出立の日
村中から熱い叱咤激励……という名目で何度も切りかかられながらも俺は何とか生きて村を脱出することに成功した。
(あ、あと一歩で死ぬところだった……回避に専念したとはいえ本当によく全部避けれたなぁ)
カノとシヨとの模擬戦がなければ確実に死んでいた。
何だかんだで俺も少しは実力が上がっていたようだ……ゴミみたいなレベルだが。
「皆行ってくるぞっ!!」
「僕頑張るから―っ!!」
「わ、私も頑張りまーすっ!!」
王都に向かう馬車の中から三人が出入り口で見送る村人達に手を振っている。
「サーボ先生はお別れの挨拶をなさらなくてよろしいのですか?」
「ええ、まあ」
(なんで俺を殺そうとした奴らに挨拶しなきゃいけないんだよっ!!)
「でも生きて帰ってこれるかもわからないんだよ……本当にいいの?」
「ええ、まあ」
(どのみち帰れねえよあんな危険な場所っ!! お前らのせいでなぁっ!!)
「あ、わかった先生は絶対に生きて帰るつもりなんでしょ? だからお別れを言う必要がないんですね」
「ええ、まあ」
(ああ、必ず生き残るよ……お前らを見捨ててでもなぁっ!!)
適当に相槌をうちながら、俺は地図を広げこれからの行動を考えていた。
最初の目的地は王都イショサだ。
勇者年金の配給元でもある。
ここに魔王復活の知らせと出発する勇者の登録をしなければならない。
でなければただのボランティア活動になってしまい活動資金等の援助も受けられなくなる。
(こうなった以上はこいつらに面倒なことや危険なことは全部押し付けて手柄だけ独り占めしてやるっ!!)
もはや勇者の里に帰れそうにない。
つまり村長が配布する勇者年金も受け取れなくなる可能性が高い。
どうせ無能な怠け者の俺ではどこへ行ってもろくな仕事にありつけないだろう。
ならばいっそ今回の旅で一生食っていける程度のお金を稼いでおきたいところだ。
「この調子なら王都への到着は明日になりそうですね」
「僕村の外に出るの初めてだから周りの景色がすごく新鮮だよ」
「私もです……きっと王都も華やかなんだろうなぁ」
(俺も外に出たのは初めてだよ……はぁ、一生引きこもっていたかったなぁ)
気持ちのいい日差しの中をパカパカと馬に揺られながらのんびりと移動している。
俺を含め全員が鉄の剣一本吊り下げただけの私服姿ということもあってまるでピクニックだ。
そう俺たちは誰一人鎧など身に着けてはいない。
カノちゃんとシヨちゃんは未成年故にサイズの合う鎧がなかったからだ。
テキナさんはワイバーンとの戦いで身を軽くして回避に専念したほうが攻撃にもつなげられると悟ったようだ。
俺は単純にあんな重いもん着込んで歩く気になれなかった。
(どうせ戦闘はこいつらに押し付けるしな……絶対に前線には出ねえぞ俺は)
しかしそのせいでか他の奴らからの視線はよりきついものになった。
特に今も一緒に移動している二台の馬車からこちらへと注目が集まっている。
他の勇者候補であるカーマとセーヌ、そしてその仲間たちの視線だった。
彼らは一様にテキナさんたちに憧れやら慕情だとかの想いを露骨に向けている。
そんな彼女たちが薄着で俺を囲んでいるせいで殺意に近い嫉妬混じりの感情が送られてきている。
下手に隙を見せたら殺されかねないだろう。
(油断も隙も無いぜ……くそ、どうしてこんな目に合わなきゃいけないんだ……)
最もテキナさんと一緒にいる間は大丈夫だろう。
できる限り俺自身の護衛を兼ねてこいつは近くに置いておこうと思う。
「む……あれはっ!?」
テキナさんが何かを見つけたようで馬車を止めた。
他の二台も合わせたように動きを止めた。
「サーボ先生それに二人とも、アレを見てくださいっ!!」
「ああ、黒い煙が上がってるっ!!」
「地図を見るとあのあたりには小さい村があるはずです……まさか魔物の襲撃でしょうかっ!?」
確かに黒煙が大々的に上がっている。
ただ事ではなさそうだ。
他の馬車から代表者であり勇者コンテスト優勝者であるカーマとセーヌがやってきた。
「どうしますかテキナ殿っ!? 拙者たちはあそこに向かうべきではないでしょうかっ!?」
「うむ、勇者を目指すものとして見過ごしてはいられない……テキナさん、共に参りましょうっ!!」
(ふざけんなっ!! 勇者登録する前に働いても無駄骨だってぇのっ!!)
「ああっ!! サーボ先生、行きましょうっ!!」
「いやわざわざ全員で行く必要はないだろう、彼らが行くというのなら俺たちはこのまま王都を目指そう」
タダ働きなどごめんだ。
「なっ!? き、貴様目の前で人が襲われているかもしれないのに無視するつもりかっ!!」
「テキナ殿、それに君たちも聞かれましたか……いまのがその男の本性なのです」
「さ、サーボ先生……何か考えがお在りなのですよね?」
(うるせぇなぁ……俺は他の奴らが何人くたばろうがどうでもいいんだよ)
しかし正直に話すのは流石に危険だろう。
何だかんだでどいつもこいつも俺より遥かに格上の連中ばかりだ。
適当な理屈を並べて納得させるとしよう。
とりあえず余計な横やりを入れられないよう、あえて不安そうにしているカノとシヨに向かって語り掛ける形をとる。
「魔王が活発化した今あのような光景は世界中で広がっているはずだ」
「は、はい……そうですよね」
「その状態で一つ一つを我々全員で助けて回るのは効率が悪い、違うかな?」
「な、なるほどぉ……確かに手分けしていけばもっと多くの人をお助けできますもんねっ!!」
二人は感心したように声を上げる。
でたらめだが理屈としては間違っていない。
当然俺たちの会話を聞いていた他の連中も渋々とだが納得せざるを得ない。
「くっ……では拙者もテキナ殿についていくことにしよう」
「なっ……いや我々が付いていく、お前があの村に向かうべきだ」
「何を勝手なことをっ!? お前が行くべきだっ!!」
カーマとセーヌはお互いに救出任務を押し付け合いだした。
(偉そうなこと言っておいてお前らこそこれが本性だろうが……)
やはりボランティア活動が嫌なのか、それともテキナさんたちについて回りたいのか。
どちらにしても醜い限りだった。
「ええい、貴様らいい加減にしろっ!! サーボ先生、こうなったら我々が助けに向かいましょうっ!!」
「そうだよ、もうこんな人たちに任せてられないよっ!!」
「行きましょう先生っ!!」
冗談じゃないと言いたいところだがこの状況で言ってわざわざテンションを下げるのもどうかと思う。
それに俺に対して悪意を向けている彼らと別れられるのも悪くないだろう。
しかし何より俺は目の前で争っている勇者コンテスト優勝者の二人を見下して笑ってやりたかった。
(はは、あれだけ威張っておいてこれかよ……これで俺が行くって言いだしたらこいつらの立場ないだろうなぁ)
我慢できない、見下してやろう。
「君たちは目の前で人が襲われているかもしれないのにそんな争いをしていてどうするんだい?」
「ぐぅっ!?」
「テキナさん、それに二人も聞いたね……やはり勇者コンテストを目指したせいで彼らの本性も歪んでしまったようだ」
「ぬぅうっ!!?」
あえて彼らの言葉を引用するように言ってやる。
物凄く気まずそうな、それでいて悔しそうな顔を浮かべていた。
(すっげぇ気持ちいぃいっ!! 無様だなあこいつらっ!!)
「よろしい俺たちが向かいましょう、君たちはさっさと勇者登録でもしてきたまえ」
「い、いややはり拙者が……」
「い、言い出した俺が……」
「余計な言い争いをしている場合ではない、一刻も早く救助に行きたいのだ……邪魔しないでくれたまえ」
「「くうぅぅ……っ」」
ついにうつむいてしまった。
(自分より格上の連中を上から見下すの気持ちいいなぁ)
俺は笑いをこらえるのが大変だった。
これだけ気分良くしてもらえたのだから少しぐらいボランティア活動してもいいだろう。
「よしテキナさん、早速あの村へと向かおうではないか」
「はいサーボ先生っ!!」
「さすが僕たちの先生だ……他の奴らとはまるで違うっ!!」
「ええ、私たち一生ついていきますっ!!」
こうなると美少女三人の称賛もまた心地が良い。
さっきまで殺意すら感じていたカーマとセーヌの視線は、今では完全に負け犬の目になっていた。
俺はあえて彼らに同情的な視線を向けてやった。
「君たちも一度勇者という存在についてきちんと考え直したほうがいい」
(一度も勇者になるために努力しなかった俺の素晴らしいご高説をうけるがいいっ!!)
「ぐぅぅぅっ!!」
「うぬぬぅうっ!!」
すさまじく悔しそうだ。
俺はとっても楽しい。
もっともっと弄ってやりたかったが、テキナさんが馬車を動かしてしまった。
(もっと遊びたかったなぁ……しかし、これで下手したら戦闘だもんなぁ)
物凄くさっぱりしたが、ちょっと後悔もしている。
しかし今更だ、こうなった以上は俺の生存率を上げる方法だけを考えていこう。
「サーボ先生、見えてきました……やはり魔物の群れに襲撃されていますっ!!」
「あ、あれが魔物っ!? は、初めて見た……」
「あ……ぁ……こ、怖い……」
「炎を纏った犬のような……まさかフレイムドックではっ!?」
俺は自分の目を疑った。
村を襲う魔物の群れは一様に犬に似た体格をしているがどいつも体長は3メートルはある。
しっかりとした筋肉質の身体を黒毛が包み、さらにその周りを炎が燃え盛っている。
フレイムドックと呼ばれるとても危険な魔物の特徴によく似ていた。
しなやかな身のこなしで相手をねじ伏せ首筋を食いちぎったり、口から火炎を吹いて獲物を溶かして啜ったりするらしい。
最も実際に見るのはこれが初めてだった。
何せこの魔物は当の昔に……魔王が滅んだ日に死滅したと言われているからだ。
「どうしますか、先生っ!!」
(どうもこうもねーよ、あんな化け物に俺とカノとシヨが勝てるわけねーだろぉが)
「い、行きましょう先生……僕たちはそのために訓練してきたんですっ!!」
「わ、私頑張ります……絶対にお役に立って見せますっ!!」
(いやいやいや、お前ら自分の実力を理解しろよ……まあ俺にさえ被害が来なきゃどうでもいいけど)
「わかった、では君たち三人で上手く協力して退治してきたまえ」
「サーボ先生はどうなさるのですかっ!?」
(安全なところで見てるよ)
「……少し気になることがあるんだ、大丈夫俺は一人でも平気だよ」
あえて何かしますよという雰囲気を醸し出しつつ、一番危険な担当をするふりをする。
「本当に一人で大丈夫ですか、サーボ先生?」
「仮にも君たちの先生だよ……信用してくれたまえ」
(絶対に前線に出ねーし、最悪馬車で逃げるから安全だよ)
「わ、わかりました……シヨちゃん頑張ろうっ!!」
「う、うん……カノさん一緒に戦おうねっ!!」
「二人とも私にしっかりついてくるんだ……では先生行ってまいりますっ!!」
「うむ、十分気を付けたまえ……死ぬなよー、どうでもいいけどー」
三人が一塊になって村へと突っ込んでいったところで本音を口にする。
最も確実にテキナさんは無事に帰ってくるだろう。
下級とはいえ竜族に位置するワイバーンを素手で退治しているほどだ。
武装がしっかりしている今、あの程度の魔物に後れを取ることはないはずだ。
他の二人はやられてしまうかもしれないがテキナさんだけいれば俺の護衛には十分すぎる。
(というか足手まといだしなあいつら……まあ無意味に死んでくれとまでは思わないが)
敵の元へとたどり着いたテキナさんが早速剣を振るい魔物を……余りの剣速から竜巻が発生して一網打尽にしている。
(……え、なにこれ?)
手を頭上に向けたかと思うと無数の落雷が村全体に降り注いだ。
しかも的確に魔物だけを打ち抜いている。
(……レベルが違うとかそういう次元じゃねえぞ?)
テキナさんの背中で目をつぶりながら誰もいない空間に剣を振り下ろしているカノちゃんとシヨちゃんが哀れだった。
(しかしこの調子ならすぐに終わりそう……はっ!?)
唐突に村の中央に歪みが発生したかと思えば、そこから更なるフレイムドックの群れが飛び出してきた。
即座にテキナさんが殲滅するもののいたちごっこが続く。
(誰かが呼び出しているのか……流石にこのままじゃじり貧だろうなぁ)
逃げる準備をしておこう。
どっちの方向へ逃げるべきか考えて……そこで村人の姿がどこにも見当たらないことに気づく。
彼らの逃げる向きを参考にさせてもらおうと思ったのだ。
(何処かに避難しているわけでもなさそうだし、かといって村に残っているわけでもない……どういうことだ?)
まさか全員やられた後なのだろうか。
しかしそれにしても村の中に死体の残骸すら見当たらないのはおかしい。
(まあ考えても仕方ないな……魔物と目が合った、ここらが潮時だなぁ)
一匹の魔物がこっちへ迫ろうとしている。
俺は馬首を翻し、彼らに背を向けて走り出した。
とは言え来た道を戻るわけにはいかない。
いま彼女たちを置いてカーマとセーヌ達と再合流すれば間違いなく俺はお終いだ。
だから違う方向へと馬を走らせる。
「…………っ!!」
俺の動きに気づいたらしい彼女たちが何か言っているようだが声は届かない。
(悪いなお前ら、俺の為に死んでくれ)
「じゃあな皆……うおぉっ!?」
「がはぁっ!?」
よそ見運転していたせいで思いっきり人身事故を起こしてしまった。
何故か村を一望できる丘の上に黒づくめの人が立っていたのだ。
(誰もいないと思い込んでたわー、まあ魔物が証拠隠滅してくれるだろ)
そのまま馬を走らせ続けるが何かを引き摺るような物音が聞こえている。
どうやら先ほどの人の服か何かが引っかかってしまっているようだ。
(流石にこのまま死体を引っ張っていくのは不味いな)
周りを見回し魔物が近づいてこないことを確認した俺は、いったん馬を止めて引いた人を外してしまうことにした。
「き、貴様……よくも……」
「えぇ……よく生きてましたねぇ」
馬に正面から引かれ踏みつぶされ、さらに馬車に引っかかって引きずられていた男はまだ息がある様子だった。
ボロボロになりながらも俺を憎々し気に睨みつけてくる。
これでは近づくこともできない。
(仕方ない、いやだけど死ぬまで引きずりまわそう)
俺はもう一度運転席に戻ると馬を走らせた。
「や、やめろぉおおおおっ!! む、村人がどうなってもいいのかぁあっ!!」
丁度馬車の後ろ側に引っかかっている男から声が聞こえてきた。
「どういうことだ?」
「これを見ろっ!!」
首を傾げてみると男が地面に身体をぶつけながらも服の中から人形を取り出して見せた。
「これはこの村の住人たちだっ!! 意味が分かるなっ!!」
「さっぱりわからん」
馬に鞭を入れて動きを速める……早く死んでほしい。
「ぐぉおおおっ!! こ、この村の住人を魔法で人形に変えたのだっ!!」
「へぇすごいですねぇ……」
「だ、だからこ、この人形が傷付けば村人も傷つくというわけだっ!!」
「へぇすごいですねぇ……」
「わ、わかっているのかっ!! この人形が俺の身体には巻き付けてあるのだぞっ!!」
「へぇすごいですねぇ……」
(頑丈だなぁ……全然声の張りが弱まらないぞ)
「い、いい加減にとめろぉっ!! き、貴様それでも勇者かぁっ!?」
「違いますよ、俺は通りすがりの一般人です」
まだ勇者登録してないから嘘ではない。
「う、嘘をつくな……勇者の里から出発したのはわかっているのだ」
「まだ死なない……あなたは一体何者なんですか?」
「ははは、気づいているのだろう……私こそ魔王軍の、というかいい加減馬をとめろっ!!」
「嫌ですよ……魔王軍ということはこの魔物の群れはあなたが呼び出しているのか?」
「くぅぅ……そ、そうだっ!! わかったら馬を止めろぉおっ!!」
「猶更止める理由がなくなりましたね……よしスピードアップだぁっ!!」
どうやら人殺しの罪に問われる可能性はなくなったようだ、遠慮なく止めを刺してやろう。
馬車の動きを速めてできるだけ地面が凸凹してそうなところを選んで走行する。
「がっ!? げっ!? ぐっ!? ごっ!?」
嫌な悲鳴だ、馬車から伝わる衝撃も気持ち悪い。
「こ、この程度で俺が死ぬと……ぐふぅっ!? お、思ったら大間違い……がふぅっ!?」
「十分苦しそうに聞こえますよー」
しかし確かにいつまでたってもくたばる気配はない。
どうしたものかと思いながら村の周りを旋回していると、いつの間にかテキナさんが並走していた。
(馬と並んで走るとか……こいつの脚力どうなってるんだよ?)
「サーボ先生、一体何がどうなっているのですか?」
「テキナさん、この引きずられている奴が魔物を生み出してるんだ……止め刺しちゃって」
「なっ!? そういうことでしたかっ!!」
「ま、待て俺を傷つけたら村人がどうなっても知らんぞっ!!」
慌てて男が人形を振りかざす。
「どういうことだっ!?」
「こ、この人形はなぁ……」
「テキナさん、敵の言葉に惑わされないで……俺の言葉を信じて止めを刺すんだ」
「分かりましたっ!!」
「な、き、貴様それでも勇しっ!?」
ぐちゃりという嫌な音が聞こえたかと思うと、男の声はしなくなった
馬を止めてみるとものの男は見事に大地のシミと化していた。
村のほうを見てみると魔物の姿は消え失せている。
安全そうなので馬車で村の中に入っていくと、中央付近で疲れ果てた様子のカノとシヨが荒い呼吸を繰り返していた。
「はぁ……はぁ……じ、実戦ってこんなに疲れるんですねぇ」
「ふぅ……ふぅ……つ、疲れましたぁ」
「二人とも初めてとは思えない見事な戦いぶりであった……そうですよね先生」
「ああ、よく頑張ったよ」
一匹も倒してないだろうことは明白だが、生き残っただけでも確かに上出来だ。
「どんどん魔物が出てくるって気づいたときはもう駄目かと思いましたよ僕」
「だけど途中から新しいのは出てこなくなって……一体何があったんですか?」
「サーボ先生が見事に敵の親玉を見つけ出して動きを止めてくださっていたのだ」
まあそういうことにしておこう。
「ああ、敵の動きが妙だったからね……君たちを囮に使うような真似をして悪かったね」
「そ、そこまで考えてあの時……流石サーボ先生っ!!」
「うぅ、私てっきり魔物に怯えて逃げようとしたのかと……疑ってごめんなさい先生」
(い、意外とシヨちゃん鋭いなぁ……気を付けよう)
「いやお見事です、村人の救出を優先する熱い志を持ちながらも冷静沈着な判断……先生こそ勇者の鏡ですっ!!」
テキナさんは称賛するが、恐らく村人は全滅していることだろう。
何せあの男の言葉が事実なら人形こそが村人だったのだ。
それを体中に巻き付けていた男ごとテキナさんはミンチにしてしまったのだから。
(まあわざわざ言う必要はないか……)
「まあ勇者登録する前だからまだ勇者ではないのだけどね、それより先に進もう……っ!?」
何やらキラキラとした輝きが村中に広がり、村人たちが姿を現したではないか。
「おお、あの者にとらわれていた人々が解放されたようですね」
「そ、そうなのか……」
(何だよあいつ、ただのはったりかよ……)
「うぅ……わ、私たちは一体?」
「た、確か魔王軍が攻めてきて……何か魔法をかけられたところまでは覚えているのだけれど……」
「もう大丈夫ですよ、皆さま……この村を襲っていた脅威はこのサーボ先生が打ち倒してくださいましたっ!!」
村の中央でテキナさんが大声を上げる。
澄んだ声は村中に響いて、そして自然と人々の視線が集まってくる。
「おお、あなたが私たちを助けてくださったのですねっ!!」
「ありがとうございますっ!!」
「かまいませんよ、勇者の里の者として当然のことをしたまでです」
(人々の尊敬のまなざしが気持ちいいぃいいっ!!)
とりあえず謙虚なふりをしつつ勇者としての活動であることをアピールしておこう。
「おお、ではあなた方が勇者様っ!!」
「勇者として活動しているということは魔王が蘇ったということですかっ!?」
「うん、そうなんだ……だけど僕たちのサーボ先生が魔王なんか簡単にやっつけちゃうからっ!!」
(カノちゃん言い過ぎ……だけどまあこれで俺の功績になっただろうなぁ)
最もまだ勇者登録していない以上は評価はされずただのボランティア活動扱いでお終いだ。
つくづくもったいない。
「素晴らしい……私たちはサーボ様の名前と偉功を語り継ぎますっ!!」
「ふふふ、勿体ないお言葉ですね」
(いやあいいねぇ、上から目線で謙虚なふりするのは……)
意外と勇者もいいかもしれないと思った。
「さて俺たちはそろそろ行きましょうか、さあ馬車に……てあらら?」
馬の調子がおかしい。
村の獣医さんに見てもらったところ、どうやら先ほどの敵とぶつかった衝撃で足を痛めたらしい。
「この怪我では治るまでに一週間はかかりますね」
「では申し訳ないのですが、その間のお世話を……」
「馬のお世話をお願いします……我々は走って王都まで向かうとしますっ!!」
「はっ?」
勝手なテキナさんの発言に間抜けな声が漏れてしまう。
(王都まで何キロあると思ってんだっ!? 冗談じゃねぇぞっ!?)
「うん、一刻も早く人々を助けて回らないと……そのためには休んでる暇はないもんねぇ先生っ!!」
どうやら俺の効率的という発言をまっすぐに受け止めてた様子のカノちゃんも同意を示した。
(ふざけんな、休ませろやっ!!)
「ええ、私も体力をつけるために一生懸命走りますっ!!」
シヨちゃんも乗り気だ。
(俺は疲れるのはごめんなんだよっ!!)
「一刻も早く進みたいのは俺も同じ気持ちだが徒歩で向かうより馬の快調を待ってから移動したほうが早い、残念だがここは……」
必死ででまかせを口にするが、即興で思いついたにしてはいい出来だと思う。
「そこまで覚悟が固いのでしたらこの地域図を差し上げましょう……上手く道を選べばきっと馬より早く辿り着けるでしょう」
(余計なことすんじゃねぇええええっ!!)
村人の愚行により俺の言い訳は叩き潰された。
恩をあだで返しやがってこの屑どもめ。
「ありがたいっ!! この恩は一生忘れないっ!!」
(ああ、一生忘れねぇよこの憎しみはなぁっ!!)
「先生、行きましょうっ!!」
「先生っ!!」
「さあ、先生……我らのリーダーとして宣言をお願いします」
「……世界中の人々が我らを待っている、さあ行こう皆の衆っ!!」
「「「おーっ!!」」」
もうやけくそ気味で叫んだ俺の言葉に皆が賛同を示した。
村中から拍手まで聞こえてくる、もう後には引けない。
(ああ畜生、どうしてこうなるんだよぉおおおっ!!)
俺は涙ながらに皆を先導するように走り出すのだった。
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