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リース国へ……行かなきゃ駄目?

「ここが冒険者ギルドか……初めて見るな」


「まるで酒場みたいだ……僕は入ったことないけど」


「私も初めてですよ、ドキドキしますねぇ」


「堂々としていればいいのだ、ただ登録を済ませるだけなのだから」


 テキナさんの言葉に頷きながら俺は手に持った勇者許可証を見つめた。

 

(まさかまた勇者に返り咲けるとはなぁ)


 全ては村に帰った時に始まったのだ。


 帰ってきたシヨちゃんを見て引きつった笑みを浮かべる村人をかき分けるようにして進んでいると声をかけられた。


「サーボ様、お久しぶりですっ!!」

 

 イショサ国の兵士が俺たちの家の前で待ち構えていたのだ。


 手には再発行された勇者許可証とイショサ国の王様からの手紙があった。


 手紙には大体の事情をカーマとセーヌから聞いたこと。


 俺たちに無理を言って拘束しようとしたことへの謝罪。


 功績に関する感謝と二度と行動を阻害しないから許可証をもう一度受け取ってほしいと書かれていたのだ。


 しかも再発行された許可証にはSランクの表示があった。


 一つの国を救済したのだから当然だ。


 ただその後の復興活動については色々と複雑そうな心境の文面が綴られていた。


(物凄く迷惑かけたからなぁ、魔王シヨちゃんが……)


 そして最後には冒険者ランクの登録を兼ねて一度冒険者ギルドを尋ねるように締めくくってあったのだ。


 冒険者登録証も勇者許可証も必要というわけではないが、受け取り拒否して兵士と三弟子を納得させるのも面倒だ。


 ならば取り合えず受け取っておいて、後で邪魔になればまた破き捨てればいい。


 だから俺たちはもう一度わざわざ王都バンニに引き返して冒険者ギルドの支部へと足を運んでいたのだ。


 全国展開されている冒険者ギルド……本部はどこにあるのか定かではないが魔法で情報は共有されているらしい。


 そのため支部でも登録は出来るのだ。


(まあじゃないと駆け出しの冒険者なんか本部を探すだけで力尽きそうだしなぁ)


「早めに終わったらプリスさんのところに顔出そうか?」


「別れたばっかりで恥ずかしいですけど……それもいいかもしれませんね」


「そうだね、まあ何はともあれ中に入って登録しようじゃないか」


 俺は皆を促して冒険者ギルドの中へと入って行った。


 カノちゃんの言った通り酒場に似た雰囲気で、複数の丸型テーブルと椅子が並んでいた。


 壁には指名手配所であったり依頼書であったり、いろんな紙が所狭しと貼られている。


 しかし復興したばかりということもあってか、冒険者の姿は見受けられなかった。


 ただ一人、正面の奥にあるカウンターで受付嬢が笑顔でこちらを見つめていた。

 

 年のころは二十歳になったばかりか、身長は俺より僅かに低い程度で長く伸ばした髪が艶やかだ。


 見た目も看板娘的な扱いを受ける受付嬢なだけにかなり整って見える。


「初めまして、冒険者ギルドへようこそっ!!」


「初めまして……俺たちは冒険者として登録しに来たのですが、手続きはどのようにすればいいのでしょうか?」


「はい、こちらで書類に記入して提出していただければ数日の審査の後にランクと共に証明書が発行されます」


(勇者登録に似ている気がする……いやどっちかが似たシステムとして流用したのか?)


「ちなみに何か本日までに何か功績等はございますか? できれば証拠の品と共に提出されると初期ランクが有利になります」


「実は我々はイショサ国において勇者と認定されておりまして……こちらの許可証を提出いたしたいのですが」


「えっ!? ゆ、勇者様っ!? し、失礼いたしましたっ!!」


 受付嬢の態度が露骨に変化した。


「魔物に襲われていたこの国を救済し復興させたという勇者様にまさかこんなに早く出会えるなんて……このミイア感激ですっ!!」


「あはは……そんな大したことはしておりませんよ」


「そんな謙遜ならないでくださいっ!! 冒険者ギルドでもこちらの支部が壊滅したと聞いて驚きが隠せなかったんですよっ!!」


 ミイアさんは本当に感心した様子を見せた。


「何せ現在このディキュウ大陸全体でも冒険者ランクの最高はAで、その人たちが数人登録していたんですよここ」


(それだけの実力者揃いの冒険者ギルドが落ちたとなれば、そりゃあ驚くしそこを救助した俺たちを尊ぶのも当然だなぁ)


「そうなんだぁ……へへ、実は僕たちSランクなんだよねぇ」


「見てくださいっ!! ほらSランクになったんですよっ!!」


「うわぁっ!! 私Aランク以上見たの初めてですよぉ……流石勇者様ですねぇ」


(すっごい尊敬の眼差しだ……けどもう三人娘で慣れてて何とも思えねぇ……)


「はは、まあともかく書類を書いてしまうので早速登録をお願いしますね」


「はいっ!! 任せてくださいっ!! 書き方等わからないことがあったらいってくださいね」


 ミイアさんの指示通り俺は書類を完成させた。


「じゃあ早速奥で転送してきます……ただ最初からSランクは前例がないから審査に少し時間がかかると思います」


「構いませ……」


「いえそれは困りますっ!! 実は我々はこの後ツメヨ国かリース国へ魔王軍を撃退に向かうところなのですっ!!」


(はぁっ!? な、何勝手に決めてんだっ!?)


「そうだよぉ、やっと復興支援が終わって一日だけ村で休んで出発するつもりだったんだよぉ」


「この国を襲った魔物が次に攻めるって聞いて守りに行かないとって、皆口に出さずとも同じ思いを抱いてたんです」


(抱いてねーよっ!! 俺は残る人生をあの村でムートン君と平凡に暮らすつもりだったんだよっ!!)


 最もそんなことを口に出したところでこいつらが止まるとは思えない。


 いや俺が真面目な顔で命令すれば従うだろう。


 しかしそうして長期滞在するのならこの王都バンニへ移動することが求められそうだ。


(どっちも嫌だぁっ!! けどどちらかといえば身の安全だけは確保できるこっちにいるほうがいいっ!!)


「い、いや皆……せ、せっかく……」


「い、今ツメヨ国って言いましたかっ!? あ、あそこには私の故郷がありますっ!!」


(んなことどーでもいいわーっ!! お前の故郷なんか知ったことかーっ!!)


 ミイアさんが血相を変えて詰めかけてくる。


「ほ、本当に魔物に狙われているんですかっ!! お、お願いです勇者様今すぐ守りに行ってくださいませっ!!」


「うん、もちろんだよっ!! 困ってる人を助けるのが僕たちの望みなんだっ!!」


(まだ被害を受けてないかもしれないでしょっ!! 困ってる人ならお前の目の前にいるだろここにほら気付けっ!!)


「あれから数か月たっちゃいましたもんねっ!! やっぱり休んでる暇なんかないですよっ!!」 


(誰のせいで復興が長引いたと思ってんだっ!! お前が暴走したからだろうがぁあっ!!)


「カノ、シヨ、そしてミイア殿も落ち着かれよ……行くか行かないか、今後の方針を決めるのはサーボ先生だ」


(て、テキナさんっ!? うぅ、そうかついに俺の想いを無意識でくめるまでに成長したんだねぇっ!!)


「よく言ってくれたねテキナさん……確かに三人の言葉は最もなのだが俺には別の考えがあるんだ」


「えっ!? ま、まさか勇者様は私の故郷をお見捨てになるのですかっ!?」


(当たり前だろバーカっ!! 助けたきゃ自分で行けよっ!!)


「ど、どういうことっ!?」


「さ、サーボ先生っ!? テキナさんっ!?」


「辛い結論かもしれないが受け入れよう……情に厚いサーボ先生だが冷静な判断力のもと我々より深く物事を考えて結論を出されたのだ」


 テキナさんが先ほどから俺に協調的だ。


(そういえば前に勇者の使命より俺のほうが大事だとか言ってたし……おお、これは何と心強いっ!!)


 これは後で少しテキナさんにサービスしてあげてもいいかもしれない。


「襲撃が予告されているのはツメヨ国だけではない……サーボ先生はリース国のほうが重大な危機だと考えておられるのだ」


(ってそういうことかーーっ!! テキナさんは俺にどっちを救いに行くのかを聞いていたのかっ!!)


 テキナさんの中で俺が助けに行かない選択肢はなかったようだ。


「で、ですが私の故郷が、ツメヨ国が襲われたら……ううん、同時に襲われる可能性だってありますよっ!!」


「安心してほしい、我らのサーボ先生は既に対策を考えておられるよ……先生は決して困っている人を見捨てたりはしないのです」


(考えてるわけねーだろーがぁっ!!)


 当たり前のように無茶ぶりしてくるテキナさん。


 やっぱりこいつが一番厄介かもしれない。


「さ、流石サーボ先生だっ!! 僕なんかもうツメヨ国のことしか考えてなかったよっ!!」


「そ、そうですよねサーボ先生っ!! リース国だって守らなきゃいけませんもんねっ!!」


「じゃ、じゃあサーボ様……ツメヨ国はどうなさるのですかっ!! その対策を教えてくださいっ!!」


(勝手に滅びろって言いてぇ……だけどこのままじゃミイアさん暴走しかねないなぁ)


「……ツメヨ国のほうが地理的には近い、そこには残る二組の勇者を派遣してもらえばいい」


 とりあえず目の前で感情的になっているミイアさんを落ち着けるために適当なことを口にする。


「ああ、あの二人も確かに同じことを聞いてましたもんねぇ」


「確かにあの二人はイショサ国での勇者としての評価をかなり気にしていましたから遠くへは行きたがらない可能性がありますね」


「だから僕たちが遠くのほうを守りに行こうってことかぁ……本当によくそこまで頭が回るなぁサーボ先生は」


(誰もリース国に行くなんて言ってない……けどそんなこと言ったら今度こそミイアさんが発狂しそうだぁ)


 下手に刺激して衝動的に攻撃でもされたらたまらない。


「そ、そうですか……他の勇者様が派遣されるなら安全……なんですよね?」


(行くかどうかまでは知らんけど、戦力で考えれば確実に俺らより安全だよ)


「少なくとも俺はそう考えている……ミイアさんは不満かもしれないけれど許してほしい」


「い、いえ私こそろくに事情も知らずに興奮してしまい……申し訳ございませんでした」


「ミイア殿安心してほしい、もしリース国を守り切ることに成功すれば帰る足でツメヨ国に寄ることもできるでしょう」


(はぁっ!? じょ、冗談じゃねぇっ!!)


「そーだよっ!! 僕たちのサーボ先生ならあっという間にどっちの魔王軍もやっつけちゃうから心配しないでよっ!!」


(ふざけんなぁっ!! 俺の身を心配しろよっ!!)


 完全に盛り上がってしまっている。


「ま、まあどちらにしてもまずは冒険者登録が終わってから行動したほうが……」


「大丈夫です安心してくださいっ!! ツメヨ国にもリース国にもギルドはありますから話を通しておきますっ!!」


 ミイアさんが力強く明言した。


 どうやらここで申請しておけばほかの支部で登録書を発行してもらうことが可能なようだった。


「ですから一刻も早くリース国を救い、ツメヨ国もお助けくださいっ!!」


 目が血走っている。


 否定しようものなら刺されかねない。


 余りの勢いに俺は頷かざるを得なかった。


「ではサーボ先生、早速出かけましょうかっ!!」


「時間がもったいない……プリスさんには悪いけどこのまま出ちゃおうっ!!」


「通り道に私の村がありますからムートン君と宝箱だけ回収していきましょうっ!!」


 三人も勇者としての使命を燃やして俺に迫ってくる。


 嫌だと叫びたかったがミイアさんに見られている状況では危険すぎた。


「ミイアさんイショサ国の勇者への伝令はお願いします……俺たちは今からリース国へ出発しますっ!!」


「おーっ!!」


「はーいっ!!」


「畏まりましたっ!!」


「わかりましたっ!!」


 四人の威勢のいい返事を背中に浴びながら、俺は泣き笑いしている表情を見られないよう一足先に走り出した。


(またこうなるのか……いつになれば俺は隠居できるんだよぉおおおっ!!)


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