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あの後ラディウス伯爵が部屋に迎えに来てくれた。


動けるのであればと言う事で、別の部屋に案内された。


それはすぐ隣の部屋で、応接セットのある執務部屋というような印象の部屋だった。イメージとしては一昔前の社長室みたいな感じだろうか。手前にあったソファに促されるままに座ると、向かいにラディウス伯爵が腰を下ろした。


それと同時に先程の年配の女性がお茶を持ってきてくれる。それにお礼を言うと、一瞬驚いたような顔をされた後に心配そうに笑まれた。それも一瞬のことで静かにお辞儀をすると部屋を退室してゆく。


「この時間だ、朝食もまだだろう?用意させる。その間にいくつか聞きたいことがあるのだが答えてくれるか?」


朝食に関してはありがたい。異様にお腹が空いていたので、実は部屋を移動すると言っていた時に朝食かと思っていた。我がことながら呑気すぎる。


「お答えできることであれば何でもお話し致します。私もいくつか教えて頂きたいことがありますが、教えて頂けますでしょうか?」


答えてくれるか?と疑問形で来るのはこちらに選択肢を与えてくれているのだろうが、彼が伯爵という身分である事を考えるとそこに大した選択肢などないと思った方が良いだろう。


疑問形で聞かれていても、それが決定事項なんて事は往々にしてよくある事。


そこに上下関係があるなら尚更。断るという選択肢が無いなんて一般社会ですらざらにある。


それと同時に自分の立ち位置を測り間違えないように気をつけなくてはいけないと気を引き締めた。


見上げる形で目の前に座る人物の顔をみる。


この部屋に移動する時にも、意識を失う前にも思ったが、この人異様にデカイ。


身長もそうだが、服の上からでも分かる胸板とか腕の太さが尋常じゃない。


身長160㎝の私が彼の肩口まで届かない事からも、身長は2mくらいあるんじゃないかと思ってしまうし、それは多分間違いではない。


顔立ちは彫刻のように彫りが深い。今までよく見ていなくてわからなかった瞳の色は澄み切ったエメラルドグリーン、赤褐色の髪色との対比は芸術品を思わせるようだ。


体格の良さからゴツゴツした印象を受けるが、それを加味していても美男と言える人物だ。


こんなにも顔が整っている人に直接出会ったのは初めてで、ちょっと浮かれている気がする。そこまでミーハーじゃないと思っていたのに。


「こちらも答えられる事はできるだけ答えよう。」


私の返答に満足したように頷きながらそう返す伯爵の瞳は柔らかい。


尋問のような事をイメージしていたが、先程の居室といい彼らの対応といい待遇が良いように感じる。


山の麓で軍人に放り投げられたのが嘘のようだ。


取り敢えず相手の機嫌が良いうちに謝罪をしておこう。


「あの、知らなかったこととはいえお見苦しい姿を見せてしまい申し訳ありませんでした。」


そう言って頭を下げる。


「っ、その件に関しては蒸し返さないでもらえるとありがたい。」


何故だろうかと首を傾げて仰ぎみると「妻には嫌われたくないのでな…」と惚気てきやがったよ!


ラブラブだな、ちくしょう!!


そういえば、この世界の常識と似たような時代では、女性の足を見たというのは下着姿を見たというのに等しいと聞いた事が…。


そりゃ事故かもしれないが、そんなこと知られたくはないわな。


ということで、アレは無かったことにしませんかと提案したら、耳まで赤くして「そうしてくれ」と頷かれた。


少し前まで警戒していた部分が多かったのだが、こんな姿を見ると親近感が湧くというか、おっさん可愛いな、とか思ってしまう。


ちょっと警戒心を解きすぎかな。


未だに両手両足には黒い輪がはまったままだし。それなのに護衛とか警護の人とかの姿がないのだが、良いのだろうか?逃げようと思えば逃げられそうだ。


いや、無理か。テーブルを挟んで座っているが、彼が手を伸ばせば私を捕まえることなど簡単にできそうだ。


まぁ逃げたところで身を寄せる場所はないし、ここがどこかも分からない。逃げて罪を重ねるよりしばらくは成り行きのまま様子を見ても良いような気がする。


「まずは自己紹介をしようか。私はビクトール・イグニアス・テッラ・ラディウス。魔導師をしている。」


は?


名前が長いのは想定の範囲内。魔導師って何?その体格で魔導師とかないでしょ。どう見ても武闘派でしょうよ!その恵まれた体格が勿体無いよ!


「…魔導師に見えないとはよく言われる。これでも一応、所属は第二魔導師団所属になる。」


あ…訝しんでたのバレバレですかね。


「身体的能力が高くていらっしゃるようでしたので、魔導師であることが驚きでした。こちらこそご無礼をいたしました。」


機嫌を損ねないように取り敢えず謝罪しておこう。そしてやっぱり周りの方々からもそう言われているんですね。わかります。


「申し遅れました。私は篠宮茜と申します。しがないOL の28歳です。」


「シノミヤ、アカネと言うのか。…失礼だがアカネがファミリーネームで良いのだろうか?あまり聞き慣れない名前でな。それと、おーえる?とはなんの事だろうか?」


「あ、いえ。篠宮がファミリーネームで私個人を指すのが茜です。こちらでは逆なのですね。OLは女性会社員の事です。」


薄々思っていたが、これから単語の説明から入る会話をしなきゃいけないのだなぁ。と思うと、正直面倒くさい。


「女性かいしゃいん……すまないが、そのかいしゃいんというのが何を指すのがわからないのだが、教えてもらって良いか?」


「はい。上手く伝わるか分からないのですが…商会と言えば伝わりますか?」


「あぁ、商会なら分かる。」


「簡単に言ってしまうと、商会の事を会社と呼びます。その会社に勤めている人の事を会社員と呼ぶんです。短く社員と言うこともあります。」


取り敢えず分かるものの有無を確認するようにしながら説明していく。そして相手の言葉の端からこちらでの常識などの情報を回収しなくてはいけない。


「なるほど、商員の事か。ギルド員とは違うのか?」


「申し訳ないのですが、ギルドが何を指すのか私には分からないです。」


ギルドはなんとなく分かるが、あえて分からないと伝える。分かると言って見当違いをしてしまうのは避けたい。この世界でのギルドが私の世界のラノベなどのギルドと同じと思うと痛い目に合いそうだ。


何にしても一つ一つの単語がどういう意味、物なのかキチンと確認する必要がある。早とちりはしたくない。


「そうか…。細かい事はまた後にしよう。今はもっと根本から聞かなくてはいけないな。」


ギルドに対する返答が来るかと思ったら、そうではないらしい。もっと根本からとは何を指すのか…。


「君は何処から来たのだろうか?」


あ、その根本ですね。確かに大事!


「…こちらも同様に伝わるか分からないのですが、地球という惑星の日本という海に囲まれた島国から来ました。」


「……情報が過多な気がするぞ。」


おや、心外な。簡潔にお伝えしただけですよ〜。


「質問の仕方を変えよう。ここはアントレイル大陸の西南に位置するバルジェラードという国だが、その名に聞き覚えはないか?」


なんか色々理解不能と判断されたらしい。こちらの自由発言ではなくクローズドクエスチョンで情報を確認するんですね。それがよろしいかと思います。


「いえ、聞き覚えはありません。私がいた世界にアントレイル大陸という大陸は存在しなかったかと思います。」


「そうか…。」


伯爵は大きく息を吐くと困ったように髪をかき上げた。


「恐らく…だが、君は違う場所から迷い込んだのではないだろうか。こちらも先程教えてもらった『ちきゅう』も『にほん』も聞いたことがない。外洋諸国の名前も把握しているつもりだが、聞いた事はないな。」


「そのようですね。そもそも私は山の中に入った覚えすら無いのですから。」


「私が記憶しているのは魔力の歪みから君が吐き出されたということだ。」


「魔力の歪み?」


聞き慣れない、けど聞き捨てならない単語が出ましたよ。先程の魔導師も聞き捨てならない物ですが、私の身に起こった事の方が重要です。しかも吐き出されたってなんですか?此方には吐き出された覚えなんてないですよ!?


なんならぶつかった覚えも、落っこちた覚えもない!


「魔力の歪みは分かるだろう?それだけの魔力を持ちながら、分らないは流石に通用しない。」


「魔力がある?私に?」


そう聞き返した私を訝しむように相手の顔つきが厳しくなる。


あれ?これってやばい感じ?いや、寧ろ説明をください!


「私が生活をしていた世界では、魔力というものは存在していませんでした。ですから私に魔力があるというのは初耳です。何故それがあると分かるのでしょうか?」


聴きたい事は山のようにあるが、冷静に。相手が訝しむ理由が分からなければ返答できない。


「魔力が存在しない?そんな馬鹿な!」


荒げられた声にびくりと体が震える。


本当です、と言いたかった。ただ、体が震えたまま声が出ない。


怯えたような私に気づいたのか、ハッとした表情で「すまない」と小さく伯爵が呟くと強張った体がいくらか楽になる。


「いえ、大丈夫、です。…でも、魔力というものが存在していなかったのは本当です。もしあったとしても、それを認識できたり利用できたりする人はいなかったと思います。」


発した声は震えていた。ゆっくりと深呼吸してから相手の目を見た。






やっと主人公の名前が出せた!


次話は11月25日12時頃に投稿予定です。

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