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ウザい奴ら……もう嫌だ俺ぇ

「キュルルルルルゥウウウっ!!」

 

「我が魔力により邪悪なる者を打ち払う衝撃を発せよっ!! 炎爆撃(エクスプロージョンっ!!」


「キュゥゥゥン……」


(五十六回目……)


「キュルルルルルゥウウウっ!!」


「わ、我が魔力に従い壮大なる大空よ悪しき者への天罰を齎せ、天雷撃(ライトニングボルト


「キュゥゥゥン……」


(五十七回目……)


「キュルルルルルゥウウウっ!!」


「や……闇を打ち払う閃光よ我が名により力と成せぇぇ……聖輝光(シャイニング・レイ……」


「キュゥゥゥン……」


(五十八回……あぁああああああっ!!)


「こんなことに付き合いきれるかぁあっ!! 俺は部屋に戻らせてもらうぞおおおっ!!」


「サーボ先生ぇ、落ち着いてぇっ!!」

 

「一番辛いのはテキナさんなんですよぉっ!?」


「ふ、ふふふ……ふははは……いっその事海ごと干上がらせてくれようかぁっ!!」


「て、テキナさんも落ち着いてぇっ!!」


「キュルルルルルゥウウウっ!!」


「「うるせぇえええっ!!」」


 やられてもやられても元気に戻ってくるシーサーペントに俺たちはイライラを隠し切れない。


 見えてる範囲を凍らせても痺れさせても蒸発させても駄目だ。


 何をしても元通りになって襲撃してくる。


(ただ怪我を直すために一度海につかる必要があるっぽいことは分かったが……本当に海ごと干上がらせてやろうかっ!!)


 とにかく海に身体を沈めたと思うとすぐに復活して襲い掛かってくるのだ。


 恐らくは海面から出てきていない部分も纏めて全体を消滅させれば流石に倒せるとは思う。


 しかし一度カノちゃんが調べてみたところ、何と胴体は視界に収まらないほど凄まじく長かったらしい。


 つまり引き上げて倒しきるのも難しいのだ。


(本当にどうやってこんなの倒したんだよっ!?)


 しかし同時に勇者はともかく、魔王が退治したという話も頷けた。

 

 何せこんなに鬱陶しい奴なのだ。


 魔王だってこんな奴、目ざわりで仕方がなかったことだろう。


(俺だってこいつ倒せるなら一時的に魔王軍と手を組んでもいいとすら思える……案外伝承はどっちつかずなのはそういう……っ!?)


 とてつもなく嫌な予感がした。


「シヨちゃん……伝承ではシーサーペントは勇者と魔王どっちに退治されたことになってたっけ?」


「え、ええとぉ……どっちともとれると言うかぁ……どっちが倒してもおかしくない……どっちが倒す……どっちも……あぁっ!?」


 シヨちゃんも俺が言いたいことが分かったようだ。


「え、ど、どういうことなのっ!?」


「サーボ先生ぇ、シヨぉ……この事態を打開できるのなら何でもいいから教えてくれぇ……」


 シーサーペントを黙らせたテキナさんが鬼のような形相で詰め寄ってくる。


 何せずっと呪文を唱えっぱなしだ。


 流石に疲労がたまってきたようだ。


(打開どころかむしろストレスを与えてしまいそうなんだが……)


 言いづらいがカノちゃんとテキナさん、それに船員も俺たちに注目している。


「……いや、つまりどっちの伝承も正しいんじゃないかってこと」


「あの魔物の不死身性ならぁ……勇者様が倒したと思い込んだ後でまた魔王に戦いを挑んでても不思議じゃないなぁって……」


 順番は逆でもいいが、とにかくそう言うことだ。


 片方に倒された後でまた蘇って、もう片方と戦って……それらを見ていた人々が別々に語り継いだとしたら納得がいく。


「……だ、だけどどっちも三日三晩戦ったって……そこも共通するのはおかしくないかなぁ?」


「……あの魔物だって食事とかする必要はあるだろうし、三日も戦い続ければ流石に諦めるんじゃないかなぁ」


「むしろ諦める線引きが三日だとすれば……なおさら説得力がありますよねぇ……」


 そしてこの説で一番恐ろしい点は……実は当時もこの魔物は退治しきれてなかったのではということだ。


(勇者と魔王に連続してやられて……ちょっと休憩しようとか思って……たまたま今顔を出したという恐ろしく嫌な偶然説が生まれる……)


 これを伝えるとテキナさんの精神的ショックが計り知れないのでシヨちゃんと顔を見合わせて黙っておくことにした。


「ふ、ふふふ、そ、そうかぁ……三日頑張ればいいのだなぁ……よぉし、テキナさん頑張っちゃうぞぉ~」


 しかし手遅れだったようだ。


 キャラが変わっている。


(魔法って精神力を使うみたいだし……肉体的な疲労より心にかかる負担が大きいんだろうなぁ……)


 ここまで疲労しているテキナさんを見るのは初めてだった。


「しっかりしてぇっ!!」


「テキナさん負けないでくださいぃ~っ!!」


「皆心配しないでくれ、私は平気だそうだから勇者として当然だよ」


「キュルルルルルゥウウウっ!!」

 

 どこかで聞いたようなセリフを口にしながら、テキナさんは性懲りもなく現れた魔物に向かって行った。


「めぇええ……めぇ?」


 ムートン君も説得しようとはしているのだが、どうやら文化が違いすぎて話が合わないらしい。


(まあ海中で生きてる生き物と陸地の生き物じゃぁ対話できるだけで奇跡だわなぁ……)


 とにかく打つ手がない……正確には時間稼ぎしかできない。


「ゼルデン大陸まではあとどれぐらいですかぁ?」


「……申し上げにくいのですが、あの魔物のせいで全く速度が上がらず……この調子だと一カ月はかかるかと……」


「……あと三日、テキナさんに頑張ってもらうしかないなぁ」


「サーボ先生が切りかかる……のも足場的に危ないもんねぇ……」


 カノちゃんが物騒なことをほざいたが聞かなかったことにする。


 こんなに鬱陶しくうざったい敵は初めてだった。


 ある意味今までで一番いやな敵だと言える。


(もう船捨ててワイバーンで飛んでいこうかなぁ……)


 仮にどっちの大陸に辿り着くことになってもこの魔物に悩まされることだけは無くなる。


「はぁ……本当に何なんだよこの魔物はぁ」


「何なんでしょうねぇ……あっ、なんか動きが変じゃないですかぁ?」


「うん、確かにテキナさんまるで壊れた道具みたいに動きがカクカクしてるねぇ」


「いやサーボ先生、そっちじゃなくて……ほらシーサーペントが去って行くよ」


 カノちゃんの指摘通りシーサーペントが顔向きを変えて、船を通り過ぎていこうとしている。


(やっと飽きたのか……ああ、しつこい奴だったぁ……)


「やみをうちはらうせんこーよわがなによりちからとなせぇ、しゃいにんぐれぇ~」


「キュルルゥウウウっ!?」


「て、テキナさん何をしてるんだっ!?」


 せっかく何処かに行こうとしていた魔物に攻撃魔法をぶち当てるテキナさん。


 案の定またしてもシーサーペントがこっちに向き直って戻ってきた。


「やみをうちはらうせんこーよわがなによりちからとなせぇ、しゃいにんぐれぇ~」


「キュゥゥゥン……」


 二発目の魔法を受けた魔物が悲鳴を上げて海へと姿を消していった。


「ど、どうしたのテキナさんっ!?」


「し、しっかりしてくださいテキナさぁんっ!?」


「はは、どのようならばカノもシヨのようなサーボ先生もまた私の私が疑われているのだと思いますがどうでしょうか?」


「だ、駄目だ……目の焦点が合ってない……」


 薄笑いを浮かべて俺たちを見回したと思うと、改めて海面へ視線を戻したテキナさん。


(重症だ……まあ俺たちが話し合ってる間も何回も迎撃してたしなぁ……)


「あれ……今度は浮かんできませんねぇ」


「やっぱり流石に飽きたのかなぁ……」


「かもしれないねぇ……テキナさん、ご苦労様……」


(本当に面倒くせぇ敵だったわぁ……)


「ああ、そうですかありがたいお言葉に感謝が絶えないのですみませんがありがとうございます」


「テキナさぁん、ちょっと休んで来てくださいよぉ……」


「うん、流石にこの……サーボ先生、あれ見てっ!!」


「ど、どこを見れば……あれは……人魚っ!?」


 カノちゃんが指し示したところを見ると海面スレスレを武装した人魚達が泳いでいくのが見えた。


 進行方向を見ると、シーサーペントの胴体が蠢いているのがわかった。


(なるほど、シーサーペントは人魚を標的に変えたってわけか……)


 そして今見えたのは追われている仲間を助けようとしている一団だろう。


(お陰で逃げ切れそうだぜ……じゃあ後は任せたぜっ!!)


「サーボ先生、あの人魚さん達多分シーサーペントに狙われてると思いますぅ」


「えっ!? そ、そんな……た、助けないとっ!!」


(クソ、気づくなよ……はぁ……どうしたもんかなぁ……)


「……テキナさん、まだ魔法は使えるかな?」


「出来ると出来ないかと聞かれてわけとしては使えるという言葉を答えを伝えようと思うところですよともよええですよ」


 どうやらまだ使えると言いたいらしい。


(まあサンドワームの時に一カ月は平気って言ってたしな……)


 あの時とは比べ物にならないハイペースで魔法を唱えているとはいえ、そうそうテキナさんの魔力が尽きることはなさそうだ。


「……テキナさんが踏ん張れるのなら俺たちがあの魔物の気をひいて人魚たちが逃げる隙を作ろう」


(少しでも嫌がるそぶりを見せたらそれを理由に見捨てるよう誘導しよう……)


「テキナさん、本当に大丈夫?」


「うむええああもちろんはい当然いけますよ」


 やる気満々だ。


 目も据わっている


(こいつらが困ってる人を見捨てるわけないかぁ……テキナさんがやるってんなら俺も我慢して付き合うかぁ……)


「カノちゃん、声が届きそうな人魚は居るかな?」


「うん……ほら、ちょうどそこを通り過ぎるのが一人いるよ」


「シヨちゃん、人魚に声をかけて会話が可能なら俺たちが囮になることを伝えてあげて」


「はぁい……人魚さぁんっ!! あの魔物についてお話がありますぅ……少し時間を頂けませんかぁっ!!」


 船の縁によって海面に向かい大声を出すシヨちゃん。


「……何でございましょうか?」


「あの魔物に追われているのでしたら、こちらに誘導してくだされば代わりにお相手致しますぅっ!! その間に逃げてくださいっ!!」


「ありがたいお言葉ですが、何故に私たちの代わりに囮になってくださるのですか?」


「私たちは勇者ですから、困っている方は種族に関係なくお助けいたしますぅっ!!」


 勇者の称号を告げて許可証を見せつけると、人魚は僅かに警戒を解き申し訳なさそうに頭を下げた。


「では申し訳ないのですがお願いいたします……私共ではあの魔物には手も足も出ませんから……」


「はいっ!! とりあえずあの魔物が海上へ姿を出すようにしてくださいっ!! そしたらこっちで攻撃を仕掛けますからっ!!」


「お頼みいたします、では失礼いたします」


 人魚は静かに沈んでいった。


 そして少しして再度シーサーペントが海上に姿を現した。


「キュルルルルルゥウウウっ!!」 


「とりあえず気を引くために、撤退させない程度の攻撃……ワイバーンの火球で攻めよう」


「まかされましたとも、やみをうちはらうせんこーよわがなによりちからとなせぇ、しゃいにんぐれぇ~」


「キュゥゥゥン……」


(全く分かってない……駄目だこいつ……)


 テキナさんの魔法を叩きこまれた魔物がいつも通り海に潜っていった。


「……どうですかねぇ?」


「海上に姿を現さないってことはやっぱりあっちに行っちゃったのかなぁ?」


「だけどまあ、あの一瞬だけでも逃げ切るチャンスはあったとは思うけどねぇ」


「テキナさんがんばりましたよぉ……えっへん……」


 テキナさんが疲れ切っていて目も当てられない。


「……ムートン君、テキナさんをもう眠らせちゃって」

 

「めぇええ……めぇええ……」


「うわぁいふかふかぁ……ぐぅ……」


 近づいてきたムートン君に寄りかかると、テキナさんはあっさりと眠りについた。


「良いのサーボ先生?」


「まあ船に乗ってさえいれば結界は維持されるだろうし……とりあえず魔物が来たらワイバーンで適当に攻撃して時間を稼ごう」


「はぁい……じゃあしばらくフード被ってるからねぇ」


 カノちゃんが魔力でワイバーンを操るために装備の機能を発動して透明化した。


「ふぅ……だけどこれからどうしましょうかぁ?」


「魔物が戻ってくるようなら相手をするしかないけど、来ないんならこのまま進んじゃおう」


「それもそう……あれ?」


「先ほどはありがとうございました……お陰で逃げる隙が生まれました、感謝いたします」


 不意にシヨちゃんが何かに引っ張られるように船の縁へ移動すると、下にいた人魚に話しかけられた。


(カノちゃんが気づいて引っ張って行った感じかなぁ)


「ちょっと手違いで少ししか気をひけませんでしたけど、どうやって逃げきったんですかぁ?」


「私たちのほうが移動速度が速いので攻撃が届かない程度の距離さえあれば逃げ切れるのです……本当に感謝しております」


「いや、こっちとしても助かったよ……ずっとあいつに目を付けられていたからね……」


 俺も顔を覗かせて会話に参加することにした。


「どうせだから簡単な情報交換をさせてもらえないかな……俺は勇者サーボ、現在はゼルデン大陸に向かっている」


「同じく勇者シヨでーす、さっき魔法を放ったのはテキナさんであなたに最初に気づいたのがカノさんですぅ」


「これはご丁寧にありがとうございます、私はマーメイと申します……これでも人魚族の族長を務めさせていただいております」


(たまたま話しかけたのが族長って出来過ぎ……いや遠くから指示を出してたからこそかな?)


 少し陰のある笑顔を称えたマーメイ様、年齢は人間に換算して二十歳後半といったところだ。


 海の色に似たウェーブのかかった青髪を靡かせ、お揃いの色をした鱗に包まれた下半身はとても綺麗に見える。


 また柔和な顔立ちに似合わないボリュームのある胸部を貝の殻で強引に隠している様子は、年齢に似合った妖艶な色気を醸し出している。


「それは失礼いたしました、改めましてマーメイ様……あの魔物について何か知っていることはありませんか?」


「こちらとしてはアレがシーサーペントなんじゃないかって言う予測しかできてないんですよぉ」


「そうでしたか……その通りです、あれはかつてこの海を荒らしまわった伝説の魔物であるシーサーペントに間違いありません」


(シヨちゃん見事的中……できればもう一つの予想は外れててほしいなぁ)


「俺たちは勇者様か魔王によって退治されたと聞いていたのですが、なぜ今になって暴れだしているのでしょう?」


「それはわかりません……ただ、我々海に住まう者の間ではシーサーペントは海の奥に封印されていたと言い伝えられておりました」


「つまりぃ、最近になって封印が解けたってことですかぁ?」


「はい、そうなのです……我々はその調査をしていたところであなた方を襲っていたシーサーペントと遭遇したのです」


(やっぱり退治できてなかったってことか……勘弁してくれよぉ……)


「封印が解けた理由はわかりますか? もしくは封印をかけた方が誰なのか、どのような封印なのかなどわかることがあれば教えていただきたい」


「申し訳ありません……我々にもよくわかっていないのです……お役に立てず申し訳ございません」


(せめて封印のかけ方が分かればもう一回封じ込めてやるのになぁ……)


 こうなったらどうにかしてイーアス様から情報を収集したほうが良さそうだ。


「いいえ、十分助かっております……実はもう一つ気になっていることがございまして、マーメイ様は海に発生している霧をご存じですか?」


 俺はタシュちゃんから聞いた方向感覚が狂う霧について説明した。


「大陸外の海を包む霧はわかりませんが、この近海の霧でしたら我々が発生させたものです……ご迷惑をおかけして申し訳ありません」


 ディキュウ大陸とツエフ大陸、ゼルデン大陸の位置を線で結ぶと大きな三角形が出来上がる。


 その内側が近海とか大陸間の内海等と呼ばれ、逆に外側の海は外洋やら外海と呼ばれることが多い。

 

(つまり大陸間に発生している霧はこいつらの仕業で外海の魔王軍の本拠地との間にある霧はまた他の奴の仕業ってわけか……)


 面倒なことこの上ない。


「もう少し詳しく教えていただきたいのですがよろしいですか?」


「はい……実は我々が本拠地としている島は魔力を流すことで特殊な霧を発生させて外敵から身を隠すことができるのです……」


 マーメイ様が語ったところによれば、魔王軍の活動を観測して慌てて身を守るために霧を発生させたのだという。

 

「上空と島の周辺を包むように霧は生じており、発生させた魔力の持ち主と同種族以外は方向感覚を失うようになっております」


 そしてその島は近海の中心にあったがために、結果として大陸間の移動が困難になってしまったようだ。


「つまりあなた方人魚族しかこの大陸間の霧の中を行き来することはできないというわけですね」


「いえ、実はその島には共同生活をしている鳥人族の方々がおりまして……人魚族と鳥人族が行き来できる状態になっております」


「鳥人族……どんな種族なんだ?」


 シヨちゃんに聞いてみると、人に翼が生えたような種族らしい。


(人一人抱えて移動できるならイーアス様のところまで連れてってもらうのも手だなぁ)


「その鳥人族の方をご紹介していただけないでしょうか?」


「ひょっとしたらあの魔物を何とか出来るかもしれないんですぅ」


「……わかりました、では鳥人族の方々と話に行ってまいりますので一旦失礼いたします」


 丁寧に頭を下げるとマーメイ様は去って行った。


(律儀な人だ……恩を売っておいてよかったわぁ……)


「これで話がうまく進むといいんですけどねぇ……」


「まあイーアス様なら流石に何かしらの情報は持ってるだろうから……鳥人族が協力さえしてくれれば進展はするだろうけどねぇ」


 最も無理に解決する必要も余りない。


 人魚を追いかけていったお陰で俺たちは問題なくゼルデン大陸を目指すことができるのだ。


(ただ退治しときてぇ……後々のこともあるし……このムカつきを叩きつけてやりてぇっ!!)

 

 俺にしては珍しくやる気にあふれている。


 余りに鬱陶しすぎた。


 この苛立ちをはらさでおくべきか。


「おーーーーいっ!! どこだぁーーーーっ!!」


 しばらくすると能天気そうな声が聞こえてきた。


「ゆーしゃーさーぼーっ!! どこだぁーーっ!!」


「こっちですよぉっ!!」


「おおー、見つけたぞぉーっ!!」

 

 バサバサと翼をはばたかせながら、鳥人族と見られる女性が船に降り立った。


 結界に弾かれないということは敵意はなさそうだ。


 これなら話も早いだろう。


「どうも初めまして、俺が勇者をしておりますサーボです」


「そうかーっ!! セーレはセーレだぞっ!! みんなのリーダーをしてる偉い子だぞっ!!」


(……このおバカそうなやつが長だとぉ?)


 無邪気な笑顔を見せるセーレ様、人間に比すれば二十歳前後ぐらいの年齢だろう。


 濡れ烏のような僅かに緑がかった黒髪と、お揃いの色をした翼をもっている。


 しかしどこか間の抜けた可愛らしい顔立ちに凹凸の激しい体つきを覆う布切れがとても似合っていない。


 その癖身長は俺と同じぐらいと、見た目は大人びていながら子供のような仕草がアンバランスな魅力を醸し出している。


「ど、どうも……実はマーメイ様から話を聞いていると思いますがお願いがありまして……」


「このセーレに任せるのだぁっ!! じゃあ行ってくるぞっ!!」


「えっ!? いやあの……セーレ様っ!?」


 話を聞きもせずに浮かび上がるとさっと移動しようとして……首を捻りながら降りてきた。


「何処に行けばいいんだっけ?」


「……まず話を聞いてください」


「わかったぞっ!! 何でも言ってくれーっ!!」


(な、何だこいつ……本物の馬鹿なのか……?)


「ええ、実はですね……今現在海で暴れているシーサーペントのことを詳しく知っている人物が……」


「おおっ!? ワイバーンだぁっ!! でっかーいっ!! がぉおおおおっ!!」


「……あの、話を聞いてくれませんか?」


「高ーいっ!! ワイバーンをペットにしちゃうなんて勇者ってすごいんだなっ!!」


 ワイバーンに跨って嬉しそうに笑っているセーレ様。


「……せ、セーレ様……話を聞いていただきたいのですが……」


「ああ、なんでも……おおっ!? 何だこいつはっ!?」


 今度はテキナさんが寄りかかってるムートン君に近づいていく。


「うわぁ、モフモフだぁっ!! 気持ちいーなーっ!! これ欲しいぞぉっ!!」


「め、めぇええ……?」


「何ぃ、物じゃないってぇ? 生意気だなぁーっ!! ええい、モフモフしちゃうぞーっ!!」


 楽しそうに笑っているセーレ様。


(……本物の馬鹿だ、役に立たねぇ)


 何を考えてマーメイ様はこんなのをよこしたのだろうか。


「サーボ先生……なんかセーレ様可愛いですねぇ」


「……そんなことより、話が進まないんだけど……シヨちゃん会話頼んでいい?」


「はーい、セーレ様ぁ……ちょっといいですかぁ?」


「あははっ!! ほら、こっち来てみろよっ!! こいつすっごいモフモフだぞぉっ!!」


 近づいたシヨちゃんの手をひいて、一緒にムートン君を弄らせる。


「め、めぇええ……」


「駄目だぞぉっ!! お前はずっと私にモフられるのだぁっ!!」


「ふふ、とっても柔らかいですよねぇ……セーレ様の翼も触っていいですかぁ?」


「いーぞぉっ!! ただあんまり引っ張るなよぉ、羽がとれちゃうからなぁ」


「わーいっ!! えへへ、すっごい触り心地いいですぅ……それにお日様のいい匂いがしますぅっ!!」


 シヨちゃんが取り込まれて無邪気に遊び始めてしまった。


(テキナさんは寝てるし、カノちゃんは会話不能で船員は船の操縦で忙しい……味方がいねぇ……)


「あのぉ……サーボ様……セーレちゃんはいい子にしてますか?」


「……マーメイ様……いい子過ぎて俺にはどう接していいかわかりません」


 気が付けばマーメイ様が海面に顔を出していた。


(こうなったらこいつから話を通してもらうしか……)


 俺の言葉を聞いてマーメイ様は恥ずかしそうに口を開いた。


「そうですよねぇ……とってもいい子ですよねっ!! セーレちゃんはあれでも頭がよくて気立てが良くて可愛くて魅力的で本当に素敵な子なんですよっ!! それに優しくて私の肩をもんでくれて、それでいて甘えん坊だからすぐに胸に飛び込んでくるんですけど一生懸命お姉さんぶろうとしてそこもまた魅力的だけどすぐに新しい遊びに目移りして無邪気な笑顔を見せて私を癒してくれて本当に素敵ないい子なんですよっ!! やっぱりわかりますよね流石勇者サーボ様ですけどまだまだ沢山魅力的な点がありましてね、この間も……」


 凄まじい早口で話し始めたマーメイ様。


 陰のある笑顔が一転して曇りのない得意げな笑顔になっている。


 その様子は子供自慢をしている親バカにしか見えなかった。


(お、おいおい……どうなってんだよおいぃいっ!?)


「おーい、勇者サーボぉっ!! もっとペットいないのかぁっ!?」


「サーボ先生、こっち来て遊びましょうよぉっ!!」


「サーボ先生、セーレ様ったらもうワイバーンの操り方覚えちゃったよぉ」


 船の上では気が付いたらカノちゃんまで取り込まれて、ワイバーンも一緒になって遊んでる。


「ああ、やっぱりセーレちゃんは天才ですねっ!! この海で一番、いいえきっと世界で一番素敵で格好いい知性あふれる美少女ですねっ!! これはもう種族の垣根を越えてあらゆる人々にセーレちゃんの良さを伝道する必要がありますねっ!! そうと決まればサーボ様共にセーレちゃんファンクラブを結成して褒めたたえちゃいましょうっ!! そのためにもセーレちゃんの魅力的な点をとりあえず千個上げてみましょうかっ!! まずはあの知的でありながら可愛らしく誰しもの心をとらえて離さない眼差しですよね、あれ無くしてセーレちゃんの素晴らしさは語れませんよね、他にも麗しくも人々の心を癒す愛おしさを兼ね備えた……」


 船の下からは執拗に俺へ共感を求めて話し続けるセーレ様。


 俺は何もかもから意識をそらし、天を仰いだ。


(シーサーペントよりウザい……もうヤダぁ……誰か助けてぇ……)

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