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3年ぶりの投稿のためリハビリの意味も含めて投稿します。残酷表現があるためR15としておりますので自己責任でお読みください。できるだけ定期更新目指します。
目の前の山の頂が燃えている。
まさか、こんな事になるなんて…
日が暮れた麓からでもはっきりと分かる、黒い煙と赤い炎。
ゆっくりと広がるそれは延焼しているのだと理解できる。遠く離れた麓からでも分かる広がりは、とても早い速度で広がっていることを示している。
ゴクリと喉がひくつきながら鳴った。
目に映る光景が現実のものだと思いたくなかった。
それでも目を離せない現実の光景を見上げていたら、ぐいっと腕を引かれた。何語かわからない言葉で軍服のような姿の男にまくし立てられる。
先程あの炎の中から私を連れ出した男は黒い輪を問答無用で両手首にはめると、空を駆ける馬に担ぎ上げた私を炎から遠く離れたここに連れてきた。私を地面に下ろし後からついて来た、今目の前にいる男達に任せるとどこかへ行ってしまった。
一瞬助けられたのかと思ったが、そうでは無いとはっきり分かるほどの怒気を含んだ声音で男達は私に何事かを話している。
だが残念なことにその言葉を私は理解できなかった。けれどきっとこの目の前の惨状についてどういう事なのかと問うているのだと思う。
言葉の意味は分からなくても、語気の強さや視線の鋭さで私を責めている事は分かる。
けれど現状をどう説明していいのかも分からない。私自身なんでこんな事になっているのか理解できていないのだ。目の前の現実に震える事しか出来ず、声を出したくても息すらうまく出来ない気がした。
何かを伝えなくてはと思うものの、そもそも彼らが話している言語を私は理解できていないし、彼らに日本語が通じるとも思えない。
何も答えない私に焦れたのか、腕を掴んでいた手に力が入りグッと引っ張られる。反射的に踏ん張ろうとした足に痛みが走り、引かれた力に抗うことも出来ぬまま転んでしまった。
辛うじて掴まれていた腕のおかげで地面に突っ伏す事は避けられたが、強かに腰を打ち付け痛みに顔が歪む。頭上からは小さく舌打ちが聞こえた。
理解の追いつかない現状への混乱と身体に感じる痛みのリアルさにジワリと涙が浮かぶ。泣いたところで現状は変わらないのに。
混乱と恐怖と痛みに襲われているだけだった時、不意に山の頂の方から強い圧力を感じた。息が詰まりそうなほどの圧迫感。身体中に感じる痛みも忘れて、頂を仰ぎ見る。
そこにあるのは赤く燃える頂と黒い煙。
それ以外見えない筈なのに、何かがあの赤い炎に抗っているような気がした。
次の瞬間、赤く広がるばかりだった炎の縁が徐々に頂へと後退し、黒煙の中に白い煙が混ざり始めた。炎が縮小しているのがはっきりと目に見えてわかる。
ありえない。
自然現象としてありえない事が目の前で起こっていた。
私の腕を掴んでいる軍服姿の男も山の頂の光景を見て、近くにいた他の男に何かを話している。
炎も黒煙もどんどんとその範囲を狭め、急激に鎮火し始めていた。自然現象とは異なるその光景に驚きながらも「良かった」と小さく安堵の声が溢れた。
そんな私を無視する様に腕を掴んでいた男は私の両手を後ろに回し、先ほど炎の中で両手首にはめられた輪をつなぎ合わせ、更に手首と腰とを縄で括り付けると立ち上がらせるように腕を引き上げる。
途端に感じる身体中の痛みに小さく悲鳴を上げたが、立ち上がれないと分かると男はそのまま引きずるようにして木の幹の近くに私の体を放り投げた。
両手を後ろに縛られた状態では起き上がることも出来ず、痛みに耐えながら起き上がる事を諦め横たわったままでいると土臭さと自分の体から煤けたような匂いが鼻をついた。
本当なら怯えるような状況なのだろうが、今は感情がマヒしているようだ。
先ほどの山火事が鎮火したことの安堵感が強くなっており、それ以外はある程度どうでもよくなっているのかもしれない。明かりも無いこの場所では周囲を確認することも出来ない。
目に見えるのは土と草と盛り上がった木の根、時折男達の足が見えるが見上げてその人物を確認する勇気はない。
強く目を瞑ると鼻の奥がツンとした。気を緩むとすぐにでも涙が溢れ返りそうだった。
言葉はわからなくても自分の状況はなんとなく分かる。
『罪人』もしくは『犯罪者』
この場で問答無用で斬り殺されずに済んで良かったのだろうか。
一度大きく息を吐き出すと少しずつ頭が働き始めたようで、現状を理解しようと一から思い出してみる。
山火事が収まってホッとしてはいるが、未だに何故自分が山の中にいたのか分からない。私は会社の帰りに電車に乗ったはずだったんだ。
次話は10月7日更新予定です。