いざ王都へ……行きたくないけど行くしかない
「サーボ先生、やはり前回の拠点が最後だったのではないでしょうか?」
「四つの拠点をつぶしてからまだ五日、だけど確かに襲撃は零になったからねぇ」
「明らかに後半は魔物たち目に見えて混乱してたからね……しかも他の村の人たちも解放されたみたいだし」
俺たちが潰していた拠点の魔物はどうやらここだけじゃなく他の村々も襲っていたらしい。
親玉を倒したことで今までと同じように解放された村人が住むところを求めてこの村へやってきたのだ。
その保護と管理をシヨちゃんに任せて俺たちは敵の拠点を潰して回った。
潰した拠点はそれぞれ属性が偏っていた。
やはり魔王軍の勢力は炎、水、土、風で間違いがないようだ。
その全てを同じようにモグラたたきして潰したことでついに魔物の襲撃が無くなったのだ。
「助けられた村人たちみんな物凄く感謝してましたねぇ……だけど私が指導するとみんな引きつっちゃうんですよぉ?」
(当たり前だろうが……この独裁者が)
周りを通る村人がシヨちゃんを見るたびに軽く震えながらも背筋を伸ばし敬礼して立ち去っていく。
シヨちゃんの独裁者生活は絶好調だ。
飴と鞭を見事に使い分け、新たに来た村人すら余すところなく統率し開拓を推し進めた。
農場や牧場などの開設も指導している。
特に牧場はムートン君の例を生かして野生の魔物の飼育を成功させてしまった。
魔物は図体がデカいこともあり似たような動物を飼うより収穫も多くなる。
おかげで収益効率は爆上げだ。
信じられないことに計算上はこの数日で難民を含めた全員が生活していけそうなレベルまで跳ね上がっている。
おまけに私欲を満たしたりすることがほぼないため、日増しに誰も逆らえなくなっていっている。
(指示は的確で素早く、逆らえば厳罰だが言う通りにしてれば成果は上がり生活も潤い安全も保障される……そりゃあ逆らえんわなぁ)
結果として村人から俺たちへの信望はどんどん分厚くなり、もはや信仰心すら生まれ始めている。
「サーボ様ぁ……ありがたやありがたや」
「ご年配のお方よ頭を上げてください」
(流石にここまでくると居心地が悪い……まあ暮らしていけるんだから文句はないんだが)
「もうこの辺りの村は平気でしょう、そろそろ王都バンニへ様子を伺いに向かいませんか……こ、子供が土下座などしてはいけないぞ」
「そうだよね、一体王都がどうなってるのか全く情報が来ないんだもん……や、止めてぇ大人が僕なんかを拝まないでよぉ」
カノちゃんとテキナさんも同じことを感じているのか日増しに移動を訴える声が強くなっている。
「そうですねぇ、私の指導も行き届きましたし一時的に離れてももう平気ですよ……ご苦労、行って良し」
シヨちゃんは居心地こそ良さそうだが、自らの成果に満足しているのか移動には前向きだ。
(冗談じゃない……せっかく安全で安泰な生活が保障されかけているのに何で危険に飛び込まなきゃいけないんだよ)
「いや何が起きるかわからない以上はもう少し安全を確認すべきだ……投げ銭はいただけません、止めてください」
「そ、そうですか……サーボ先生がそうおっしゃるのでしたら……しょ、食物も足りておりますので」
「じゃ、じゃあ今日もみんなで一緒に寝ようね……あうぅ、そんな貢物受け取れないよぉ」
「えへへ、なんだかんだでみんなで寝るの楽しいですもんね……踏んでほしいんですかぁ、仕方ないですねぇ」
少し歩くだけで村人に呼び止められてしまう。
「ムートン様ぁ、どうぞお食事です……ああ、ふっかふかだぁ」
「めぇええっ」
ムートン君もまた絶好調だ。
実は魔物同士で意思の疎通ができたようで、魔物の家畜化へ多大な貢献を果たしたのだ。
おかげでムートン君は村人から愛されて手厚く飼育されている。
そのうえで偉ぶらず逆に近づく人々を自慢の羊毛で癒している。
俺の自慢のペット……いや仲間だ。
(うんうん……流石ムートン君だ、俺も鼻が高いよ)
ついつい後ろから眺めて頷いてしまう。
このように多少の居心地の悪さこそ我慢すればここは俺たちにとっての理想郷となりつつあった。
「……毎日三人で寝てるんですって」
「……夜のほうも立派なのねぇきっと」
「……私たちも一度でいいからお相手されたいわぁ」
(残念、夜のほうも無能だよ……経験ないからわからんけど恐らく)
ちなみに時折陰から村娘の黄色い声が聞こえるが見てはいけない。
露骨に三人の機嫌が悪くなるからだ。
「……ふん」
「……ちっ」
「……ぬぅ」
実際に同じ声を聞いただけでカノちゃん、シヨちゃん、テキナさんの口から何か漏れている。
もちろん聞こえないふりをする。
男性陣からも三人に対して同じような感想が聞こえているがこっちは誰一人反応すらしない。
しいて言えばシヨちゃんが次の日に体罰しようとか企むぐらいだろう。
(いい加減一人で寝たいなぁ……うぅ……ムートン君が羨ましい)
毎日美少女三人に密着されて一カ所にまとまって寝ている。
しかもだんだん行動が大胆になってきている。
腕枕するのは当たり前、服の中に手を入れられ体中撫でまわされたりしている。
流石に下半身は何とか守り切っているが顔やら髪の毛やらは弄られまくっている。
この間は目を閉じている間に誰かはわからないがキス寸前まで迫られた。
(い、いい加減俺も限界だよなぁ……時々俺も三人の身体を触りたい衝動が湧いてくるし……きついぃ……)
もうこのまま隠居するのなら手を出してもいいのではとすら考えてしまう。
だけどいずれ覚める夢に溺れられるほど俺は強気にはなれない。
こっちからばらす気はないが、いつかは俺の正体がばれる日が来るはずだ。
その時に殺されてしまわないためにも、言い訳できるように最後の一線は超えないでおきたい。
(はぁ……本当にどうにかならないかなぁ)
トボトボと自宅へと向かった俺たちを見張り番の悲痛な叫び声が呼び止めた。
「シヨ様、サーボ様っ!! 負傷者が近づいてまいりますっ!!」
(俺が二番目に呼ばれてる……恐るべしシヨちゃん)
「はーい、今行きまーすっ!! また人口が増える……代わりは足りてるしそろそろ危険事業に手を出しても……」
何やらシヨちゃんが恐ろしいことを呟いている。
「ま、まあまずはどんな人か確認すべきだ……万が一にも魔王軍の手先に侵入されるわけにはいかないからね」
(とは言っても流石に人間が魔物側に着くとは思えないけどなぁ)
かつて暴れまわった魔王の最終目的は全ての生物の殲滅とも、あらゆる生命の奴隷化とも言われていた。
魔物すら例外ではなく、誰もかれもが怯えながら従事していたと聞いている。
だから当時は人間が魔物と協力することなどはなかったらしい。
(とはいえ例外というものはあり得るからなぁ……注意しないとな、俺の安全の為に)
「それでこっちに向かっているのはどんな人なんだい?」
「それが……何やら鎧を身に纏っておりまして、兵士なのでしょうか?」
「……それはそれは」
(うわぁ、ものすごく厄介ごとが舞い込む予感がするぅ)
事実目の前に現れたのは血まみれになった兵士のようだ。
村人に確認したところ確かにバンニ国の兵士で間違いないようだ。
「まずは治療してあげよう、テキナさん回復魔法をかけてあげて」
「はい……光の祝福の元に正常なる形をとりもどせ、回復」
温かみを感じる淡い緑の輝きが兵士の身体を包み込むとあっという間に傷は塞がった。
「た、助けてくださりありがとうございます……まさかこのような要塞が存在しているとは思いませんでした」
「いえ、全てはシヨ様……ではなくサーボ様御一行のお陰です」
あえて村人に説明させる。
俺たちが直接功績を口にするより信頼性が高まるからだ。
村を野盗から救ったこと、防備を固めたこと、さらに敵の本拠地をつぶしたことが伝えられる。
「おお、そうでありましたかっ!! ここの所、敵の増援が劇的に減っていたのはそのためでしたかっ!!」
頭を下げて感謝される。
(よしよし、これでこいつも俺の親衛隊の一人にできそうだなぁ)
「ええ……あなたは王都バンニからやってきたのですか?」
「は、はい……今あそこは酷い状態になっております」
兵士曰く、やはり魔王軍の侵攻が始まりほぼ陥落寸前まで迫っていたようだ。
大地を埋め尽くし空を覆うほどの魔物の軍勢の侵攻。
さらには内部に侵入した女性型の魔物による誘惑と錯乱攻撃。
風属性の魔物による幻覚からの同士討ちの誘発。
これらにより屈強な防備も打ち破られ、実力者たちもどんどん敵に取り込まれたり倒されたりしていったらしい。
(おおう、まさに総攻撃……ヤバすぎるなぁ)
「それでも私たちは王女様を国外へと脱出させ救助を呼んでもらい、王様を守りながら王宮の一角で防衛戦をしておりました」
「プリス様ですね……彼女なら勇者たち二チームを護衛にしてそちらに戻ったはずですが?」
「は、はい……駆けつけた彼らの活躍と敵の増援が途絶えたことで一時は王都から魔物は殲滅され、復興も視野に入りかけておりました」
(俺たちが援軍を絶ったとはいえ、地平を覆うほどの魔物の群れをせん滅できるのかよ……やっぱり敵に回したくねぇ)
流石は有力者八名のチームだ。
地力が違いすぎる。
(個々の才能じゃ俺以外負けてないだろうが……戦力という意味ではあっちのほうが上っぽいなぁ)
「視野に入りかけていた……ということは今はまた新たな火種が発生しているということか?」
「は、はい……それが味方に化けた敵が入り込んできまして、誰が誰か見分けがつかない状態となり……生存者同士での争いが」
(おいおいおい、それってこいつも魔物が化けてる可能性があるってことかっ!?)
「魔物が化けるとは具体的には……そして見分ける方法は全く無いということですか?」
答え次第ではこいつは追い出そう。
(と、いうかちょっとまて……今まで助けた村人の中に入り込んでいない可能性がないとも言い切れないぞっ!?)
ゾッとする。
ちょっとシャレにならない。
「はい、恐らくはですが人の影を奪うことで化けているようでして……気が付くと影のない同じ人間が二人になっているのです」
ちらっと兵士の影を確認してあることにほっとする。
(いや、まあこいつの話が事実とは限らんけどなぁ)
「能力こそ変化しませんが見た目や性格はそっくりでして、殺してしまえば正体が判明して影も戻るのですが……」
「どちらが本物かわからずに仲間同士で意見が分かれたり、間違って殺害してしまったり……ですか?」
「はい、また影を奪った魔物も奪われた側も疑念を晴らそうとお互いを殺そうとして、庇った者とも争ったり……」
なかなか狡猾な作戦をとるものだ。
「かといって一時保留にしておけば内部工作を行い内側から甚大な被害を……やはり何名か犠牲も出ました……」
「影を取られると言いますが、対策はないのでしょうか?」
「影を取られたところを見たものが居ないので何とも言いがたく……逆に言えば人目さえあれば平気なようですが……」
(とんでもないなぁ……そんなのがこの村に来られたらお終いだぞ……)
「今では生存者の殆どが影を取られ、むしろ影在りの人間が敵を招き寄せたなどと言いがかりをつけられ……逃げ出してきた次第です」
(恐らく言いがかりをつけたのは魔物だろうなぁ……そして魔物の総数はぴったり半数なわけで意見が強制的に採用されて……)
これは純粋な戦力ではどうしようもない。
流石の勇者たちがこれだけ時間をかけても解決できないわけだ。
「サーボ先生……いかがなさいましょうか?」
「とりあえずシヨちゃん、村人全員に影の確認及び情報を周知して絶対に一人にならないよう伝達……影のない奴は問答無用で隔離で」
「はい、わかりましたっ!!」
「つぎに君、いきなりで悪いが検疫代わりに一時隔離を指示する……この件が終わるまで我慢してくれ」
(無いとは思うが病気みたいに無症状でも人から人に伝染するタイプだと困る)
その場で話を聞いていた村人数名に指示して、山賊を拘束していた民家へと兵士を連行してもらう。
(しかしこんな水際対策じゃどうしようもねぇなぁ……王都が全滅して敵が本格的に来たらお終いだ)
ぶっちゃけ俺だけなら影を失ったやつを片っ端から殺していけばいい。
だが人々と暮らしている状態でそんなことをすれば人心を失い追い出されるのが落ちだ。
かといって一人で暮らしていれば魔物に殺されかねない。
(別の国に逃げるか、元を絶つか……どこまで逃げてもジリ貧だなぁ)
もっと詳しい詳細を、できれば対策を発見しなければ人間社会などあっという間に崩壊してしまう。
だとすれば元凶が世界中に広まる前に動いたほうがいい。
この異変の始まりの場所で情報収集及びできるならば完全に討伐しておくべきだ。
(本当に……心の底から嫌だが……行くべきだな)
「カノちゃん、テキナさん……出発の準備をしよう」
「行かれるのですね、王都バンニへ」
「わかったよ……僕たちの手でまた異変を解決しちゃおうっ!!」
「シヨちゃんにも会ったら伝えてくれ……どうせなら早いほうがいい、準備ができ次第全員で出発するっ!!」
(才能が明らかになった今、役に立つかもしれんしシヨちゃんも連れて四人で行くか……魔王軍退治)
俺は初めて自分の意志で、魔王軍へ立ち向かうことを決意した。
「うんっ!! 急いで準備してくるよっ!!」
「ええっ!! 速やかに出立の準備をいたしますっ!!」
弟子たちの準備、とは言っても鋼の剣と旅の必要物資を持って人力車を動かせるようにするぐらいだ。
俺自身も村人に見知らぬ人間は出来る限り中に入れないよう指示するぐらいしかやることはない。
あっという間に準備が終わり、俺たちは村の入り口に集合した。
「サーボ様ぁっ!! 死なないでくださいねぇっ!!」
(当たり前だろうがっ!! 絶対に死んでたまるかっ!!)
俺に向かって村人のほぼ全員から声が上がる。
「カノ様っ!! 頑張ってくださいっ!!」
「うん、僕頑張るからみんなも頑張ってねっ!!」
カノちゃんに子供を中心にした村人達から声援が届く。
「テキナ様っ!! 敵を倒してきてくださいませっ!!」
「ああ、必ずや魔王軍は打ち払って見せるともっ!!」
テキナさんに大人を中心とした村人たちから懇願が飛んだ。
「……シヨ様万歳、万歳、万歳」
「あれれぇ、私だけ声がちいさくありませんかぁ?」
「シヨ様ばんざあああああああああいっ!! 行ってらっしゃいませ我らの偉大なる指導者様あぁあああああっ!!」
シヨちゃんに村の全員からやけくそじみた大声援が発せられた。
「はーい、シヨ行ってきまーすっ!!」
そんな村人たちの後押しを受けながら俺たちは王都バンニに向けて旅立った。
(物凄く嬉しそうだな村の奴ら、誰か一人ぐらい止めると思ったが……まあ独裁者が自ら旅立つんだからそりゃあ嬉しいか)
「へへ……また戻ってきたいね」
「うむ、魔王軍を討伐し終えた暁にはまたここで宿泊するのもいいかもしれないな」
「そうですね……ちょっとまだ締め付け足りなかったかもしれませんしねぇ」
「あはは……まあ俺たちの家もあるしたまに休むのも悪くないね」
(というわけだ悪いな村人諸君、近いうちに戻ってくるぞ)
帰って来たときの村人たちの反応を思うと、今から笑えてくる。
(絶対に生きて帰ろう、こいつらを連れて……うーん、村人たちの引きつった笑顔が今から楽しみだなぁ)
歪んだ理由からだが俺はもう一つの初めてとして……誰かと共に帰ろうと思った。
道中に敵はなく、テキナさんの操る人力車はあっという間に目的地へとたどり着いた。
(さて、鬼が出るか邪がでるか……行ってみますかっ!!)
覚悟を決めて俺たちは王都バンニへと足を踏み入れていった。
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