面倒事
今話の『げんち』は漢字変換ミスではなく仕様です。
昼前に姐さんはデオニーソス様の屋敷にまた訪れた。
そして諸々の説明をした結果、呆れたような表情をして一言。「愚か者」とだけ俺に言って、改めて依頼の内容を詰めて契約をし直した。
契約内容は最初からほとんど変わらず、『フルシュレイダー家当主の娘達に1人でも生きていけるだけの力を身に付けさせる』というものだった。ソコに新たに、『姉妹の教育を最優先に、フルシュレイダー家に勤める者の中でジュードに何か教わりたい者が現れればその者の指導もジュードの基準で可能な限り行うこと』が加わった。これにより報酬は元の白金貨1枚に戻った。
仕事は増えたが、実質采配は俺次第。有るのか無いのかわからない条件が増えただけだった。
ただ、元々の契約と大きく変わった事が数ヶ所有った。
元々三姉妹の指導に際して、暴力を奮うことを俺から申し出ていたが、デオニーソス様の方からその申し出を強力なものに変えた。元が『三姉妹の指導の際に暴力を奮わなければならなくなった時、ジュードは可能な限り怪我をさせないようにすること。怪我させた場合、何故怪我をするに到ったかを正確に報告すること。』という条件だったが、それが『死なず五体満足で魔術や自然治癒で治せるレベルのものであれば、それが教育に必要な事であるのならば何をやっても良いものとする。』って内容に変わった。
最初のデオニーソス様の事を思えば本当に別人だ。しかしこの提案を聞いた姐さんは少し目を開いただけで他に反応する事はなく、その提案を受け入れ契約書に記入した。恐らく、姐さんにとっては今のデオニーソス様ってのは見慣れたものなのかもしれない。
そんな感じでいくつか変更した契約内容に互いに了承なり自分の意見などを詰めていって本契約となった。
話が終わったところ直後に姐さんは「最初からこうしていればナリャナキア様を監禁しなくて良かったと存じます。ではこれにて失礼させていただきます。アナ様も悲しんでおられるでしょうから、慰めて差し上げてくださいね」と言い残して早々に帰って行った。
言われたデオニーソスは苦虫を噛んだような表情を一瞬だけして、「では私も政務が有る。ジュード君、明日からよろしく」と言って出ていった。
残された俺もいつまで残っていても仕方がないため俺のために用意されてる部屋へ向かった。部屋に戻るとソコには姐さんが来たときに一緒に持ってきてくれていた俺の装備が有り、約5日振りの装備を着込んで庭を借りて素振りなんかをした。
そうして再び一夜明け、今日。朝飯を喰い終わってすぐのこと。俺は屋敷の一室を借りて、長女と次女の2人と向かい合っていた。もちろん後ろには、俺の最初の要望の通り3人の付き人が居る。ソイツ等を一瞥したあと、俺は口を開いた。
「さて、予定外の事が起きて1日遅くなったが、今日からお前達を1人ででも生きて行けるように俺流のって言葉が付くが、色々教えて行く。
あぁ、色々言いたい事が有るかもしれないが、それは俺がちゃんとその時間を作るからその時に纏めて聞いてくれ。最初のこの説明時点だけの話だしな。
改めての挨拶は……要らないよな?自分の言うのもなんだが、お前達にとって俺の存在は恐らく記憶喪失や記憶改変が行われない限り忘れられないような奴になっただろうからな。それと言葉遣いだが、俺がここでこうやってお前等に対して指導をしている間はずっとこんな感じだ。直せと言われてもすぐには直せん。だがお前等の指導と平行して、俺もお偉いさん達が使うような言葉遣いを習う事になってるから、依頼終了後再会するような事が有れば、その時には今よりマシな言葉遣いが出来ると思う。
前置きが長くなったが、今から俺がお前達を鍛える上で1つ、絶対厳守のルールを作ろうと思う。お前等お偉いさんの関係者にわかりやすく言えば、俺の依頼の間だけの俺達が守る法律を作ろうって感じだな。
お前達に守ってもらう絶対のルールは1つ。『全ては自己責任』、だ。
お前達は俺のこの指導が嫌なのであれば逃げても良い。逃げても良いが、その場合問答無用でお前達の将来はデオニーソス様の定めたものになる。もう1度言うぞ?問答無用で、デオニーソス様の、定めたものになる。ソコにお前達の意思なんて物は道端のゴミのように捨て置かれる。
あぁ、もちろん、体調的にしんどい場合は休んでくれて良い。デオニーソス様も俺もそこまでオーガやデーモンじゃない。しっかりと朝飯の時にでも良いからお前等の口から伝えてくれれば良い。それすら難しいなら使用人を通してデオニーソス様に報告してくれ。だがその場合、参加しなかった分だけお前等が受けられた筈の俺の指導は無くなる。俺から教わる筈だった何かを教われずに今後困るのはお前等だ。どうなろうと俺の知ったことではない。それを理解した上で休む時は休んでくれ。もちろん、その休む理由が正当なものだと判断出来ないものだった場合は『逃げた』と判断する。判断するのはデオニーソス様だから誤魔化しは利かないぞ。
それと俺が教えた事を反復練習するのもお前達の自由だ。俺がこれから教えるのはだいたいが反復練習の末に身に付くような物ばっかりだ。だからそれを俺の指導時間以外にもやるのか、それともやらないのか、それはお前達の自由だ。だがその場合、自主鍛練で疲れたから腕が上がらないみたいな言い訳は聞かない。時間外に勝手にやった事なんて俺の知ったことではない。自業自得だ。
やらなかった場合も同じだ。反復練習を必要とする物は大抵全部が技術と積み重ねの結晶だ。自分が身に付けられる技術、自分が身に付けた技術を活かすのか腐らすのかはお前達次第だ。指導後どうなろうが俺の知ったことではない。
もう1回言うが、ルールは1つ。『全ては自己責任』だ。この絶対厳守のルールの基にこれからお前達の指導をしていこうと俺は思ってる。
長々と1人で語って悪かったな。何か聞きたい事が有るなら今から何でも聞くぞ?」
我ながら本当に長々と話したと思う。しかしこの前置きは絶対に要る。じゃないと後でキレられても「言ったよな?」って事が出来ない。お偉いさんって生き物は"げんち"、だったか?それを武器にする節がある。それで突き突かれるのがお偉いさん。ってな事をハゲが現役の頃の『タメになる話』とかなんとかで言ってたって話を聞いた事が有る。
つまり今回は「お前達も了承したよな?」って"げんち"で俺の落ち度が無いことを証明するために先に説明した訳だな。お偉いさんってめんどくせぇ。
俺の言葉を聞いて、というか聞く前からビクビクと怯えた様子の長女は何か言いたそうにしていたが、何やら次女に耳打ちした。耳打ちされた次女は半目で長女を睨んだあと、手を挙げた。
「なんだ次女?」
「質問です。あまりこういう話を家の者以外の、それも殿方を相手に言うのは本来憚れる事ですし公爵家の令嬢であり淑女である私が話すのは絶対に有ってはならない事なのですが、女性には月に1度のペースで特別な日が有りま」
「それ以上言わなくて良い。自分の疑問なのか他人の疑問なのかはこの際置いとくが、その場合の判断は当人達かアナラキア様やメイドといった女性陣の判断に委ねる。
というか、だ。誰の意思かはともかく、嫌だっただろうによく聞いて来れたな?」
「誰の意思かはともかく、私自身少なからず気になってる事ではありましたので。
もう1つよろしいですか?」
「なんだ?」
「『1人で生きて行けるように鍛える』と何度も仰っていますが、具体的にはどういった事を教えていただけるのでしょうか?
所謂剣術や魔術の行使のやり方、のようなものの事でしょうか?それとも冒険者として生きて行けるような指導でしょうか?」
やっぱり次女の方が優秀……というか、現実を見れているらしい。今自分が何をやらなければならないのかを理解してるみたいだ。だからこそスッと根本的な部分への疑問が出てくる。……なんて事を考えたところで考えるのを止める。いや、正確には頭が痛くなってきたから考えるのを止めた、だな。
基本俺は馬鹿なんだよ。なのになんで学者先生達みたいに理論立てしたり分析みたい事をしなきゃならないんだよ。頭痛ぇわ。
そりゃ考えないと死ぬ場合は必死に馬鹿な頭を使うが、そうじゃないのに頭使うとか頭痛ぇよ。
そう思ったところで何も考えず口から考えを吐き出す事にした。
「それを決めるのはお前等だ」
「……どういう意味でしょう?」
「俺は馬鹿だ。今も学者先生達みたいにお前等を分析してたが、少し頭を使っただけで頭が痛くなってきた。そんな俺が何かを教える為に何を教えるか考えるなんて事を進んでやりたくねぇよ。
それに元からどうするかは決めてた。それが『お前等がきめる』って事だ」
「その…、もう少し具体的に説明していただいても良いでしょうか?」
「俺はお前等が将来的に何になりたいのか、どうしたいのか、目標がなんなのか、そういった事を知らない。その上今回の依頼内容はお前等を1人で生きて行けるように育ててくれってだけだ。冒険者として頑張ってきたから今の俺が居る。だから当然冒険者としての知識ならいくらでも有る。だから聞かれれば何でも答えられる。
だがお偉いさんの生き方は知らない。農家の苦悩を……まぁある程度しか知らない。鍛冶師になるためには何をすれば良いかなんて力が要るだろうって事しか知らない。
お前等がそういった道を望んでいたとして、それなのに冒険者としての生き方や知識を教えたって直接的には役に立たないだろ。でもお前等がなりたいものやりたいものになるには何が必要か調べる事なら出来るし、調べてわかった事からそれに必要そうな事を教える事なら出来る。
仮に鍛冶師を目指すとするが、鍛冶師になるためには力が必要って事はわかるから、俺が鍛冶師について調べてる間にお前等には俺が普段やってるような筋トレをやってもらう。それで調べ終わったら、ソコから必要な事を伝えてそれに必要な行動が何かを考えてそれを実行してもらう。
冒険者ってのは依頼で何かと色んな事に手を出すことが出来る職業だ。そう思って俺もある程度色々体験してるから、ソコから似たものを選んで教えられると思う。
だからお前等次第だ。お前等が何をやりたいかで俺のやること教えることが変わる」
言い終わると次女は「なるほど……」と呟いただけで何かを考え始めた。
そしてすぐに結論が出たのか、次の質問をしてくる。
「では、例えばですが、私達が何をしたら良いのかわからない。選べないと言った場合は何を教えてくださるのでしょうか?」
「その時はお前等がお偉いさんの娘って事で、短剣の使い方と体の動かし方なんかを教える。もちろんある程度体も鍛えないと駄目だから体力作りや力を付けてもらうために筋トレもしてもらうつもりだ」
「何故短剣の使い方、体の使い方になるのですか?」
「お偉いさんってのは命を俺達平民より狙われる生き物だ。だから命を狙われたとき、少しでも生きられる可能性を上げるために逃げる為の力と守る為の力を付けてもらう為だ。
あぁ、そうそう。別に何も目的が無くて、ただ俺の指導を受けるだけというのも良いが、その場合高確率でそのままフルシュレイダー家を継ぐって流れになると思うから、少なくとも俺の依頼期間終了の5日前ぐらいまでには何をやりたいのか自分の中で結論を出しといてくれよ。調べる時間ってのも必要だしな」
そこまで話すと次女は「ありがとうございました。私からの質問は以上です」と言って黙った。
対して、長女は俺達の話を聞いて元から少し悪かった顔色が更に悪くなって、額からは汗の粒が目視出来るぐらい浮かび上がっていた。
…………長女は色んな意味で駄目そうだな。
次女は何かを考えているらしい。
まぁ、わかっていた事だが、流石に話が早過ぎたな。
「何をやりたいのかは昼飯の後に聞く。それまでにしっかりと考えといてくれ。
その間、俺は俺でもう1つの仕事をやる」
俺の言葉を聞いて、何かを考えていた次女は俺へと視線を向け「もう1つの仕事ですか?」と聞いてきた。
「依頼の報酬を白金貨1枚に戻してもらう代わりにお前等の指導を優先にこの屋敷で俺から何かを教わりたいって奴の指導もしてくれって言われててな。お前等に時間をやって暇になるんだ、その間に他の仕事を片付けようとするのは不自然な事じゃないだろ。
という訳だ。昼飯まで好きに過ごしてろ。昼飯を食い終わった後にお前等の答えを聞く。それ次第で昼から本格的に動き出すからそのつもりで」
「じゃあな」。そう言って部屋から出る。なんか次女が言いたそうにしてたけど無視。何を聞きたいのか知らないが、今は1人で考えてろ。
そう思いながら、俺に付いてるメイド──昨日の朝早くに俺の呼び出しに応えてくれた黒髪のメイド──にデオニーソス様の所に行きたいと言って案内してもらった。
メイドはずっと黙ったままだったが、敵意のような刺々しいものを感じなかったから、まぁ彼女の性格か何かだろう。
そんな事をメイドを観察しながら案内されてる内にデオニーソス様が居るという"しつむしつ"ってヤツに通された。
デオニーソス様に現時点での考えを伝え、「時間が余ったからもう1つの方の仕事をするから何処でやれば良いか教えてくれ」と頼んだ。そしたらこの家の騎士達の訓練場に行けと言われた為、黒髪のメイドの案内で訓練場に向かう。
向かうとソコでは、騎士達が、当たり前だが訓練をしていた。全員が横に並び、一糸乱れぬ動きで剣を上段に構えて下段へと振り下ろす。剣の素振りの中で最も簡単で基本的な素振りをしている所だった。
俺はメイドに案内のお礼を言って、その中で1番偉そうな奴に近付く。
「すまん、少し良いか?」
「ん?あぁえぇと、確か」
「ジュードだ。冒険者のジュードだ。今はこの家の長女と次女の指導する依頼を受けてこの屋敷で厄介になってる。言葉遣いについては、ここで世話になってる間に学ぶ事になってるから今は特に容赦してくれると嬉しい」
「あぁそう言えばそんな名前でしたね。初めまして。私はレッペリオ・ベルベンベンデット・アールと申します。以後お見知りおきを」
「よろしく」
目の前のベルベンベンデット様はなんというか、平民を馬鹿にするタイプの人間らしい。俺の自己紹介を聞いて馬鹿にしてきた奴等と同じように大袈裟な態度で自己紹介してきたから、たぶん合ってるだろうな。
そんな事を思いつつ、ここに来た目的を話す。
「デオニーソス様から俺の依頼の話は聞いてるか?」
「いえ。あぁ、そう言えばフルシュレイダー様が仰ってましたね。雇った冒険者に何か教わりたい者は頼むと良いとかなんとか。
それが何か?」
「さっきデオニーソス様にその事について何処でやれば良いかを聞いたらここを指定されてな。たぶん、俺や騎士様達の得意分野のような頼みごとをされても良いようにここを指定したんだろうな。
って訳でだ、もし俺に戦闘訓練を付けてほしいって奴が現れたら此処を借りたくてな。先に此処の責任者様に挨拶しておこうと思ってな」
「なるほど。確かにいきなり使われては我々も困ります。ですが前以て知らせていただいていれば対処もしやすいというもの。
ではあちらの隅をお使いください」
そう言って指し示されたのは鎧や恐らく刃の潰された模擬剣や模擬槍なんかが散乱する場所だった。
あぁ、こういうタイプね。
「一応聞きたいんだが、なんで彼処なんだ?あぁ、別に貸してくれるその事事態に文句は無いんだ。ただ俺も依頼で受けた仕事だから中途半端はしたくないんだ。だから聞いておきたい。なんで彼処なんだ?」
「その疑問は当然かと思います。そしてその理由は単純です。
聞けば貴方はSランク冒険者で最近パーティーを抜けられたのだとか。Sランクへの昇格は抜けたあとすぐの事だとか。抜けたあとすぐにSランクになったという事は、恐らく1人でSランクになったとても素晴らしいお方なのでしょう。
対して我々は貴方の足下にも及ばない木っ端。普段通りの訓練ですら大変で、この訓練場を目一杯使っている状態です。そんな中、貴方に場所を貸してしまっては我々の訓練が成り立たなくなってしまう。
なので双方の意見を通すために示したのがあの場所となります。
あの場所は普段から使っておりません。それに片付ければそこそこの広さになりますので、ご自由にお使いください」
長々と、そんな事を腹の立つ笑みを浮かべながら言ったベルベンベンデット様は満足そうな表情をしていた。
たぶん、俺に喧嘩を売って俺をキレさせて暴力を奮わせて俺を野蛮な奴だとかなんとか言って追い出そうとしているか、暴力を奮わず言葉通りに片付ければ片付ける手間が無くなってラッキー……とかなんとか考えてんだろうな…。
俺は、ベルベンベンデット様のように見たら腹が立ちそうな笑顔と意識しながら笑顔を作り、案内してくれたメイドを指差した。
「彼処にメイドが居るのがわかりますか?」
「……?えぇ、まぁ、フルシュレイダー様に仕える使用人の1人ですね。彼女が何か?」
「彼女の仕事は2つ有るんだ。1つは俺の手助け。まぁ、普通のメイドの仕事だな。
もう1つは監視だ。監視対象は俺と俺の周り。
ベルベンベンデット様。俺は予め、俺や周りの身を守るために自分から監視対象を付けるようにデオニーソス様にお願いしていたんだ。俺が悪さをしないように。俺の仕事を邪魔しようとする下手人が誰かを明確にするために。
デオニーソス様を裏切らない。デオニーソス様の命令に絶対の人達を付けるようにお願いしてるんだ。
そんな人達が監視内容を報告する相手はもちろんデオニーソス様だ。
なぁベルベンベンデット様?最終確認だが、本当に俺に貸してくれる場所は彼処で良いのか?」
言外に、「テメーのクソッタレな考えなんてテメーと会う前からお見通しなんだよ!チクられたくなかったらさっさと素直に場所を寄越せ!」と伝える。
するとベルベンベンデット様は口許をヒクつかせて顔を少し赤くしながら、訓練場の端を指差した。
「彼処を使え。但し、訓練の邪魔はするなよ平民」
先程までの取り繕った態度は何処へやら、明らかに喧嘩腰にそう言ってきて、まるで「さっさと行け」とでも言うかのように剣を奮われた。
「貸してくれてありがと」
敢えてニヤニヤニチャニチャしながら礼を言って、最初に示された方に進む。
すると慌てた声が後ろから掛かった。
「何処へ行く!ソッチは許可した場所ではないぞ!!」
「あぁ、勘違いしてるみたいだから言っとくが、別に俺はベルベンベンデット様に喧嘩を売りたい訳でも脅したい訳でもない。むしろ、短い間とはいえ同じ敷地内で今後少なからず関わるかもしれないんだ。だから仲良くしておきたいと思ってな」
言って、散乱している鎧や模擬剣模擬槍を拾って恐らく収められていたであろう場所に仕舞っていく。
というかこれ、ベルベンベンデット様の指示か?それとも教育が行き届いてないのか?鎧ってのは身を守る大切な防具だ。それに例え模擬戦用とはいえ武器をその辺に置いとくなんて管理がなってない。防具と武器の管理はそのまま命に直結するんだから日頃から手入れをしておくのは当然の事だろうに。
……散乱してるって事は、少なくともこの状況をベルベンベンデット様は良しとしてるって事だよな。お偉いさん故かなんなのかはわからないが、武器防具だってタダじゃないんだぞ…。
そんなベルベンベンデット様への不満を内心で吐き出しながら片付けていく。
途中、何度かベルベンベンデット様達騎士様達を見たが、まぁ、結果は言わなくてもわかるだろう。
というか、剣の振り方が遅い。遅過ぎる。騎士様ってものにはギルドランクで言うCランク相当の実力を平均で求められる。最低そのレベルが求められる。それ以下は騎士見習い扱いだ。
さっきのベルベンベンデット様の口振り的に、恐らく彼処で剣を振ってるのはデオニーソス様の正規兵。その正規兵の訓練で奮われる剣速がEランクレベルなのは流石に問題だ。
「ちょっと!」
メイドを手招きして呼ぶ。そしてこの訓練光景を報告するようにお願いしておく。
流石にこれは見過ごせない。俺に仕事が回ってきたら、その時は丁重に断るか断らなくても報酬白金貨1枚以上で新たに依頼という形を取ってもらう。
でもこれを見過ごせるほど楽観視出来るレベルじゃない。これを見過ごして『もしも』の時が来たら、騎士様に守られる筈の俺達は蹂躙される。その守る対象が長女や次女みたいな女子供なら最悪だ。
って事をメイドに伝えると、彼女は「少しお待ちください」と言って何処かへと走り去って行った。
それを見たベルベンベンデット様は何やら焦った表情で俺の所まで走って来て、そして怒鳴り始めた。
「貴様!何をあのメイドに吹き込んだ!!」
「別に何も。ただ、汚れた鎧の手入れをしたいから酢と布を持ってきてほしいとお願いしただけだ」
「それだけなら別に走る必要はないだろぉ!正直に答えろ!何を吹き込んだ!!」
顔を真っ赤にして、なのに顔面汗だらけのベルベンベンデット様が剣先を俺へと向ける。
あぁ、この人終わったな。これだけ大声で怒鳴ってるんだ、騎士様達は素振りを止めて俺達の様子を見てる。
練度低いなぁ……。
「今の貴方は何を言っても信じないでしょベルベンベンデット様?
だから耳に入るであろう言葉を言います。死なないことを願ってます」
向けられた剣先を指で摘まんで剣を握るベルベンベンデット様ごと持ち上げてベルベンベンデット様がさっきまで居た場所目掛けて投げる。
飛んでいくベルベンベンデット様を一瞥したあと、適当に1番デカイ模擬剣とバックラーぐらいの大きさの盾を拾い、騎士様達の方へ歩く。
「まぁ、なんだ。この後の展開ってヤツが読めてる。追い詰められた馬鹿って奴は何も考えずだいたい同じことをやるんだ。だから言ってやる。
来いよ騎士様達。ちょっと俺とイチャイチャしようぜ」
剣を握る方の手の掌を上に向け、人指し指を騎士様達に向けた状態からクイクイと曲げて挑発した。
この世界に於けるギルドランクによる強さの基準を某大人気国民的バトル作品を交えて例えますと、
G:小学生レベル
F:中学生レベル
E:高校生レベル
D:プロの格闘家レベル
C:仙人や魔人編の主人公の長男の彼女レベル
B:純粋な人間で純粋な地球人最強レベル
A:主人公がスーパーなヤツに覚醒した時の強さレベル
S:細胞編以降の主人公側に求められる強さレベル(ピンキリ)
以上のランク全てに求められている強さはあくまで基準であり平均です。
【レッペリオ・ベルベンベンデット・アール】
ベルベンベンデット伯爵家出身の騎士。茶髪茶目の個性の無いフツメン。26歳。
ベルベンベンデット家現当主の三男で、彼の父親が必死にリューベルバルクに頼み込んで彼の騎士として就職する。
基本的に人を見下す。ただ自分より強い者、権力が有る者には全力で尻尾を振る小者。実家の爵位によりリューベルバルクより一応騎士隊の隊長を任されている。しかし能力は無く、自分が部下達より弱いと思われたくないが為に部下達に適当を言って素振りの速度を自分が見える速度まで制限している。
この日この時はたまたま騎士団団長の休みと副団長の指示によって彼が訓練の指揮を取っていた。
性癖は児童愛者。つまりロリコン。ナリャナキアを襲いたくて仕方がない。