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作者によって「純文学」という名前をつけられた作品たち

藤棚の下で

作者: 檸檬 絵郎

銘尾 友朗さま主催「春センチメンタル企画」参加作品。



 現在という光から逃れるように、私は藤棚の下へ逃げ込んだ。黄緑色の葉と薄紫の優しいふさが、私をおおい隠してくれる。太陽の光をしぼり、本当に心地のよい適量を選んで私にそそいでくれる。見上げると、やさしい藤がそよそよゆれた。


 大人になってしまった私は、嫌でも現実を見ずにはいられない。夢を見ていたころと違い、雲が晴れ、いろいろなものが見えるようになってしまった。鬱陶うっとうしいと思っていたものが、今では恋しい。園児のときに越えようとした園庭の柵などが、ふわふわとよみがえる。ブロック塀に描かれたゾウやキリンは、とても優しい顔をしていた。


 深いみどりの水のなか、ぼんやりと亀の背が浮かぶ。藤棚の小部屋からのぞいている私には、一生懸命に泳ぐその姿はとても穏やかに思えた。プールにかっているときの音が遮断される感覚。ぷっぱん、ぷっぱん……と水が鳴る。

 にごった水に隠された少しだけ透けて見える亀の背に、私はやさしい夢を見ていた。




 ……ずっとこの場所にいたい。閉塞的な、穏やかな……郷愁とメランコリーを否定しない、優しい場所で守られていたい……




 そんな()()()()を味わったあと、私は太陽の下へ戻った。帰りに醤油ラーメンを食べると、私の感覚は現在になじんでいた。





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― 新着の感想 ―
[一言] 藤は好きな花です。 嫋やかな女性的な植物ですね。 情景が浮かぶ美しい作品でした!
[良い点] 美しくてちょっと切ない作品ですね。 現実から、やさしい夢のような世界に逃げ、 休憩が終わったようにまた戻る。 そんな気分、何か分かります。 醤油ラーメンでリセットされるってのがいいですね。…
[一言] ついこの間、地元の藤棚へと行ってきました。桜見だったり、アジサイだったり、花が咲き乱れる空間へ行くと、なんだか過去に戻ったような、そこだけ時間を置いてきたような、懐かしい気分になりますよね^…
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