魔王との死闘……がこんなんでいいのか?
『ふははははっ!! よく来たなぁ、歓迎するぞっ!!』
身体中を包んでいた輝きと浮遊感が収まると同時に、妙に響く不可思議な声が聞こえてきた。
(これは魔力で無理やり発声してるのかこれは……しかし何でそんなことを……?)
疑問に思うが、すぐに目の前にいる存在に気づいて自己解決する。
そいつは小山ほどの大きさ煙が人型をしているようであり、全身が闇そのもののように黒くなっている。
そして目の部分だけに怪しい輝きをまとわせて、こちらを見下していた。
(魔力の塊……へぇ、魔王ってのはこんな奴だったんだなぁ……)
少し驚くが、よくよく考えれば魔王の配下自体も魔力で作り出された存在だ。
ならばその頂点に立つ奴が魔力そのものであるのは自然の理屈かもしれない。
(実体がないってんならそりゃあ普通にはしゃべれねぇわなぁ……まあどうでもいいから……俺の未来のために死んでくれやっ!!)
『我こそがこの世界に滅びを齎す闇の化身、すなわち魔お……』
「十文字斬っ!!」
『なぁ……ぐはぁああっ!?』
とりあえず余裕ぶっこいて隙を晒している魔王に一撃を叩きこんでやる。
あえて魔法剣や強化魔法を使わず即座に切りつけたおかげで、魔王は避けることもできず直撃を喰らうことになった。
そして俺の全力ではないがそれなりの一撃は、魔王の身体に大きく十字傷を刻み付けた……がすぐにその身体を構成する闇に包み込まれて消えていった。
(なるほどなぁ、魔力の塊だから傷付くというか魔力を散らすって形になるわけだ……んですぐに減った部分は違う箇所から補われると……)
つまり魔王の身体を構成する文字通り山のような魔力を枯渇させなければ退治は出来ないということだ。
逆に言えば、今の一撃でもわずかに削れたのだからこのまま攻撃を続ければあっさり倒せそうだ。
『き、貴様ぁ……こちらが話している最中に攻撃を仕掛けてくるとは……』
僅かに身をよじらせながらも、俺へと視線を戻し睨みつけてくる魔王。
(だって隙だらけだったんだものぉ……そして今もなぁっ!!)
どうやらまだ会話がし足りないようだ、この隙にもっと削ってやろう。
「す、すまない急に訳の分からない場所に飛ばされたと思ったらこんなにも恐ろしい存在が居て驚いてしまって……き、貴様が魔王なのかっ!?」
『ふ……ふはははっ!! そうかビビっておったのかぁっ!! そうだ我こそが魔お……』
「十文字斬っ!!」
『おま……ぐぉおおおおっ!!』
俺の言葉に反応してまたしても隙を晒した魔王を再度切り付けてやる。
そして今度は傷が癒える前に……魔王が体勢を立て直さない隙に攻撃を畳みかけてやることにした。
「十文字斬っ!!」
『き、きさ……ぐはぁああぁつ!!』
「十文字斬っ!!」
『や、やめ……ぐぅうううっ!?』
「十文字斬っ!!」
『いい加げ……がぁあああああっ!?』
(めちゃくちゃ頑丈だなぁ……まあこのまま切り続ければ行けるだろ……)
もはや作業のようにスキルを使った攻撃を繰り返す俺。
はっきり言って恐怖も何も感じない。
(ぶっちゃけ三弟子のほうがよっぽど怖いわ……お前隙だらけなんだもんよぉ……)
これがカノちゃんなら、あの程度の奇襲は躱したうえで反撃までしてきているだろう。
これがシヨちゃんなら、最初の会話の時点で無視できないよう話術で引き込んできて挙句に俺のほうに隙を作ってきたことだろう。
これがテキナさんなら、そもそも俺のスキルぐらいなら素手で打ち破ってくるだろう。
(厄介なのは頑丈な点ぐらいだなぁ……はぁ……俺は魔王以上の化け物を育て上げてしまったのか……)
何だか物凄く虚しくなってきた。
「うぅ……十文字斬ぅ……」
『な、何故泣……ぐぉおおっ!?』
「はぁ……十文字斬ぅ……」
『わ、我をなん……ぐほぉおおっ!?』
「ぐすん……十文字斬ぅ……」
『ぐぅぅ……い、いい加減にまともに戦わんかぁっ!!』
(何でそんなことしてやんなきゃいけねぇんだよ……お前何でそんな生ぬるいこと言ってんだよ……三弟子の前でもそれ言えんの?)
仮にも戦場で命がけの戦いをしているというのに、随分とお花畑なことだ。
しかも俺みたいな平凡な常識人を見てこの調子なのだ。
もしも三弟子にあったらどうなることか……ちょっと興味がわいてしまった。
(きっとカノちゃんに会ったら狂気にビビッて、テキナさんに会ったら強さにビビッて、シヨちゃんがソレを見たら洗脳して利用……や、ヤベェ絶対にここで仕留めねぇと世界が終わるぅっ!!)
直感した、ここでこいつを仕留めないと……シヨちゃんに会わせたらシャレにならない事態になる。
「はぁああっ!! 十文字斬っ!! 十文字斬っ!! 十文字斬ぅううっ!!」
『がぁあああっ!! お、おのれ調子に乗りおっ……ぐはぁっ!? こ、この程度で我が負けてなるも……ぐぉおおっ!?』
(いいから負けとけってっ!! 絶対そのほうが幸せだからっ!! 魔王シヨちゃんの下でこき使われるほうが辛いってっ!! 俺嘘言わねぇよっ!!)
この戦い、俺の輝かしい未来のためにも三弟子の悪評をこれ以上広めないためにも魔王のプライドの為にも負けるわけにはいかない。
俺は全力で剣を振り下ろし続けた。
(しかし硬ぇっ!? こうなったら時間を止めて一気に消滅呪文で……っ!?)
『こ、こうなれば……対抗呪文っ!!』
「な、なんだとぉっ!?」
唐突に魔王が魔法無効化の呪文を無詠唱で唱え、強引に俺の剣に宿った魔力を霧散させた。
ただの切りつけとなった一撃は、魔王の身体を削れこそするが体勢を崩すまでにはいかなかった。
(し、しかしどうやって俺のオリジナル魔法を……まさかこいつも魔導の使い手なのかっ!?)
もしもそうならばヤバすぎる。
幾らなんでも時間停止魔法を使われたら俺ではどうしようもない。
(さ、三弟子さえいればその状況でも何とか……ああもう、マジでどうしてこの肝心なときにあいつら居ねぇんだよっ!? い、いやいたらヤバいんだけどさぁっ!?)
流石に危機感を覚えて、少し思考が混乱してくる。
『はぁ……はぁ……よ、ようやく止まりおったか……くく、流石に驚いたであろう?』
「どうしてその魔法を使えるっ!?」
『貴様が我が魔法を打ち消した際の感覚から理解したまでだ……もっと絶望的な場面で使ってやるつもりだったが……ふはは、貴様のその顔が見れただけでよしとしようではないかっ!!』
俺の驚く様を見て喜ぶ魔王。
(いや、その程度で喜ぶなよ……じゃなくて、俺が使ってるやつを覚えたのかっ!?)
どうやら俺はこいつを過小評価しすぎていたようだ。
(これじゃあ切り札は余り使えねぇ……くそ、面倒くせぇっ!!)
何かの間違いで時間停止魔法などを覚えられたら目も当てられない。
万が一のことを考えれば、これ以上変な魔法を覚えさせるわけにはいかない。
(こうなったら正攻法で……けど魔法は無効化される……け、結構ヤバくないかこれっ!?)
『さて今度は我の番だなっ!!』
「ちょ、ちょっとタンマっ!! お互い疲れただろうから休憩を……」
『黙れぇっ!! これでも喰らうがいいわっ!!』
慌てて時間を稼ごうと適当に口を動かしたが、今度は上手く行かなかった。
魔王が俺に向かい両手をかざすと、禍々しい邪悪な炎が収束して一気に巨大な火球と化した。
『はぁっ!!』
「っ!?」
それがすさまじい勢いで俺に向かって迫ってくる。
(速いっ!? くそ、スキルで迎撃するしかねぇっ!!!)
「十文字斬っ!!」
俺のスキルを乗せた一撃が、魔王の放った火球と正面からぶつかる。
そして少しの間拮抗状態が続いたが、何とか押し切ることに成功した。
パンっと乾いた破裂音を残して消滅する火球。
(ふぅ……ってなぁっ!?)
一息つこうとした俺は、しかしすぐ正面に迫っている二発目の火球に気づいた。
(れ、連続して放てんのかよっ!? ま、間に合わねぇっ!?)
気を抜いてしまったせいで、二発目の迎撃は間に合いそうにない。
尤も直撃したところで死にはしないだろう……それでもダメージは確実に負う。
そこにさっき俺がしたように攻撃が畳み込まれたらそれこそお終いだ。
(ちぃ……まるで立場が逆転しちまっ……立場が逆転……じゃあ切り返し方も……)
直前に迫った火球を見て、俺は反射的に切り札を使っていた。
「対抗呪文っ!!」
『なぁっ!?』
幾ら威力が高くてもしょせんは魔力で作り上げた火球、俺の魔法無効化の呪文を受けてあっさりと霧散していく。
しかし自らの攻撃に絶対の自信があったらしい魔王は驚きに身を固くしていた。
(こ、この隙を逃してたまるかぁっ!!)
「はぁあああっ!! 十文字斬っ!!」
一気に距離を詰めて、再びスキルを乗せた一撃を叩きこもうとする。
『お、同じ手が通用するものかっ!? 対抗呪文っ!!』
「ず、ずりぃぞおめぇっ!?」
『貴様にだけは言われたくないわっ!!』
やはりあっさりと俺の剣から魔力が消え失せて、ただの切りつけになってしまう。
当然体勢を崩すまでは行かず、反撃を許してしまう。
『ふははははっ!! くたばるがよいわぁっ!! はぁっ!!』
「じゃ、じゃあこっちだって……対抗呪文っ!!」
『ぬぉっ!?』
魔王が放った火球もまたあっさり消滅していく。
もう一度その隙に切りかかりに行く。
「十文字斬っ!!」
『対抗呪文っ!! そしてお返しだ、喰らえっ!!』
「なんの、対抗呪文っ!! そして十文字斬っ!!」
『無駄だ、対抗呪文っ!! 今度こそ死ねぇええっ!!』
「だから効くか対抗呪文っ!! お前こそ死ねよ十文字斬っ!!」
『ええい、対抗呪文っ!! キリがないわ、いい加減に……』
「ちょっとタンマ……マジでキリがないぞこれ……」
『う……うむ……確かに……』
ちょっと仕切りなおす意味もかねて、お互いに攻撃の手を休めることにする。
(どうしたらいいんだコレ? マジで戦いにならねぇ……)
お互いに魔力を利用した攻撃こそが本領だ。
そしてお互いに強すぎるせいで、それ抜きだと殆どダメージにはつながらないだろう。
(魔王の物理攻撃がどんなもんかはわからんけど、今の俺なら普通によけれそうだしなぁ……)
実際に話し合いに応じているということは、向こうもそう思っているということだ。
「うーん……対抗呪文禁止すっか?」
『う、うむ……それがいいかもしれんな……』
「よぉしじゃあそれで……いいか絶対に対抗呪文は使うなよっ!!」
『わかっておるわっ!! 貴様こそ絶対に使うでないぞっ!!』
「あんたが使わなきゃ使わねえよ、じゃあ今から勝負再か……十文字斬っ!!」
『なぁああっ!?』
話がまとまったところで、隙だらけの魔王に切りかかる俺。
(対抗呪文抜きじゃあこれは避けれまい……このまま無限ループコンボで叩き潰してくれるわっ!!)
『ぐぅぅっ!? き、貴様卑怯な……っ』
「避けれない奴が悪いっ!! 十文字斬っ!! 十文字斬っ!! 十文字斬ぅっ!!」
『がぁあああああっ!? ぐぅううううっ!? あ、対抗呪文ぅっ!!』
「あぁっ!! ず、ずっりぃぞおめぇっ!!」
『き、貴様がいうなぁああああっ!! 死ねぇえええっ!!』
「ならこっちだってぇえっ!! 対抗呪文ぅっ!! そして十文字斬ぅっ!!」
またしても不毛な無効合戦が始まった。
「どうすんだよ魔王っ!! またこうなっちまったじゃねぇかっ!!」
『ぐぅぅ……対抗呪文っ!! だ、黙れっ!! き、貴様が卑怯な真似さえしなければなぁっ!!』
「戦いに卑怯もくそもあるかよっ!!」
『こ、この屑がぁあああっ!!』
「ああそうさ、俺は屑で無能な奴だよっ!! だからこれでいいんだぁああああっ!!」
魔王の言葉を俺は力強く頷いて肯定する。
肯定できてしまう……堂々と宣言することができた。
(……ずっと勇者であることに拘ってたんだけどなぁ……だけどもうどうでもいいわっ!!)
下手にそれに拘って出来ることを減らして、挙句に色々と振り回され続けていた。
ならばいっそのこと色々と吹っ切って、屑でも何でもいいから自由に振る舞ってやる。
俺はそんな新たな称号に相応しい人間だと証明するかのように、魔王へと立ち向かい口を動かし続けた。
「お前こそいいのかよっ!! 誇り高い魔王様が約束破ってよぉっ!! お前こそ屑で無能なカス野郎じゃねぇかっ!! プライドねぇのかぁっ!?」
『ぐぬぬぅ……』
「そんなせこい奴のどこが魔『王』だよっ!? 魔ゴミとか魔カスとかに改名したらどうだっ!?」
『がぁああああっ!! き、貴様貴様貴様ぁあああああああっ!!』
俺の挑発で我を忘れた魔王が全力で攻撃すべく、魔力を練り上げ始めた。
(本当にわかりやすい奴だ……まあしょせんあの策謀が下手くそな魔王軍のトップだもんなぁ……本当に残念な奴だったよっ!!)
「聖なる祈りに応え正しき者達に偉大なる祝福を齎し賜え、『聖祈昇威』」
その隙に俺は全力で攻撃をすべく魔法を積み重ねていく。
「邪を払う閃光よ我が剣に宿り力と成せ、『聖輝剣』っ!!」
身体能力を強化して魔法剣を作り出し、そしてまっすぐ魔王に向けて駆け出した。
『我が最大の一撃で消滅せよっ!! はぁあああっ!!』
「十文字斬っ!!」
魔王が放った漆黒の闇が固まったかのような魔力の塊に向けて、こちらもまた最大の一撃を振り下ろした。
そしてお互いの全力の攻撃がぶつかり合う……寸前で俺は即座に切り札を解き放つ。
「対抗呪文っ!!」
『っ!?』
どれだけの威力が籠った魔法であろうとも、それが魔力でできている以上はこの呪文で無効化できないはずがない。
あっさりと消滅した魔王の攻撃を掻い潜った俺の攻撃は、そのまま無防備な魔王の本体へと向かっていく。
『お、おのれぇっ!? 対抗呪文っ!!』
俺が切り札を使うところを見て即座に真似をしようとする魔王。
(やっぱりそうなるよなぁ……ああ本当に……わかりやすい奴だっ!!)
そうなると分かっていた俺は、ニヤリと笑いながらもう一度切り札を解き放つ。
「対抗呪文っ!!」
『し、しまっ!?』
(しょせん人真似してるだけ……だからこういう使い方が咄嗟に思いつかねぇんだよっ!!)
俺の切り札自体も魔力を使っている立派な……魔法だ。
ならばそれがどんな種類の魔法であれ、魔力を使っている以上は魔法無効化の呪文で無効化できないわけがないのだ。
『対抗呪っ!?』
「遅ぇんだよぉおおおっ!!」
『っ!?』
魔王が魔法無効化の呪文を解き放つ前に、俺の最大の一撃はその巨体に突き刺さっていた。
天を裂き地を穿ち山までも消滅させる威力を持った攻撃が直撃した魔王は、悲鳴を上げることもできずに浄化の光の中へと消えていくのだった。
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