026
少々、ギスギスした雰囲気の中であったが、私は目的の物の買い物を終えた。
実に良い品揃えであった。これからは、この店を利用しろという事なのだと、とても良く理解できた。
「クロムウェルの旦那も隅におけませんね」
薬草類の購入を終えた私に、親方がそんな事を言い出した。
まあ、ピンク髪の店員のアピールの事だろう。前に親方をからかった仕返しのつもりらしい。
「私は、あの人は嫌いです」
親方の発言に、ムッとしたシルキーが私に代わって返事をする。怒った姿も可愛い。
「大丈夫ですよ。クロムウェル様はちゃんとご理解されていたようですから」
あれだけ、あざとい態度をとられたら気付かないはずはない。
まあ、親方は気付かなかったようだが………。それとも同じ女性同士だと分かる事なのだろうか?
どちらにしても、あの程度は………。
娼館での誘惑に比べたら、全く問題ない範囲だ。あそこで、何があったかは、ここでは語る事が出来ないのが残念だよ。諸君。
「親方、残念でしたね。シルキーを説得出来ないとエイシアさんを落とすのは難しいですよ」
そう、そっと親方に呟く。
親方も完敗の表情を見せたが、まだ大人の余裕があるようだ。
「そういえば、エイシアさんの治療に使う薬草も欲しかったのを忘れていました。ただ予算が足りないな~。どこかに親切な方はいないだろうか?」
私のひと言に、エイシアさんは困った表情を見せて、シルキーが心配そうな顔をする。
すると、親方がシルキーの頭をポンポンと2回ほど軽く叩いて、ピンク髪の店員に薬草の購入を告げていた。
エイシアさんも親方からの好意に気付いていて、まんざらでもない様子だ。
まあ、シルキーは少しむくれてしまったので、後でフォローしておこう。
「クロムウェル様。完敗ですから、もう勘弁して下さい」
先ほどまでの大人の余裕もなくして、敗北宣言をした親方に、まだまだ負けませんよ。返事をして、薬草園のような庭を後にする。
ちなみにメイとナズリーンは、2人のお小遣いで1輪の花とその種を買っていた。
2人で一緒に育てるのだろうと思うと、心が温かくなってくる。そのうち、温室なんかも作れたら良いなと思った。
「エイシアさん。子供たちを連れて、洋服を見てあげてください。そして、最低3着は選んであげて下さい。それに子供たちが気に入った服があれば、数着くらいなら問題ありませんので」
店内に戻ってきて、その状況を把握した私は、問題を解決する為に、即座に行動を開始する事にした。
うん。大分、店内が修羅場と化している。
「親方が大人の余裕を見せてくれたのです。私も成人している男性です。少しは格好を付けさせて下さい」
値段を気にしていたエイシアさんと子供たちに、そう告げて、抵抗する事を諦めさせて、次の戦場へと向かう。
「母は衣装よりも食べる事が好きです。着飾って楽しむのは侍女の方ですので、その辺を考慮すると上手くいきますよ」
マリーの拘りに、たじたじになっていた支配人にそっとアドバイスを告げる。
残念だが、マリーにも母にも、支配人の魅惑ボイスは通じない。
私のアドバイスを受け取った支配人からお礼を言われて、本日の主戦場へと赴いた。
そこには妹のマーガレットと私に心を許していない最後の女の子であるベティが、熾烈なおシャレ争いを繰り広げていた。
「マーガレット。気に入った服はあったかい?」
私が声を掛けた事で、マーガレットは笑顔になり、反対にベティが私から視線を逸らした。
周りにいた従業員は、ほっとしていたので、普段のこのお店の客層に、お転婆さんたちはいらっしゃらないのだと分かった。
「決まっているのなら、私の服を選んでくれると助かる。私は、マーガレットに似合う小物を選んでおこう」
その言葉に、すっかり気分を良くした妹は、店員さんに連れられて男物の服を真剣に選んでいた。妹はチョロインの才能があるようだ。まったく無駄な才能だ。
その様子を確認すると、私は妹の好みを把握しているので、その好みの服に似合う髪飾りをあっさりと選び、本日のメインターゲットとも言えるベティに声を掛ける。
「欲しいものは決まったかい?」
私の言葉にビクッとして、急に澄ました態度に変わる。いや、遅いからな。
「そっちの青い服は普段着にすると良い。変わりにそっちの白い服は、大切な時に着ると良いよ」
ベティが2つの服を睨んで迷っていたのは分かっている。
どっちが似合う?という女性からの選択肢の答えは、基本的に両方を選択するべきだ。
Aが似合うと思うけど、Bの方が私の好みで着て貰いたいと回答すると、そこそこ安全に切り抜けられる。これも前世の知識だが、応用が利くので重宝している。
「………えっと、2つとも買って良いの?」
私の答えが正解であると証明するように、ようやく最後の攻略対象(?)であるベティが口を開く。
「問題ないよ。そっちの黄色い服と緑の服もサイズ調整を出来ますか?」
一番近い店員さんに、ベティが恐らくサイズが合わずに諦めたと思われる服を刺してお願いする。
沢山の服の中で、一際丁寧に避けてあれば、ちゃんと注意すれば分かるというものだ。
「他に興味がある服があれば、相談しなさい」
それだけ告げて、ベティの前から立ち去る。
近くの店員さんから「誑しね」という言葉が聞こえてきたが、聞こえない振りをする。
その後は、妹とベティの間を行ったり来たりして、順調に2人の服も選び終えた。
私の服は………まあ、妹のセンスは悪くはないので、気にしないでおこう。ちょっとコーディネイトを変えれば問題ないさ。
特に問題を起こしている様子のなかった最年長のミルファについては、一通りの服を見せて貰って「似合っているよ」と言ってあげれたら、それだけで買いたい服を決めてくれた。
どれも侍女たちが着るような服だったのが気になるが、似合っていたので問題ないだろう。
エイシアさんたちの服選びも順調のようで、従業員たちの様子をみても和やかな空気が流れているのが分かる。
ん? 最後に残っている男の子はどうしているかって?
店員さんたちに着せ替え人形にされているから放置だ。何かにとり憑かれたかのように玩具にしている店員さんたちの下へ行く勇気は私にはない。犠牲など1人で十分だ。
開店前に無茶を言って調整して貰った時間での買い物であった為、あっという間に時間は過ぎてしまった。
一通り、目的の物は買えたので、みんな満足して帰路につく。
どちらかというと満足していないのはお店の支配人の方だった。
「本当にそれだけで宜しいのでしょうか?」
「はい。あまり贅沢をするつもりはありませんので」
支配人はあわよくば、個人的な私との繋がりを強めておきたかったのが良く分かる。別に金額だけが全てではないしね。
でも、それだけ気まぐれ草の価値が高いという事だ。肝に銘じておこう。
「それと公爵夫人への伝言ですが、追加で、合格です。とも伝えておいて下さい」
「………………かしこまりました。お帰りの際はお気をつけて」
私の追加したひと言で、支配人は引いてくれた。
引いてくれたと言っても、荷馬車には予定以上の食料が積まれている。私の気を引けなかった分、母の気を引く為に限界まで頑張ったようだ。
帰りの馬車では、新しい服を手に入れた子供たちが年相応な顔で喜んでいた。
エイシアさんも、親方が頑張って一着ほど個別に購入していたので、それなりに喜んでいるように思えた。
母とマリーは通常運転だ。
店内で気にかけていてベティについては、チョロイン程は上手くいかなかったが、親しくなる為のきっかけ程度にはなったようだ。
物で釣ったみたいで気が引けるが、どうせ入用になるものだ。無駄な買い物ではない。
ちなみにベティに気を配ったのは、ハーレム目的での攻略ではない。
何度も告げるが、私はロリコンではない!
親しくなったミルファにベティの事を聞いたから、気を配っていただけだ。
この子も、孤児院の将来のことを考えていたと教えてもらった。
ベティの夢は高級娼婦になって貴族の妾になる事らしい。子供の夢にしては夢がなさすぎる。
その理由が私と同じように家族を守る為の権力を手に入れる事だっていうのだから、本当に夢がなさ過ぎる。
「今日は楽しかったかい?」
さっきまで疲れきった顔をしていた男の子は、馬車に積まれた食料を見て涎を垂らさんばかりで、私の声が届いていない。
代わりに私の声を受け取ったのは、嬉しそうに今日買った服を抱きしめているベティだった。
「あ、ありがとうございます。ク、クロム兄はお貴族様だったんですね」
何を持って貴族と判断されているかは分からないが………。
いや、あのような大きな商会で特別待遇を受けたり、常に侍女の姿でいるマリーが一緒にいたら、そう思わるだろう。普通に考えて。
「元貴族だよ。今はベティたちと同じ平民だ」
「そっか、平民なのか………」
今日のお買い物で、少しだけ心を開いてくれたのか、私の近くに座りなおしてぽつぽつと話をしてくれる。
他の子供たちは、疲れて眠ってしまっていたが、ベティだけは隣でお話をした。
周りの大人たちは、その様子を微笑ましく見ていたので、この子とも仲良くやっていけそうだと思えた。
さて、残りの攻略対象(?)は、男の子のみ! ここからは私の本気を見せるぜ!!
-後書き-
後書きのネタが切れた場合も更新しないで良いのかな?ヽ(゜∀゜ヽ)




