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勘違いの始まり、三人娘との出会い

ひたすら主人公が勘違いされて世界一の勇者になるお話です。


思い浮かんだその場のノリで書いています。

「勇者コンテスト……か」


 村の中央にある広場で開かれている催しを俺は冷めた目で見つめていた。


 俺が住んでいるのはかつて勇者を輩出し、また凱旋した勇者が子孫を残した村。


 勇者の子孫は例外なく人並み外れた力があった。


 だからその力を望んで村中の人間が次から次へと勇者の血縁となっていった。


 結果として勇者の血縁だらけになってしまったこの村では強くて当たり前のような扱いをされてしまう。

 

 多少剣が扱えて且つ魔法が使えなければ、逆に異常者扱いされて見下されてしまうほどだ。


 それこそ魔法の才能がなく剣術もさえない俺なんかは肩身の狭い思いをさせられている。


(だけど……いやだからこそ思うよ、お前ら馬鹿じゃないか?)


 勇者コンテストの壇上では20歳になり成人を迎えた住人たちの中から能力の高い人間が選別されている。


 誰もかれも誇らしげな笑顔を浮かべて……それが何を意味するのか本当にみんな分かっているのだろうか。


(もしも、ご先祖様の予言が当たればお前ら勇者として魔王退治しなきゃいけないんだぞ?)


 魔王、強大なる魔力でもって世界中の魔物を操り世界を闇に陥れた最強最悪なる存在。


 勇者であるご先祖様が伝説に残るレベルの仲間たちと協力して全力を尽くしてようやく退治した程の化け物。


 しかし退治される間際に呪いじみた遺言を残したことは、ディキュウ大陸に住む誰もが知っているおとぎ話だ。


『我は再び甦る、幾千幾万の世の果てに……人々の心の闇を虜に必ず復活を果たさん』


 未だに復活の兆候は見られないが、万が一魔王が生き返った暁には勇者を輩出したこの村に出動要請が出るのは間違いない。


 その際には確実にあの壇上にいる選ばれた人間たちが行くことになるだろう。


 まさか全員に装備を支給して出発させるような予算はないだろうし、となると強いのを厳選して出発させるのが当然だ。


(この村に居れば一応は勇者年金で最低限の生活は出来るわけだし……それで十分じゃないか)


 勇者の里には生活保障金が国から支払われている。


 本当に最低限だが食っていくだけなら問題はない。


 住むところは親の家がある。


 人の目さえ気にしなければ引きこもって暮らしていくことは出来るのだ。


 まだ世界には魔物が蔓延っていて危険が残っている。


 そんなところに出向いていく気にはなれない。


 あの壇上に立った優秀な奴らはきっと世界を旅するとか王都で就職するとか言い出すだろう。


(いや本当にさぁ馬鹿じゃないか……折角安全地帯でぬくぬくと暮らしていけるのになぁ)


 負け犬の遠吠えと言われるかもしれないが、俺は本気でそう思っていた。


 だから一生懸命鍛錬して勇者コンテストに参加する人達の気が知れないのだ。


(けど俺のほうが少数派なんだよなぁ、この村じゃぁ……やっぱり真面目なのも勇者の気質なのかな?)


 才能があるやつはともかく、俺より才能がない奴まで強くなろうと努力を欠かさない。


 全く理解できない話だ。


 しかし少なくとも俺以下の無能が居ること自体は救いでもあった。


 下には下が居るおかげで俺への蔑みの視線は少しは軽減されるのだから。


「サーボ、あんた今日も修行してないでしょう……そんなんだから昨年の勇者コンテストに参加すらできなかったのよ」


「はは、努力して参加できるなら俺以外全員候補者扱いされて壇上に登ってるよ」


「屁理屈ばっかり言って、いい加減何かしてもらわないと私たちが恥ずかしいのよ?」


「俺に出来ることがあればするさ、出来ることがなければしても意味がないじゃないか」


 当たり前の話だと思う、何かしたところでどうせ俺の才能では結果には結びつかないのだからやる意味がない。


 しかし家族はそう思ってくれないようで、わざわざ仕事を持ってきてしまう。


「ほら、ヒロさん家の一人娘のカノちゃん覚えてるかしら?」


「確か……前に落とし穴とか掘って叱られてた子だよなぁ」


「今じゃあんたより真面目よ、あの子が剣を使える齢になったから指導してきなさい」


「はぁ……いや俺なんかが教えるより他にもっと指導が向いてるやつがたくさんいるだろ?」


「あの子は可哀そうなことにやる気はあるけどあんたより才能がないみたいで……誰も指導を引き受けてくれないんだよ」


 なるほどと思った、確かに能力のない奴はココでは見下されている。


 そんなやつに関わっている暇があったらみんな自分を鍛えたいのだろう。


 だからやる気がない俺みたいな奴にまでお鉢が回ってきたようだ。


(勘弁してくれよ……面倒なのはごめんだ)


 生涯を楽にぬくぬくと生きていきたい俺にとって厄介なことこの上ない話だが、結局引き受けることにした。


 自分より才能のない奴に偉ぶるのはきっと気分がいいだろう。


 それに暇なのだから最低限のことを引き受けて、俺の居場所を確立するのも悪くないと思った。

 

 駄目な奴に対する指導係、元々駄目なのだから成果が上がらなくても文句はでないだろう。


(サボり放題で評価はもらえる、素晴らしいじゃないか)


 我ながら最低な人格だとは自覚している。


 だからこそせめて指導相手には表向きぐらいは丁寧に相手をしてやろうと思った。


「ど、どうも、わた……僕がカノです」


「よろしく、俺がサーボだ」


 やってきたのは俺の胸元ぐらいまでしか身長のない線が細い子供だった。

 

 服装こそ動きやすい格好だったし、髪の毛も邪魔にならないようとても短く切り揃えてある。


 だけど本当にこの子を指導するのかと疑ってしまうほど華奢で弱々しく、可愛らしい子だった。


「とりあえず、素振りをしてみて」


「は、はいっ!!」


 いい返事だった、目もまっすぐで力強い意志も感じた。


 だけど身体が付いてこない、俺ですら初日で何とか百回はこなせたというのに五十回でダウンしてしまう。


「うぅぅ……ご、ごめんなさい」


 悔しそうに涙を流しながら自らの不甲斐なさを謝罪すらするカノちゃん。


(真面目だなぁ……この程度もできないんだから諦めれば楽になるのになぁ)


「いいのいいの、初日なんだからこれから強くなればいいんだよ」 


 心中で馬鹿にしながらも、表向きは気遣う言葉をかけてやる。


「あ、明日からもお願いしていいんですかっ!?」


「当然じゃないか、これからよろしくね」


「は、はいっ!! 頑張りますっ!!」


 何故かとても嬉しそうな返事だった。


 後で親に聞いたところ初日の指導だけで何人にも断られていたらしい。


(はは、そりゃあ見込みないもんなぁ……)


 ちょっと笑ってしまった……ここで気の毒だとか思えない辺り俺は本当に屑だと思う。


 だけど俺には進展なんかどうでもいい、ただ指導してるふりだけ続けていればいいのだから。


 実際にカノちゃんの指導を引き受けたことで俺の家族と向こうの家族からの印象は良好だ。


(まあ努力は無駄に終わるだろうけど、便利に利用させてくれよカノちゃん)


 ほくそ笑みながら俺はカノちゃんの指導を続けた。


 他の奴らに嗤われないよう村の片隅での訓練が日課になった。


「九十九……百……で、できましたぁ……」


 何日か指導を続けているうちについにカノちゃんは素振りを百回こなすことに成功した。


「よくやったなっ!! すごい進歩だっ!!」


「ありがとうございますっ!!」


 嬉しそうに笑って誇らしげに胸を張るカノちゃんを見て、俺は内心爆笑していた。


(たった百回でこんなに自慢げにするとか……はは、本当に無能だぁ)


「よしじゃあ今度からは俺と模擬戦をしてみようか?」


「はいっ!! よろしくお願いしますっ!!」


(叩きのめしてストレス解消するか……はは、楽しくなりそうだなっ!!)


 少しだけ指導に身が入ってきた……完全に邪な理由だったが。


 素振りを百回行わせた後、ふらふらのカノちゃんを相手に俺は遠慮なく木刀を振るった。


 普通にやっても勝てるだろう。


 だけど確実に勝利して優越感に浸りたかったから疲れが抜けないうちに模擬戦をした。


「うわっ!! や、やっぱりサーボさんはとても強いですっ!!」


「そんなことはないよ、カノちゃんもどんどん腕が上達しているね」


「あ、ありがとうございますっ!! わた……僕もっと頑張りますっ!!」


「うんうん、その意気だよ……頑張ろうね」


(まあ確かに上達はしているよ、1mmぐらいはねぇ……いやぁ強いって言われるのは気分いいなぁっ!!)


 完全に俺の自己満足の為だけにカノちゃんを振り回した。


 それでもカノちゃんは俺を疑うことなく真摯についてきて、それがまた心地よかった。


 最も流石に罪悪感を感じないこともなかったから、せめて表向きの態度だけは決して真摯さを崩さないよう気を付けた。


 指導を続けて数年が過ぎた、15歳になったカノちゃんはとても成長していた……見た目だけ。


 美貌ばかりが育っていき、皮肉にも村の男性陣からの対応は物凄くよくなっていった。


 だけどカノちゃんはあくまでも勇者としての強さを求めていて、そういう声には一切反応を示さなかった。


「サーボ先生、お願いします」


「模擬戦だね、わかったよ……手は抜かないからね」


「はいっ!! いきますっ!!」


 素振り百回を終えても何とか息を切らさない程度には力もついた。


 だけど当然剣先はふらふらで俺に勝てるはずがない。


 女性でもカノちゃんと同い年の子は既に俺より強くなって大岩を叩き壊したり、魔物を退治したりしている。


(やっぱり才能ないなぁ……魔法も使えないし俺以下の奴らの中でもトップクラスに才能ないわ……)


「はぁ……はぁ……ま、また負けてしまいました……」

 

「でも確実に強くなってるよ、俺もだんだん押されてきたしね……この調子ならいずれ俺を超える日は必ず来るよ」


 それは事実だと思う、才能がないとはいえ努力を怠っていないカノちゃんは俺ぐらいなら何とか乗り越えるだろう。


 だけどそれが限界だ……だから全くもって無駄な努力だと言ってもいい。


「ありがとうございますっ!! もっともっと頑張りますっ!!」

 

 俺の言葉がどれだけの無情を籠めた発言なのか理解した様子もなくカノちゃんは純粋に嬉しそうに微笑む。


(愚かだなぁ……まあこの子には結婚っていう逃げ道もあるし、問題ないだろうな) 

 

 だからわざわざ現実を突きつけて夢を折る必要はないだろう。


 俺はひたすらにカノちゃんの望むままに指導を続けた。

 

 しかしそれはある日突然打ち切られた。


「あんた、もうカノちゃんの指導はしなくていいよ」


「急にどうしたの?」


「ほらこの間の勇者コンテストで優勝したテキナさんいるでしょ? あの子が指導してくれるんだって」


 唐突な話だったが同じ女性として思うところがあったのかもしれない。


「そっかぁ、じゃあ仕方ないね」


「あら、えらくあっさりしてるねぇ……あんなに熱心に働いてるの初めてだったのに」


「俺が教えるよりそいつが教えたほうがカノちゃんの為じゃないか、残念だけどそのほうがいいからね」


 半分は本当だ、ストレス解消にちょうどいい相手だったから勿体ない気持ちはある。


 だけどようやく自由を取り戻せた気分も大きい、どうせ才能のないカノちゃんが俺の元を去るのは決まっていたことだ。


(何だかんだで毎日修行に付き合ってたもんなぁ……疲れたなぁ……)


 久しぶりに一人きりになって、俺はゆっくりと余暇を楽しむことにした。


 だが次の日になるとカノちゃんは俺を呼び出し、いつもの訓練場で土下座したのだ。


「サーボ先生っ!! お願いです、僕を見捨てないでくださいっ!!」


「いや、わかっているはずだ……俺より遥かに強いテキナさんに指導を受けたほうが必ず上達するよ」


「あの人は僕が少し剣を振っただけで無駄だからって言って指導をつけてくれませんでした、他の道を探せって言うんです」


 全く持って正論だった、確かに勇者候補筆頭だけあって俺より遥かにまともなアドバイスを送っている。


(望むとおりに指導してやれば喜ばれただろうに……クソ真面目だなぁ)


「だけどね、君だって僕の指導じゃ成長できないと思ったからこそ彼女の所へ行ったんだろう?」


「ち、違いますっ!! 調子がいいって言われてしまうかもしれませんけど、今回の話は両親が勝手に決めたことなんですっ!!」


「でも行った、そして一応は指導を受けた……それが答えだよ」


 これ以上カノちゃんに関わるのはごめんだった。

 

 面倒ということもあるし、両親がわざわざテキナさんに依頼したということは俺の指導に不満を感じてもいるはずだ。


 成長の余地が殆どない以上は、このまま続けても向こうの家に下手したら悪い印象を与えてしまう。


 しかし何よりカノちゃんにここまで才能がないことが明白になった以上、諦めさせずに指導を続けたら逆に周囲から責められかねない。


 その前に打ち切ってしまいたかった。


「ご、ごめんなさいサーボ先生っ!! もう二度と先生を裏切るようなことはしませんっ!!」


「この際だからはっきり言おう、君には才能がない……他の道を探したほうがいい」


「っ!? さ、サーボ先生までそんなことを言うんですか……今までの指導は何だったんですかっ!!」


「何も疑うこともなく一心不乱に打ち込み続けたら道は開けたかもしれない……だけど君はぶれた、だから俺はもう無理だと思う」


 適当な発言だ、だけどカノちゃんは一度は俺の指導を断ったのだからもう真摯に対応する必要はないだろう。


「どういうことですかっ!? 僕はまっすぐ勇者になることだけを目指して頑張っていますっ!!」


「目的ではない、そこに至る過程がぶれているんだ……俺の指導とテキナさんの指導は違うものになると分かっていただろう」


「は、はい……だけど……」


「才能に恵まれてない君は他の道を選ぶ余裕はなかったはずだ、だけど君は近道があると思ってそれに飛びついてしまったね……その程度の覚悟では才能の差は覆せないよ」


(我ながらよくもまあこんなでまかせ口にできるよなぁ……でもここで諦めさせるのがお互いのためだしなぁ)


 何だかんだで今までは一度だって嘘やでまかせを言ってこなかった分、説得力はあったようだ。

 

 カノちゃんは顔面蒼白になりながら力なく地面に崩れ落ちると、嗚咽を洩らし始めた。


 これならもう俺に粘着することはないだろう。


 ほっとしながらも俺は重々しくその場を後にした。


 勇者を目指すことさえ諦めればカノちゃんにはいくらでも選択肢がある。


 ある意味では彼女の為なのだ……最も俺としてはこれで余計な面倒ごとを回避できたという安堵しかなかった。


「カノちゃん結局テキナさんの指導断ったみたいね、あんたまた引き受けるの?」


「いや断ったよ、テキナさんが駄目なら俺にできることはないからね」


「……あんたがそれでいいなら構わないけど、じゃあ代わりに今度は斜め前に住んでるシヨちゃんを指導してあげな」


「ま、またですか……」


 同じように才能のない子がいたらしい、断りたかったが暇なことを見抜かれてはどうしようもない。

 

 仕方なくまた訓練場で同じような指導をすることにした。


「は、初めまして……シヨです」


 今度の子は見た目からして女の子らしい格好をしていた。


 身長はカノちゃんより頭一つぐらい低い程度だが、スカートに長い髪をしていて見た目の印象は真逆だ。


 さらに10歳という幼さだけど将来は可愛く育つであろう整った顔立ちをしていた。


「初めましてサーボです、じゃあ早速だけど素振りから行こうか」

 

 素振りは七十回できた、カノちゃんよりはマシだが五十歩百歩というところだ。


「私……やっぱり才能ありませんか?」


「俺が前に指導した子は最初は五十回しかできなかったけど、暫くしたら百回した後で模擬戦を行えるまで上達したよ」


「ほ、本当ですかっ!!」


「うん、だから君も努力すればきっと強くなれるよ」


 どこまで強くなるかは言わない。


 指導中は嘘は言わないと決めているからだ。


(この子もまた美人になるだろうけど……勇者コンテストのノミネートは無理だなぁ)


 だけどまあ俺の優越感と評判のために利用させてもらうとしよう。


「……さ、サーボ先生」


「おやカノちゃん、どうしたんだ?」


 物凄く思い詰めた表情のカノちゃんが近づいてくる。


 かなり恐ろしいがまさか逆上して襲ってきたりはしないと思いたい。


「ぼ、僕にも指導を続けてくださいっ!!」


 また土下座をされた。


 追い払ってしまいたいがシヨちゃんの手前、どう追い払うべきか悩んでしまう。


「……俺は二人も生徒は持てないよ、前にも言ったけどもう君の指導は続けられない」


「あっ……わ、私は指導を続けてもらえるんですねっ!!」


「っ!?」

 

 喜ぶシヨちゃんを憎々しげに見つめるカノちゃん、これは放置したらまずいことになりそうだ。 


(身の周りで事件沙汰はごめんだからなぁ……)


「しかしそこまで熱意があるのなら考えてもいい」


「えっ!? ほ、本当ですかっ!!」


「ああ、だけどまずはご両親に許可を取ってきなさい」


 恐らくは親としてはもう勇者に見切りをつけて別の道を進んでほしいはずだ。


「わ、わかりましたっ!! 行ってきますっ!!」


 これで許可が出るまでは戻ってこないだろう。


 できれば二度と来てほしくはない。


「サーボ先生、あの人が私の前の生徒ですか?」


「ああ、とても努力家だったけど一度俺から離れて他の人に指導を受けてね……だからもうその人の言う通りにすべきなんだけどね」


「そ、その……サーボ先生が見どころが無いから見限ったんじゃないんですよね?」


「俺は誰も見限ったりはしないよ、シヨちゃんもついてきてくれている限りはずっと指導を続けるよ」


 この子も俺の所に来るまでに何人にも指導を断られていたようだ。


 少し疑いが混じっていたが俺がはっきり言うと嬉しそうに頷いた。


 俺はどんな才能のない子も見捨てたりはしない。


 別に成長させることが目的じゃないからだ。


「九十九……百回、サーボ先生終わりました」


「うんよくできました、じゃあ模擬戦をしようか」


 結局カノちゃんも戻ってきてしまい、俺は二人を同時に指導することになってしまった。


 才能がないことが分かり切っているカノちゃんの両親が指導の続行を許した理由は全く分からない、何を考えているのだろう。


「七十二……七十三……うぅ、もう限界です」


「ちゃんとできる回数が増えてきてるじゃないか、立派に成長している証拠だよ」


「あ、ありがとうございますっ!! あの、私も模擬戦してみたいですっ!!」


 シヨちゃんはやる気に溢れている、がどうにもカノちゃんへの劣等感が強いようだ。


(他の奴からすれば二人に大差はないんだけどな……やっぱり見捨てられないか不安なんだろうなぁ)


「最低限百回できるようになってからにしよう、一つ一つ確実に目的を果たしていこうね」


「わ、わかりました……頑張りますっ!!」


「サーボ先生、早く模擬戦しましょうっ!!」


「カノちゃんも焦らないで、今相手をするからね」


 カノちゃんも一度は自分から見限ってしまったと思い込んでいるせいで、やっぱり俺に見捨てられないか不安のようだ。


 しかもカノちゃんとシヨちゃんはどうも仲が悪いようで、お互いにお互いを無視しているような気さえする。


 最初は実力も境遇も近い者同士で切磋琢磨させることで楽になるかと思っていたためにこれは予想外だった。


 これも俺がとられるという不安からなのだろう。


(ああ、やっぱり二人同時は面倒だなぁ……どっちか一人誰か引き受けてくれないかなぁ……)


 とはいえ仮にも美少女二人から競って奪い合われる気分は悪くはない。

 

 もっとも男女の視線では決してないし、俺もそういう目で見たことはない。


 内心で見下して嗤わせてもらってるのだ。


 最低限の表向きは邪さを交えずに真摯に対応すべきだ。


(しかし二人とも本当に才能ないな、これだけ努力してカノちゃんも未だに俺に勝てないとか……)


 何だかんだで指導を続けているうちに二人とも少しずつは上達している。


 だけど俺に勝てるか勝てないか程度の実力を身に着けたところで虚しくなるのが落ちではないのだろうか。


(案外諦める瞬間が一番笑えるかもな……はは、真剣な目で訓練してる今も大爆笑だけどな)


 本当にいつかはあの勇者コンテストの壇上に登れると思っているのだろうか。


 夢を見すぎ、いやもはや現実逃避なのかもしれない。


 他の人には否定され続けてきて、俺の下でだけ初めて受け入れられてしまった。

 

 そして彼女たちの成長に元々期待していない俺は小さな成果でも褒めてあげる。


 まさにぬるま湯のような状態が心地よくて、辛い現実に立ち向かう気力を失ってしまっているのかもしれない。


(まあ俺にはどうでもいい、俺は俺だけ良ければそれでいい……大体やりたいと言ってるのは本人たちだからね)


 だから遠慮なく彼女たちの望むままに指導を続ける。


 それで彼女たちの将来が歪んでしまおうと知ったことではない。


 とはいえ見た目だけはどんどん美しく成長していく二人の将来は約束されたようなものだ。


 事実としてカノちゃんなんか歴代の勇者コンテスト優勝者たちからも声をかけられている。


 皆この村でもトップクラスに能力が高く、外の世界でも間違いなく通じる実力のある男たちだ。


 俺が同じ立場なら彼らを堕として優雅な主婦生活に突入するだろう。


 しかしカノちゃんは完全に拒否の構えを見せている。


 前回の件が未だに尾を引いているようだ

 

「カノよ、いつまでこんなことを続けるつもりなのだ?」


 そんな状態を心配した両親から頼まれたのだろう。

 

 テキナさんが俺の訓練場に押しかけてきてカノちゃんの説得を始めた。


 首から下がった勇者コンテスト優勝の証であるメダルが眩しい、アレがあれば生活は保障されたようなものだ。


 おまけに俺と並ぶ高身長に後ろで結ばれた長い髪がよく似合っていた。


 動きやすい軽装をしていながらも優雅で美しく感じさせるほどの美貌まで兼ね備えている。


 まさに完璧だ、カノちゃんたちと比べると世の中は残酷なものだと理解させられてしまう。


「九十九……百回、終わりました模擬戦お願いします」


 そんな立派な人間を全く相手にもせず俺にだけ話しかけるカノちゃん。

 

 大分精神的にやばいのではないだろうか。


「九十九……百回、私も終わりました模擬戦お願いします」


 シヨちゃんはチラチラとテキナさんを気にしながらもやっぱり俺にだけ話しかけてくる。


「はぁ……そっちの子もだけど、はっきり言って見どころがないっ!! このまま続けても時間の無駄ですっ!!」


「うるさいっ!! 邪魔するならあっちにいけっ!!」


「ど、どうしてそんなひどいこと言うんですかっ!!」


(酷いことじゃなくて正論だよシヨちゃん……そして邪魔なのを連れ込んでるのはお前だよカノちゃん、一緒にどっか行けよ)


 面倒で仕方がない、いっその事強引にさらってくれないかなとすら思う。


「確かサーボと言ったね……貴方も二人の才能の無さはわかっているはずだ、何故こんな無駄な指導を続けるんだいっ!?」


「二人の目にやる気と熱意を感じるからだ、それが無くならない限り終わりはない」


(俺から断ると折角の評価が下がりそうだし本当に迷惑なんだけどなぁ、さっさと諦めてくれないかなぁ……) 

 

「サーボ先生っ!! 僕もっともっと頑張りますっ!!」


「先生っ!! 私ずっと付いていきますっ!!」


 反射的についてくるなと叫びそうになってしまった、本当に勘弁してほしい。


「まるで詐欺師だな……わかった彼女たちの目を覚まさせてあげようっ!! 私と戦いたまえサーボっ!! 貴方の正しさを証明して見せてくれっ!!」


(何でそうなる……詐欺師云々は正解過ぎるけどさぁ)


「俺は戦わないよ、同じ人間同士で争うなんて愚かじゃないか」


「勇者コンテストは同じ人間同士での競い合いではないかっ!! 何をいまさら……それとも私に負けるのが恐ろしいのかっ!!」


(怖いに決まってるだろうが、なんでわざわざ村でトップクラスの実力者と戦わなきゃいかんのだ……)


「ああ恐ろしいね、正義と暴力の見極めもできずに力を振り回す君の姿には危険を感じてしまうよ」


 とにかく必死で口を動かしてこの状況を回避しようと試みる。


 仮にも勇者候補筆頭だ、正面から戦ったりしたら何かのはずみにあっけなく命を落としかねない。


「どうしても戦わないというのか……ではこの場で土下座して自らの指導が間違っていることを認めればこの場は去るとしようじゃないか」


「最低っ!! サーボ先生、こんなやつ叩きのめしてくださいっ!!」


「そうですよサーボ先生っ!! 先生は正しいんだから……正義は勝ちますよっ!!」


(勝てるわけねーだろーがっ!! 大体正しいのもあっちだよっ!! こいつら本気で頭いかれてるんじゃないかっ!?)


 しかしこのままでは収まりがつかない、テキナさんも諦めるつもりはなさそうだ。


「わかったよ……俺の指導は間違っていました、すみませんでした」


 なら俺が折れればいいだけだ、土下座して謝罪する。


「え……どうして……」


「なんで……先生……」


 生徒たちから悲観的な声が漏れる。


 ひょっとしたらこれで生徒たちから失望されるかもしれないが命に比べれば安いものだ。


 大体そこまでこの指導にこだわりがあるわけでもない、駄目になればまた自由な生活に戻るだけだ。


「な……あなたにはプライドがないのかっ!!」


 思い通りにしてやったというのになぜか激高している、困ったものだ。


 そのまま切りかかられたら厄介だ、仕方ないから適当に納得できる理由をでっちあげるとしよう。


「そんなものはいらないよ、仲間同士での諍いが避けられるならね」


「だ、誰が仲間だとっ!?」


「皆だよ……世界中の人間全員が仲間だろう? 敵は魔物だ、違うのかな?」


「っ!?」


 ようやく黙り込んだテキナさんを見て内心ほっと一息つく。


 これで襲われる心配はないだろう、後は生徒たちをどうするかだけだ。


「先生……あの……」


「失望させたかな、ごめんね……だけど俺には他に出来ることが思い浮かばなかったよ」


(いや本当にね……はぁ、どうしてこんな厄介なことになるんだよ)


「先生の指導は……間違っているんですか?」


「そうだね、勇者コンテストを目指すという意味では間違いだろうね……そういう意味じゃ君たちをだましていたわけだ、ごめんね」


 ここで否定したらまたテキナさんが激高しかねない、認めるしかないだろう。


「……じゃあサーボ先生が僕たちを指導していた理由はなんなんですか?」


「だから…………えっと……人類共通の敵である魔物、そしていずれ現れるであろう魔王と戦うためだよ」


「魔王と……っ!?」


「元々俺は人間同士で競い合う勇者コンテストに違和感を覚えていた、だって大事なのはどうやって協力して戦うかだろ?」


 我ながら適当全開だ、とにかくこの場を収めてしまいたい。


 後はどうにでもなれだ、命さえあればいいのだから。


「ご先祖様も仲間たちと協力して魔王を退治した、大切なのは仲間同士の絆じゃないか……だけど昨今の勇者コンテストは繋がりを否定する流れになっている」


 事実として自分の鍛錬につながるレベルの弟子しかとらない奴ばっかりだ、でまかせではあるが嘘ではない。


「……ご、ごめんなさい」


「……あ、あのすみませんでした」


 何故か二人の弟子がお互いに謝罪を口にして俺に頭を下げた。


「……少し頭を冷やしたい、済まないが今日は帰らせてもらおう」


 テキナさんは複雑そうな表情でこの場を立ち去った、何とか乗り切れたようだ。


 生徒たちは残って訓練の続きをしているし、とりあえず上手くいったようだ。


(何とかなったけど……いい加減もうこの指導ごっこやめようかなぁ)


 余りにも危険すぎる。


 恐らく生徒たちにも俺の実態はバレかけているはずだ。


 何より彼女たちは勇者コンテストの為に頑張ってきた。


 今は先ほどの話に納得していても冷静になれば俺から離れていくだろう。


 だったらその前に打ち切ったほうが綺麗に終われそうだ。


 俺はどうやって指導の終わりを宣言しようか考え始めた。

  

「九十九……百……僕は終わったよ、シヨちゃんはどうだい?」


「九十八……九十九……百……お、終わりましたぁ、やっぱりまだカノさんにはかないません」


「ううん、僕なんか百回するまでにもっと時間がかかったよ……すごい上達ぶりだよっ!!」


「えへへ、カノさんに褒められると力が湧いてきますっ!!」


 いつも通り訓練の時間が来たが、弟子二人は初めてお互いに声を掛け合っていた。


 どうも昨日の俺の言葉に思うところがあったようだ。


 しかし今更だ、俺はもうこの指導を打ち切ると心に決めている。


(まあこの調子だと俺が居なくなった後も二人で切磋琢磨して無駄な時間を過ごしそうだけど……はは、嗤えるわー)


 無能同士で励まし合って絶対に届かない高みに向けて永遠に訓練を続けるかもしれない。


 その真面目ゆえの悲劇は、俺みたいな怠けものにとって笑い話でしかなかった。


 俺の関わりのないところでならいくら何をしようとしったことではない。


 だからさっさと終わらせてしまおうと口を開こうとした時、またしてもテキナさんが姿を現した。


「今日は何の用なのっ!? 悪いけど僕は……」


「サーボ先生っ!! どうか私めも弟子にして頂けないでしょうかっ!!」


「……えぇっ?」


 まっすぐな目を輝かせて俺を見つめてくるテキナさん、その首には勇者コンテスト優勝の証であるメダルはぶら下がっていなかった。


「昨日の先生のお言葉を聞いて目が覚めましたっ!! 私は自らの力に溺れた愚か者だと気づいたのですっ!!」


「……頭上げようよ、土下座はやめようよ」


「あなた様の立派な思想に感激いたしましたっ!! どうか私めにも指導を……正しき勇者としての指導をお願いいたしますっ!!」


(どうしてこうなるんだ……勘弁してくれぇ……)


 すさまじく迷惑だ、冗談じゃない。


 こんな形で目立ちたくはない、というかどうやって現役最強クラスの実力者に指導をつけろというのか。


 とにかく断らなければいけない。


「テキナさんのような方にそこまで言っていただけるのはありがたい限りですが、俺には三人もの人間を指導する能力はありませんよ」


「け、決して迷惑はかけませんっ!! どうかお願いいたしますっ!!」


(現在進行形で迷惑かけてるじゃねえかよぉ)


「あ、あのサーボ先生……僕からもお願いしますっ!! 一緒に指導してあげてくださいっ!!」


「私からもお願いしますっ!! 皆で協力して強くなりましょうっ!!」


「ああ、皆……これが絆か、素晴らしい……何卒私めもこの一員に加えさせていただけないでしょうかっ!!」


 何故こうなるのだろうか、目の前で大中小揃った三人の美少女が土下座している。


 気分がよくないといえば嘘になるが、こんなところを他の奴らに見られたらお終いだ。


 この場を乗り切るためには……受け入れるしかなかった。


「わ、わかった君たちの覚悟ならやって行けるだろう、頭を上げてくれ」


「あ、ありがとうございますっ!!」


「流石先生っ!!」


「先生最高ですっ!!」


(な、何故こうなったっ!? お、俺の何が間違えていたというんだっ!? あ、全てかぁ……うぅ……神様ごめんなさぁい)


 俺は生まれて初めて自らの醜さを神に懺悔するのだった。


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