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王座の間にて

 扉の向こうは瓦礫などでつくられた半円状のバリケードに覆われていた。


 どうにかしないと奥へは入れそうにない。


「だ、誰だっ!?」


「拙者はカーマだっ!! プリス様を連れて戻ったっ!!」


 バリケードの向こうの声に応えるカーマ殿。


 即座に奥が騒がしくなる。


「カーマ殿っ!! 今バリケードを開けますっ!!」


「馬鹿かっ!? あいつは敵だぞっ!!」


「セーヌ殿っ!? 敵かどうかは影を見れば判別できますっ!!」


「俺の言うことが信じられねーのかっ!!」


(おいおい、何やってんだよセーヌは)


 どうやら先に戻っていたセーヌがこの場を牛耳っているようだ。


 そして俺たちを敵だと断定している。


 恐らく抵抗しているのはカーマの仲間だった連中だろう。


「セーヌっ!! 貴様聞こえているぞっ!! どこまで愚かなのだっ!!」


「黙れ負け犬っ!! サーボなんぞに尻尾を振りやがってっ!!」


「……サーボ先生、力づくで打ち破り叩きのめすべきだと思いますが?」


「俺は何とも思わないからテキナさんは少し落ち着いて……カノちゃん、入り込めそうなところはないかな?」


 力づくで入ってもいいが、今の様子だと下手に刺激しようものなら攻撃されかねない。


「……こっちからいけそうだよ」


 姿を現したカノちゃんがバリケードの一部をいじると見事に人が入りこめそうな隙間が生まれた。


「ありがとう、流石は大盗賊カノちゃんだ」


「へへ……じゃあまた声かけてね」


 再びフードを被ったカノちゃんの姿が消えるのを確認してから、俺はカーマに声をかけた。


「まず皆と面識のあるカーマ殿が先行してください」


(入っていきなり切りかかられたらたまらないからなぁ)


「わかった……今そちらに行くぞっ!!」


 カーマが道を通り中へと入って行った。


「なっ!? か、カーマお前どこからっ!?」


「カーマ殿っ!! やはり影はありますね、セーヌ貴様っ!!」


「セーヌ、いい加減に意地を張るのを辞めよ……悔しいがこの場はもう我々では収めきれん」


「黙れっ!! あんな偽勇者に仕切られていいのかよっ!!」


 すさまじい口論が発生している。


 しかし斬りかかられたりする様子はなさそうだ。

 

 この隙に全員が内部へと侵入した。


(おおー、勇者チームを除けばものの見事に影のない人間ばかり……全部で20人で倍の40人かぁ)


 王座の間のはずだが妙に閑散とした空間に人が詰め込まれている。


 恐らく調度品などは全てバリケードに使ってしまったのだろう。


「み、皆の者……も、戻ったぞ……」


「ぷ、プリス様……」


 プリス様を床に降ろしたが、彼女は俺の後ろに隠れて顔だけ覗かせている。


 護衛兵たちはプリス様の影があることを確認して安堵とも落胆ともつかぬため息をついた。


(無事だったかぁってのと厄介な奴が返ってきたってのが入り混じってるのか……どっちが魔物だかまるで見分けがつかねぇ)


「どうだサーボ、お前この状態何とか出来るのかよ……どうせ何もできないんだろっ!!」


「いい加減にせんかセーヌっ!!」


「まあまあ、お二人とも落ち着いて……人間同士で争っても仕方ありません、ここは魔物退治を先にしてしまいましょう」


「だからどうやるんだよっ!! お前なら見分けられるってのかっ!?」


 セーヌの言葉にプリス様が俺に期待を込めたような眼差しを向けてくる。


(見分けなんかつくわけねーだろうが……俺を何だと思ってんだよ……)


「いえプリス様の時とは違い彼らとは面識がありません、ですから今すぐ見分けるのは難しいですね」


「だからそう言ってるだろうがっ!! お前はどこまで馬鹿なんだっ!!」

 

「……サーボ先生、このテキナそろそろ我慢の限界です」


 剣を抜いて殺気を全力でセーヌに叩きつけるテキナさん。


 セーヌはビビりながらも流石勇者と言うべきか臨戦態勢へと移行している。


 合わせるようにセーヌの仲間も警戒を強め、対抗するようにカーマ達も剣を抜けるよう構えだした。


「落ち着いてください皆さん、この混乱こそが魔物の狙いですっ!! もう一度言いますが先に魔物を退治してしまいましょうっ!!」


「だからその方法がないって言ってんだろうがっ!!」


「いえ、方法はありますよ……皆さんの協力があればですが」


(魔物を見抜く方法……じゃなくて魔物を退治する方法だけどなぁ)


「はぁっ!?」


 驚く周りの人々に向かい俺は再度協力を求める。


「流石サーボ先生、もうアイディアがおありなのですねっ!!」


「すごい、流石サーボ先生ですっ!!」


「けっ!! 嘘に決まってんだろっ!! どうせ女の前でいい格好しようとしてるだけじゃねえかっ!!」


「サーボよ……拙者は今回は従うと決めた、どうすればよいのだ」


「まずは申し訳ないのですが影のない方を全員拘束してください」


(俺からすれば影がない時点で敵なんだよ、安全第一だ)


 俺の発言に驚いたり反発の声が上がる。


「テキナさん、カーマ殿にお仲間の皆さま、そしてセーヌ殿……多少強引でもいいですから皆の拘束をお願いします」


「何で俺がお前の言うことを聞かなきゃいけねーんだっ!!」


「俺はあなたを信用しているからですよ……でなければ頼みませんよ」


(これぐらい持ち上げとけばいきなり切りかかられはしないだろう、多分)


「はぁっ!? 俺はテメーに信用されても嬉しくないねっ!!」


 子供のように意地をはるセーヌだったが邪魔だけはしなかったので何とか影のない全員を拘束することに成功した。


「これで次はどうするのだ?」


「彼らを隅へと隔離し、一組だけ俺たちのところへ連れてきてくれ」


(さぁて、後はいかに皆を納得させられるか……まあテキナさんたちが適当に持ち上げてくれるから何とかなるだろ)


「わかりました」


 指示通り一組だけが俺たち勇者組の前に引き出されてきた。


「さて、あなた方に伺いたい……どちらが本物ですか?」


「私が本物ですっ!!」


「私が本物ですっ!!」


 まるっきり同じ返事が返ってくる。


「さあ、ここからどうするんだ?」


「そちらの方が本物らしいですね……どうぞ剣をお渡ししますので偽物に止めを刺していただきたい」


(俺に近かったからなぁ、こっちでいいや)


「は、はぁっ!?」


 驚くセーヌの声を無視して片方の縄を解き剣を渡した。


「ふ、ふざけるなっ!? な、なんで私がにせ……ぎゃぁああっ!!」


「ふざけてるのは貴様だっ!! ど、どうですか私が本物だったでしょうっ!!」


(当たっちまった……まあこれはこれで問題ないな)

 

 見事に本物は偽物を殺し影を取り戻した。


「お見事です、ではこの調子でどんどん行きましょう」


「さ、サーボ……い、一体どうやって見抜いたのだ……?」


「ど、どうなってんだよおいっ!?」


(見抜けるわけねぇだろ……たまたまだよ)


 カーマとセーヌが呆然としている。


「当たり前だ、サーボ先生に見抜けぬはずがないっ!!」


「そうですよっ!! 少しは見直しましたかっ!!」


「……サーボ様……凄いです……」


「ああ、ありがたや……よくぞ私を信じてくださいましたぁ……うぅ……」


(お前ら本当に脳みそ詰まってんのか……どう考えても適当だろうが……)


 皆が俺にひれ伏すがこれは予想外の展開だった。


(外れてもいいように保険をかけてあっただけなんだが……まさかいきなり的中するとはなぁ……)


 俺はプリス様に化けた魔物を退治したときに気が付いたのだ。


 魔物も命は惜しいと考えているようだと。


 だから仲間と距離を置かれ正体がばれれば確実に命が失われるこの状態では相手を殺したりは出来ないはずだ。


 何せ人間側が死んでしまえば消去法で自分が偽物だと証明してしまうのだから。


 恐らく俺が魔物側に剣を渡した場合は色々と理屈をつけて有耶無耶にしようとしただろう。


 その場合はテキナさんに仕留めてもらうつもりだった。


 逆に今回のように人間側に剣を渡した場合はこの通りだ。


 自分に化けて我が身を脅かし不安にさせた魔物相手に容赦をするはずがない。


 正面から戦っても勝てないから我慢していただけで、相手が拘束されていれば当然のように止めを刺すのだ。


 最もここにいるのが民間人なら殺しへの抵抗が発生して話は変わっていた。


 しかしこの場にいるのは兵士、それも先ほどまで魔物との死闘を経験済みの歴戦の勇士ばかりだ。


 だからこのような手を取ることができたのだ。


 とはいえ例外はあるものだし、俺の思い通りにならない可能性もある。


 だからこそ他の奴らは一歩間違えれば同士討ちになりかねないこんな手を思いつかなかったのだろう。


(俺は全員を間違えて殺しても結果として魔物さえ全滅できればいいしなぁ……我ながら勇者の発想じゃない、辞めてよかったぁ)


「さあ次の一組を連れて来ましょう、ただしここで何をしているかは決してばらさないように……魔物に対応されても困りますからね」


「わかりました」


 新たな一組が来るたびに俺は同じ質問をして、適当なほうに剣を渡した。


「な、何を……ぎゃぁああっ!!」


「や、やりましたよっ!! 皆さん俺が本物だと分かったでしょうっ!!」


(五回連続正解……何だこれ?)


「お、おい……ぐぁあああっ!!」


「へへ……見てください、影が戻りましたよっ!!」


(二十回全部人間だとぉ……何でこんなことばっかり運が良いんだよぉおおっ!!)


 結局最後まで俺は人間だけに剣を渡してしまい、魔物を一掃することに成功してしまった。


 おかげで種明かしする暇がなかった。


「サーボ先生っ!! 最高ですっ!!」


「サーボ先生っ!! もうこのテキナ何と申してよいかわかりませんっ!!」


「凄い……サーボ様凄い……素敵……」


「ああ、私を本物だと信じてくださったこの感激……サーボ様万歳っ!!」


「「「「「「サーボ様万歳っ!!」」」」」」

 

(何故こうなる……いや本当になんでだよおいっ!?)


 王座の間に俺に対する称賛コールが上がる。


「さ、サーボ殿……その、拙者にもどうやって見抜いたかを教えていただきたく……」


「は、はんっ!! ど、どうせ偶然だろうがっ!!」


「セーヌ様……いくら何でもこれほど偶然が続いたりは……」


(続いちまったんだよこれがっ!! セーヌもっと言えっ!! 言ってくれぇえっ!!)


 セーヌとその仲間を除いた全員から熱い目で見られている。


(これは下手に誤解を解いたらやばいことになりそう……だが魔物への対策は教授しないといけないし、うぅ……お腹痛い……)


 敵の親玉を倒していない以上、また同じ魔物が湧いてくるのは明白だ。


 その時の為に対策を話しておく必要がある。


 仕方なく俺は正直に説明することにした。


「実は俺もはっきりと見抜けていた……」


「な、何の騒ぎであるか……?」


「お、王様っ!? 目覚められましたかっ!?」


(このタイミングで目を覚ますのかよぉっ!?)


 俺の言葉は強引に打ち切られ、全員の目が王様へと集中する。


「ち、父上ぇ~」


 プリス様が涙を流しながら駆け寄り抱き着いた。


「プリスか……すまないな、心配をかけた」


「うぅ……父上ぇ……わらわは……」


 親子の情を交わす二人。


(ああ、クソがぁっ!! 今はそんなことしてる場合じゃねえだろっ!! 早く敵の親玉を見つけ出さねーと不味いんだよっ!!)


 また影を取られたりしたら面倒なことになる。


「僭越ながらお尋ねいたします王様……俺たちはあなた様に毒を盛った犯人を捜しております、何か覚えはございませんか?」


「……お主は何者じゃ? 見覚えがないぞ」


「俺はサーボでございます……元勇者にて現時点においてはただのボランティアですね」


「……どういうことだサーボ?」


「我々は人助けの枷になりかねぬ勇者の称号は捨て去ったのだ」


「許可証はみんな置いてきちゃいました」


 俺たちの言葉を聞いてカーマは驚き、セーヌは嘲笑った。


「ははっ!! おい聞いたかよ、こいつ勇者取り消されたんだとよっ!! ついに化けの皮が剥がれたんだなっ!!」


「セーヌ……貴様、いい加減に黙らぬと幾らサーボ先生が許そうともこのテキナが全力をもって息の根を止めてみせるぞ」


「な、何を言ってるですかテキナさん……そいつのせいであなた方まで勇者許可証を取り上げられてしまったのでしょう?」


「私たちは自らの意志で置いてきたんですっ!!」


(ああ、ややこしいことになったわぁ)


 やはり勇者ということで通しておくべきだったかもしれない。


「よくわからぬがともかく勇者ではないのだな……ならば王宮への無断での侵入罪にて処罰すべきであるな」


(はぁっ!? このおっさんまで何ほざいてんだっ!?)

 

 王様の言葉により俺への称賛で満ちていたこの場の空気が一変してしまう。


「ち、父上っ!? な、何を言うのじゃっ!? さ、サーボさ……殿はわらわを……」


「法は法である……護衛兵よ、彼らを拘束せよ」


「お、お待ちくだされ王様、このサーボというものは確かに勇者であり……」


「ははぁっ!! 王様の命令だ、覚悟しろサーボっ!!」


(折角収まって来たのにまた大混乱だ……このおっさんわざとやってんのかっ!?)


 俺に助けられた負い目があるためか腰が引けてはいるが皆こちらへ向き直ってきた。


 唯一セーヌだけは意気揚々とこちらへと迫ろうとしてくる。


「くっ……こうなっては仕方ない、サーボ先生戦う許可をいただきたいっ!!」


「サーボ先生っ!! もうこの人たちを守っても仕方ないですよっ!! 逃げましょうっ!!」


「さ、サーボ……せ、セーヌも止さぬか、王様……今一度お考え直しを」


「父上っ!! どうしたのじゃっ!! さっきからおかしいぞよっ!! み、皆もこのような馬鹿げた命令に従うでないっ!!」


「おかしいのはそなたのほうだプリス……一国の姫としてあるまじき態度よ」


 王様に叱咤されたプリス様がびくりと身体を震わせる。


(どうしようもねえなぁ……逃げてえけど今回ばかりは魔物の親玉を退治しなきゃ不味いしなぁ)


 人に化ける魔物を生む親玉を放置するわけにはいかない。


 しかしこのまま時間がたてば王様の命令で全員が敵に回りかねない。


 その前にどうにかする必要がある。


 王様の意見を変えさせるか黙らせるかしなければ。


(或いは王様の発言力をそぎ落とすか……まあいつも通りでまかせでやってみるかぁ)


「プリス様、今のお言葉は本当ですか?」


「あ……え、ど、どういう意味……でしょうか……サーボ様?」


 俺に対しては一人の少女のような言葉を発するプリス様。


「先ほどプリス様がおっしゃった、王様の態度がおかしいという言葉だよ……実の娘が感じたその違和感に俺は思うところがある」


「て、テメー何を言ってっ!?」


「セーヌよ、話だけでも聞こうではないか……今までサーボは一度もミスを犯してはおらんのだからな」


「カーマ殿ありがたい、実は言いづらくて黙っていたのだが……改めて確認するけども偽物は内部工作を行ったと言っていたね?」

 

 俺の言葉に王宮内にいる何人かが頷いた。


「その行為には怪我人を陰に隠れて止めを刺したり、食料に毒を仕込んだりといった直接害を与える行為もあったんじゃないかな?」


「幾度かはあったが……皆が警戒するようになるとできなくなったようで止んだな」


「それがどうしたってんだよっ!! 時間稼ぎかっ!!」


(ある意味正解……考えながらしゃべってんだからあまり怒鳴らないでくれよ)


「……カーマ殿が状況に詳しく中立だと判断した上で聞く、何故一番重傷でありつつ重要人物であった王様は無事だったと思う?」


「み、見張りが居たから手を出せなかった……い、いや最初期の混乱時ならできなくはなかったはずだ……確かに妙だな……」


「……魔物の中には幻覚を魅せる者や人間に化けて誘惑する者もいた……影を取らず直接王様に化けれる奴が居てもおかしくはないと思わないか?」


 俺の言葉に王座の間が一気にざわついた。


「王様が魔物の親玉で気絶したふりをしているのなら襲われないのは当然だ……違うかな?」


「さ、サーボっ!! き、貴様王様に対して何たる無礼なことをっ!!」


「サーボとやら不敬であるぞっ!! 余を疑うとはっ!!」


「い、いや確かに魔物はプリス様にも……王女様にも化けたのだから可能であれば王様に化けないはずはないが……しかし……」


 カーマの言葉に頷いてみせる。

 

「影を奪う魔物は王様が倒れてから現れた……王様はこの場の混乱が収まりそうなタイミングで目を覚ました……」


「ぐ、偶然だっ!! 偶然にきまってるっ!!」


(だよなぁ、やっぱり……俺もそう思うわ)


 セーヌの言葉はもっともだ。


 俺だって本気でこんなことを思っているわけじゃない。


 あくまで俺が狙っているのは王様の発言権の低下だ。


 これだけ疑惑を生ませれば、そしてこの場における俺への信頼度を考えれば状況は停滞するだろう。


(本当に一時しのぎだ……この時間を利用して親玉を見つけ出さないとな)


「サーボとやら、お主の態度は許されぬっ!! 構わぬ、今すぐそ奴の命を絶つのだっ!!」


 王様の命令に、しかし誰一人従うものはいなかった。


 セーヌですら剣に手こそ伸びているがどうしていいかわからない様子だった。


「王様、不敬なのは重々承知です……ですがこの場を収めるためにも改めて情報を提供していただきたい」


「くっ……何が望みなのだっ!!」


「まずは王様が魔物の襲撃から毒で倒れるまでどのように行動してきたかをお伺いいたしたい」


(毒を仕込んだのが敵の親玉……とも限らねぇけどもう他に可能性が思い浮かばん)


「そのような事はプリスや他の者にでも聞けばよかろうっ!!」


(おいおい、父親なのに実の娘の性格も知らねーのかよ……弱ってるからともかく、普段のそいつは説明なんかしねーよ)


「父……上……違うっ!! 父上はそのような事は言わぬっ!!」


 俺の感じた違和感をプリス様も感じたようでこちらへと駆け戻ってくる。


「なっ!? ぷ、プリス……そのような男に惑わされるとはっ!! もうよいわ、構わぬからまとめて始末せいっ!!」


「サーボ様っ!! 私はあなた様のお言葉を信じますっ!! あれは父上ではありませんっ!! て、敵ですっ!!」


(いやいやいや、緊急事態で混乱してる可能性だってあるだろうがっ!! お前だって普段と態度がまるで違うだろっ!!)


 プリスの言葉にこの場にいる全員の目が俺に集中する。


「サーボ先生……如何なさいますか?」


「サーボっ!! て、テメーまさか王様を攻撃したりしねーよなっ!!」


「サーボよ……拙者はもう何もわからん、お前に託すぞ」


「サーボ先生……」


「サーボ様……お願いします……」


「サーボ様ぁ……」


「サーボぉっ!! 貴様ぁっ!! 我が娘はおろか余の命まで奪うつもりかぁっ!!」

 

 全ての責任が俺一人に集中する。

 

(胃が……胃が痛いぃいっ!! どうしてこんな究極の選択を迫られるんだっ!! ああ、俺が馬鹿で無能だからだよぉっ!!)


 状況の停滞を狙った俺の作戦は、プリス様の一言により予想もしない展開に至ってしまった。


 自らの作戦ミスを嘆くが、もはやどうしようもないところまで来ている。


 仮に王様が本物だとしてもここまで嫌われてしまえば助けたところで処刑されるのが落ちだ。


 だとすれば自らが大事な俺としては……自分の命の為なら全てを踏みにじれる俺がとる選択は一つだけだった。


「……お命、頂戴いたします」


 俺は静かに宣言すると、剣を王様へと突き付けた。


「て、テメー狂ったのかサーボっ!!」


「この責任は俺にだけある……間違いだったらそのあとで断罪すればいい……だからセーヌ殿邪魔だけはしないでくれ」


(本物だとしても殺しておけば命令系統は混乱、どさくさに紛れて逃げれば処刑は免れる……凄まじく気が進まないけどな)


 もはや魔物の親玉探しをする余裕は無くなった。


 こうなったら俺自身の命を守ることが最優先だ。


 逃げ出す隙を作るしかない。


「そんなわけにいく……カーマぁああっ!!」


「我々は何もできなかった……こうなってはサーボに託すだけだ」


 カーマがセーヌを抑えこんだ。


 仲間の勇者たちも兵士もどうしていいかわからない状態だ。


 その隙に王様へと近づこうとした俺の前にテキナさんが進み出た。


「サーボ先生のお言葉ならばこのテキナ……仮に本物の王様であっても、戦わせていただきます」


 俺の発言を信じていると身体で表すために、テキナさんは危険な役を買って出てくれたのだろう。


「ありがとうテキナさん……やってくれっ!!」


(よぉし、こいつが切りかかると同時に逃げ出そうっ!!)


「行きますっ!!」


「くぅ……くははははははははっ!!!!」


 テキナさんが近づく前に王様、に化けていた魔物は力強く跳躍すると天井へと張り付いて見せた。


「まさかなぁああっ!! お人好しである勇者に見抜かれるとはなぁあああっ!!」


(ほ、本当に魔物だったのかよぉおおっ!? ま、まあ結果オーライっ!!)


 内側から服がはじけ飛び、魔物としての本性があらわになっていく。


「……ヴァンパイアかっ!!」


 黒を主体とした蝙蝠が人の形をとったかのようなフォルム。


 獣のような毛皮と筋肉質な身体、鳥よりも鋭く精悍なる翼。


 そして口元から長く伸びた犬歯。


 身長にして3mほどはありそうな巨体が王座の間の天井に重力を無視するように立ち尽くしている。


「な……ま、まさか……」


「貴様っ!! 王様はどうしたのだっ!!」


「はっはっはっ!! 一人娘を逃がそうとのこのこと王宮の外に出てきたのでなぁ、殺して入れ替わったまでよぉっ!!」


「あ……あぁああああっ!! うぅぅううううっ!!」


 魔物の発言を聞いてプリス様は絶叫し崩れ落ちてしまう。


「しかしまさか勇者を連れて戻るとは思わなかったぞぉっ!! くはは……せっかく全滅させて一気に昇格できるかと思ったのになぁ」


「昇格ねぇ……ちなみにあなたはどれぐらいの地位なんですかねぇ」


 少し余裕が戻ってきた俺はそれとなく情報を引き出そうと試みることにした。


「偉大なる魔王様の下に居る四人の最高幹部、その直属の部下がこの私ヴァンヴィル様だっ!!」


(役職を名乗らない……要するに下っ端っすね)


「皆戦闘態勢に移れっ!! セーヌよ、もう意地を張っている場合ではない……全員で確実に仕留めるぞっ!!」


「くぅぅっ!! お前ら、やるぞっ!!」


「サーボ先生っ!! 我々も戦闘に加わりましょうっ!!」


「まあそれはそうだけど……ヴァンヴィル様、一応聞いておきますけど降伏しません?」


「さ、サーボ先生っ!?」


 シヨちゃんの困惑じみた声に皆が同調したように俺を見た。


 しかしこんな状況滅多にない。


 勇者パーティが勢ぞろいしているのだ。


 今ぐらいしか余裕こいて交渉などできそうにない。


(少しでも魔王軍の情報が欲しいところだからなぁ)


「さ、サーボお前っ!! プリス様の気持ちを考えれば降伏など受け入れられるはずが無かろうがっ!!」


(あ、完全に忘れてたわ……)


 カーマの言葉はどうしようもなく正論だった。


 確かにこの状況でプリス様の父親を殺した相手の投降を受け入れるわけにはいかない。


 仕方なく発言ミスをフォローすべく適当な言い訳を考えた。


「あー……えー……ひょっとしたら生存者がいて捕らえられている可能性があるんだっ!! だからその情報を……」


「他の魔王軍の奴らかぁ……あいつらは俺と違い下っ端過ぎて人の命を奪う権限すらなかっただけだっ!!」


(あれ、こいつ意外とちょろい? わざわざ降伏させなくても色々としゃべってくれそう)


 誘導尋問するまでもなくぺらぺらと情報をお漏らししてくれる。


 好都合だ、どんどん調子に乗らせて色々聞きだしてやろう。


「くぅなんて残虐なぁっ!! そんなお前の上司の名前は何というのだぁ!?」


「ふはははっ!! 偉大なる大地を司りしチーダイ様こそが我らの指導者よっ!!」


「お、恐ろしーっ!! そしてそのチーダイ様の同格者は何名居てなんていう名前ですか?」


「炎のエンカっ!! 水のスーイっ!! 風のフウクっ!! 彼らの上には魔王様がおるだけよっ!!」


「ああ、なんてことだー」


 俺の棒読みっぷりにも気付かず高らかにご機嫌に語るヴァンヴィル様。


 他の奴らも何となく俺がしていることに気づいたらしい。


「そ、そんなぁ偉大なるヴァンヴィル様の上司チーダイ様他三名の拠点はどちらにあるんですかぁ?」


 シヨちゃんがまず最初に乗ってきた。


「ふはははっ!! それぞれこの世界の東西南北の端に位置する小島に本拠地を作ってあるのだっ!!」


「東西南北ですねぇ……」


 返事を聞いて露骨にメモを取っている。


「な、なんということだぁ……愚かな人間には想像もつかない魔王様の目的は何なのだぁ?」


 カーマも乗ってきた。


「魔王様は全ての生き物を使い捨ての玩具として考えているっ!! しかし我ら魔物族は便利な道具として生かしてもらえるのだっ!!」


「……自慢げに言うことか?」


 俺を見て首を傾げる。


「ちぃ……どうやって戦えばいいかわからない化け物めぇ、貴様らの次の狙いはどこなのだぁっ?」


 セーヌもあほくさそうにしながらも乗ってきた。


「この勇者が居る大陸を狙って進行中なのだぁっ!! 今頃はツメヨ国かリース国に新たな魔王軍が迫っておるわぁっ!!」


「……俺はこんなのに踊らされてたのかぁ」


 思いっきり凹んでいる。


「ああ、ええとその……ま、魔王軍はえっとすごい魔王軍の魔王はその、げ、元気ですか?」


 真面目過ぎるテキナさんは乗ろうとして失敗した。

 

「っ!? いい加減にしろ貴様らぁあっ!! 馬鹿にしおってぇええっ!!」


 どうやら玩具にされていることに気づいてしまったようだ。


「み、皆すまない……私はこういうことは苦手で……」

 

 テキナさんは恥ずかしそうにうつむいた。


「……ふふ……皆さん……おバカですね……」


 プリス様は目の前のくだらないやり取りを見てほんの少しだけ微笑みを取り戻した。


「もういいわっ!! 全員この手で叩きのめしてくれるっ!!」


 ヴァンヴィル様が床に着地した。


「はぁああっ!!」


「うぉおおっ!!」


「おりゃぁっ!!」


「……っ!?」


 即座にテキナさんとカーマ殿とセーヌ殿が文字通り目にもとまらぬ速さで切りかかる。

 

 一瞬で全身がバラバラに解体されて地面に崩れ落ちるヴァンヴィル様、哀れ過ぎる。


(あーん、ヴァンヴィル様が死んじゃったぁ……物凄く扱いやすい奴だったのになぁ)


「……く、くははわ、む、無駄だぁ私はこの程度では死なん」


 と思ったら身体をくっつけて再生を始めたヴァンヴィル様。


 ちょっと応援してあげたくなる。


「「「「「「闇を打ち払う閃光よ我が名により力と成せ、聖輝光(シャイニング・レイ)」」」」」」


 カーマとセーヌの仲間が詠唱した魔法が同時に発動した。


 ヴァンヴィル様が悲鳴をあげる間もなく激しい閃光に包まれ、パチンと弾けた。


 後にはもう塵一つ残っていなかった。


 もう一回ぐらい無駄だと言ってほしかったが二度とヴァンヴィル様が声を上げることはなかった。


(さよならヴァンヴィル様……うーん、恐ろしいなぁ勇者パーティの総力)


 真っ向勝負なら相手にすらならない。


 これでとりあえずは解決したと言っていいだろう。


「終わりましたねサーボ先生」


「うぅ……なんか私またお役に立っていない気がしますぅ」


「僕だって結局殆ど隠れてた意味なかったよぉ……ああ尋問してみたかったなぁ」


「まあ念のため残党が居ないか、もう影がとられたりしないか……少しの間残って様子を見ようじゃないか」


 ようやく肩の力が抜けてきた。


 あとは安全を確認して村に帰るだけだ。


「ふぅ……今回ばかりはサーボ、お前のお手柄だ」


「ちっ……どうせ偶然だろ、俺は認めねーからなっ!!」


「サーボ様、そして他の勇者の皆さま方も本当にありがとうございましたっ!!」


 カーマの珍しい賛辞とセーヌの負け惜しみ、そして兵士たちの感謝の言葉が響く。


(いやセーヌの言う通り本当にただの偶然なんだけどなぁ……まあ気分いいから言わねえけど)


「……父上……サーボ様……私は……これからどうすれば……」


 最後にプリス様が悲しみに満ちた声を漏らした。


(崩壊した王国に一人残された王女様か、まあこれから大変だなぁ……俺には関係ないけどな)


「犠牲者のご冥福を祈りつつ王都を再建しなければいけませんね」


 完全に他人事なので無茶ぶりしてやる。


「だけど……私……何もできない……皆だって……きっと……私なんか……」


「ぷ、プリス様……わ、我々は……」


 兵士たちもしっかりと返事をすることはできない。


 ここまで崩壊してしまったのだ。


 まともな給料だって払えるのかわからないのに付き従うと言えるはずもない。


「サーボ先生……何とかなりませんか?」


 テキナさんが同情的な視線を向けてくる。


(俺は何でも屋じゃねぇ……大体そういう指導者に向いてるやつがそうそう……いたわ)


「……シヨちゃん、君の才能を生かしてみないかい?」


「え……えぇっ!? そ、それってっ!?」


「プリス様、暫く俺たちもこの国に残り再興を手伝いたいと思います……許可を頂けますかな?」


(王都を立て直さないと通商もままならんしなぁ……どうせもうこの領内は安全だし何処に居ても変わらんだろ)


 何より復興している間は危険な勇者らしい活動をしなくて済む。


「サーボ様……うぅ……あ、ありがとうございます……皆さまも……よろしくお願いいたします」


「わかりました、このテキナできることがあれば何でもやらせていただきます」


「はーい、僕もできる限り頑張っちゃうよー」


「え、えっと……じゃあサーボ先生、早速仕切っていいんですよね?」


「ああ……みんなで力を合わせてこの国を復興しようじゃないか」


(まあ俺は適当に力抜くけどなー)


「悪いが拙者は一度イショサ国へ戻らせていただく……勇者として報告しなければならないことも多いからな」


「プリス様、評価シートのほうイショサ国へ送っていただくことをお忘れないように」

 

「駄目ですーっ!! 勇者なんだから困ってる人を見捨てちゃ駄目じゃないですかーっ!!」


 帰ろうとしたカーマとセーヌをシヨちゃんが呼び止めた。


「い、いや拙者らは国の再興などできる能力は……」


「力があれば瓦礫処理でも何でもできますー」


「し、シヨちゃん……俺たちは勇者としてやるべきことが……」


「もう一度言いますが困っている人を助けるのが勇者ですぅー、やらないなら評価シートは最低評価になりまーす」


 ビシバシと二人の言い分を切って捨てて、早速シヨちゃんは国の立て直しを始めたのだった。

 【読者の皆様にお願いがあります】



 この作品を読んでいただきありがとうございます。

 

 少しでも面白かったり続きが読みたいと思った方。


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