海月族とシーサーペント……こんなことしてる場合じゃねぇっ!?
「う、うわわっ!? ま、マシメ様少しスピード落としたほうがっ!?」
「ちぃ、こりゃあ中々……バランスとるのが大変だわ」
「大丈夫ですかイーアス様?」
「え、ええこの程度……そ、それに仲間なのですからどうか様付けなどおやめくださいませ……あうぅっ!?」
(急げ急げぇっ!! 魔王が逃げねぇうちに奇襲をかけて叩き潰すんだぁっ!!)
切り札を駆使して、俺は乗っている小舟を全力で沖合へと進ませていく。
目指すは魔王と魔物が戦っているという場所だ。
(海で戦ってる巨大な魔物……十中八九シーサーペントだろうし、あれを倒すのは流石に時間がかかるはずだ)
四大幹部より強いという魔王と戦いになる魔物など、他にはフェンリルぐらいしか思い浮かばない。
しかしフェンリルは陸上の魔物だ、海の上で戦えるとは到底思えない……消去法でシーサーペントだろうと推測できる。
(それと戦ってるところに乱入して、強引に時間停止から一気に完全消滅させてやるっ!!)
ついでにシーサーペントも倒してしまえばさらに歴史は変わるだろう。
(うふふ、これで俺の世界もこっちの世界もめでたしめでたしだぁっ!!)
歴史改変に伴って俺にも影響が出るかもしれないが、そこは強引に切り札で乗り切ってやるつもりだ。
(その上で一から三弟子たちを育てなおして……いやむしろ師弟ではなくもっと別の形でかかわって行ってもいいなぁ……)
「ま、マシメ様ったらぁっ!! き、聞いてるのぉっ!?」
「聞いてるよイキョサちゃんっ!! だけど魔王の行動は予測ができないっ!! 一刻も早く奴の元に辿り着かなければどんな犠牲が出ることかっ!! ああ、そんな非道をこれ以上許すわけにはいかないではないかっ!!」
船から振り下ろされないよう必死に甲板へしがみ付いているイキョサちゃんに、演技ぶった身振りで急ぐ理由付けをしてやる。
「そ、それはそうかもしれないけどぉ……わわぁっ!?」
「しかしこんな船の上で戦いに……うぉっ!?」
「少しでも修行してからが良かったのですが……おおっとっ!?」
「ま、マシメ様の言う通り一刻も早く……あぁっ!?」
波のうねりが一層激しくなり、船の揺れが酷くなる。
どうやらこの先で何かが暴れているようだ
「どうやらそろそろのようですっ!! 皆さん、覚悟は良いですねっ!!」
「うぅ……や、やっぱり怖いからもう少し……きゃぁっ!?」
「諦めろイキョサ、マシメ様は止まる気ないとよ……」
「仕方ありません、ここまで来た以上はやれることをやりましょう……」
「ええ、私たちの全力で世界に平和を……」
「その意気ですっ!! では、参りましょうっ!!」
皆の様子を伺いながら、さらに進んでいく。
「うわぁぁんっ!!」
「たすけてぇえっ!!」
(あれは鳥人族っ!?)
すると頭上を泣きべそをかいた鳥人族が一生懸命逃げ出しているのが分かった。
「そこの方々っ!! こ、この先は危険でございますっ!!」
更に海中から俺たちの元へ人魚の群れが近づき、話しかけてくる。
「に、人魚さんっ!? ど、どうなってるのこれっ!?」
「そ、それが私たちの居た島に魔王とその配下の者が攻めてきたのですっ!!」
「なにぃっ!? それでよく生き残れたなぁあんたらっ!?」
露骨に驚くトラッパーだが、他の皆もまた同意見のようで本当に驚いた顔をしていた。
尤もその気になれば大陸を丸ごと吹き飛ばせる化け物だ。
それから逃げおおせたともなれば驚くのも無理ない話だ。
「私たちも正直もう駄目かと思いました……しかし急に海から謎の魔物が現れて魔王の軍勢に襲い掛かりまして、その隙にこうして避難してきたわけなのです」
「今もその魔物と魔王の戦いは続いておりますっ!! あなた方も早くこの海域から離れてくださいっ!!」
「御忠告ありがとうございます、ですが俺たちはその魔王を退治しに来たのです」
「えっ!? だ、駄目ですっ!! 魔王には誰も敵いませんっ!!」
「そ、そうだよそうだよっ!! まおうはつよいんだっ!! とってもとってもつよいんだっ!!」
「にげよぉっ!! いっしょににげよぉっ!!」
俺たちの言葉を聞いて鳥人族まで近づいてきて逃げるよう忠告してくれる。
(相変わらず鳥人族は可愛いなぁ……この時代から無邪気さを保って……こんな健気な種族を滅ぼそうとした魔王許すまじっ!!)
しかし彼女たちの健気さはむしろ俺のやる気に火をつけるだけだった。
「だ、大丈夫っ!! マシメ様は本当に強いんだからっ!!」
「ああ、あたしらはともかくこいつは特別だ……きっと魔王相手でも戦えるっ!!」
「ええっ!! 俺に任せてくださいっ!! 必ずや魔王を討ち果たして見せますっ!!」
力強く宣言して見せると、人魚族と鳥人族はあきらめたように引き下がって行った。
「そ、それほど固く決意しているのでしたらもう止めませんが……無理だけはなさらないでください」
「こ、こわかったらにげていいんだよっ!! だめだったらにげてねっ!!」
「ありがとうございます……では失礼します」
改めて頭を下げると、俺は彼女たちを置いてさらに先へと船を進ませた。
「や、やっぱりこの先に魔王が居るんだね……うぅ……が、頑張らないとぉ……」
「しかし魔王と戦っているという謎の魔物も気になりますね」
「同時に相手にするのは危険かもしれません」
「決着がつくまで見守るって選択肢もあるけど、どうすんだ?」
(確かに同時は面倒かもしれない……けど、逃げられたら困るからなぁ……)
「とにかく近づいて様子を見て決めましょう」
「わ、わかったよ……うわぁっ!?」
「キュルルルルルゥウウウっ!!」
(出たかっ!?)
聞き覚えのある鳴き声と共に、海中からシーサーペントが姿を現してきた。
しかし近くに魔王の姿はない。
(確か全部で三匹いたっけ……こいつはその中の一匹かっ!?)
「な、なんだこいつっ!?」
「で、でっかいぃいいっ!? こっち見てるぅうっ!?」
「キュルルルルルゥウウウっ!!」
こちらを睨み受けて、今にも攻撃をしようと大口を開く魔物。
恐らくそこから水流を放って攻撃するつもりなのだろう。
(ああもう邪魔な……さっさと退治するか……)
「と、止まってぇええええっ!!」
「お、お願いもう止めてぇえええっ!!」
そう思い魔法を使おうとしたところで、海中からまたしても見覚えのある種族が顔を出してきた。
(海月族……そう言えばこいつらが作った兵器なんだっけこれ?)
必死でシーサーペントを制止する海月族たち。
「キュルルルルルゥウウウっ!!」
しかし魔物は全く言うことを聞かず、むしろ邪魔者とばかりに彼女たちごと巻き込む勢いで攻撃を仕掛けてきた。
流石にこの直撃を受けたら俺はともかく他の奴らはかなりヤバいだろう。
何より船を失うのが痛すぎる……尤もそれを抜きにしてもわざわざ攻撃を喰らってやる理由はない。
「豪雪暴風」
無詠唱魔法を解き放ち、水流ごと魔物を一瞬で凍り付かせてやる。
「あ、危な……え、ええっ!?」
「だ、駄目ぇ……ふぇええっ!?」
「きゃぁあ……えぇえええっ!?」
初めて俺の実力を目の当たりにしたイーアス様……さんと海月族の子達が驚きの声を上げた。
「相変わらずすげぇ威力だなぁ……どうなってんだか……」
「いやお見事です……流石はマシメ様だ」
「はぅぅ……こ、怖かったぁ……」
(いやまだ終わってないんだが……まあこの魔物のしぶとさを知らなきゃ仕方ないかぁ)
「だ、駄目だよっ!! こ、この魔物はこのぐらいじゃ止まらないのっ!!」
「そ、そうなのっ!! それに同じ様に暴走しているのが後二匹いるのっ!!」
案の定、正気に戻った海月族の子達が慌てて指摘してくる。
(前の時はあの消滅呪文で何とか倒したんだよなぁ……しかし一匹一匹に使ってたら魔力が持つかどうか……)
あの魔法以外でこの魔物を退治するのは難しいが、魔王と戦う前に大量に魔力を使うあの魔法を使うのは少しためらわれる。
「じゃ、じゃあどうすれば……」
「た、体内にこの魔物のコアとなってる部分があるからそれを壊せば何とか……」
「マジかよ……あたしは嫌だぞぉ」
「しかし他に方法がなければそうするしかないでしょうね」
やる気のないトラッパーさんに対して、マーセさんは真面目なのかどう乗り込むかを考え始めている。
(そんなことで時間を使ってる場合じゃないんだが……ええい、面倒だっ!!)
「少し下がってください、封印してしまいますっ!!」
(封印する魔法なら俺の総力からすれば誤差の範囲の魔力しか消費しねぇ……そしてこの魔物が封印できるのは歴史が証明してる……さっさと魔王と戦うためにもやっちまおう)
またしても歴史通りに動かされている気がするが、とにかく魔王退治が何より優先される。
「えっ!? あ、あなたはそんなこともできるのっ!?」
「ええ、ですから少し下がってください……封印呪文」
かつて魔王を閉じ込めたのと同じ魔法を、俺の魔力を使って叩きこんでやる。
「キュルル……っ!?」
果たして何の抵抗もできないままシーサーペントは海底の奥へと封印されていった。
「す、すごい……凄いです、マ……マシメ様でしたよねっ!! 凄いですよっ!!」
「こんなすごい人間さんが居るなんて……あ、ありがとうございますっ!?」
「確かにすげぇけど……これ何時まで持つんだ?」
(いつまでってそりゃあ……そうか、マシメってここで聞いた名前だったのかっ!?)
ようやくこの名前をどこで聞いたのか思い出した。
俺の時代の海月族達が、かつてシーサーペントを封印した人間の名前としてあげたものだったのだ。
(や、ヤバい……れ、歴史が強引に辻褄をあわせようとしてやがんのかっ!?)
「ま、マシメ様? あの、この封印はいつまで……」
「そ、そんな話をしている場合ではないっ!! いますぐ魔王を退治しに行かね……」
「キュルルルルルゥウウウっ!!」
(あぁああああっ!! 邪魔すんなテメェっ!!)
新たに飛び出してきたシーサーペントにむけて、即座に封印魔法を紡いだ。
(これで二匹……だが残りの一匹だけは封印しないようにしてそれで歴史を……)
「キュルルルルルゥウウウっ!!」
「キュルルルルルゥウウウっ!!」
「封印呪文っ!! えっ!?」
封印魔法を解き放つのと、ほぼ同時に新しいシーサーペントも顔を出して……当然のように二匹まとめて封印されてしまう。
(はぁっ!? ど、どうなってんだおいっ!? 何で最後の一匹もここに居るんだよっ!?)
「おお、流石だよマシメ様っ!!」
「こ、これで暴走しているシーサーペントは全て封印されましたっ!! ありがとうございますっ!!」
「す、全てって……魔王と戦ってる一匹はどうしたのっ!?」
「そ、それもご存じでしたかっ!? ですがご安心ください、あれだけは私たちの手で何とか制御できているのですっ!!」
(そ、そう言うことかぁあああああっ!!)
確かに海月族の皆は暴走しているシーサーペントは残り二匹だと言っていた。
そして俺の時代に居たシーサーペントも暴走していた個体だった。
つまり俺は……歴史通りに動かされていたことになる。
(ま、まさか……俺がどう頑張っても歴史は変えられないのかっ!? そ、そんなの嫌だぁっ!!)
またあの狂気の笑みを浮かべる三弟子と付き合っていかなければいけないと思うと、目の前が真っ暗になりそうだ。
心のどこかで……まともになったあの三人と付き合う理想の日々を想像していたからなおさらダメージがデカい。
(くぅ、いっそのこと無視して進んでいれば歴史は……けどそんなことしたらこの海月族たちがもろに被害を受けて下手したら全滅してたかもだし……マジでこれどうしようもないのか?)
絶望的な心境に陥りかけるが、必死で頭を振って思考を切り替えようとする。
(い、いや……お、俺は諦めねぇ……ま、魔王さえ退治してしまえば……)
「と、とにかくこれで邪魔はいなくなった……今度こそ魔王と戦いに行こうじゃないか……」
「えぇっ!? ま、マシメ様は魔王と戦われるのですかっ!?」
「うん、私たちはそのために来たんだっ!!」
「そ、そうですか……でしたら私も付いて行きますっ!! 協力させてくださいっ!!」
すると海月族の中の一人が身体を乗り出し、船の縁にしがみ付いた。
「お、長である私が居ればあのシーサーペントを操ることができますっ!! 必ずやお役に立てるはずですっ!!」
(うーん……シーサーペントを操れるなら多少は役に立つかな?)
何せ確実に魔王を退治したいのだ、戦力は多いほうがいい。
「分かった……じゃあ行こうっ!!」
「「「「おおっ!!」」」」
俺の号令に皆が良い返事をしてくれる。
「が、頑張ってください皆さまっ!! 私たちは上手く行くようにお祈りしておりますっ!!」
残る海月族の皆も俺達に期待を込めた眼差しを向けてくれる。
しかしもう感動している場合じゃない。
俺は俺の時代の平和のために、全速力で魔王のいる場所を目指すのだった。
「ふ、ふあぁああっ!!? は、速すぎるですぅうううっ!?」
「だ、大丈夫っ!? ま、マシメ様少しスピード落とさないとこの子が耐えられないよっ!?」
半分海に浸かってる海月族の子は、どうやら俺の移動速度についてこれないようだ。
「……船の上に乗れないの?」
「み、水がないところだと私干乾びて……ご、ごめんなさい……」
(……やっぱり置いていけばよかったぁ)
しかし今更ついてくるなとは言えない。
俺は仕方なく、海月族の子が耐えられる速度で目的地へと急ぐのだった。
(間に合え、間に合え……間に合ってくれぇえええっ!! 俺の理想の未来のためにぃいいいっ!!)
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