挿話 0.5
挿話は主人公以外の視点の話になります。
まだ登場していない人達が出てきますが、詳細は本編で行います。
そういえば主人公の名前すら出ていないのに、他の人たちの名前がいっぱい出てくる…。
賢者と呼ばれる3人による会合が全くまとまらない状態で煮詰まっていた頃、不毛な話し合いの終わりを告げるかのように鐘が鳴った。
音が鳴り止まないうちに仕事は終わったとばかりにクラヴィスが席を立つ。同じように「今日はもう終わりですねぇ」などと間延びしたような声も聞こえた。
その時だった。
窓の外、南の方から突き刺さるような魔力を感じた。
それは同じ部屋にいた2人も感じたようだ。
皆揃って窓の外を睨みつけるように見つめる。
ピーンと張り詰め突き刺さるように空気を切り裂いた魔力は遠く南の方角でゆるゆると蠢いているようだ。
普通に考えて魔圧がこんなにも突然に起こる事はない。目に見える範囲に魔圧の発生源となっているものも見当たらない。
「何処だ」
「南の方角にあるパトリア山の方です。」
呟きにも似た私の問いかけにルードが素早く返答する。いくら魔力感知が得意だといってもここから十数キロも離れた場所まで感知できるのかと感嘆よりも諦めに似た感情を与えられる。
「この距離で分かる魔圧か…噴火か?」
そう問いながらも、これが噴火であれば徐々に溜まる魔力に発生する魔圧が報告されておかしくはないはずだ。
「突発性、噴火じゃない」
そう答えたクラヴィスに頷きだけで返した。
「噴火とかならまだいいですけどね。空気が歪んでいる気がします。魔獣が発生すると厄介ですね。」
窓から目を離さないまま三人それぞれが各々の意見を発する。圧力が徐々に大きくなっている事を感じるとすぐに立ち上がった。
「私は詰所に残っている騎士と魔導師を連れてすぐに出発する。ルードは後発隊の準備、クラヴィスは待機と状況分析を頼む!」
それだけ言うと足早に部屋を後にした。
多少でも魔力のある者なら今の異様性を理解できる。
その異様性を感じた者が、声を掛けるまでも無く自主的に出発の準備をしていた。
その中に知り合いの騎士団長がいたのは幸いだった。魔力保有者が少ない騎士団を動かす事が一番の難関なのだから。
「アル!」
士団長に声を掛けると、厳しい顔のまま静かに頷いた。
「騎獣で駆けることができる者だけ集めた。連れて行くには問題ないはずだ。場所は分かったか?」
「ルードが言うにはパトリア山の方だそうだ」
「噴火か?あんまり無理するなよ。」
「分かっている。後発隊の編成はルードに頼んだ。手伝ってやってくれ。…後発隊が出ないで済むといいんだが。」
「分かった。最近雨が降ってなかったからな。被害が大きくならない事を祈るばかりだな。」
ルードの補助を頼むとアルは頷いてくれた。本音を言えばアルが同行してくれれば心強いのだが、先発隊に士団長は連れて行けない。
本格的に騎士団が動く事態になった場合、指揮するものが不在では存在意義を問われることになる。
自分の地位と求められる役割が分かっているからこそ、昔のように一緒に行くと言い出さないアルに過ぎた年月の長さを思った。
けれど過ぎ去った年月に浸る余裕は無い。今は目の前の危険を回避できるかどうかだけに頭を使わなくてはいけなかった。素早く思考を切り替える。
自身の準備を終え騎獣舎の近くの開けた場所に行くと魔導師と騎士が各々の騎獣の側に立ち整列していた。
私の姿を見つけるとざわざわとしていた場が静かになる。
すぐに私の騎獣もそばに連れてこられた。馬の姿をした魔獣だ。人に育てられたので人馴れしている。首を撫でると頭を擦り付けてくるので、その鼻を撫でてから整列している皆の方を向く。
「行き先はパトリア山。魔力のある者は分かると思うが、突発性と思われる魔力の歪みが発生している。まず現状把握からになると思うが戦闘が発生する事も視野に入れておくように。出発する!」
声を張り上げると「はっ!!」っと切れ良い返事が返ってきた。
騎獣の背に乗ると騎獣が心得ているように大地を蹴り上げ空を駆け上がる。
それに習うように魔導師と騎士の列が空を駆け上がってきた。
緊急時のための訓練はそれぞれ為されている。空の上で魔導師と騎士の隊列が編成されていく。
魔導師と騎士を十数名連れて王都を出る頃には湧き上がった大きな魔力は練られて縮小し、一層強い圧力を発し始めていた。
次回投稿は10月28日の予定です。