龍人族最強の男
圧倒的な速度で飛行するタシュ様。
その背中に乗っている俺を凄まじい風圧が襲っている。
(く、苦しぃっ!! し、死ぬぅううううっ!?)
無理やり背負われたせいで体勢が悪く、風が顔にもろにぶつかってしまう。
お陰で呼吸すらおぼつかず息苦しい。
しかし俺を乗せているタシュ様は風の直撃を受けて平然としている。
これも種族の差……というより力の差だろう。
「もうすぐ到着するぞ……です、直接ど真ん中におりますっ!!」
「……っ!?」
止めろと言いたかった。
だけど暴風のせいで声を発することすらできなかった。
眼前に現れた何十匹ものワイバーンの群れの隙間を縫うように飛行を続けるタシュ様。
そしてついに魔王軍の本拠地と思しき場所へとたどり着いた。
「……まさか戻ってくるとは思わなかったぞタシュ、今度こそ殺されてくれるのかな」
「……まさか勇者サーボまで一緒とは有り難い限りだ」
着地した俺たちを出迎えたのはギリィと思しき龍人族と黒づくめの格好をした魔物の親玉だった。
(やばいやばいやばいぃいいいいいいっ!!)
どちらもこちらを心の底から見下して嗤っている。
こんな奴らを俺がどうできるというのだろうか。
「貴様らの悪行もここまでだっ!! 勇者サーボ殿が全てを打ち払うのだ……ですっ!!」
(ふざけんなぁっ!! 勝手なことほざいてんじゃねえよぉおおっ!!)
「ほほう、これだけのワイバーンの群れに囲まれながらよく言ったものだ」
「先ほど泣きながら逃げ出したタシュにしては強気だなぁ……肌を触らせているその男が特別ということかな?」
俺がタシュの鱗が少ない部分に触れているところを見て、ギリィが意味深な言葉を発する。
「それともタシュは、ドラゴニュートにとって鱗のない素肌を触れ合わせることがどれほどの意味を持つのかすら知らないのか?」
「馬鹿にするなっ!! 私はサーボ殿に全てをささげると決めたのだっ!!」
(だから勝手に決めるなっ!! どういうことだよっ!!)
「い、一体何を言っているのですか?」
「人間が知る由もないだろうが……素肌で触れ合うということは互いに弱みを曝け出すと同義、ある意味で婚約とも言える行為なのだよ」
(知る由もねぇよぉおおっ!! だ、だから急にしおらしくなったのかよこいつはぁあっ!!)
「サーボ殿はこんな私を認めてくれた……褒めてくれたのだ」
「はは、その程度のことで惚れるとは安っぽい女だなぁ……お前らしいよタシュ」
「その程度のことすらお前は……お前らはしてくれなかったぞ……ただ貶すだったお前たちに対してサーボ殿は私を救い出し労わってくれた……安っぽいと言われようと私はこの方についていくと決めたのだっ!!」
(だーかーらー勝手に決めるなぁっ!! 俺はお前なんかついてきてほしくねぇよぉおおっ!!)
どうやら優しく接したのが間違いだったようだ。
「そうか、では最後の情けだ……その男と共に死なせてやるよ」
「ちょ、ちょっと待ってください……最後の情けと言いましたよね今?」
「ああ、誇り高い龍人族として下等な輩にもそれぐらいの情はあたえてやろうというのだ」
「でもそれはタシュ様への情けですよね、俺への情け分をください」
とりあえず口先で何とか時間を稼ごう。
ムートン君から事情を聞いたテキナさんたちが万が一にも駆けつけてくるかもしれない。
(言葉が通じないから無理かもしれないが……俺は命だけは諦めねぇぞっ!!)
「はは、情けない限りだなぁサーボとやら……まあいい、何が望みだぁ?」
「おいギリィよ、あのサーボという男は油断できぬ相手だ……時間を与えずに処理すべっ!?」
「俺に指示をするな……というかもうお前は用無しだ、死ね」
ギリィの腕が霞んだと思うと同時にビシャリと汚い音を立てて、魔物の親玉は大地のシミと化した。
「同盟相手……ではなかったのですか?」
「はは、こいつらがタシュを攫ったから確実に息の根を止めるために手を組むふりをしただけだ」
「つまり最初から手を組んでいたわけではないのですね?」
「ああ、こいつらが偶然そこの馬鹿を攫ったのを目撃してなぁ……ちょうどよかったのでそのまま放置して様子を見ていたのよ」
醜く嗤うギリィをタシュが苦々しげに睨みつける。
「お陰でタシュが暴露した秘奥も覚えたことだし、これでお前さえ殺せば俺は好きな女と結ばれつつ長の座も確実だ」
「くぅっ!! お、親父殿がそのようなことを許すと思うかっ!?」
「許すしかないだろう……それに里の誰もがタシュのことを苦々しく見てたからなぁ、むしろ俺の統治は歓迎されると思うぞ」
「そのようなことを認めるものかっ!! 貴様のような自分勝手な輩に龍族の未来を任せるわけにはいかんっ!!」
(お前が言うなよ、自分勝手極まりないタシュ様よぉ)
「お前が言うなよ、自分勝手極まりないタシュ様よぉ」
物凄く気が合う。
こんな形でなければ友になれたかもしれない。
「うぅ……くぅ……」
「一応気になるので聞きますが、どの時点で魔王軍と手を組んだのですか?」
「魔物共がサンドワームを使ってこの国を落とそうと算段し始めた頃だ……ちなみにタシュが攫われたのはお前が里を出る数日前だとよ」
(いつまでたってもタシュを殺さないからしびれを切らしてつい最近になって参戦……というところかな?)
「ちなみに魔王軍のたくらみについて知っていることは他に何かありませんか?」
「サンドワームが駄目になった後は魔物ではない俺に頼るほど追い詰められていたからな、こいつが死んだ以上は全てお終いだろうなぁ」
(これが最後の拠点ってことか……西側を攻めてた魔物はここから送り込まれてたってところかぁ)
「なるほど……後、気になるのは何故俺の名前を魔王軍や龍人族の皆さんが知っているかなのですが?」
「魔王軍の中ではお前は最強最大の勇者として有名だぞ……もっとも龍の里ではほとんど知られてもいないがな」
つまりタシュ様もギリィも魔王軍の連中が漏らしているのを聞いたというところだろうか。
(うわぁ、すさまじく厄介だわ……これ魔王軍滅ぼさないと俺に安住は訪れない感じなのかぁ……)
「もういいかな、冥土の土産にしては十分すぎるほど喋ったと思うがなぁ」
(テキナさんはまだ来てない……も、もっと会話を引き延ばしたいぃいいっ!!)
「ま、まだ気になることはある……龍の里は魔王軍と人間に対してどんな方針でいるんだ?」
「どちらにも不干渉だ、攻めてくれば返り討ちにするだけ……しかしそれは今の長の方針だ」
「つまりあなたが長になった暁には変わるということですか?」
(俺の代わりに魔王軍を滅ぼしてくれるならタシュ様をささげて土下座してみよう、案外気が合うからいけるかも……)
「ああ、世界一強く偉大なる龍人族は全てを支配すべきだからな……どちらも攻め落とし従属させてみせるとも」
最悪だった。
やっぱり仲良くなれそうにない。
(こいつ危険すぎるわぁ……倒しておきたいけど、俺ごときが何をしても勝てる相手じゃないよなぁ)
「キリがないな、この辺りにしておこう……さあ最強の勇者とやらの力見せてもらおうか」
「フシャァアアアアアっ!!」
ギリィが手を振るうと中空から俺の身長よりデカいサイズの鎌が取り出される。
そしてワイバーンたちもまた俺を取り囲むように迫ってくる。
「くっ!! サーボ殿、やりましょうっ!!」
(冗談じゃねぇっ!! どうにか……どうにかしないとっ!!)
「……その前にギリィ殿にはお礼を言わせてほしい、色々と丁寧に対応してくださってありがたいかぎりだ」
「ふふ、死を悟って諦めが付いたのか……ならそのまま大人しくしていれば痛くないように殺してやろう」
「さ、サーボ殿っ!?」
「そうですねぇ、ですが最後にもう一つだけお願いがあります……これが本当に最後ですので」
俺は頭を回転させる。
こういえば偉ぶってるギリィのことだ。
文字通り最後に一つだけは言う通りにしてくれるはずだ。
(だが死ねとか見逃せは無理だ……場所を変えろってのはいけるかもしれないが……)
「ほう、一応聞いてやろう……内容によっては聞いてやらんでもないぞ」
「ありがとうございます……タシュ様と共に死ねるのは良いのですが、この場所ではどうも……違うところに移動したいのです」
「そういって結界に逃げ込む気かぁ……はは、俺ならあの程度ぶち破るのは容易いぞ」
(結界なんか壊されてもいいからテキナさんと合流……やっぱり駄目だ、ワイバーンだけならともかくギリィまで止めきるのは不可能だ)
ギリィが大僧侶の結界を破れるほどの実力者ならば、いくらテキナさんでも確実に数秒は足止めされるだろう。
それだけ隙があればこの数のワイバーンによって俺やカノちゃんやシヨちゃんは間違いなく殺されてしまう。
(人数が足りない、カーマとセーヌ達のところに合流できれば行けるか……だけどあいつらはどこにいるかわからないっ!!)
ツメヨ国にいてくれればいいが、領土内を見回りでもしていてすれ違ったら終わりだ。
何せ一度しか移動は許されないのだ。
(ど、どこかいい場所は……今までの旅で一番安全だった場所……どこだっ!?)
今まで辿ってきた旅路を必死にたどる。
ワイバーンの群れから俺を守れそうな場所……思考の果てにようやくたどり着いた。
(そ、そうだよあそこなら行けるじゃんっ!!)
「なら移動自体は許してくださるのですね……タシュ様、お願いします」
俺は飛行中に指示を出せるよう今度こそちゃんとした体勢でタシュ様の背中へしがみついた。
「は、はい……行きますっ!!」
「はは、いいだろう……好きな死に場所を選べっ!!」
タシュ様が俺を連れて飛び上がるとギリィもまたワイバーンの群れを引き連れて後からついてくる。
そのまま俺たちは移動をし続けた。
王都リース、王都バンニ、シヨちゃんが作り上げた要塞、シェルターのあるワンナ村、王都イショサ。
高度を維持しながら凄まじい速度で来た道を逆に辿っていく俺たち。
その後ろを付かず離れずの距離を保ちながらついてくるギリィとワイバーンの群れ。
「よしこのまま真っ直ぐ進んで……見えた、あの村へ降りてくれっ!!」
「えっ!? い、いいのか……ですかっ!?」
「良いんだ、俺を信じて降りるんだっ!!」
「はははっ!! 何だぁあの村に恨みでもあるのかぁっ!! いいだろう、ついでに皆殺しにしてやろうっ!!」
(恨みは物凄くあるけど……やれるもんならやってみろやぁああっ!!)
俺は懐かしい場所へと舞い降りると着地する前に大声で叫びあげた。
「みんなぁあああっ!! サーボが帰ったよぉおおおっ!! お土産持ってきたよぉおおっ!!」
「な、何だなんだっ!?」
俺の叫び声を聞きつけた勇者の里の住人が、広場に集まってくる。
「サーボだとっ!?」
「サーボだぁっ!?」
「な、何だあのワイバーンの群れはっ!?」
「サーボどうなってんだこれはぁあっ!?」
「サプラァァァイズっ!! 後は任せたよぉおおおっ!!」
俺は着地すると同時にタシュ様の手を引いて、里の中を駆け出した。
「はっはっはーっ!! 貴様らぁ勇者サーボを恨んで死んでいくがいいっ!!」
遅れて着地したギリィがワイバーンどもに指示を飛ばした。
「キシャァアアアアアっ!!」
「さ、さぁあぼおおおおおおおおおおっ!!」
俺への怒声が聞こえてくるが無視してそのまま長老の家へと駆けこむ。
「さ、サーボっ!? お、お主は何をしに戻ったっ!?」
「どーもぉ、ちょっと里帰りしたくなっちゃいましたぁ」
「い、いいのですかサーボ殿っ!? 村の住人が……ワイバーンを退治してるぅううううっ!!」
窓から外を見てタシュ様が驚きの声を上げている。
俺も覗き込んでみると、選挙の時見た勇者コンテスト優秀者の残留組が立ち並びワイバーンを片っ端から叩きのめしていた。
テキナさんのように素手では難しいだろうが、ちょうど夕暮れ時で訓練直後だったようだ。
武装は完璧で、ならばワイバーンだろうと後れを取る勇者コンテスト優良者など居るはずがない。
「頑張れー、ほら後ろ危ない……はは、すっげぇあのタイミングで躱せるのかよ」
「うわ、うっわぁ……ワイバーンの首が片っ端から切り落とされてるぅ……結構硬いはずなのになぁ」
「ちぃ、無様なっ!! いいだろう俺が直々に相手をしてやるっ!!」
ついにギリィが戦場に突っ込んできた。
「くっ!? こ、こいつ強いっ!!」
「ぐぐっ!! おらぁあっ!!」
「抵抗するなぁっ!! 下等な人間の分際でぇええっ!!」
勇者コンテスト優良者を同時に十人ほど相手にして互角に切り結んでるギリィ。
「流石龍人族最強の男、大したもんだなぁ」
「でもこっちの人間たちも凄いぞ……ほら、何度切り飛ばされてもすぐ回復して襲い掛かってる」
「おお、ワイバーンの数が減って加勢が来たぞ……十五人も相手にしてよく持ち堪えてるなぁ」
「あっ!? ぎ、ギリィが攻撃受けるとこ初めて見たぞっ!! いっけぇそんな奴やっちゃえぇえっ!!」
もはや完全に他人事だ。
俺たちはかぶりつきの席で目の前の化け物大戦を鑑賞していた。
「ぐぅうっ!! き、貴様らぁっ!! 偉大なる龍人の力に敵うと思うかぁあっ!!」
「ぬぅううっ!! お前こそ勇者の力を舐めるなよぉおおおっ!!」
お互いの一撃一撃が大地をえぐり、暴風を生み出し……もはや災害のごとしだ。
巻き添えを食ったワイバーンもついに全滅した。
当然そいつらを対処していた勇者候補も集まってくる。
前衛は勇者コンテスト優良者二十人ほどがタイミングをずらして間髪入れず攻め立てている。
後衛はそれ以外の者達が魔法を準備して、時折飛ばされてくる前衛を回復して送り返している。
「はぁはぁ……き、貴様らぁ数の暴力など卑怯だぞっ!!」
「最初にワイバーンの群れで奇襲をしてきたのはお前だろうがっ!!」
だんだんギリィが押されてきた。
しかも後衛が暴風魔法をいつでも使えるように構えているため、飛んで逃げることもできそうにない。
「ぐはぁっ!? ぐぅう……に、人間めぇええっ!!」
ついに攻撃が直撃し胴体に大けがを負ったギリィ。
「「「「「「「「「「貴様の負けだっ!!」」」」」」」」」」
止めとばかりに全員が一斉に叫び飛び掛かる。
「おのれぇええええっ!! ぎゃぁあああああっ!!」
そして断末魔が上がり、ギリィは遂に討伐されたのだった。
「ふぅ、手ごわい相手だったなぁタシュ様」
「ええ、敵ながらあっぱれな強さでしたねサーボ殿」
「お、お主らは何もしておらんだろうがぁああっ!!」
とりあえず胸を張ってみたら、長老にすさまじい目で睨みつけられた。
おまけに戦い終わった皆も長老の家を取り囲み、代表者が中へと入ってくる。
「サーボ君、これは一体どういうことなのかなぁ?」
(目が殺気立ってる……何とか有耶無耶にしないと本当に殺されるぅっ!?)
「……控えおろうっ!! こちらに居られる女性は龍人族の王女であるタシュ様で在らせられるぞっ!!」
「え、あ……く、苦しゅうないぞ」
俺の苦し紛れにタシュ様も乗ってくる。
「龍人族内のクーデターでこちらへと逃げ延びてこられたのだ……頭が高い、控えよっ!!」
「……これはこれは、王女様が勇者の里にようこそいらっしゃいました」
俺の言葉に納得がいかない様子ながら一応ひれ伏した一同。
(良し、今だっ!!)
「うむ、ご苦労っ!! では俺は王女様を送り返してくるっ!! タシュ様、飛んで早くっ!!」
「え、は、はいっ!! 失礼するぞっ!!」
「なっ!? ちょ、ちょっと待てぇえええええええええっ!!」
ひれ伏していたがゆえに反応が遅れた勇者候補者たちをしり目に、俺たちは長老の家の屋根をぶち破って逃走した。
「「「「さぁああああぼおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」」
下のほうから負け犬の遠吠えが聞こえた気がするが無視することにした。
「……ふふ、あんなずるいことしてよかったんですかサーボ殿?」
「ああ、結果として味方の死人は零で済んだからね……他のことは後で謝れば済むことだ」
(もう二度と里に戻る気ないし、べつに嫌われても平気だからなぁ俺は)
「なるほど、直接戦わなかったのは私の身を気遣っての事だったのか……ですね」
「いやいや、あの数のワイバーンが相手では俺もどうなるかわからないからね……目には目を数には数をってね」
「あはは……サーボ様、素敵です」
タシュ様はとても嬉しそうに笑った。
(ただ敵を押し付けただけなんだけどなぁ……何が素敵なんだか)
「あんな方法もあるんですねぇ……私は自分が無能で弱いから非常時には何もできないって思い込んでました」
「余り褒められた方法ではないけどねぇ……でも犠牲を減らすためにはあれが一番だったと思う」
「はい、サーボ殿は……ううん、サーボ様は凄いです……あのギリィを完全に手玉に取って……私を守り切って……」
(テキナさんたちの元に戻るまで機嫌を損ねるのは余り得策じゃねえし、適当に話を合わせておくか)
「勇者だからね、困っている人を助けるのは当然のことさ」
「本当に素敵ですサーボ様……私あなたのこと好きになりました、こんな短時間で単純って言われるかもしれませんけど本当です」
(おいおい、お前もかよ……どうしてこうなるんだよぉ)
今回は惚れられるような真似をした覚えはない。
だが恐らくはギリィが語った通り、単純に褒められて命を救ってもらったことで恋心が芽生えたのだろう。
(勘弁してくれよぉ……俺はあの三人ですら持て余してんだぞぉ)
「もしもサーボ様が良ければ龍の里に来ていただけませんか? 嫌でしたら私がサーボ様についていきます……駄目でしょうか?」
(だーめーでーすーぅっ!!)
「俺たちは魔王退治の旅をしている、一カ所に留まるわけにはいかないし……仮にも次代の族長様を連れ回すわけにもいかないよ」
「なら私、龍の里を抜けますっ!! 一人の女の子としてついていきますっ!! これならいいですよねっ!!」
(だから駄目だって言ってるだろうがっ!!)
「いや君にはしてもらいたいことがある……龍人族の長となり人間の懸け橋になってほしい」
(だから俺を送り届けたらさっさと帰れっ!! もうお前みたいな疫病神に付き合いきれねぇよっ!!)
「で、でも……私にそんな大役ができるとは思えない……です」
「先ほど君は何を見ていたんだい……やり方を考えればきっとどんなことでもできるはずさ」
「さ、サーボ様……本当にこんな私でも出来ますか?」
(知るかよ、そんなこと……どうでもいいからさっさと頷けよ)
「出来るよタシュ様なら……絶対に出来るっ!! このサーボの言葉を信じてほしいっ!!」
「は、はいっ!! 私やってみるね……みますっ!!」
(ふぅ……これでやっと片付いた、全く面倒な奴だったよ)
会話をしている間にようやく元の場所へと戻ってきたようだ。
着地するとちょうどムートン君が三人を連れてやってくるところだった。
「さ、サーボ先生御無事ですかっ!?」
「な、何が起きたのっ!?」
「そ、その子は……何をしてたんですかぁっ!?」
一斉に声をかけられる。
「サーボ様は私を助けてくれたのだ……ワイバーンの群れと龍人族最強の男から守り抜いてくださった……素敵なお方です」
(その言い方じゃまるで俺が一人で全滅させたみたいでしょうがぁっ!?)
「ええっ!? さ、サーボ先生はドラゴン軍団退治しちゃったんですかぁっ!?」
(俺じゃねえよぉ……だけど勇者の里に押し付けたとか言ったら面倒なことになりそうだなぁ……うぅ……もう諦めて受け入れよう……)
「ああ、とりあえずもうこの国は安全だよ」
「す、凄いやっ!! 流石サーボ先生だっ!!」
「流石はサーボ先生です、我々も足手まといにならぬようより精進しなければっ!!」
三弟子が俺を崇拝するような目で見つめてくる。
タシュ様もまた同じように俺を見つめてくる。
「サーボ様……いえ私も皆さまと同じくサーボ先生とお呼びさせて頂こう……きます……地図をお貸しください」
シヨちゃんから地図を受け取ったタシュ様は近くにある小島に印をつけた。
「ここが龍の里のありかです……何かあればいつでも来てください、全力で支援させていただきます」
「そうか……頑張って龍の里を治めるにふさわしい存在に成長してくれ」
「はいっ!! そ、その暁には……あの……私と……け、結婚を……」
「だ、駄目だよっ!! サーボ先生はもうすでに四番目の妾まで決まってるんだからねっ!!」
(決まってねぇよ……勝手なことほざくなカノちゃんよぉ)
「そ、そうなのか……ですか、で、では私は五番目の妾として……愛していただければ嬉しいな……です……」
(いやそこはあきらめろよっ!! 五番目だぞっ!? どうかしてやがるっ!!)
「な、なら認めるしかありませんね……良かったぁ」
(何も良くねーよっ!! 勝手に認めんなテキナさんっ!!)
「ええとぉ、この地図にあるバンニって国の女王プリスさんが四番目の妾さんだから時間があったら挨拶するといいですよぉ」
(だーかーらーっ!! シヨちゃんまで勝手に決めるなぁあああっ!!)
「そ、そうなのか……では帰る前にでも寄ってみようかな?」
(お前も乗り気になるなぁああっ!! ああ、どうしてこうなるんだよぉおおっ!!)
「はは……ほら、名残惜しいのはわかるけどこれではキリがない……そろそろお別れを言おうじゃないか」
(さっさと帰れっ!! 話を拗らせやがってぇええっ!!)
「そ、そうだな……ですね、だけどその前に……帰る前に……サーボ先生……く、口づけを……していただけないでしょうか?」
(……だから、勘弁してくれって本当に)
「もうしわけないけどそれは出来ません、偉大なるタシュ様とキスなど恐れ多い限りです」
「……情けない」
「自覚しているよ」
(本当になぁ)
「ならせめて様付けは止めてほしい……です、私も普通に呼ばれたいです……」
「分かったよタシュちゃん……それぐらいはお安い御用だよ」
「安心してタシュ様、誰もキスしてもらえてないから……次会うまでにやる気出させるからさ」
「……ありがとうカノさん、あなたたちも私のこと普通に呼んでくれて構わないからね」
「うむ、タシュよ安心して行ってくれ……サーボ先生のことは我々がしかと教育しておくから」
「そうですよタシュさん……サーボ先生が女の子に手を出せるように調教しておきますからぁ」
「あはは、酷い言われようだなぁ……」
(絶対にお断りだっ!! どんな手を使ってでもお前らとは縁切ってやるよぉっ!!)
「頑張ってね、カノさん、シヨちゃん、テキナさん……そしてサーボ先生も……」
「めぇえええっ!!」
「えっ!? ムートン君もサーボ先生が番いになれるよう頑張るって? ありがとう……皆また会おうねっ!!」
遥か彼方に飛び立つタシュを皆で見送りながら、俺は心の中で涙を流した。
(ムートン君まで敵なのかよぉ……真の仲間が欲しいよぉ……しくしく……)
【読者の皆様にお願いがあります】
この作品を読んでいただきありがとうございます。
少しでも面白かったり続きが読みたいと思った方。
ぜひともブックマークや評価をお願いいたします。
作者は単純なのでとても喜びます。
評価はこのページの下の【☆☆☆☆☆】をチェックすればできます。
よろしくお願いいたします。




