一日の終わりに
「はぁ……はぁ……っ」
「ふぅ……ふぅ……っ」
「先生、カノとシヨにはそろそろ限界でしょう……この辺りで休みましょう」
「はぁはは……そぉだねぇ、おほれはまだ大丈夫だけどそぉろそろ日も暮れるしねぇへぇ……」
必死に息が切れるのをごまかしながら口を動かす。
前の村をたってから日が落ちるまで数時間走りっぱなしだ。
呼吸が乱れないほうがおかしい。
(テキナさんは本当に化け物だ、人間じゃねぇ……)
俺は改めて勇者コンテスト優勝者の人外さに呆れながら地域図を開いた。
流石に魔物が生息する自然の中で野宿する気にはなれない。
何よりテントなどの寝具も持っていない。
あるのは軽い布切れだけだ。
毛布代わりにしても寂しい。
だから近くにどこか休めそうな場所がないか探すことにしたのだ。
地域図だけあって地図にも載っていない細かい施設や住居が記されている。
「テキナさん、近くに牧場があるみたいだ……そこで休ませてもらおう」
「納屋か動物小屋でも借りれれば最低限雨風はしのげる……そうですね、そうしましょう」
「じゃあ済まないけどカノちゃんとシヨちゃんを抱えてくれないか、二人ともそこまでの移動も辛いだろうから」
「わかりました」
一刻も早く移動したかったから足手まといの二人をテキナさんに押し付けて、俺は目的へと最後の体力を振り絞って走り出す。
「はぁ……はぁ……ご、ごめんなさい」
「ふぅ……ふぅ……すみません」
「気にするな、むしろ二人ともよく頑張った」
「はぁはぁはぁ……っ」
(ああ疲れる……畜生、どうして俺がこんな目に合わなきゃいけないんだよぉ)
心中で嘆くが現状が変わるわけもない。
必死で足を動かし続け、何とか目的地に到着する。
地図に載っていないのが不思議なぐらいかなり広い牧場だった。
「すみませーん」
住居のドアをノックして声をかける。
内部からガチャガチャと物音がしたと思おうと、厳つい男が顔を見せた。
「なんだぁ、こんな時間にぃ?」
「俺たちは勇者として魔王退治の旅をしている者です、本日はここで休ませてもらいたいのですが」
「な、ゆ……勇者だとっ!?」
露骨に驚いた様子を見せる。
「どうかしましたか? 雨風さえ凌げればいいので納屋でも動物小屋でも構わないのですが」
できれば家の中が良いのだがそこまで贅沢は言えない。
「ちょ、ちょっと待て……」
男は一旦ドアを閉じるとわざわざ鍵をかけて奥へと戻った。
「サーボ先生、何か様子がおかしくはありませんでしたか?」
「テキナさんも感じたかい? 確かに何か違和感を感じるね」
「本当にどうしたんだろうね?」
「あっわかったぁ……きっとあの人勇者のファンで舞い上がっちゃったんだよ」
(シヨちゃんそれはないだろ……)
シヨちゃんは疑い深いのか無邪気なのかいまいちつかめない。
しばらくしてドアが開くと、今度は一転して笑顔を浮かべていた。
(怪しすぎないか、おい)
「なあ君たちは勇者の証明書のようなものをもっているかい?」
「……いやまだ王都へと登録に行く途中だからね、持っていないのだよ」
「じゃあ泊める義務はないわけだ」
王都で勇者登録時に発行される許可証があれば領内ではそれなりに強権がある。
それこそ強引に他人の家に上がり込み、生活に問題のない範囲で家財を徴収したりベッドを使わせて貰ったりできてしまう。
(やはり先に王都イショサへ向かうべきだったか……)
「くっ……書類がなければ勇者として扱われないとはなんということだっ!!」
「そんなぁ……僕たち人助けして疲れてるのにぃ」
「うぅ……世間って世知辛いんですねぇ」
「……ほぅ」
三人の美少女の声に男はそちらを見て、一通り顔を眺め終えると次いで身体のほうに視線を移し感嘆の声をあげた。
女性三人ともが薄着の上に汗をかいた為に服が張り付いてボディラインが明白になっていたためだろう。
ほんのり膨らみが見て取れるシヨちゃん、完全にペタンコのカノちゃん……リンゴが詰まってそうなテキナさん。
こういうところにも才能の差が見て取れる。
神様は残酷なものだ。
まあ俺にはどうでもいいことだ。
ただでさえ無能な俺には女の色香に溺れてる余裕はないのだから。
「……ちょっと待ってくれ」
男は露骨に鼻の下を伸ばしながら再度家の奥へと引き下がった。
(やっぱり怪しいわ……だけどここ以外にいくところねーしなぁ)
「いいだろう、確かあっちに納屋があるはずだから使ってくれ」
「ありがたい、では一晩お世話になる」
俺たちは納屋へと移動し、たくさん詰まっていた牧草をかき分けるように何とか居場所を見つけた。
「ふぅ……とりあえず落ち着いたな」
荷物を置いて身体を休める。
「やはりあの者は怪しくはありませんか?」
「気持ちはわかるが俺たちは魔物と魔王退治が目的の勇者だ、怪しい人間が居るからと言って捜査に時間をかけるわけにはいかないよ」
(面倒なんだよ、俺らに関係なきゃほっとけばいいんだよ)
「それは……確かにその通りですが」
俺の言葉に一応納得したようで鎮まるテキナさん。
「でもあの人、僕たちのこと舐めるように見てた……気持ち悪かったぁ」
「気色悪い視線でした……なんか怖い」
「単純に勇者らしく見えなかっただけかもしれない、余り人に対してそういう感想を持つべきではないよ」
(どうせ村でも似たような視線ばっかり浴びてただろうに……美人税だとでも思っておけよ)
付き合いきれない、俺はさっさと寝ることにした。
荷物から薄い布切れを取り出し布団替わりにして横になる。
他の三人も同じように横になった。
少しして誰かのお腹がなったのが聞こえてきた。
朝と昼は食事があったが、夕方は本来なら王都についていたはずなので用意してなかったのだ。
(助けた村で貰ってくればよかったなぁ……勢いで飛び出ちまったからなぁ)
当座の資金は貰ってきてあるが使える場所がなければ仕方がない。
まあ一食ぐらい抜いても死にはしないだろう。
「勇者さん達……お食事を用意しましたよ」
そのタイミングでドアが開き、先ほどの男が食事を持ってきた。
「おやおや、これはすまないね」
牧草をかき分けて強引に道を作り受け取りに行く。
食事は小さいパンが四つにそれぞれ小さい瓶ミルクが付属していた。
どれもこれも蓋が開いていて……怪しい。
「じゃあ皆さんで食べてくださいね」
そういって去って行く男。
とりあえず俺は皆の元へと食事を運ぶ。
「サーボ先生、どう思われます?」
「僕は……手を付けないほうが良いと思うなぁ」
「折角のご厚意だ、頂かないわけにはいかないだろう」
そういって俺は三人に怪しいミルクを押し付け、パンを独占する。
「あ、あの……先生?」
「指摘自体はもっともだ……怪しい人から食事を受け取って食べるのは危険だからね、ここは俺が一人毒見のつもりで頂くよ」
(こんな一口サイズのパン一個じゃ満足できねぇんでな……多分何か仕掛けてあるなら蓋が開いている飲み物だろうしな)
「うぅ……で、でも私たちもお腹が空いていて……」
「ミルクなら何か仕込まれていれば色や味、臭いで判別できるはず……君たちの安全のためだ、我慢してほしい」
(味が濃いミルクのほうがごまかしが効くだろうけどそれっぽく聞こえればこいつらの心酔具合なら納得するだろ……)
「しかしもしもパンに何か仕込まれていれば先生が危ないのでは……」
「彼らは君たちを気にしている様子だった、もしも何か仕込むとしても命ではなく身体の自由を奪う何かだろう」
俺の発言に三人がそれぞれ何を想像したのやら顔を赤くしたり青くしたりしている。
「だからもし俺が当たっても動けなくなるだけだ……君たちさえ無事なら何とでもなるよ」
「なるほどそこまで推察したうえで……わかりました、では我々はミルクだけいただきましょう」
(上手くいったぜ、じゃあいただきまぁーすっ!!)
みんながミルクを飲み干す中、俺はあえてゆっくりと咀嚼しながらパンを食べてやる。
むしゃむしゃする音が狭く静かな納屋の中に響き渡る。
三人がじっと羨ましそうにこっちを見ている……気がする。
(はっはー、飢えてるやつらの前で一人食べるパンは美味しいなぁ……って言えないぐらい不味い、なんか舌がピリピリする)
何とか四つ飲み下すも全身が震えてくる。
もしかしたら本当に何か仕込まれていたのかもしれない。
(だとしたらミルクのほうにも……変わった様子は全くないな)
「どうですか先生……ミルクは普通のようでしたが?」
(やっちまったぁああっ!! 蓋が開いてたのはミスリードかよぉっ!!)
「やはり……何か仕込まれていたようだ」
「ええっ!? だ、大丈夫なのっ!?」
「先生しっかりしてくださいっ!!」
「とりあえずまだ大丈夫だ、君たちは念のため近くの牧草に潜んで成り行きを見守っていてくれ」
(寝ないで番を頼んだぞ……俺は死んでるから……)
俺は何も起こらないことを祈りつつ再度布切れを被って横になる。
「わ、わかりました……」
三人がゴソゴソと牧草の中に隠れる音を聞きながら俺はゆっくりと目を閉じようとした。
(か、身体が麻痺ってうごけねぇ……まさかでまかせが本当になるとは……)
乱暴にドアが開く音がするが振り返ることもできない。
「……なんだ、どこに女がいるんだよ?」
「目が覚めるような美人だっていうからなけなしの麻痺薬と眠り薬を仕込んだのによぉ」
「いや確かに四人連れで三人はいい女だった……くそ、こいつ逃がしやがったなっ!!」
声からして三人組のようだ。
どんどんこっちに近づいてくる。
(残念だったな、俺にはテキナさんという最高の防衛がいるのだ……さあこんなやつらやっつけてしまえっ!!)
男が俺を覗き込んできて瞼を閉じれない瞳に男の顔が大写しになる。
「ちっつまらねえ……こいつどうするよ?」
「そりゃあ顔を見られた以上は生かして帰すわけにはいかねえだろ」
「わざわざ地図にも載ってない牧場に押し入ったってのに、何で今日に限ってやってきたのか……不幸だねぇこいつも」
(うるせぇ不幸なのはわかってるよ……どうしたテキナさん、ほら早く悪党だからやっちゃってよぉおっ!!)
声を上げたいがそれすらできないぐらい強力な麻痺状態だ。
恐らく四人分の効果が重複してしまっているせいだろう。
(ええいどうしてあいつらは動こうとしないっ!? まさか居眠りでもして……そういえばさっきこいつら眠り薬っていったよな?)
「おいこいつどうも起きてるっぽいぞ……眠り薬の入ったミルクは飲んでないみたいだ」
「瓶は空だ、女どもがミルクを飲んだとすればひょっとしたら逃げる途中で眠りこけてるかもしれないなぁ」
(な、なんだとっ!! こいつら二段構えの罠だったわけかっ!?)
「確か数時間は効果が切れないんだよなぁ、ちょっと探してみるか」
数時間このまま生き延びれるはずがない、終わった。
(ああ、なんでこんなことに……自分勝手だったからかぁ、全然悔い改めてないもんなぁ)
どうやら罰が当たったようだ。
どうにかしたいが身体はおろか口すら動かせなければ交渉も嘘八百で煙に巻くこともできない。
「せっかく男に意識があるんならもう少し生かしておこうぜ……連れの女どもがヤられるところを見せつけてやろうぜ」
(ほ、本当ですかっ!! それ最高ですっ!!)
どうやら生き延びれられそうだ。
「それは凄えいい考えだなぁ……おい聞いてるかぁ、今からお前が身体を張って逃がそうとした女どもを目の前で凌辱してやるぜ」
(はい素晴らしい考えだと思います、どんどんヤっちゃってくださいっ!!)
「何が勇者だ、恵まれた環境と能力で優遇された生活しやがって」
(だとさ、聞いてるかテキナさんっ!! 眠ってるから聞いてるはずないよねー)
「……あんな美少女まで侍らせてよぉ……ちっ胸糞悪い、こいつに俺たち屑の気持ちなんかわからねぇだろうなぁ」
(いや屑の気持ちはよくわかりますよ……口さえ動けばわかってもらえたかもしれないなぁ)
最も俺は屑でカスでゴミだと自覚はしているが下種にまで成り下がるつもりはない。
あくまで他人を利用するのは俺自身が楽に生きるためだ。
見下して気持ちよくなったり笑ったりしているがそれはあくまで内心で思うだけで、表では真摯に振る舞うようにしている。
また必要以上の贅沢をするために他人を食い物にするつもりはない。
無能な屑である俺としての最低限の矜持だった。
その点は悪党になり果てて己の欲情まで満たそうとするこいつらとは相容れない。
(俺も明日食うための盗みなら遠慮なくするだろうが……こいつらは俺以下だな)
「へっへっへ……俺は女を探してくるからお前らはそいつを家に連れて行っておけよ」
「そうするか……くそ、重いぞこいつ」
「仕方ねえよ力が抜けてるんだから……」
腹立ちまぎれにぶん殴られる。
無防備だから素人の一撃でも十分痛い。
(くぅ……テキナさんさえ起きてくれればこんなやつらっ!!)
しかし目の前でこれだけの騒ぎが起きているのに動く気配がまるでない。
数時間起きないという薬なだけに効果は十分強烈なようだ。
牧場の住居へと連れ込まれ、強引に床へと投げつけらえる。
視認できた範囲だけでも中は荒らされ放題だった。
「お、おい……この家の奴らはどこいったっ!?」
「確かにこの辺りに……くそ、縛っておいたのにどうやって逃げたっ!!」
男たちの様子がおかしい。
どうやら拘束していたこの家の住人が逃げ出したようだ。
「くそっ!? 何でこんなこと……うわっ!?」
ドアが開き何か重量のあるものが一人の男にぶつかり視界から消えていった。
「な、なん……ぎゃぁっ!!」
もう一人の男もまた悲鳴を上げたかと思うとすぐに静かになった。
(な、何が起きてるんだっ!?)
「サーボ先生っ!! 大丈夫ですかっ!?」
(こ、この声はテキナさん……いやテキナ様あっ!!)
俺を助けてくれたのはテキナさんだった。
完全に麻痺して動けない俺を二度三度と揺さぶり、そこでようやく異常に気付いたようだ。
「聖なる精霊の導きにおいて命ずる、解毒」
力ある言葉と共に放たれた魔法が俺の身体から麻痺を取り除いた。
自分が魔法を使えないからこういう魔法もあるのだとは全く知らなかった。
「サーボ先生、御無事でしょうかっ!?」
「ああ君のお陰だ、どうやら食べ物に麻痺薬、飲み物に睡眠薬が仕込まれていたようだね……テキナさんこそよく無事だったね」
「そ、そうなのですか……私には異常はありませんけど?」
(薬も効かないとかもう勇者だからで済む話じゃないぞ?)
「そういえば前にワイバーンの毒液が直撃して以来その手の攻撃を受け付けなくなりましたね……免疫ができたのでしょうか?」
「か、かもしれないねぇ」
「そうか、そのために先生は私に防具無しでの戦闘を経験させたのか……やはり素晴らしい戦略眼をお持ちだ」
(そんなこと想定できるわけねーだろうーがっ!!)
「そ、それよりカノちゃんとシヨちゃんの様子を見てこないと……あとこの住宅には人が囚われていたようだから」
「住民のほうは大丈夫です、既に避難済みですから」
「……どういうこと?」
話を聞いてみると男たちの接近に気づいたテキナさんはカノとシヨに俺を任せてその隙に住宅の探索を行っていたようだ。
「勝手な行動をお許しください、万一先生に仕込まれた薬が私に解除できなかった時の為に解毒薬を探してみようと思いまして……」
そして捕まっている住人を見つけて避難させているときに外を探索していた一人と出会い、俺の状態を知って駆けつけてきたそうだ。
見れば三人の男が床の上に倒れている……今のうちに拘束しておこう。
「私が余計な行動をしたばかりにサーボ先生を危険な目に……申し訳ございませんっ!!」
「いや助かったよ、ありがとう」
今回ばかりは素直にお礼を言う。
本当に自分の愚かな行動でピンチを迎えたのだから、流石に反省した。
「それよりカノちゃんとシヨちゃんを迎えにいこう……多分牧草の中で眠ってしまっているだろうからね」
「そうですね……ああ、もしやその状態も見越して男たちに見つからないように牧草に隠れるよう指示をされたのですか?」
「はっはっは、かもしれないねぇ」
適当にごまかす。
本当に今回だけは偉ぶる気にはなれない。
思った通りカノちゃんとシヨちゃんは牧草の中で寝心地悪そうに眠りこけていた。
二人を背負って改めて住居の本来の住人に挨拶へと向かった。
「この度は助けていただいて本当にありがとうございますっ!!」
「た、助かりましたっ!!」
善良そうな夫婦連れだった。
意外と元気そうで奥さんもどこも汚れた様子がないのは不思議だったがちょうど襲撃された直後に俺たちがやってきたそうだ。
「いえいえ勇者として当然のことをしたまでです」
「ああ、流石勇者様だ……ぜひとも家に泊まっていってくださいっ!!」
「すみません、ではお言葉に甘えてお世話になります」
(よっゃあああっ!! これで気持ちのいいベッドで眠れるぜええっ!!)
俺はウキウキしながらみんなと一緒に住宅へ戻った。
男たちに荒らされまくった住居に。
「……片付けなきゃ眠れませんね」
「すみません……」
「……やりましょうかサーボ先生」
「そうだねぇ、まだ許可証でてないからちょうどボランティア集団だしねぇ……うぅ……」
仕方なく休めそうなところにカノとシヨを安置して、俺たち大人組は疲れる身体を押して片づけをするのだった。
結局終わるころには日が昇り始めていて、カノとシヨも目を覚ましてしまった。
「うーん……なんかとってもよく眠れたなぁ」
「ふぁぁ……おはようごじゃいましゅぅ」
「起きたか二人とも……サーボ先生、そろそろ出発いたしましょうっ!!」
「えっ」
テキナさんの言葉に俺は力なく声を洩らしてしまった。
(一晩中働きづめだったんだぞっ!! 休まなきゃ死んでしまうわっ!!)
叫びたいところだが一番働いていた、そして俺の命を助けたテキナさんにやはり今回ばかりは強く出れない。
「あ、あの……お二人はずっと働いていたではありませんか、少し休んでいってくださいよ」
(よく言った旦那さんっ!! 俺の代わりにもっと言えたくさん言えっ!!)
「我々は一刻も早く困っている人たちを助けて回らなければ……休んでいる暇などありませんっ!!」
(俺が今一番困ってるよぉっ!! 休ませてくれよぉおっ!!)
「で、ですが疲れを取らなければ途中で倒れてしまいますよ?」
(ナイス奥さんっ!! 見事な正論っ!!)
「大丈夫、私は鍛えておりますからっ!! サーボ先生に至ってはもっと鍛えてますから不眠不休で動けるのですっ!!」
(そんなわけねぇだろぉおおっ!! お前と違って俺は休まないとぶっ倒れるんだよっ!!)
流石にこのままでは不味いと思い、重い口を開いた。
「テキナさんのお言葉はその通りですが、今後も歩いていく以上はカノちゃんとシヨちゃんのことも考えてもう少し休んで……」
「ぼ、僕たちは大丈夫ですっ!!」
「しっかり寝たから元気十分ですっ!!」
(俺は寝てないから元気が足りないの……大丈夫じゃないのぉ……空気読んでくれよぉ)
即興で考えたでまかせは簡単に論破されてしまった。
「皆さまは馬車ではなく徒歩で移動しているのですか、それでは大変でしょう」
「そ、そうなんですよ旦那さん……ですからやはり無理はすべきでは……」
「なら助けていただいたお礼に、私たちの馬車を使ってくださいっ!!」
牧場だけあって馬も馬車も完備されているようだ。
「ありがたい限りです……サーボ先生、さあ行きましょうっ!!」
「よくわからないけど馬車まで用意しちゃうなんてさすがサーボ先生だっ!! 」
「サーボ先生万歳っ!! さあ王都イショサまで進みましょうっ!!」
「頑張ってくださいサーボ様っ!! 私たち夫婦も応援していますっ!!」
「ええ、サーボ様ならきっとこの世界に平和をもたらせると信じていますっ!!」
全員からの熱いまなざしを受けたこの状態で眠りたいなんて言えるはずがなかった。
「そうですねっ!! 世界が俺たちを待っているっ!! 今こそ出立の時だっ!!」
やけくそ気味に叫びながら、俺は徹夜明けのテンションで無理やり馬車へと飛び乗るのだった。
(ああ、クソぉおおおっ!! またこうなるのかよぉおおおっ!!)
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