」


「そ、そうだな……よーしセーレ頑張るぞっ!!」

 

「……マーメイ様、身体を見せてもらっていいですか?」


「え……さ、サーボ様……私は平気ですよ……っ」


(見せてくれって言っただけで平気だとの返事……やっぱりかぁ……)


 俺の疑問に焦ったように手を振るマーメイ様は身体の半分以上が胃液の海に沈んでいる。


「俺たちの魔法が切れかかっているのに、先に使っていたマーメイ様が解けてないはずがないでしょう?」


「え……あ、ま、マーメイっ!!」


「だ、大丈夫ですからっ!! だ、だから気にせず……あぁ……」


 ちょうど近くにあった足場に俺が飛び降りると、即座にセーレ様がマーメイ様を引き上げた。


 その身体は表面が既に溶け始めていて、美しかった鱗は見る影もなくボロボロだった。


「ま、マーメイっ!? ど、どうして言ってくれなかったんだっ!?」


「セーレちゃんたちの足手まといになりたくなかったの……そ、それにこんな汚い姿見られたら……嫌われちゃうんじゃないかって……」


「そんなことないっ!! セーレはマーメイが大好きだっ!! こんなことじゃ変わらないっ!!」


「ありがとうセーレちゃん……その言葉だけで私十分幸せよ……二人とももういいから、後は私に任せて脱出してくださいっ!!」


 真剣な表情になったマーメイ様が身体を離しはっきりと言った。


「な、何を言ってるのマーメイっ!? マーメイを置いていけないよっ!! 脱出するなら一緒にいこーよっ!!」


(一緒にってお前は一人しか抱えられないだろうが……俺を置いて行……っ!?)


「もう魔力が殆ど残ってない私じゃそこまで持たないわ……だったらせめてあなた達だけでも脱出して……私は一か八かコアを探してみますっ!!」


「や、ヤダぁっ!! パパやママみたいにマーメイまで死んだらセーレは生きていけないよぉっ!!」


「大丈夫、私が居なくなっても次の族長は弟よ……あの子とならセーレちゃんはきっと幸せになれるわ……子供もできる……ね?」


 マーメイ様は覚悟を決めた顔で穏やかに笑った。


 対してセーレ様は悲痛そうに首を横に振るだけだった。


「ヤダ……ヤダヤダヤダぁっ!! マーメイじゃなきゃヤダぁっ!!」


「我儘言わないで……それに小さい頃からずっと言ってたじゃない、家族が欲しいって……たくさんの子供に囲まれたいって……だから……」


「そんなのどーでもいいのっ!! マーメイとじゃなきゃ……マーメイと一緒に子供を育てたいのぉっ!! おいてかないでよマーメイィイイイ……ぐすん……」


「ごめんねセーレちゃん……最後の最後に泣かせちゃって……サーボ様、後をお願いします」


 俺に頭を下げるマーメイ様に、俺ははっきりと首を振って見せてやった。


「お断りします……それよりも俺を置いてあなたとセーレ様で奥まで探索してきてください」


「さ、サーボ様っ!?」


(本当に俺は馬鹿だな……どうしてこの考えに思い至らなかったっ!!)


 俺は今更ながらに自分の無能を嘆いた。


(セーレ様は二人は抱えられない……そしてマーメイ様の照明魔法が無きゃ行くも戻るもできねぇ……)


 暗闇の中無理やり脱出しようとしたところで、上手く行くとは思えない。


 ならば最初からコアを破壊することに全力を費やすべきだったのだ。


 そのためにも途中で俺だけが待機して二人で行かせていれば……余計なタイムロスはなかった。


 そう、何も俺が一緒に行く必要などなかったのだ。


(この二人にペースを乱され過ぎた……いや、信じ切れなかった……)


 何だかんだで俺の周りには一芸に秀でた、才能の持ち主が居た。


 だからある意味そいつらの力を信じて、俺は任せっきりにすることができていた。


 しかしこの二人は……特にセーレ様を俺はどうしようもなく頼りないと感じてしまった。


(俺が指示して行動を抑制しないとまずいと思い込んでた……マーメイ様なら俺よりずっとうまく扱えたはずなのに……)


 むしろこの二人の中に俺という異物が混じったせいでここまで停滞したのだ。


 だからこそ、生きるために俺は覚悟を決める。


 致命的に相性の合わない目の前の二人を信用することをだ。


(この選択が俺の命を長らえさせる可能性が最も高い……ならするだけだっ!!)


「もう時間がありません、俺の命運はあなた方に託します……行ってくださいっ!!」 


「だ、だけどこんなところで一人で……」


「サーボ様一人を置いてなど……」


「時間がないっ!! みんなで生き残りましょうっ!! そのためにも……行けセーレっ!!」


 怒鳴りつけた。


 これで怒られるのを嫌がったセーレ様が移動すればマーメイ様はついていくはずだ。


「……わかったっ!! 行こうマーメイっ!! サーボの意志を無駄にしないぞっ!!」


「……わかったわ、セーレちゃんっ!! サーボ様後はお任せくださいっ!!」


 しかしセーレ様はむしろやる気を出して、マーメイ様を抱き上げて猛烈な勢いで奥へと進んでいった。


「ああ、信じてるよセーレ様、マーメイ様……マジで頼んだぞ……」


 光源が去り周囲が暗闇に包まれる。


 皮膚がチリチリと痛む。


(これで胃液に落ちたら今度こそ助からねぇなぁ……)


 流石に恐怖が襲い来る。


 体内が蠕動する音も、何も見えないと恐ろしい。


 もしもまた壁が盛り上がって突き落とされたら死ぬしかない。


 魔物が海水を大量に飲み込んで流されても、防御魔法が切れてもお終いなのだ。

 

 死の恐怖がどんどん強まる。


(だから何だってんだ……ああ、それがどうしたよ……)


 あの二人から離れてようやく自分を取り戻せた。


 絶対に命をあきらめない図太い俺が戻ってくる。


「うおっ!?」


 突然魔物の身体が激しく揺れ始めた。


 俺の身体が滑り落ちそうになり、慌てて腰の剣を壁に突き立てた。


 どんどん動きは激しくなる。


 おまけに腕に激痛が走り始めた。


 どうやら魔法が完全に切れたようだ。


 壁を伝って両腕に胃液が掛かるたびに、余りの痛みに気絶しそうになる。


 だけど堪える、少しでも長く生き延びるために。


(どんだけの激痛に苛まれようと……仮に一秒後に死ぬからって……諦めてなんかやらねーよっ!!)


 どうせ死ぬとしても俺は足掻いて足搔いて……最後まで無様に生き抜いてやる。


 それが俺なりの意地だ。


「ぐぐ……うわっ!?」


 ついに両腕に力が入らなくなり俺の身体は胃液の海へと落ちた。


 一気に全身に苦痛が走る。


 目の前が真っ白になる。


 痛みで何もかもが分からなくなっていく。


 呼吸もおぼつかず、息苦しさも感じている。


 だけど、俺はまだ生きている。


 必死で感覚もない四肢を動かす。


 意味があるのかどうかもわからず、だけど出来ることを全力でこなす。


(っっっっっっぅうううううがぁあああ、死んでたまるかぁあああああっ!!)


 痛みすら吹き飛ばして、俺は生に縋りつくべく両手を伸ばした。  


 その手を誰かが取った。


 そして俺は海上へと浮上していった。


「…………っ!!」


 誰かが何かを言っているが見えないし聞き取れない。


 どうやら目と耳をやられたようだ。


 だけど誰かに抱きかかえられて移動しているらしいことはわかる。


(なら……後は……任せるか……俺じゃない……誰かに……)


 何がどうなっているかはわからない。


 しかし無能な俺が頑張るより他の誰かに任せたほうがいいに決まっている。


 だから俺はゆっくりと身体から力を抜いて誰かに全てを委ねることにした。


 しばらくして全身を温かくも心地よいぬくもりが包んでいる。


「…………っ!!」


 さらに耳元で何かが聞こえた気がして、俺はゆっくりと目を開いた。


「サーボ先生ぇええっ!!」


「サーボ先生ぇっ!!」


「サーボ先生っ!!」


「サーボぉおおっ!!」


「サーボ様ぁあああっ!!」


「うおっ!?」


 即座に五人の女性が俺にのしかかってきた。


 すさまじく重い。


「ちょ、ちょっと離れて……」


「うぅ……サーボ先生無茶しすぎだよぉっ!!」


「そうですよぉ……コアを破壊するために自分から魔物の体内に突っ込むなんてぇええっ!!」


「私たちに言ってくだされば……少しはご自愛くださいっ!!」


(言いたかったよ……言えなかったんだよぉ)


 カノちゃんとシヨちゃんとテキナさんが泣きながらしがみ付いて離れない。


「本当にサーボは無茶して……すっごい心配したんだぞっ!!」


「もう身体が殆ど溶けかけてて……テキナさんと二人掛かりで回復魔法をかけ続けたんですよっ!!」


 セーレ様と、水を張った大きいタライに半身を付けたマーメイ様もまた涙目で俺に乗っかっている。


 二人とも怪我一つなく、綺麗な姿を取り戻している。


(回復魔法は便利だなぁ……というか重いから皆どけよ……殺す気かよ……)


 呆れながらも周りを見回すと、どうやら船内の一室にいるようだ。


「……倒せたんだね、シーサーペントを」


「ええ……ぎりぎりでしたけどコアを破壊したらすぐに全身が海水に変わってしまいました」


「そ、それで慌ててサーボを探して……マーメイと二人でここまで運んだんだ」


「二人から全て聞きましたよ……勇者として褒めるべき行動かもしれませんが、自己犠牲もいい加減にしてくださいっ!!」


「そうだよっ!! 僕たちにも手伝わせてよっ!!」


「一人で何でも抱え込まないでくださいっ!!」


(抱え込む気なんかねーよ、全部押し付けてーぐらいだよ……はぁ、どうしてこう理解されないのかねぇ……)


 疲れてしまうが、まあとりあえず生き残れただけで良しとしよう。


 皆を押しのけ、距離を取りながら頭を下げる。


「皆の言う通りだ、心配ばかりかけてごめんね」


「……もぉ、本当に反省してる?」


(してねーよ、することねーよ……)


「いいですかぁ、もう私たちに相談なく動いちゃ駄目ですよぉ?」


(嫌に決まってんだろうが……)


「今度また無茶をしたら手錠か何かで勝手な行動をとれなくしますからね?」


(ふざけんなよ、そっちこそ勝手に決めんな……)


「そうだぞ、反省は大事だぞっ!! セーレみたいにちゃんとするんだぞっ!?」


(反省しても次に生かさない奴がほざくなよ……)


「そうですよサーボ様、人の為とはいえあのような行為をされては残された者はたまりませんよ?」


(同じようなことをしようとしたお前が言うなよ……)


 どいつもこいつも自分勝手だ。


 だけどまあ、俺のことを心の底から気遣ってくれていることだけはわかる。


(まあ……ありがたいとは思うべきかもな……)


 今回の件で俺の無能はよりはっきりした。


 やはりこれからも当面はこいつらに頼って行こう。


(少なくとも向こうの大陸である程度暮らせる地盤を作るまではなぁ……)


「あはは……でもこれでシーサーペントの脅威は去ったわけだし、また船では大陸間を行き来できるようになったわけだ」


「空の方もセーレ達に任せてくれっ!! サーボの為ならいくらでも協力するぞっ!!」


「私たち人魚族もサーボ様の為でしたらいくらでも協力させていただきます」


「おお、それはそれは助かります」


(出来れば霧を消してほしいんだが……魔王軍の脅威が去るまでは無理だろうなぁ……)


 セーレ様に比べてタシュちゃんのほうがたくさん運べて速度も速い。


 できればあの子も通行できるようにしてほしいものだ。


「ところで俺たちの仲間にドラゴニュートがいるのですが、その方も霧の中を通れるようにする方法はありませんか?」


「ど、ドラゴニュートぉっ!?」


 セーレ様が驚いて部屋の隅に隠れてしまった。


「ど、どうしたのですか?」


「サーボ様、鳥人族は大昔に龍人族との生存競争に敗れてこの海へと移住してきたのです……」


「あ、あいつら速いし強いし賢いし……セーレたちの食べ物全部取っていっちゃうんだぁ……うぅ……」


「……大昔のわりに妙に詳しいですねぇ」


「い、一度大陸に遊びに行ってえらい目にあったんだぞ……凄い長い間追いかけ回されて……こ、怖かったぁ……うぅ……」


(何かちょっかい出したんじゃねぇかお前……でも俺も龍人族はタシュちゃんとギリィぐらいしか知らないからなぁ……)


 意外と空を飛ぶプライドみたいのがあるのかもしれない。


 しかしこの調子ではタシュちゃんを通すのは難しそうだ。


「でもタシュさんはとってもいい子ですよぉ……きっとセーレ様とも仲良くなれますよぉ」


「うん、タシュちゃんはいい子だから……同じいい子のセーレ様と絶対上手くやれるよっ!!」


「タシュもまたドラゴニュートの次期族長だ、仲良くすることで種族同士でのいがみ合いが解決する可能性もあるのではないか?」


「うぅ……タシュ……ドラゴニュートのタシュ……い、一応覚えておくぞ……」


 怯えながらこっちへ戻ってきたセーレ様。


 すぐにマーメイ様が抱きかかえて頭を撫で始めた。


「よしよし、セーレちゃんは強い子だから大丈夫よ……いい子いい子」


「うん……セーレ強い子だからもう大丈夫っ!!」


 いつもの寸劇を見せつけられるがもう慣れた。


「ええ、いざというときは名前を出してみてください……さて航海のほうは順調かな?」


「はい、人魚さんたちが船を引っ張ってくれてまして物凄い速度ですよぉ」


「恐らく今日中には新たな大陸に到着するでしょうね」


「それはそれは何よりです」


 結果的には予定より早く着いたと言える。


(とてつもなく鬱陶しい敵と物凄くウザい味方に耐えた甲斐はあったなぁ……)


 どこか感慨深くすらある。


「だけど最後まで油断は厳禁だ……カノちゃん、シヨちゃん、テキナさん、そろそろ配置に戻ってほしい」


(俺はサボり……というか休ませてくれ……)


「うぅ……し、しかしその……」


 三弟子がセーレ様とマーメイ様をチラチラ見て何か言いたそうにしている。


「どうしたんだい、三人とも?」


「さ、サーボ先生たち……魔物の中で何してたの?」


「みんな……は、裸で……エッチでしたよぉ……うぅ……」


(そういうことか……)


 胃液で衣服が溶けていただけだが、俺たちがエロいことをしていたか疑っているのだろう。


 それでこの二人を残していくのに抵抗があるようだ。

 

「あのですねぇ……セーレ様とマーメイ様は婚約者同士でして、俺などが入る余地など……」


「あ、それだけどなサーボ……私たちと子作りしてくれないかっ!!」


「そ、そのセーレちゃんと話し合ったんですけど……サーボ様の子供なら……その……」


(うぉおおおいっ!? ど、どうしてそうなるんだぁああっ!?)


 訳も分からず目を見開く俺。


「ど、どういうことなのセーレ様、マーメイ様っ!?」


「サーボのことはマーメイの次に好きだからなーっ!! それでセーレとマーメイの血を継いだ赤ちゃんをたくさん育てるんだーっ!!」


「お、お願いいたします……そ、その行為だけでも良いのです……が、頑張らせていただきますから……ぽっ」


「残念ですけどぉ、サーボ先生は既に第九夫人までいるぐらいモテモテなんですよぉ」


 シヨちゃんが淡々と二人の言い分を切って捨ててくれた。


(おお、こういう時は役に立つなぁ……まあ第九夫人までの誰一人認めた覚えはないんだけどなぁ……)


 しかしこの調子ならこの二人の対処を任せてもよさそうだ。


「ですからお二人の順番はその後になっちゃいますよぉ、第十夫人と第十一夫人としてですからぁ」


 やっぱり任せるべきじゃなかった。

 

「そ、それで構いません……む、むしろ一番はやっぱりセーレちゃんだから……そのような扱いのほうが助かります……」


「全然いーぞっ!! それよりサーボ、ちゃんと男と女で産み分けさせてくれなーっ!! そしたらセーレの子とマーメイの子で結婚させれるんだからなーっ!!」


「それはとっても素敵ねセーレちゃんっ!! ぜひそうしましょうっ!! やっぱりセーレちゃんは天才ねっ!!」

 

 誰も受け入れるなんて言ってないのだが、どうしてこう盛り上がれるのだろう。


「そこをわかってるなら僕は文句ないよ」


「ああ、ならば受け入れるしかあるまい」


「そうですねぇ……ちなみに第四から第九夫人は……」


 あっさりと受け入れる三弟子、シヨちゃんなんか他の子を説明までしている。


 冗談じゃない、抵抗してみよう。


「ですがお二人は仮にも族長という立場……そこに名目上とはいえ俺の夫人となるのは規則違反なのではないでしょうか?」


「大丈夫ですよ、今回の件で人魚族はサーボ様をお認めになられました……サーボ様が長になるとしても逆らうものは居ないでしょう」


「鳥人族も平気だぞーっ!! みんな良い子ばっかりだからサーボのことなら喜んで受け入れるぞーっ!!」


「鳥人族と人魚族も取り込みましたか……これでサーボ帝国の世界統一計画はさらに一歩進みましたねぇ……」


(と、とんでもないことになってしまった……)


 シヨちゃんの目が輝いている、この婚姻に物凄く前向きになっているみたいだ。


 こうなったら俺が何を言っても無駄だろう。


 俺は全てをあきらめた。


『サーボ様……皆さま、ゼルデン大陸が見えてまいりましたっ!!』


「分かりましたぁ……サーボ先生行けそうですかぁ?」


(精神的な苦痛で動きたくねぇけど……ここに留まってても変わらないよなぁ……はぁ……)


「……ああ、行こうじゃないか」


 起き上がり身体に痛みが残ってないことを確認して、全員そろって甲板に上がる。


 確かに港町が見えていて、鳥人族と人魚族に囲まれたこの船に物凄く注目が集まっている。


「このままでは騒ぎになりそうですし、私たちは帰りますね」


「マーメイが帰るならセーレも帰るぞっ!!」


「そうですか、ではまた……」


「その前にサーボ様、これをどうぞ」


 マーメイ様が笛のようなものを渡してきた。


「これを吹けばセーレちゃんに居場所が伝わります」


「吹いたらすぐに飛んでいくからなーっ!!」

 

(前にマーメイは特別だって言ってたのは……これのことか?)


「しかしよろしいのですか……これは大事なものなのでは?」


「ええ、私たちは互いの場所が大体わかりますから……サーボ様がお役立てください」


「そーだぞ、サーボも私の旦那なんだから持ってていーんだぞーっ!!」


 セーレ様の言い方はよくわからないが、要するに鳥人族が婚約者に渡すものなのだろう。


(まあ便利だから貰っておくかぁ……)


「ありがとうございます、では名残惜しいですがそろそろお別れしましょう」


「うん、だけど最後にサーボぉ……婚姻の儀式としてキスしようなっ!!」


「ええ……私たちにサーボ様の愛情を示していただけませんか?」


(愛情なんかねーよぉ……はぁ……またこうなるのかぁ……)


 それだけはどうしてもできない。


「お二人のような責任のある立場の女性に愛を示す覚悟がありません、この場は控えさせていただけませんか?」


「サーボって案外腰抜けなのかぁ?」

 

「サーボ様にしては弱腰ですね?」


「自覚しているよ」


(本当になぁ)


「サーボ先生はいっつもそうだね……」


「サーボ先生……やれやれ……」


「サーボ先生、もう困った人ですねぇ……」


「なんだ、皆もしてもらってないのかー」


「サーボ様……ならばせめて皆さまと同じように話しかけてもよろしいでしょうか?」

 

「……構いませんよ、セーレちゃん、マーメイさん」


 俺の言葉に二人とも笑顔になると、空と海へと移動しそれぞれの種族の先頭から手を振った。


「カノ、シヨ、テキナ……サーボ、先生っ!! じゃあまたなーっ!! 」


「……カノちゃん、シヨちゃん、テキナちゃん……それにサーボ先生……またお会いしましょうっ!!」


「また会おうねセーレさん、マーメイさんっ!!」


「すぐにでもお願いしますからねぇ、セーレさん、マーメイさんっ!!」


「セーレ、マーメイ……いずれまたっ!!」


 手を振って鳥人族と人魚族が立ち去るのを見送り、今度こそ俺たちはゼルデン大陸へ乗り込むのだった。

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