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サンドワームと魔王軍

「テキナさーんっ!! 頑張ってぇーっ!!」


「聖なる意志の元に集いし力よ魔を払う光と成れ、破邪光線(ホーリーレーザー)っ!!」


 テキナさんの力ある言葉により中空に発生した輝きから閃光が放たれ、敵の一団を薙ぎ払う。


 圧倒的な熱量により全てのサンドワームは原型を残すこともなく蒸発した。


(そりゃあ魔物が攻めてきてもおかしくはないと思ったが……何だよこの数はっ!?)


 カーフ村だった廃墟へと到着した俺たちを出迎えたのは、地面から無数に生えたサンドワームの群れだった。


 この村に何かがあったのか、あるいはちょうどこの方面から進攻しようとしたのかはわからない。


 どちらにしても俺たちは魔王軍の本隊とぶつかってしまったようだ。


(別の場所に向かえばよかったぁ……俺の馬鹿ぁ)


「とりあえず見えている敵は全て倒しましたが……この大地の揺れ様からすると続々と迫ってきているようですね」


 テキナさんが先の大地を警戒しながら苦々しげに言い放つ。


 確かに地面は引っ切り無しに揺れていて、しかも振動が近づいてきているようでだんだん強まっている。


「やっぱり地面の下は通れてしまうみたいだね……」


 視認できる距離にある国境を時折魔物の群れが通ろうとしては弾かれている。


 つまり結界自体は正常に作動しているのだ。


 だというのにサンドワームのものと思われる振動はあっさりと国境を越えて迫ってきている。


「サーボ先生、下から来ますっ!!」


「わかったっ!! シヨちゃんは絶対ムートン君から降りないようにっ!!」


「は、はいいっ!!」


「めぇえええっ!!」


 テキナさんの言葉を合図に俺たちはその場を飛びのいた。


「ギギィイーーーーッ!!」


 直後に先ほどまでたっていた場所からサンドワームが大口を開けて飛び出してくる。


 あのまま立っていたら地面ごと丸呑みされていただろう。


「闇を打ち払う閃光よ我が名により力と成せ、聖輝光(シャイニング・レイ)

 

 テキナさんが新たな呪文を紡ぐ。 

 

 途端に姿を現したサンドワームの巨体が激しい閃光に包まれ、パチンと弾けた。


 後にはもう塵一つ残らない。


(さっきの呪文の単体用ってところか……すげぇもんだな魔法ってのは)


 物理的に退治すると毒を振りまく関係上、このような全体を焼却する戦い方を続けなければならない。


「テキナさん、魔法はまだ使えるかな?」


 俺には魔力がないために、どうにも魔法関係の知識が薄い。


 どんな魔法があるかどころか、一日どれぐらい使えるのかすら判別が難しいのだ。


「大丈夫です、このペースで使い続けても一か月は不休で戦い続けられます」


「あ……そうですかぁ」 


(心配した俺が馬鹿だった……この体力馬鹿にエネルギー切れが起こるわけないよなぁ)


 これなら油断して最初の一撃さえ喰らわなければ生き延びれられそうだ。


「ごめんなさぁい、私また足手まといですねぇ……」


「人には適材適所というものがある……シヨちゃんは戦闘以外ではとても役立ってるんだから気にしなくていいんだよ」


(何の役にも立ってない俺を見ろ、こんなにも堂々としているぞっ!!)


「そうだともシヨ、むしろ最近は戦うことしかできない私に比べて貴方とカノのほうが遥かに活躍しているではないか」


 テキナさんが珍しく苦笑を浮かべる。


「せめて戦いの間ぐらいは頼ってほしい……これしか私にはできないのだから」


(こいつでもコンプレックス染みた感情を抱くことがあるんだなぁ……)


 戦闘面で馬鹿みたいな成果を上げているから気付かなかった。


 しかし確かに才能が発覚して以降のカノちゃんとシヨちゃんの活躍ぶりは素晴らしいの一言だ。


 特にカノちゃんは今も敵の振動を逆に辿って敵の本拠地を突き止めに行っている。


 シヨちゃんも情報収集から交渉まで既に俺のお株を奪う勢いだ。


 それに対しテキナさんが役に立つ場面と言えば人力車での輸送と戦闘だけ。


 しかも戦闘は優秀過ぎるために一瞬で片が付いてしまうせいで、余り役立っている自覚がないのだろう。


 逆に戦いで一切役に立てていないシヨちゃんもやはりどこか後ろめたい気持ちが残っているようだ。


(どいつもこいつも贅沢な悩み抱えやがって……本当の無能ってやつを見せつけてやろうか?)


 しかし落ち込まれて折角の能力が落ちても困る。


 適当にフォローしておこう。


「テキナさんはとても頼りになっているよ、シヨちゃんもカノちゃんもだ……自信を持っていいんだ」


「サーボ先生……ありがとうございます」


「サーボ先生……はい、わかりました」


 二人が笑顔を見せる。


「めぇええっ!?」

 

「ああ、ごめんごめん……ムートン君も立派に役立っている素晴らしい仲間だよ」


「めぇええ」


 シヨちゃんを乗せて敵の攻撃をよけ続けたムートン君も労わらないといけない。


 その後も断続的に襲い来るサンドワームを10体ほど倒し終えたころ、ようやくカノちゃんが戻ってきた。


「ただいまぁ……ごめんね、遅くなって」


「おかえりカノちゃん、敵の本拠地は見つかったかな?」


「うん、見つかったよ……だけど凄く大きい洞窟で奥まで深い上に親玉がとっても巨大なサンドワームだったよ」


「女王ってところか……黒づくめの奴はいなかったんだね?」


 俺の言葉にカノちゃんは頷いて見せる。


(まあそんだけ大きければいつもの格好は出来ないだろうが……何か引っかかるような……?)


 もっとも真面目に魔王軍退治をするつもりがない俺には細かい違いなどどうでもいいことだ。


「その本拠地はここからどれぐらいの距離にあるんだい?」


「人力車が使えれば半日だけど無理だよねぇ……けど徒歩じゃあ二日か三日はかかるんじゃないかなぁ」


 サンドワームの襲撃は収まることを知らない。


 こんな状態ではカノちゃんの言う通り人力車でサンドワームの本拠地に向かうのは危険すぎる。


 かといって歩いていくのはもっと危険だ。


「これだけ頻繁にサンドワームが襲い来る中を歩いていくのも危険ですし……どうしましょうか先生?」


(別に無理して潰す必要もないし逃げたいんだが……流石に言い訳が思い浮かばんなぁ)


 逃げる分にはサンドワームより人力車のほうが早いから問題なく移動できるだろう。


 ただ魔物の襲撃を目の当たりにした今、別の場所へ移動しようという俺の言い分を通すのは難しいだろう。


 もちろん無理やりそうしろと言えば恐らく一度は従わせられるだろう。


(ただ盛り上がりが最高潮のところに水を差したら……また正体がばれかねないしなぁ)


 はっきりいってもう正体がばれても構わないと思っているところはある。


 しかし今この危険な状態でこいつらの保護を失うのは命に係わる。


 せめて比較的安全地帯であるバンニ国に戻るまではこいつらの信頼を失うわけにはいかない。


(あの国を出てきたのが間違いだった……でもあそこで無理に残ったらミイアさんに殺されかねなかったし、上手くいかねぇなぁ)


「サーボ先生? どうなさいましたか?」


「いや流石に難しい状況だからね、少し悩んでいたんだ」


「そうだよね……だけど進むしかないよ」


「そうですよぉ、魔王軍を退治するために私たちはここまで来たんですからぁ」


(はぁ……やっぱりそうなるよなぁ)


 地面が揺れる、新たなサンドワームが攻めてきたようだ。


 俺たちは流れ作業のように最初の一撃だけ躱し、テキナさんの魔法で止めを刺してもらった。


「仕方あるまい、重々警戒を怠らないようにして移動しよう……目的はサンドワームの巣だ」


「わかりましたっ!!」


「うん、行こうっ!!」


「はい、頑張りますっ!!」


「めぇええっ!!」


 カノちゃんとシヨちゃんをムートン君に乗せて、俺たちは国境に群がる魔物を打ち払いながら本拠地を目指して進んだ。


 しかし森林地帯に入ったところで魔物の群れが俺たちに奇襲を仕掛けてきた。


「……な、何ぃっ!? ここで敵の襲撃だとっ!?」

 

(待ち伏せかっ!? 前に本拠地を簡単に潰されたから対策してやがったのかっ!?)


 わっと全周囲から俺たちを取り囲む魔物の群れ、どいつもこいつも見覚えのあるやつばかりだ。


 ファイアリザード、フレイムドック、ジェルスライム、ウインドバード、マッドゴーレム……とんでもない数だ。


「くっ!? 呪文で一掃しますっ!! サーボ先生、時間を稼いでくださいっ!!」


(無理言うなっ!! 俺に出来るわけないだろうがっ!!)


 テキナさんは呪文を唱え始めるが、どう見ても迫りくる魔物による攻撃のほうが早い。


 攻撃を受けたところでテキナさんがやられるとは思えないが呪文は不発で終わるだろう。


 そうなれば自衛ができない俺とカノちゃんとシヨちゃんは殺されてしまう。


 誰かが最初の一撃だけでも止めれれば呪文が間に合うだろうが、それが全方位から迫っているのだ。

 

 俺が命がけで間に入ったところで一カ所しか止められない。


 カノちゃんとシヨちゃんは固まってしまっている。


 もっとも動けたとしてもこの状態では役に立つとは思えない。


(終わったか……いや、こいつらは魔法を唱えだしたテキナさんを中心に狙ってるっ!!)


 ならばこいつを囮にして逃げれるか試すだけだ。


 俺は咄嗟に剣を抜くと全員を置いて比較的敵の数が少なそうな場所へ突貫した。


「ガァルルウウウウッ!!」


「なぁっ!?」


 その瞬間、何故か魔物たちの動きが変化する。


 全員が方向を変え俺に向かって迫り来たのだ。


(な、何でだっ!?)


「自然の息吹よ我が名のもとに万物に静寂をもたらせ、豪雪暴風(ブリザード・ストーム)っ!!」


 おかげで敵の攻撃が僅かに逸れたテキナさんはその隙に呪文を完成させることに成功した。

 

 目の前が見えなくなるほどの吹雪が吹き荒れ、ありとあらゆるものを氷漬けにしていく。


(おお、これはすご……い、痛ぇええええっ!! しかも身体が動かねぇええっ!!)


 どうやらその攻撃に敵のど真ん中にいた俺も巻き込まれたようだ。


 全身が逆に火傷でもしたような痛みに包まれ、しかもカチコチになって全く動けない。


「…………っ!?」


 誰かが何か叫んでいるようだが聞き取ることもできない。


 呼吸も苦しくなってきた。


(し、死ぬぅううっ!! な、何で俺がこんな目にぃいいっ!? 一人で逃げようとした罰ですかぁああっ!?)


「…………ですか、サーボ先生っ!!」


 ふいに枷から解き放たれたように動けるようになった。


 肌に触れる風がとても温く感じる。


「申し訳ございませんっ!! 咄嗟でしたのでサーボ先生を効果範囲から外す余裕がありませんでしたっ!! お許しくださいっ!!」


「はは……い、いいんだよぉ、生きてるからぁ」


 どうやらテキナさんが魔法で解凍してくれたようだ。


(生きてるって素晴らしぃいいいいいっ!! 空気がおいしぃいいいいっ!!)


 思いっきり深呼吸を繰り返し、生を満喫する。


 周りを見渡せば全ての魔物はおろか、テキナさんの両手が届く範囲以外の全てが氷に包まれている。


(森だった場所が今や一面銀世界……こいつここまで化け物だったのかよ……)


「ご、ごめんね……僕たち何もできなかった」


「うぅ……すみませぇん、足手まといでしたねぇ」


「めぇええ……」


「し、仕方ないさ……こんな奇襲は予想外過ぎる、誰だって対応できるものじゃないよ」


 むしろどうにかできるテキナさんが異常なのだ。


「しかしサーボ先生は流石です……あの一瞬で敵の意識をそらすことで隙を作るとは」


「ほ、本当だよぉ……僕もうだめかと思ってたのにサーボ先生は凄いや」


「私も頭の中真っ白になっちゃいましたぁ……咄嗟に捨て身で行動できたサーボ先生は素敵ですぅ」

 

(逃げようとしただけなんだが……まああの判断力の速さだけは自分でも見事だったと思う)


「あんなことぐらいしか思い浮かばなくてね……勝算は薄かったが上手くいってよかったよ」


 せっかく誤解してくれているのだからそういうことにしておこう。


「だけど変だなぁ、さっき僕が探索しに行った時はここに魔物なんか潜んでなかったのになぁ」


「……確かにそれは変だね」


 カノちゃんがこの手の罠を見逃すとは思えない。


 つまりこいつらはそのあとで、恐らくは俺たちがこの場所に到達する寸前に現れたのだろう。


(魔王軍の魔物は親玉が生み出している……近くで観察していて俺たちが結界から出たから一気に作り上げて襲わせたのか?)


 だとすればそいつらを見つけ出す必要が……なさそうだ。


(視認できる程度の距離なら既に氷漬けだからなぁ……一応確認しておくか)


「カノちゃん、悪いけどこの氷の中に敵の親玉が混じっていないか探してみてくれないかな?」 


「わかったよ、ちょっと待っててね」


 フードを被り透明化したカノちゃんだが、少しすると嬉しそうに姿を現した。


「サーボ先生の言う通り氷漬けになってたよっ!! 周りの護衛兵の様子からして四属性の親玉全部やっつけちゃったみたいだっ!!」


「とりあえずは一安心ですねぇ……後はサンドワームだけですかぁ」


「そういえば先ほどから振動が止んでおりますね……どうなっているんでしょうか?」


「あの巨体だし味方を巻き添えにしないために襲撃を止めたか……或いは地表の上に分厚い氷が張って出てこれないのかもしれない」


 どちらにしても好都合だ。


「テキナさん、ひとっ走りして人力車を取ってきてくれ……乾いた大地の上でも襲われないのなら今のうちに突っ切ろう」


「もしくは目的地までの地面を氷漬けにしてその上を走るというわけですね……了解いたしましたっ!!」


(流石に今回のは肝が冷えたぞ……やはり魔物が追い付けない人力車での移動が一番だ)


 この目論見は上手くいったようで、俺たちは一度も襲撃を受けずにサンドワームの巣まで到達することができた。


 氷漬けにした親玉の中に一番地位が高く、指示を出せる奴が居たようだ。


 そいつが倒れてしまったために襲撃再開の命令が届かず、待機し続けているのだろう。

  

「ここだよっ!! ほらすっごく大きいでしょっ!!」


「うわぁ、地面にぽっかりと穴が開いてる……サンドワームの移動跡みたいだなぁ」


「実際にそうやって掘った穴ではないでしょうか……内部からかなりの振動が伝わってきます」


「……つがいで一セットだけでも持って帰れないかなぁ」


(まだあきらめてなかったのかシヨちゃん……危ないお薬なんか手を出さないでくれ)


「サーボ先生、またいつも通り洞窟を崩壊させて様子を見ましょうか?」


「いやサンドワームは土の中を自由に移動する、そんなことをして顔を出さないまま違う場所に逃げられたら大変だ」


 リース国の領内に移動する分には構わない。


 むしろ望むところだ。


 しかし万が一にも方向を変えてバンニ国の領内に来られたらたまったものではない。


(俺はあそこでこいつらを捨てて隠居するんだ……そのためにもこういう秘匿性の高い魔物は退治しておかないとなぁ)


 ドラゴンも恐ろしいことは恐ろしいがあいつらはまだ目に付くだけ対処のしようがある。


 それに対してこいつらは振動でしか接近を察知できない上に、攻撃のタイミングなんぞ俺にはわからない。


 テキナさんが居ない状態で襲撃を受ければ確実にお終いなのだ。


(だから退治しておかねえとなぁ、くそっ!! 厄介な敵ばっかり作り出しやがって魔王軍めぇっ!!)


 俺は嫌々ながらも、このサンドワームを駆逐する決意を固めた。


「じゃあ乗り込むんだね……本当に深いから僕の誘導に従ってね」


「ああ……皆も気を引き締めていくように」


「は、はい……うぅ、頑張ろうねムートン君」


「めぇええ……っ」


 俺たちはテキナさんを先頭にして洞窟へと進行していった。

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