一件落着…?
「……………夜明けか」
目が覚める。起きたベッドはこれまで経験したことがないほど良質で快適な睡眠を与えてくれた。目が覚めただけでそう感じ取れるほど物凄く気持ち良く起きることが出来た。
体を起こす。体を起こしてベッドから出て体を伸ばして解す。
窓から入ってくる光はまだ薄暗いものだが、1秒感覚で徐々に明るくなってきていた。
さて、どうしようか?
いつもなら起きたと同時にメイン武器のファルシオンでの素振りをするんだが、装備事態を姐さんの指示でギルドに置いて来てしまってる。だからファルシオンで素振りをすることが出来ない。同じぐらいの重さの大剣で素振りをしても良いが、そんなものはこの場には無い。何より昨夜の事が有るから武器系統なんて持てないだろうな。
そうなると、仕方がない。明朝から申し訳ないがメイドに手伝ってもらうか。
昨夜アッシャンベルド様に言われたように机の上のベルを鳴らす。するとすぐにメイドが1人入ってきた。
「ジュード様、如何なさいましたか」
「こんな朝早くに悪いな。
昨夜の事が有って日課の素振りをするのに躊躇いが有ってな。だからメイドでも誰でも良いし、余ってる物とかで出来るだけ重い物を持って来てくれないか?
あぁ、別に重い人って訳じゃなくて、人なら複数人、物なら重い物をって意味な。
頼める?」
「アッシャンベルド執事長よりジュード様の望みは出来るだけ聞いてやれと命令されておりますので問題ありません。
重い物、または人を複数人、ですね?畏まりました。では少しの間お待ちください」
メイドはそう言うと出て行った。
言ってみるもんだな。というか俺、今後アッシャンベルド様に頭が上がらなさそう……。
そんな事を考えつつ、メイドが戻ってくるまでの間に、この部屋の中で1番重そうで両手で持てそうなソファーを重りとして、ベッドの下の隙間に足を引っ掻けて腹筋をする。
上体を起こす度にソファーが宙に浮き、天井にぶつかりそうになる。それを堪えて体を再び寝かせば、今度は床にドンッと打ち付けないように下ろしてギリギリ宙に浮くぐらいで止める。これを繰り返して腹の筋肉と腕の筋肉を虐める。数なんて数えない。限界までやる。
ソファーが天井にぶつかる事故を思うと、この屋敷の一部屋一部屋の天井までの高さが高くて本当に良かった。
そうやって時間を潰していると、そろそろ折り返しかと思い始めたタイミングで扉が叩かれた。
少し待って欲しいことを伝えて1度ソファーを下ろして立ち上がり、ソファーを元の位置に戻して窓を開けてから中に入ってもらう。
入ってきたのは何も持っていないメイド1人、彼女達が持つには重そうな壺を抱えてたメイドが3人入ってきた。
「ご指示の有ったようにメイドを複数人、重い物をとの事なので水瓶を持って参りました」
「ありがとう。あ、その3人のメイドはアッシャンベルド様が呼びに来るまで借りてても問題無い?」
「…………何を為さるのかは存じ上げませんが、私の方からアッシャンベルド様に彼女達の事は伝えておきますので自由にお使いください」
「重ねてありがとう。あー、悪い。手持ちが全く無い事を忘れてた。
取り敢えず次金が入った時に"お礼"は渡すな」
「アッシャンベルド様より賄賂の受け取りは固く禁じられておりますので受け取ることは出来ません。ですがその気持ちは嬉しく思います。ありがとうございます」
「俺からのお礼だから賄賂じゃないんだけどな、アッシャンベルド様に禁止させられてるなら仕方ない。
じゃあ俺の用事は一応終わりだな。わざわざ朝からありがとう」
「いえ。では失礼いたします」
そう言って最初に部屋に来てくれたメイドは出ていった。
俺は残されたメイド達に目を向け指示する。
「じゃあ、その水瓶を持ったまま俺の上に座ってくれるか?」
別に被虐趣味が有る訳じゃない。いや、ある意味被虐趣味か。
俺はうつ伏せになるような状態で体を伸ばし、両腕は床に垂直になるように立てる。まぁつまり腕立て伏せだな。
その態勢になって片腕を床から離して親指を立てて自分の背中を示しながら「乗ってくれ」と言った。
戸惑いながらも彼女達は全員水瓶を持ったまま乗ってくれて、全身、特に腕へとほどよい重圧が掛かった。
「じゃあ、こんな感じでアッシャンベルド様が呼びに来るまで付き合ってくれると助かる。
あぁ、嫌になったらいつでも言ってくれ。その時点でいつもの仕事に戻ってくれて構わないから」
返事を待たず、言ってから腕立てを開始する。
彼女達と水瓶の重さを足してちょうど普段の装備一式より少し重いくらいか?そんな事を考えながら、腕が悲鳴を上げるまで続ける。
それから、腕立てをいつまでやってたかはわからないが、開けた窓から良い匂いがしてきたところでスクワットに切り換えたりしながら己の筋肉を虐め抜いた。
途中、協力してくれたメイド達に遠回しにエロオヤジのような発言をしてしまったが、謝ったら許してくれたため事なきを得た。
そうやって時間を潰し、ようやく体が温まってきたところで扉が叩かれる音が聴こえた。
メイド達を下ろして礼を言ったあと返事をする。返事をして入ってきたのはアッシャンベルド様だった。
「朝食の準備が整いました。ジュード様、主人がお呼びです。是非とも朝餉の席に一緒に座って欲しいと」
「それは…つまりそういう事なのか?」
「そういうことです」
どうやら許されたらしい。いや、依頼の事はまだわからないが、少なくとも昨夜の件は許されたみたいだ。
改めて付き合ってくれたメイド達に礼を言ったあと、アッシャンベルド様の先導に従って食堂へと向かった。
向かう途中、アッシャンベルド様に密室でメイド3人と何をやっていたのか聞かれたけど、疚しいことは何もしてないから普通に説明したり、昨夜俺を部屋に案内してからどうなったのかを聞いたりした。
メイド達の件については怪しい目で見られたけど、昨夜あのあとどうなったかはちゃんと教えてもらえた。
あのあと、結局晩飯は各々の部屋で食べることになったらしい。
まぁ、あんな事が有ったしね。その直後にその場で飯を食うって訳にはいかないもんな。
で、肝心のデオニーソス様はロクに食べず、そしてロクに寝ず一晩考えたらしい。アッシャンベルド様が付き合う方の気にもなれって愚痴ってたからたぶん本当なんだろうな。
そして他の面々、つまりフルシュレイダー家の女性陣については、まぁ、なんの説明もされなかった。ただ三女については、デオニーソス様が昨夜の内にどうするか決めたらしく、少なくとも俺がこの街に居る間は自室で軟禁することに決めたらしい。
アッシャンベルド様曰く、デオニーソス様的に娘に対する罰としては1番重い罰なんだとか。
俺からしたら「まだそんな甘い事を言ってるのか」って思うが、それは少なくともこれから聞かされる依頼の件について結論を出すまでのその場凌ぎって事を説明されたから、まぁそうなんだろう。
ある程度の説明をされたらいつの間にか食堂に着いていた。
アッシャンベルド様が先導して扉を開けてくださる。中には昨夜と同じ席にデオニーソス様が座っていて、その右手側にはデオニーソス様の奥さんが座っていた。そういえば名前知らないな。
昨夜三姉妹が座っていた場所にはまだ誰も座っていなかった。……もしくは誰も来なかった故の空席なのか。
まぁ、さっきのアッシャンベルド様の説明が本当なら三女が来る可能性は限りなく低いだろうから、三女の席については空白でも不思議じゃないか。
食堂内を観てみそんな事を考えながら、アッシャンベルド様が引いた椅子に座って飯が運ばれて来るのを待つ。
ただデオニーソス様達の前に何も置かれてないから、たぶん三姉妹達はまだって事だろうな。
そこまで考えたあとは、座っていても出来る筋肉虐めで暇を潰す。日課のように|素振りと走り込みが出来ない《体を動かせない》とどうしても体が鈍る気がする。冒険者は体が肝心要で商人風に言うなら商品だ。出来るだけいつでも変わらない力を出せるように常にしておきたい。
そうこうしている内に次女が入ってきて、次に長女が入ってきた。
2人が席に着いた時点でデオニーソス様が話し始めた。
やっぱり三女は来ないらしい。
「皆、おはよう。昨夜は…、色々と有ったな。だが、だからこそ彼にはこの場に来てもらった」
デオニーソス様の言葉と共に俺に視線が集まるのを感じた。
俺へと視線が集まったのを確認するとデオニーソス様は続きを話し始める。
「彼の昨夜の諸行を思えば本来であれば我々と共にこうして席に着き朝餉を共にすることはまずあり得なかっただろう。だが彼の蛮行は、同時に私が彼にした依頼への真摯な態度によるものであり、本気で我々の事を想った故の行動だったとも言える。
昨夜の内に彼の素行についてはギルドに確認を取ってある。
彼の素行はどちらかと言えば悪い印象を受けるものが多かった。だがその内容を詳しく聞けば、全て彼に喧嘩を売った相手側がそもそもの原因だったと判明した。そして相手にし返せば、そこで新たな火種が生まれない限り報復をしない。その場で手打にしているということもわかった。
売られた喧嘩に対して相応の報復を行うのは我々貴族と思想は同じだ。
そして彼の素行の中には金銭に関するものが有る。曰く金遣いが荒いそうだ。それについても詳しく聞けば、彼は己が感謝した相手にお礼代わりに金銭を渡しているらしい。彼の感じた恩に比例して比例した額を渡すわけだ。これも我々貴族と思想が同じだ。
つまり、昨夜彼の事を乱暴な者だと感じた者も居るだろうが、彼はこちらが相応の対応をすればそれに応えてくれる男だという裏が取れた訳だ。こちらが友好的に接したら相応の態度で接するということだ。
故にリューベルバルク・フルシュレイダー・デューク・デオニーソスはこう結論付けた。昨夜の彼の蛮行は我々の罪に比例したものであり、つまり彼は鏡のようなものだ。故に今後彼に対して友好的に接すればそれに比例した益を我々に齎してくれると。
だから昨夜の事について、私は彼を許そうと思う。これは当主としての結論である。異論が有る者は名乗り出よ」
デオニーソス様のもはや演説とも言える宣言はとても迫力が凄く、昨日のあの娘を想うものの貴族家当主としての考えに板挟みになっていた男の陰は全く見えず、むしろ感情論なんて一切持ち出さない厳格な男に見えた。
デオニーソス様の奥さんや長女次女や使用人含め、俺以外の全員が異を唱えず頭を垂れた。
こんなの見せられたら嫌でも思う。やっぱりデオニーソス様は俺とは全く違う上流階級の人間なんだってな。
しかし、これで話が丸く収まった。そう思ったんだが…、どうやら神様って奴は波乱が好きらしい。本来であれば此処には居ない筈の奴の叫び声が上がった。
「ふざけないで!なんでそのゴミの行いが許されるのよ!今すぐ殺しなさいよ!!殺さないのなら私が殺す!!」
言うまでもないだろうが、三女だ。
食堂の入口から入ってきたクソガキはズカズカと貴族の淑女とは思えない足取りでデオニーソス様に近付いたあと、あろうことかその胸倉を掴んで唾を飛ばしながら怒鳴り始める。
「ねぇお父様!何故あのゴミを許して何故私は部屋に閉じ込められないとならないのよ!何よりなんで殺さないのよ!!
お父様も昨夜見たでしょ?!私はあのゴミに顔を汚された上に乙女の大事な体に傷を付けられ手首を砕かれるほどの仕打ちを受けたのよ!?なんで殺さないのよ!ちゃんとした理由が有るんでしょうね?!!」
あぁ、やはり三女は三女だったらしい。己の事しか考えてない。
内心「やっぱりな」なんて感想を抱いて、この後なんだかんだデオニーソス様がクソガキを宥めてこのまま飯を食いながら依頼の話になるんだろうと思っていた。
だが、少なくとも昨夜までなら考えられない声が聞こえた。勿論口を開いたのはデオニーソス様で、その内容はクソガキの言葉に対する返答だった。
だがその声は恐ろしく冷たく、端から聞いてるだけの俺でも背筋を伸ばして身構えるほど威圧感のあるものだった。
「言いたい事はそれだけか?」
「言いたい事はそれだけってどういう意味………えっ?」
流石のクソガキも明らかに今までのデオニーソス様と違う──であろう──反応に固まった。勿論俺も固まった。ついでに言えば、視界に映る長女と次女も固まっていた。
「何故私の命令に背いてこの場に居るナリャナキア。私は部屋に居ろと言っていた筈だぞ」
本当に昨日の娘を溺愛する男は何処へやら。我が子に向ける事なんて絶対に無い筈の、それこそゴミを見るような目で三女を見るデオニーソス様に別に俺に向けられたものでもないのに一瞬体が硬直してしまう。
そして慌ててデオニーソス様の奥さんとアッシャンベルド様を見た。
勿論『あの人は誰だ』って意味でだ。
デオニーソス様の奥さんは少し哀しそうな表情しながら、しかし少し微笑ましそうに笑ったあと俺から視線を完全に外してデオニーソス様の方を見た。
ならばとアッシャンベルド様に視線を向ければ、声には出ていなかったが唇の動き的に『頑張りました』って言ってるように見えた。
アンタが原因か!!
そんな冷ややかな目を向けられた当の本人である三女は完全に萎縮してしまい、デオニーソスの胸倉を離して『信じられない物を見た』といった風に目を見開いて1歩2歩と後退った。
「答えろナリャナキア。何故私の命令を無視してこの場に来ている」
「あ、え、それは、いや明らかにお父様様子がおかし、なん、今までこんなこと1度も無かったのに、なん」
三女は完全に混乱しているらしく、デオニーソス様の声は届いてないようだった。そして立っていられなくなったのか腰を抜かしたように座り込んだ。
というか、本当に怖ぇなデオニーソス様。小さい子供が今のデオニーソス様を見たらチビるんじゃねぇか?
あ、三女の着てるドレスのスカート部分の床に面してる所が濡れてる。
「答えろ。と言っているんだナリャナキア。何度も同じ質問をさせるな。
次同じことを問わせたら1ヶ月は一切部屋から出れないと思え」
「お父様は私にそんなこと言わない。お父様は私にそんなこと言わない。お父様は私にそんなこと言わない。お父様は私にそんなこと言わない。お父様は私にそんなこと言わない。お父様は私にそんなこと言わない。お父様は私にそんなこと言わない。お父様は私にそんなこと言わない。お父様は私にそんなこと言わない。なんでお父様が私をあんな怖い目で見るの?なんで私はお父様からあんな目で見られてるの?なんでこうなったの?昨日までと何が違う?そう、そういえば昨日の夜からゴミが私達の中に入ってきてた。そのゴミが出てきた途端私は散々な目に合ってる。あぁそうだ、あのゴミが原因でこんなことになってるんだ。つまりお父様はあのゴミに洗脳されちゃったんだわ!そうじゃないと私に優しいお父様が私に対してこんな仕打ちする筈がないもの!だからあのゴミが原因。なら私の優しいお父様を取り戻すにはどうすれば良いの?そういえばあのゴミは何か言ってた。そう、確か魔物がどうとか言ってた。そうだわ!あのゴミは魔物なのね!魔物なら殺さないといけないわ!あぁでも他の皆も動かないって事は、皆もあの魔物に洗脳されてしまったんだわ!!じゃあ唯一マトモな私がどうにかしないと!私が皆を救わないといけないわ!そうよ、そうなのよ!私が家族を救って英雄になれば良いのよ!なんだ簡単な事じゃ」
「答えぬか。そして現実を受け入れられず狂ったか。
おい、誰かこの愚者を部屋に閉じ込めておけ。扉や窓から出ぬよう徹底しろ。骨を折るぐらいまでなら手荒くなっても構わん」
その言葉と共に三女は困惑して戸惑う使用人達に連れられこの場から退場した。
デオニーソス様が宣言する前にかなり物騒な事を言ってたし、なんか目を血走らせて襲ってきそうな気配が有ったけど、その前にアッシャンベルド様を筆頭に取り抑えられてそのまま抱え上げられて食堂から出ていった。
出て行くとき、血走った目で完全にキマッた表情で焦点が合ってないのか手を宙に彷徨わせていた。ただ移動に合わせて漠然とだが俺の居る方へ手を向けて来てたのが印象的、というかぶっちゃけ怖かった。
なんだよアレ。此処はアンデッドの巣じゃねぇんだぞ。
朝から驚き続きの朝飯は、しかし俺達の気分とは関係無くデオニーソス様の何事も無かったような振る舞いにより再開される事となった。
食事の時、改めて依頼を受けて欲しいと言われた。飯前の三女とのやり取りを見た後だから、何も言えず頭を縦に振るしかなかったよ。
そしてその依頼の報酬だが、昨夜の行いによる罪として本来予定していた硬貨の最大通貨である白金貨1枚の報酬を大金貨5枚に減らさせてもらうと宣言された。そう、俺の同意無しにだ。
朝飯のあと、ギルドに人を走らせて姐さんを呼んで、改めてその辺の契約をし直すと宣言されて、それで話が終わった。終わらされた。
そこまでされれば何も言うことは出来ず、それに白金貨1枚を大金貨5枚程度にされるだけで首が飛ばずに済んだと思えば安いと思い、俺もそれ以上何も言わなかった。
俺達以外の3人。つまり奥さんと長女次女に関しては大人と子供で反応が違った。
奥さんは、やはり哀しそうな表情をしているが、何が嬉しいのか少し微笑ましそうな表情をして何も言わず食事をしていただけだった。
対する子供側は、食い物を口に運んではいるものの心此処に非ずといった様子でボォーッと焦点の定まっていなさそうな顔で黙々と食べていた。
恐らく、三姉妹の我が儘爆発は有ったんだろうが、俺が来るまでは和気藹々とした食事をしていたんだろう。
それが俺が来た事で完全に壊れてしまい、たった一晩でデオニーソス様は別人のように変わった。俺でさえ戸惑ったんだ、俺より長いことデオニーソス様と過ごしてきた長女や次女にとっては衝撃が強かったんだろうな。
そうわかるからこう考えてしまう。『やっぱり俺、この依頼を受けない方が良かったんじゃな』
「それは違うぞジュード」
ふと、まるで俺の考えを読んだかのようなタイミングでデオニーソス様に声を掛けられる。しかもその内容が俺の考えに対する返答とも言えるものだった上に戦闘時のように気を張ってた訳でもないから、思わず、今度は完全に体を固まらせてしまう。
「えっ、と……」
「お前が依頼を受けた事でこうなった。あぁ、確かにお前が依頼を受けた事でこうなった。それ自体は否定しない。実際お前の言葉を聞いて私は娘に対しても当主として非情になれるようになったのだ。それは否定しない。
だが同時に私はお前に感謝をしているし、本来在るべき姿にようやくなれたとも思っている。
お前が言った『役目や役割を放棄した人間が集まる組織ってのは遅かれ早かれ崩壊する。これはどうしようもない自然の摂理だ。』これはまさにその通りで、私は娘が可愛いあまりに『貴族』というものの本質を忘れていた。本来在るべき貴族であるフルシュレイダー家としての姿は今の方が正しい。些か今は空気が悪いがな。
だからジュード。気に病むことはない」
「…………そうですか」
本当に、丸っきり別人のように変わったデオニーソス様から、貴族らしい姿を見せるようになったデオニーソス様から気にしなくて良いって言われたんだ。なら気にしなくて良いんだろう。
そう結論付けて、俺の分として出された朝飯を口に放り込む。
流石に酒場みたいにフォークに刺してそのまま齧り付くなんて事はしない。見様見真似で頑張ってナイフとフォークで食べる。
あぁ、肉が美味い…。これがお偉いさんの食ってる肉か……。
そんな事を考えながら、さっきの怖いデオニーソス様を早く忘れるべく、恐らく明日からになるであろう長女と次女の指導の仕方を考える事にした。
いや、やっぱりさっきのデオニーソス様は普通に怖ぇわ、うん。
【メイド1】
本名ベル。28歳のこの世界では珍しい黒髪黒目。腰辺りまで有る髪を幼げにしている。プロポーションはボンッキュッボンッ理想系。
実はアッシャンベルドにジュードが逃げないよう一晩中寝ずの番をするように命令されていた。
ジュードのお願いについて訝しんだ彼女は彼の部屋に連れていったメイド3人に、「もし襲われそうになったらこの中身をぶっかけなさい」と触れるだけで爛れるほど強力なアルコールと毒液と、もしメイド達にそれ等が掛かった時の事を考えて癒すための薬液の入った壺を持たせていた。
ジュードが彼女達にセクハラしていたら、もしかしたらジュードは取り返しの付かない大怪我をしていたかもしれない。
実はアッシャンベルドに恋心を寄せていたりする。
【メイド2】
本名カトレア。17歳で胸の大きさは中くらい。茶髪の紫目。
ベルに命令され猛毒の入った壺を持っていた子。
ジュードの上に乗り彼の筋トレする姿を見て新たな扉を開いたとか開いてないとか。
【メイド3】
本名はターニア。18歳。胸は来世に期待。赤髪青目。ベルに命令され爛れるほどの度数を誇るアルコールの入った壺を持っていた子。
自分を上に乗せるジュードに不満を持っていた。どういう意味で不満を持っていたかは本人しかわからない。
【メイド4】
本名はルーチェ。18歳。胸は平均より大きい。茶髪茶目。ベルに命令され薬液の入った壺を持っていた子。
自分達を乗せて筋トレをするジュードを見て物凄く申し訳なく思っていたと同時に言いたいことをハッキリ身分に関係無く言えるジュードに惹かれたとか惹かれてないとか。