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最後の四大幹部、エンカ登場……それどころじゃねぇってっ!!

「お、お父さんっ!?」


「無事であったかワーフ……犠牲者もおらぬようだし何よりだ……」


 怪我をしている三人組と合流を図ったところ、どうやら彼らがルーフ様とワーフ様の父親だったようだ。


 残る一人は護衛だろうか、エルフの若者らしい男が怪我をしている二人に肩を貸して歩いている。


「ち、父上っ!? だ、大丈夫なのですかっ!?」


「すまぬルーフ……そなたの父上は封印を解く最中何かに気づいたようだが、その直後にフェンリルの火炎の直撃を受けて意識が戻らんのだ……」


「私はたまたま傍に居たので、咄嗟に助け出して連れ出したのですが……」


 見れば確かに肩を貸されている一人は、身体の大部分が焼け焦げていて……正直生きているのが奇跡のようであった。


(回復魔法をかける余裕もなく、安全な場所を目指して逃げてきた感じか……しかし火炎攻撃だとぉ?)


 俺が見た限りではフェンリルがそのような攻撃をしている様子はなかった。


 あれだけ追い詰められていたら、あらゆる攻撃手段を取りそうなものだがどうなっているのだろうか。


「……とりあえずこの場は勇者サーボ様がおりますし、いざとなればこの巨大なキメラント君が盾になってくれますからぁ今のうちに回復してあげて下さぁい」


 軽く事情を説明しつつ、シヨちゃんはルーフ様たちに指示を出した。


「そ、その通りだな……父上をこちらへ」


「……サーボ様、今のうちにこの場にいる全員の魔力の流れを確認して下さぁい」


 ルーフ様の父親に注意が逸れている間に、シヨちゃんがそっと囁いてきた。


(なるほどなぁ、この中に魔物が……残ってる最後の四大幹部が紛れているかもしれないってことか……)


 確かに最後の四大幹部は、確か炎のエンカとかいうやつだ。


 そして俺と同じく魔力の流れがわかるはずのルーフの父親が何かに気づいた直後に、炎攻撃に襲われている。


(キメラント君を見たことで魔王軍を包む魔力の流れがどのようなものか理解して、実際に魔物が化けているのを見抜いたせいで攻撃された……可能性は十分にあるなぁ)


 拒絶する理由もなく、俺は早速意識を集中してこの場の全員の魔力を調査していく。


 果たして、長を連れてきた男は魔物が化けたものであった。


「シヨちゃん……あいつがそうだ」


「そうですかぁ……サーボ様、一人で勝てそうですかぁ?」


「切り札が通じれば確実に……そうじゃなくても勝てなくはないと思う」


(四大幹部と普通に戦ったことがないから断言はできないが……こんなことならテキナさん任せにしないで自分で戦っておくべきだったかも……)


 ちょっと俺とテキナさんとでは実力の差が付きすぎている。


 お陰で彼女との戦闘した様子だけでは物差しにならなすぎるのだ。


 尤も最近忘れがちだが、俺とてそこまで弱い訳じゃ……というか普通に強いはずだ。


(い、いかんいかん……ついつい弟子たちが基準になってしまう……あいつらは異常なんだぞ)


 カノちゃんより遅く、テキナさんより非力なせいでついつい弱気になってしまっていた自分を叱咤する。


「そうですかぁ……でもこのままではルーフ様のパパが目を覚ました時点で向こうが何かアクションを取るのは確実ですぅ……とりあえず拘束呪文を放って動きだけでも止めておきましょう」


(確かにルーフ様の親父さんがこいつの正体に気づいてるなら目が覚めた時点で指摘して……そうなれば何をしてくるかわかったもんじゃないしなぁ……)


「そうだね、わかったよ」


「シヨも合わせますから、相乗効果で確実に拘束していきましょう」


「了解、じゃあ早速……聖なる祈りに応え悪しき者に制約を齎し賜え、『聖祈鎖(セイント・リストリクション)』」


「聖なる祈りに応え悪しき者に制約を齎し賜え、『聖祈鎖(セイント・リストリクション)』」


「なぁっ!?」


 俺とシヨちゃんが同時に放った二重魔法が、一瞬にして魔物が化けたエルフを縛り上げる。


「え、な、なにをっ!?」


「みなさぁんっ!! そいつこそ魔王軍の魔物ですぅっ!! 離れて下さぁいっ!!」


「な、何を言い出すかと思えばっ!! わ、私の何を疑っているのですかっ!?」


 そう言って体を震わせる魔物……俺らからすれば白々しい限りだがこの大陸の人々からすればそれなりに効果的だったようだ。


「さ、サーボ殿っ!? ほ、本当にこの者が魔物なのかっ!?」


「ど、どこからどう見てもエルフだよっ!?」


 疑惑の目を俺たちに向けるルーフ様とワーフ様、尤も疑い半分不安半分と言ったところのようだが。


「先ほどこちらの……元魔王軍のキメラント君が人に化けているところを見たでしょう、それだけこいつらは見事に化けてみせるのです」


 二人に説明しながらも、俺はそれよりも魔物の様子のほうが気になって仕方がなかった。


(……俺とシヨちゃんのダブル二重魔法だけどやっぱり潰れないよなぁ……テキナさんどうなってんの?)


 前にチーダイ様をこの魔法で潰したテキナさんのことを思うと、あの子の規格外さがよくわかる。


「まあ私たちの方で偽装を解いてもいいんですけどぉ、ルーフ様のパパが目覚めるのを待って確かめてもらいましょう……そちらの方も魔法を作り出したり出来るんですよねぇ?」


「そ、そこまでご存じでしたか……その言い方ですともしやそちらにも魔導の使い手がいらっしゃるのですか?」


「……新しい魔法を作り出せる人のことを魔導の使い手だというのならば、その通りですね」


「やはり……まさか魔導の使い手が父上以外にも居たとは……」


 驚いているルーフ様とワーフ様を見ながら、俺もまた僅かに思うところがあった。


(俺の切り札にもちゃんとした名称があったのか……これも前の週で身に着けた技術なんだろうか?)


 スキルもそうだったし、恐らく魔法水の生成方法や二重魔法もそうなのだろう。


(修行をし続けてそれだけの技術を習得して……それでもなおやり直さなきゃいけなかった理由は……やっぱり魔王に負けたからなのか?)


 まだ見ぬ魔王の力に少しだけ不安を感じる。


(いや大丈夫に決まってる……何せ俺にはカノちゃんやテキナさんが付いてるんだ……恐らく前より遥かに強くなった……なり過ぎた弟子が……はぁ……)


 魔王対策の兵器であるフェンリルですら、あそこまで強引に対応できる二人だ。


 そこに切り札が使える俺が加われば……最悪、大陸の守りを放棄してカーマ殿とセーヌ殿にアイさんやテプレさんまで呼んで最大戦力で戦えば勝てないわけがないと思う。


(そう考えるとその後のほうが厄介かもしれないなぁ……今後もあの子たちはあの能力を駆使して自らの欲望を叶えようとするだろうし……ああ、面倒なぁ……それこそやり直した……っ!?)


 ふと思う、前の彼女たちはどれだけの実力を持っていたのか。


 勇者の里の教育方針から考えてもカノちゃんやシヨちゃんはともかく、テキナさんはある程度開眼していたはずだ。


 実際に俺と出会う前の時点で、テキナさんは既に勇者コンテストでぶっちぎりで優勝を狙えるレベルだった。


(その後で魔王退治の旅に出て、経験を積み続けて……俺の既視感が正しければカノちゃんとシヨちゃんも一緒に経験を積んで……そしたらかなり伸びたんじゃないのか?)


 もちろんカーマ殿やセーヌ殿だって強くなるだろうし、アイさんに至っては実際に俺が絡んでなくてもあの強さだ。


 それだけの戦力が揃っていて、魔王に敗北することなどあり得るのだろうか。


 もちろん、魔王の強さがどの程度かわからないからその可能性も十分ある。


 だがもしも実際に勝利しているとしたら……その上で俺がやり直そうとしたとすればどうだ。


(少し前にも考えたが、俺はひょっとして過剰に暴走を始めたこいつらから逃げるためにやり直したのでは?)


 サイコストーカーのカノちゃんに世界全てを手中に収めようとする暴君のシヨちゃん、そして単純に強すぎる上に俺へ間違った忠誠を誓うテキナさん。


 それだけじゃない、俺を指名手配して独占しようとしているプリスちゃんに龍人族を統一して戦争してでも俺を手に入れようとしているタシュちゃん。


 サーボ教とかいう逝かれた宗教を布教して俺をあがめるテプレさん、そしてそれを妄信して俺への狂信を露わにしているミイアさんにヒメキさん。


 ムートン君に入れ込んで俺を同じ性癖の同士だと認識して迫ってくるミリアさんに、三弟子と同じぐらい暴走しているマーメイさんにクーラちゃんとその二人から庇ってもらおうと俺に縋りつくセーレちゃん。


 そして俺の四番目の弟子入りを狙っているアイさんに、愛人を公言して三弟子と共に攻め立ててくるフウリちゃん。


 もしも魔王退治が終われば、彼女たちとは嫌でも今まで以上に関わって行かなければいけないのだ。


(……やだぁ、僕魔王退治辞めたくないよぉ……ぐすん……)


 何やら急に魔王軍と戦う気力が失せていく。


 本当に前の俺はこれが嫌で逃げ出したのかもしれない。


「うぅ……こ、ここは……ルーフにワーフ……それに皆も……」


「ち、父上っ!!」


「おお、目を覚ましたのかっ!!」


 そこでルーフ様の父親が意識を取り戻して、辺りは急に騒がしくなる。


(……と、とにかく今は目の前のことに全力をつぎ込もう……うん……考えても落ち込むだけだし……あぁ、魔王退治やりたくないなぁ……)


 何やら現実逃避したくなってしまう……むしろ目の前の問題に集中することで他の嫌なことを忘れてしまうことにする。


「どうもおはようございますぅ、早速で悪いですけどあちらの方についてお伺いしたいことがあるんですけどぉ……」


「あ、あなた方は……それにあちらの方は……こ、この巨大な魔物はっ!?」


「落ち着け、この者達は勇者をしていて我らの味方だ……この魔物も元魔王軍だが今は離反してサーボ様たちの仲間をしておるそうだ」


「そ、そうなのか……」


 辺りを見回し、巨大なキメラント君が傍にいることに気づき驚きながら跳ね起きたエルフの長だが先に事情を説明してあったドワーフ族の長に言われて安堵したように息を吐いた。


「それなんですけどぉ、あちらのエルフの方が魔王軍の魔物が化けた者かどうかを見てほしいんですよぉ……魔力の流れが見えるならわかりますよねぇ?」


「た、確かに……そちらのキメラントという魔物と同じ魔力の流れが渦巻いておりますが……」


「ほ、本当か父上っ!?」


「くぅっ!? 結局こうなるのかぁっ!! 畜生っ!!」


 ルーフ様の父親に指摘されたことで、ついにこの場の全員から疑惑の目を向けられてそいつはやけくそ気味に叫び始めた。


 そして体を震わせると炎の化身のごとき本性を露わにした。


「なるほどぉ、あなたは魔王軍四大幹部の一人のエンカさんですねぇ~」


「ああそうだよっ!! くそっ!! せっかくそこのドワーフの使ったフェンリルを操る魔法でお前らを一掃してやるつもりだったのにっ!!」


(うーん、久しぶりにわかりやすい魔王軍だ……そういうことだったのねぇ)


 最初にドワーフの長が切り札としてフェンリルを操ろうとして、その魔王を覚えたこいつは絶対魔力量の差を利用して強引に操作権を奪取したのだろう。


(しかしどうせなら他の四大幹部と一緒に、フェンリルも合わせて四体掛かりで攻めてくればよかったものを……まあこの単純さじゃそこまで気が回らなかったんだろうなぁ……)


 チーダイ様が参謀タイプだということだから、そいつが居なくなった以上はもう魔王軍の統率も何もあったものじゃないのだろう。


「こうなったら力づくでぇ……がぁあああっ!!」


(おお、俺たちの拘束呪文を破ろうとしてるっ!! すごいぞ頑張れぇっ!! そしてそのまま逃げ……じゃないだろ俺ぇ……)

 

 テキナさんの時と違い、少しずつ魔法が破られつつある状態に感動してしまいついつい応援してしまいそうになってしまう。


 しかしこのまま拘束が解かれて、そしてもし逃がしたらそれこそ厄介なことになる……魔王退治までの時間が長引いてしまう。


(いいぞぉっ!! 頑張れ頑張れエンカ殿ぉっ!!)


 もっと応援したくなってしまった……魔王退治をしたくない勇者とは一体何なのだろうか。


「やれやれ……サーボ様、今のうちに退治しちゃって下さぁい」


「えぇっ!?」


「ふぇ? 何か問題でもありますかぁ?」


「い、いえ……何もありませぇん……うぅ……」


(ごめんよぉエンカ殿ぉ……無力な俺を許してくれぇ……)


 もう完全に仲間意識すら感じながら、俺はエンカ殿へと向かい剣を突き付ける。


「く、くっそぉおおおおおっ!!」


「悪いけど覚悟して……っ!?」


 止めを刺そうとしたところで、不意に俺の身体を不思議な輝きが包み込んだ。


「さ、サーボ様ぁっ!?」


「こ、これは魔王の転移魔法っ!? 封印が解けたのかっ!?」


「なぁっ!? ま、魔王のっ!?」


 かつて見たのと同じ魔力の流れが俺を渦巻いている。


(性懲りもなく俺を呼び寄せようと……させるかよっ!!)


 俺はすかさず、前と同じく封印魔法を使い魔王へ魔法を跳ね返してやろうとした。


「サーボ殿危ないっ!! 我が命を糧に生まれよ新なる魔の法則よ……聖なる意思の元に彼の者たちを安息の地へ導け、超常転移(オメガワープ)っ!!」


「えっ?」


 しかしその前に俺の身体に新たな魔法が掛けられる。


 どうやらルーフ様の父親が俺を守るために魔導の使い手として転移魔法をかけ返してくれたようだ。


(お、俺が魔導の使い手だって知らないから対策できないと思ったのかっ!?)


 しかし皮肉にも同系統の、転移魔法だったがためか相乗効果を発揮したようだ。


 この俺ですら魔法を唱える余地もないほどの速度で魔法は効力を発揮した。


 一気に世界全てを塗りつぶすほどの光が満ちて、俺は余りの眩しさに目を閉じた。


「さ、サー……っ!!」


 シヨちゃんの必死な叫び声が聞こえたが、それも途中で途切れた。


(ちぃっ!? どうなるっ!?)


 魔王とルーフ様の父親、どちらが意図した場所に飛ばされるのかもわからないままふわふわと浮かんでいるかのような感覚に身を任せることしかできない俺。


「な、なんだっ!? 何が起こってやがるっ!?」


 そこに慌てたようなエンカ様の声が聞こえてきた。


 恐らく止めを刺そうと近づいていたせいで、こいつも巻き込まれてしまったのだろう。


 それが分かったところでどうすることもできはしない。


 しばらくしてようやく光が収まって、地面に着地したらしい俺は恐る恐る目を開いた。


「……え?」


 まるで見覚えのない景色が映った。


 見渡す限り草原が広がり、その中を獣道が続いている。


 ぐるりと周囲を見渡しても地平線のかなたに、森が広がっているのがわかるだけだ。


(ど、どこだここ……全く見覚えがねぇぞっ!?)


 ツエフ大陸どころか他の大陸ですら見たことのない景色だった。


「な、なんだここはっ!? お、お前何をしやがったぁっ!?」


 エンカ様も知らない場所のようで、困惑気味に俺を睨みつけている。


(魔王の意図した場所なら少しは反応しそうだし……じゃあここはルーフ様の父親が選んだ場所なのか……しかしどこだよこれ?)


「俺を無視するんじゃねぇえええっ!!」


「い、いや別に無視したわけじゃ……」


「うるせぇええええっ!! どうでもいいからクタバレやぁあああっ!!」


 もうやけくそとばかりに襲い掛かってくるエンカ様。


 どうやら転移する際にシヨちゃんの魔力が途切れ、何とか拘束を振り切れたようだ。 


(しゃーない、戦うしかねぇか……)


 襲い掛かってくる炎の塊に、俺は剣を抜いて立ち向かう。


「キャァアアっ!?」


 そこで不意に背後から甲高い悲鳴が聞こえてきた。


 振り返れば幼さの残る少女が、怯えたように尻もちをついて震えたままこちらを見つめていた。


(くそっ!? 民間人か……巻き込んだらやべぇっ!!)


 エンカの火力は大地をも蒸発させるほどだ。


 こんな奴の攻撃が一般人に当たればひとたまりもない。


 だから俺は即座に止めを刺すべく、全力で行動を始める。


「自然の息吹よ我が名のもとに万物に静寂をもたらせ、『豪雪暴風(ブリザード・ストーム』っ!!」


「くぅっ!? こ、こんな魔法なんざぁ……」


 俺が本気で放った二重魔法は、正面に映る世界全てを一瞬で銀世界に変えていく。


 エンカも身体から火炎を噴出して抵抗するが、それでも動きは鈍くなる。


「聖なる祈りに応え正しき者達に偉大なる祝福を齎し賜え、『聖祈昇威(セイント・ブースト)』」


 その間に更なる二重魔法を使い身体能力を異常に強化させると、一気に突っ込んでいく。


「邪を払う閃光よ我が剣に宿り力と成せ、『聖輝剣(シャイニングブレード)』っ!!」


 途中で魔法剣を作り出し、太陽のごとく輝く刀身を振り上げ思い切り振り下ろす。


「はぁああああっ!! 十文字斬(グランドクロス)っ!!」 


 最後にスキルを乗せて放つ、正真正銘俺の全力の一撃。


 それは瞬間的にエンカと、俺が放った魔法の吹雪をも飲み込み全てを消滅させていく。


「ふぅ……」


 終わってため息をつきながら、目の前の光景を見て思う。


(……や、やり過ぎたぁああああっ!!)


 俺の放った一撃の軌道にあったあらゆるものが消滅している……草木も大地も、山すらもだ。


 空を見れば雲一つない晴れ間になっている……どうやら全て吹き飛ばしてしまったようだ。


(ち、地形がめちゃくちゃに……ああ、俺はなんてことを……どうかこの延長線上に人家がありませんようにっ!!)


 俺の攻撃に巻き込まれた犠牲者が出ていないことを切に願う。


「あ……あぁ……」


「っ!?」


 背後からか細い声が聞こえてようやく少女の存在を思い出した。


 振り返ってみれば、まるで魂が抜け落ちたかのような顔でぼんやりとこちらを見つめている。


(そ、そりゃあいきなりこんなめちゃくちゃな威力の攻撃を見せつけられたらこうなるよなぁ……)


「す、すみません驚かせてしまって……も、もう大丈夫ですから……」


 とりあえず無害をアピールしようと剣を仕舞って笑いかけると、少女は怯えたように後ずさりすると……一気に飛びついてきた。


「お、お願いしますっ!! わ、私を弟子にしてくださいっ!!」


「えぇっ!?」


(こ、これを見て弟子になりたいって……この子は何を考えてんだっ!?)


「お願いですっ!! わ、私強くなって魔王を……魔王を退治したいんですっ!!」


「っ!?」


「も、もうこれ以上魔王に苦しめられる人を見たくないんですっ!! だ、だからどうか私を弟子にしてくださいっ!!」


 まっすぐな目で俺を見つめて懇願する少女。


(……俺とは違って真剣に魔王を退治したいと思ってるな……俺より全然勇者らしいことを言ってるよこの子……)


 本当の勇者のような発言をする少女に、俺は眩しさを感じてしまう。


 少なくとも俺たちの誰よりも……下手したら勇者コンテストでの優勝しか目に入ってない里の奴らよりずっとちゃんとしている気さえする。


(しかし、何でここまで悲痛な決意を……まだ魔王軍の被害なんかほとんど出てないって言うのに……)


 まるで実際に酷い光景を見てきたかのような、悲痛感あふれる言葉に俺は違和感を抱いてしまう。


「だ、だけどねぇ……君みたいな小さい子が……」


「こ、これでも十六歳になりますっ!! それにどんな辛い修行でもやり抜きますっ!! だ、だからどうか私に……このイキョサに修行をつけてくださいっ!!」


「い、イキョサぁっ!?」


 ご先祖様の名前を語った少女に驚きを隠せない俺。


 変な冗談でも言っているのかとも思ったが、その表情には嘘をついてる様子など欠片も見受けられない。


(ま、まさか俺……過去に来ちまったのかぁあああっ!?)


「どうかお願いしますっ!! 魔王と戦う力を私にご教授くださいっ!!」


 そう言って必死で俺に頭を下げるイキョサ様に、俺は眩暈すら感じながらどう返事をするべきか考えるのだった。

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