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こうして俺は勇者になりました……どうしてこうなるのかなぁ?

「一二三四五六……九十九百……終わりましたよサーボ先生、早速私と模擬戦をお願いしたい」


「五……六……す、すごい早いっ!?」


「八……九……しかも凄い正確な動き、流石テキナさんだっ!!」 


「いや、私などサーボ先生に比べれば無能の極みだ……これからやる模擬戦でそれがはっきりするだろう」


(ふざけんなっ!! 目で追えない速さで素振りできる化け物にだれが勝てるんだよっ!!?)


 早すぎて逆に止まっているようにすら見えた、風圧と音がなければサボっていると思っただろう。


 それだけの実力があるくせに俺と模擬戦をする気満々だ、殺す気カナ?


(いや流石に模擬戦で本気は出さな……目が本気だっ!! 全力で俺に襲い掛かる気だっ!!)


「どうしましたサーボ先生、素振りの後は模擬戦なのでしょう?」


「くっ……そうしたいのはやまやまなんだけどね、君ぐらいの実力者なら魔物を相手の実践をしたほうがいいと思うのだよ」


「ですがこの辺りに出没する魔物は弱いものばかりですよ、既に全部討伐済みですし……」


(俺はその弱い魔物一匹倒すのに死にかけるんだよっ!!)


 改めて才能の差を見せつけられたようでげんなりする。


「ならば自らにハンデをつけて行ってみたまえ、例えば武器防具抜きで挑んでみればいいのではないかな?」


「そ、それは危険すぎるのではないでしょうかっ!? それに私はぜひとも魔王と戦うために磨いてきたというサーボ先生の真の実力が知りたいのです」


「いや人間同士の模擬戦をしても人間相手の癖が付くだけだ、それでは意味がないじゃないか……魔物にしてもいつどこで襲われるかわからない以上無防備な状態での戦闘は経験しておくべきだ」


 絶対に模擬戦だけは避けなければいけない、俺は必死で言い訳を並べる。


「……わかりました、先生がそうおっしゃるのなら早速試してまいります」


「うむ、頑張りたまえ……」


(そのままやられて戻ってくるなっ!!)


 防具はおろか木刀すら置いて素手で村の外へと駆け出していくテキナさんを見送った。


「せ、先生本当に大丈夫なんですか?」

 

「俺は彼女の実力を見た上で判断したつもりだ、きっと想像通りになるだろう」


 いくらテキナさんが強いとはいえ素手で魔物にはかなわないだろう、想像通りやられてしまえばいい。


「あの……僕たちも魔物相手に実践したほうがいいんじゃないですか?」


「前にシヨちゃんには言ったけど最低限の実力を身に着けてから次に進むべきだよ、君たちはまだ非常時に攻撃を止めれる人間と戦っておくべきだ」


 仮にも親御さんから預かっている未成年の二人を危険になど晒せるものか。


 逆に成人して勇者コンテストで優勝したテキナさんならやられても増長した結果だとか勝手に判断されるだろう。


 これでようやく落ち着けそうだ。


 俺は改めて二人とのぬるま湯のような時間を過ごすことにした。


 実際に次の日からテキナさんは姿を現さなくなり、村中が彼女の行方を噂し始めた。


「せ、先生……本当に大丈夫ですか」


「ああ、何も問題はないよ」


(問題はテキナさんの存在だったからね、魔物さん最高ですぅっ!!)


「あの……僕テキナさんのこと何か知らないかって両親に聞かれているんですけど……」


「勿論素直に答えて構わないよ……ああでも、ひょっとしたら周りの人に文句を付けられて訓練が遅れてしまうかもしれないね」


「うぅ……先生が大丈夫だっていうから信じて黙っておきます」


(よし完全犯罪クリアーっ!! あとは魔物さんが証拠も残さずペロリしてくれれば完璧だぜっ!!)


 我ながらよくぞあのテキナさんの排除に成功したものだ。


 自分で自分をほめてやりたい。


 その時はそう思ったが三日後、俺は絶望することになった。


「ご覧ください先生っ!! この通りですっ!!」


 村中がざわめく中で皆からの注目を集めながらテキナさんが戻ってきた。


 その腕にはワイバーンの尻尾が握られていて、翼の生えた蛇のような巨体が引きずられていた。


(嘘だろぉ……まさか素手でワイバーン倒すとか化け物すぎない……)


 はっきり言ってドン引きだったが、村中は圧倒的な戦果を見てお祭り騒ぎだ。


「す、すごいっ!! 流石テキナさんっ!!」


「うわぁっ!! わ、私尊敬しちゃいますっ!!」


「いやいや、全ては先生のご指導のたまものです……素手での攻防は私の能力をさらに研ぎ澄ませることに成功したんだ」


 どうやら魔法と身体能力を駆使して瀕死に追い込まれながら戦った結果、限界の壁を越えてさらに強くなって戻ってきたようだ。


(魔法も禁止すべきだったーーーっ!!)

 

「感服いたしましたサーボ先生っ!! まさか私の方に真の力が隠されていたとは……あの時に見抜かれていたんですねっ!!」 


「凄い先生っ!! 少しだけ疑った僕が馬鹿でしたっ!!」


「流石先生っ!! 私ずっと付いていきますっ!!」


 ついてくるなと叫びたくなった、いやもういっそ叫んでしまいたかった。

 

 だけど目の前で魔物の返り血を全身に浴びて笑うテキナさんの敵意を誘う真似は出来るはずなかった。


(てか臭えぇっ!! 魔物の死臭と汗とかの臭いが混じってやべえよっ!!)


 何故あの二人は近づいて笑っていられるのだろう。


 恐らく傷つけないためなのだろうが果たして耐えられるものなのか?


 ひょっとしたらあれが絆とやらの力なのかもしれない……俺には真似できそうにない。


「とりあえずご苦労様、今日のところは一旦帰ってゆっくり休みたまえ」


「ですが私は今とても高ぶっておりまして、ぜひとも新たな指導をしていただきたいところなのですが……」


「休むことも指導のうちだ、メリハリをつけることは大事なことだよ……いいからお風呂に入ってきてください」


 思わず本音が漏れてしまう。


 テキナさんはようやく自らの置かれた状態に気づいたようで恥ずかしそうにうつむいた。

 

「す、すみませんそうさせていただきます……ああ、そういえば何やら魔物の動きが変に感じられましたが先生はどう思います?」

 

(変なのはお前の実力だよ、狂ってるわっ!!)


「確かにこの辺りにワイバーンはいなかったね、何かの予兆かもしれないねえ」


「やはり先生もそう思いますかっ!! これは我々の手で調査すべきかもしれませんねっ!!」


 冗談じゃないお断りだ、何でわざわざ危険に飛び込まなければいけないのだ。


「いずれは考えなければいけないかもしれないね、だけど今はカノちゃんとシヨちゃんの訓練が一番大切だからね」


「あの、僕たちのことなら気にしないでください……先生たちが居ない間は二人で一生懸命訓練しますからっ!!」


「私もカノさんと一緒に頑張って練習しますっ!! 先生の邪魔にはなりませんっ!!」


(余計な横やりをいれないでくれぇ……ここに居たい俺の邪魔をしないでくれよぉっ!!)


「自らの鍛錬しか考えてこなかった私に比べ、二人ともなんと立派なのだろう……私は君たちを尊敬するっ!!」


「そんなことありませんっ!! サーボ先生が教えてくれなければ僕たちも同じ道を辿っていましたっ!!」


「そうですよっ!! 素晴らしいのはサーボ先生ですよっ!!」


 勝手に盛り上がっている。


 俺は適当にその場をごまかしているだけなのにどんどん後戻りできないところまで深入りさせられている気がしてきた。


「ああ、全くだ……サーボ先生っ!! 彼女たちの意志に答えるためも我々は調査に出向きましょうっ!!」


「……考えておくから、とにかくお風呂に入ってきてくれ」


「あぁっ!? す、すみません失礼します……」


 ようやくテキナさんが居なくなった、異臭が去ってほっとした。


「あぅぅ……すごい臭いだった」


「ほ、本当に……吐きそう」


 やっぱりやせ我慢してたようだ、俺も吐きそうだ。


「ああ空気が美味しい……まあそれはともかく、俺としてはやっぱり君たちの訓練を優先させてもらうよ」

 

「すみません先生……僕たちが足を引っ張ってしまって」


 むしろ思いっきり足を引っ張ってくれ、周りから見て動けなくても仕方ないって思えるぐらい引っ張ってほしい。


「私たち頑張って上達して必ず先生のお力になってみせますねっ!!」


 無力なままでいてほしい、俺がサボる大義名分でいてください。


「いい心がけだ、じゃあ今日もまた訓練ごっ……を始めよう」


 二人のお遊びじみた訓練を眺めながら、俺はどうやってあの厄介なテキナさんを煙に巻くかだけを考えていた。


 しかしその必要は無くなった。


 次の日に招集が掛かり村中の人間が広場へと集められたのだ。 


「驚くべきことが起きたが落ち着いて聞いてほしい……魔王が蘇ったようだっ!!」


 長老の言葉に広場中がざわめく。

 

 テキナさんが狩ってきたワイバーンの死体を魔法で調べたところ、魔王の力の影響が見受けられたというのだ。


「我々は勇者の里の人間として、魔王を討伐する人員を選出する必要がある……勇者年金の支給条件でもあるのでな」


 それは断るわけにはいかない。


 俺みたいな人間がおこぼれにあずかるためにも優秀な人間には頑張ってもらいたい。


「さて選出方法だが、歴代の勇者コンテスト優勝者の中から選挙制で選択すべきだと思う」


「実戦形式で実力を競ったほうがいいのではないですか?」

 

「それでは時間がかかる、魔王は時がたつにつれ強力になってしまうだろう……迅速な対応が求められるのだ」


 早速選挙用紙が回ってくる。


 そして勇者候補一覧も掲示される。


 テキナさんも写っている……票を入れてぜひとも追い出さなければ。


 弟子たちにも告げて四票は確保した。


 最もこんなことをしなくても先日のワイバーンの一軒で十分アピールはなされている。


 案の定テキナさんは堂々の一位で当選した。


 他に二名ほど選出されて合計三人の勇者が勇者コンテストに利用される舞台の上に並び立った。


(少ないなぁ、仮にも魔王が相手なんだからもっとたくさんだせよ……そんなに装備の予算をケチりたいのか)


 流石に呆れてしまったが、わざわざ異議を申し立てるつもりはなかった。


 考えようによってはこの村に戦闘力の高い人間が多く残るということだ。


 つまり村が魔物に襲撃されても守ってもらえるということでもある。


 残留組である俺の命は保障されたも同然だった。


(ようやく、今度こそ平穏を取り戻したぞ俺は……魔王様万歳っ!!)


「では選ばれし勇者の諸君、連れていく相手を三人まで決めるといい」


「えっ?」


 思わず情けない声を洩らしてしまったが雑踏に紛れて誰に聞かれることもなく消えていった。


 どうやら一人ではなくパーティ単位で送り出すつもりだったようだ。


 完全に予想外だった。


(というか、これって……不味いっ!!)


 みんな凛々しく美人であり強くて格好いいテキナさんの同行者になるべく主張を始めた。


 俺は必死で小さくなった、が無駄だった。


「サーボ先生っ!! ぜひとも私に同行していただきたいっ!!」


 壇上からテキナさんの透き通るような澄んだ声が広場に響き渡る。


 みんながこっちを見るから首の動きを真似て後ろを振り返ってみたけどごまかせなかった。


「さすが僕たちの先生……魔王退治の勇者に選ばれるなんて」


(選ばれてねえよ、引きずり込まれただけだっ!!)


「凄いなぁ私たちの先生……やっぱりついてきて正解でした」


(俺は間違えたよ、お前らなんかさっさと切り捨てるべきだったよっ!!)


 他の奴からの視線が非常に痛い。


 ところどころから何であんな奴がというヤジも聞こえてくる。


「ほ、本当にあやつでいいのかっ!?」


(長老言ってやってください、もっと優秀な奴はごろごろいますからっ!!)


「はい、あのお方無くして魔王退治など務まりませんっ!!」


 貴方も陶酔した眼で断言しないでください。


(ああ男どもの嫉妬の視線がヤバい……憎しみまで感じる不味いぃっ!!)


 どうしても断りたいところだが逆らっても勇者年金が断ち切られて生活ができなくなるだけだ。


 仕方なく涙を堪えながら人混みをかき分けていく。


 時折殴られたりしながらも何とか壇上に上がることができた。


「くぅ……テキナさんがそこまでおっしゃるなら付き合いますが、残りのメンバーについては私に決めさせて頂きたい」


 こうなったらせめて残りのメンバーに実力者の男を加えさせよう。


 そうすれば嫉妬の視線を分断しつつ戦力も補強されて俺の身の安全は保障される。


「大丈夫です、サーボ先生が言いたいことはわかっております……カノとシヨも私たちについてきてほしいっ!!」


(まったくわかってねぇええええええっ!!)


「えっ!? いいんですかっ!?」


「ぼ、僕たちでいいのっ!?」


(いいわけねーだろーがっ!!)


 叫ぼうとしたがその前に長老が割って入る。


「ほ、本気かねっ!? 他に実力者はたくさんおるのになぜわざわざあのようなものを選ぶっ!?」


「絆で結ばれた大切な仲間だからですっ!! 実力よりも私は仲間との信頼を選びたいっ!!」


(実力で選べよぉおおおおおおおおおおおっ!!)


「だ、だがテキナさん……あの子たちはまだ未成熟だ、親御さんの許可もなく連れて行くわけにはいかないよ」


 何とか咄嗟に考えた言い訳にしては上出来だと思う。


「お父さん、お母さん……僕行きますっ!!」


「お前は言い出したら聞かないからなぁ……いやここまで頑張って来たお前をお父さんは誇りに思うよっ!!」


「うぅ……サーボさん、どうかうちの娘をよろしくお願いします」


(俺に頭を下げるなっ!! 選んだテキナさんにお願いしてくれっ!!)


「パパ、ママ……私、先生たちにどこまでもついていきますっ!!」


「うんうん、立派になったなぁ……気を付けるんだぞ」


「ずっと応援してるからね、サーボ先生今後ともよろしくお願いします」


(だから俺に責任を押し付けるなよぉおおおおおっ!!)


 こうなったら最後の希望とばかりに我が家の両親に目を向ける。


 実の息子がどれだけ無様な人間か知っている彼らならきっと止めてくれるはず。


「……ガンバレー」


「……ウチノホコリヨー」


 露骨に目をそらされてた……色々と諦めてやがる。


 年齢の異なる美少女三人が壇上に上がり、皆の前で俺を囲んで笑顔を向けてくる。


 村中の、特に男連中の視線が殺意のレベルにまで達している。


 俺はもうこの村に帰ることは出来なそうだ。


(勇者年金……安定した生活……平穏な日常……うぅ……全て失ってしまったぁ)


「頑張りましょうサーボ先生、そしてカノにシヨ……我々の手で世界を魔王の脅威から救い出そうではないかっ!!」


「おーっ!!」


「はーいっ!!」


「いえー……うぅ……」


 涙が零れてしまう。


 どうしてこうなってしまったのだろうか。


「勇者コンテストより魔王を目指す……先生の先見性は正しかったことがまた証明されましたねっ!!」


「僕、先生の元で戦えるなんて感激ですっ!!」


「私、一生懸命頑張りますねっ!!」

 

 みんなが熱い視線を俺に向ける。


 だけどこれだけは言っておかないといけない。


「……一応言っておくけど、リーダーはテキナさんだからね」


「いえいえサーボ先生こそリーダーにふさわしいお方です」


「そうそう、先生が僕たちのリーダー」


「私たち信じてついていきますリーダー」


 全ての責任を押し付けられて俺は吐きそうなぐらいのプレッシャーに襲われるのであった。


(か、神様お願いですぅ、今すぐ悔い改めますから全部やり直させてぇえええええええっ!!)


 人生二度目になる懺悔をしたが、厳しい現実が変わることはなかった。

 【読者の皆様にお願いがあります】



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[良い点] 「ガンバレー」「ウチノホコリヨー」 両親に笑いましたw [気になる点] 主人公かこれからどうなってくのかワクワクしてます。 [一言] 勘違い物が好きなのでこれから楽しく読ませていただきま…
[一言] 勘違い物を探していたところ、この作品を見つけました。一話毎の文字数が多く読み応えがあり、ストーリーもまだ物語の導入部ながらワクワクさせられる展開で期待大です。更新を楽しみにしています。
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