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 時が流れるのは早いもので、国がなくなり、他国へ移り住む為に、コールウィン公国の首都へやってきたのが1ヶ月前。

 祖国を出発した時のメンバーから1人抜けて、8人、新しい家族が増えた。


 忙しかったのは最初の2週間くらいで、残りは平穏で変わらない日々を過ごしている。


 朝起きて、マリーに朝の挨拶と給水機扱いをされた後に、私たちの生命線とも言える薬草栽培に励む。

 と言っても、姉妹のように仲の良いナズリーンとメイと共に庭の水撒きみたいな作業を行い、1つずつ薬草の成長具合を手で触れて確認する程度だ。


 それが終わって、孤児院の中に入ると「クロム兄! 結婚しよう!!」とベティに求愛され、華麗にスルーすると駄犬がベティをからかって、気絶させられた上で、放り出される。完全にここまでが日課だ。

 その後は、私専属の侍女のようにお手伝いをしてくれるミルファと共に、自室で薬草の記録を付ける事が多い。私にとってもまだまだ謎の多い薬草なので、記録は重要だ。


 作業が終わる頃には、朝食の時間になるので、一度、孤児院の表に出て駄犬………ロック2号を回収する。


 この孤児院の院長先生であるエイシアさんと、院長先生を母のように慕うシルキーが朝食の支度の手伝いをしているのを確認して、最後に妹を起こす。

 妹は低血圧なのか、冬の朝は特に弱い。こんなんで嫁に行けるのか心配になるが、甘やかしている手前、口には出せない。


 母についてはノータッチだ。何かするとマリーが怒る。怖いので触れない。ついでに母も冬の朝は弱い。


 「いただきます」というタイミングの少し前に、エイシアさんにプロポーズして、無事に条件付でOKを貰った半新婚状態の親方ことバッカスさんが、一緒に食事を取る為にやってくる。


 この12人で一緒に席に着いて食事をするのが、今ではすっかり定着した。時々、駄犬1匹は床で食事を取る事になっているが………。


「クロムウェルの旦那。今日の午後に、最初にお約束した件で進展があったので、報告の為に執事長が訪ねてまいります」


 最初のお約束?

 

 ………そういえば、アメジスト教との繋ぎをお願いしていたな。

 オルフォース公爵家の愛憎の果てのゴタゴタで、少し時間が掛かってしまったのだろう。


 執事長であるマックスさんが直々に来るあたり、いい加減にやっていた訳ではないようだし。

 まあ、他に面倒な計画も進めなきゃいけないのだろうし、忙しい相手なので仕方がないか。


「分かった。ついでにこの国のお茶の淹れ方を教えてもらえるように頼んでみるか」


 マリーに習ったお茶の淹れ方は、完全に母の好みのものだけだった。

 国が違えば、淹れ方も違ってくる。色々な味が楽しめるのがお茶だ。


 決して、マリーのお茶の淹れ方に飽きたとかじゃない。色々な味を楽しむ余裕が欲しいだけだ!





「お久しぶりでございます。クロムウェル様」


「お久しぶりです。マックスさん。………少し痩せましたか?」


 執事長という仕事が大変なのか、それとも別の理由(あまり知りたくない)なのかは分からないが、目に見て分かる程度にはスリムになられていた。


「お約束の件、遅れてしまい、申し訳ございません」


 いきなりの謝罪を受けた事で、十中八九、私が要望したアメジスト教との繋ぎの件で、私の我侭で迷惑を掛けているのだと分かった。


「こちらこそ、無理を申したようで、すみません」


「いえ、お気になさらずに………」


 私の謝罪にも、ただ表面的な返事しかしない事で、厄介な事になっているのは確実だと理解するには十分だった。

 そして、公爵家の執事長ほどの人物が、ここまで気を使う相手と言えば、公妃様くらいしかいないだろう………。


「普通なら世間話をしてから、本題に入るべきなのでしょうが、先に本題を済ませた方が良さそうですね」


「お気遣い感謝致します」


 前にあったマックスさんは、どこか大人の余裕を漂わせている人物だったが、今はその余裕が全く見られない。

 厄介ごとの予感しかしないが、話を聞くしかないようだ。


「アメジスト教との繋ぎの件ですが、アメジスト教より、恐らく(・・・)助祭様がこの孤児院へお住まいになる事を望まれると思われます」


 ふむ。アメジスト教が何かの条件を出しているのは分かっていた。

 ただ、孤児院に住む? その目的が何かはある程度は、想像が出来るが絞り込めない。なぜならば………。


「マックスさん。失礼ですが、助祭様の地位とは権力として上から何番目になりますか?」


 本当に失礼な話だったようで、マックスさんが、驚きの表情を見せる。

 ごめんなさい。マックスさん。

 私はアメジスト教については詳しくないのです。ただ、この大陸の殆どの国で信仰されている宗教という認識しかなかったのだ。どうだ! ビックリか!!


「5番目の地位でございます」


 うん。5番目がどれだけ凄いかも分からない。


「クロムウェル様。失礼ですが、アメジスト教についてはお詳しくないのでしょうか?」


 おっと、また顔に出てしまったようだ。子供たちに指摘された事はなかったから、貴族たちには分かるレベルで、感情が顔に出ているらしいな。


「女神より遣わされた初代聖女を崇める為に起こされ、今では一国を治め、大陸中に信仰する方々がいて、各国に影響力の強い宗教である。程度の認識ですが、合っていますか?」


「………おおよその分は間違いないかと」


 正直に答えたのに、マックスさんには失望とは若干違う、困惑?の表情が見てとれた。たぶん、貴族なら理解していなければいけない事を、理解していないって事かな?


「とりあえず、助祭様の受け入れについては、汚いところでよければ構いませんよ。何かあっても、私の方で対処致します」


 アメジスト教との交渉は、元々、こちらで、行なう予定だったのだ。

 その事を強調して、何が起こっても、オルフォース公爵家へ責任を押し付けないと伝えておく。


「かしこまりました。これで肩の荷が1つ下りました」


 その肩にあといくつのお荷物(・・・)が乗っているのか分からないけど、頑張って下さいね。

 私も、面倒そうな助祭様の相手を頑張りますから。


「それにしても、外見と違って中は綺麗になっておりますね。話にはお聞きしていましたが、これをクロムウェル様が?」


「はい。表向きは孤児院としておいた方が良いでしょうから、外観はそのままに中だけ改装させて頂いております」


 一応、気まぐれ草の栽培は、こんなところで行なわれていない事になっているからね。

 この一体の土地を買い占めて、この周囲に近づく者を監視している時点で手遅れだけど。………ほら、形って大事じゃない?


「薬草の件や、バッカスでさえ驚く建築知識。本当にクロムウェル様は多才でございますね」


 本日の用件が片付いて、肩の荷が下りたおかげか、ようやく前に見たマックスさんの様子が戻ってきた。

 それだけ、アメジスト教が面倒な相手という事だろう。


 交渉の難航が予想できるが、ダメなら、諦めれば良い。

 交渉に失敗しても、その時は別の手段を考えれば良いしね。自分たちの身を守る手段はいくらでも思いつく。


「お時間があるのなら、ご案内しましょうか?」


 肩の荷を降ろして、周りの様子に気を配れる程度になったようなので、息抜きを提案する。


「宜しいでしょうか? このところ忙しくて、息をつく暇がなかったもので」


「えぇ。薬草栽培の様子もお見せいたしますよ」


「………お心遣い感謝致します」


 バッカスさんからの報告だけでは、公爵夫人への報告は不足している事は予想が付く。

 裏向きの用件で、見れるところは見てくるように言われているのだろうし。………それくらい察せないで、貴族との交渉なんて出来ないさ。


「変わりに、子供たちにお茶の淹れ方を教えて頂けませんか?」


 公爵夫人からは、私については最優先で対応するように言われていると前に聞いた。

 少し、休息する為の言い訳には丁度よいはずだ。


「私でよければ、お教え致しましょう」


 交換条件を出した事で、今度こそ、完全に肩の力を抜いてくれたようだ。

 本当に、色々と大変そうである。うちの子供たちと交流して、癒しになってくれると良いのだが………。


 その後は、孤児院視察のような案内をした。

 親方がマックスさんに対して、凄く緊張していたので、やはりマックスさんの立場は相当高い位置にあるようだ。


 子供たちは、マックスさんの人柄が子供たち特有の感覚で分かっているせいか、程々の距離感を保ってマックスさんを癒してくれていた。

 そんなマックスさんの反応から、この人、子供好きだ。ロリコンの方じゃない奴な! と分かった。


「いやはや、クロムウェル様はおモテになりますな」


「えぇ、元の領地では奥様方にもモテていたそうですよ」


 案内が終わって、子供たちにお茶の淹れ方を教えてくれたマックスさんとティータイムでくつろぐ頃には、すっかり元気が戻ったようだ。子供の力は偉大なり。


「それはそれは、クロムウェル様の篭絡計画に支障をきたしそうですね」


「………まだ、諦めていなかったんですか? それ」


 自分の孫娘を宛がおうとしたり、娼館で盛大にもてなそうとしたり、まったく油断出来ない。



 ………………何度も心を揺さぶられると、そのうち陥落しそうですよ?


-後書き-


言い訳。プロットが固まっている話は先に書いておく事にしました。


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