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022


ロックについては、これで完結です。



 ロックを保護した人物は、男色かヘタレストーカーのどちらかである可能性が高いようだ。

 男色の疑惑がある限り、直接対決は避けたい。これはノーマルな男の子の本能と言えるものだろう。


 ただのヘタレストーカーで、お互いの境遇に共感しただけならば、問題はない。

 元々、放置しても何とかやっていける気がするし。

 

「ロック様がお戻りになられました」


 悩んでいると、悩みの元凶が帰ってきた。

 振られてから2日経たずに戻ってきたか………。ロックらしいと言えば、ロックらしい。


「済まない。夕飯も共に取るので、食堂へ来るように伝えてくれ。私もすぐに食堂に向かう」


「かしこまりました」


 宿の部屋割りは、私とロックは同室だ。

 疑惑が晴れるまでは、同じ部屋で安心して休む事は出来ない。まずは大事な事を確認する為に、人目のある食堂を話し合いの場に選んだ。


 まあ、マリーと鉢合わせて、気まずい空気を作りたくないという思惑もある。

 色々と覚悟を決めて話し合いに望まないといけない。どんな話を聞いても、本人の意志を尊重する事を決めて、私は食堂へと向かった。






「坊ちゃん。私はこの町で働く事に致しました! 今までお世話になりました!」


 あぁ、新しい扉を開けてしまったのか。

 

 何か吹っ切れた表情で語ったロックを見て、そう思ってしまった。自分でも何でそう思ったのか説明は出来ないが………。


「仕事の当てはあるのか?」


「はい。お世話になった方の紹介で衛士になる事に決めました!」


 そして、住む場所も紹介されていて、ご一緒に生活されるのですね?


 目の前にいるロックが、とても遠くにいるような気がする。

 だが、ロック自身が決断した事だ。尊重しよう。………………そして、2度と私に近づかないように手を回しておこう。


「坊ちゃん。どうして、そんな死んだ魚のような目をしているんですか?」


 そりゃ、ロックの今後の幸せをお祈りしたからに決まっているじゃないか………。


「とりあえず、おめでとう。今までよく付いてきてくれた。幸せになれよ」


 色々な感情が作り出す涙がこぼれそうになるが、必死に堪えて、お祝いの言葉を述べる。


「やっぱり坊ちゃんも、衛士になった方が幸せになれると思いますか?」


 照れながら語るロックを見て、背筋がゾクゾクとする。

 人は一晩で変われるのものなのか………。


「坊ちゃんは凄いお人ですね。こんな少しの会話で色々と察してくれるんですから」


 いや、察したくはなかったよ………。むしろ、何も知りたくないよ。


「やっぱり、マリーを諦めない事にしました」


 ………はい?


「告白に失敗して、街をぶらついていた時に、同じような境遇の方と出会いましてね」


 それで男に走ったんじゃないのか?


「いや~。聞けば、子供の頃から好きな相手がいて、自分がその相手を養えるようになったら、告白しようと考えていたって話を聞いた時には、つい共感して共に一晩飲み明かしました」


 ………その一晩に過ちとかはないよね?


 まあ、宿の既婚従業員に話を聞いていなければ、混乱するところだった。

 そして、あれだ。告白した側のサイドストーリーを聞いている気分だ。


「好きな相手が移住したこの街で、頑張って衛士になって告白したらしいんですが、悲しい事に既に相手が結婚していたって聞けば涙が出てくるじゃないですか」


 うん。それは空しいと言うんだよ。ロック。

 そして、どう考えてもストーカーだからね。移住した相手を追いかけてきたって事でしょう?


「それでも、ずっと見守っていたいと言って、衛士を続けていると聞かされて感動しないわけには、いかないじゃないですか!」


 うん。立派な紛うことなき本職のストーカーさんだね。

 ついでに、この食堂には、そのストーカーの想い人がいるからね。思いっきり引いてるからね。


「それで私も衛士になって、マリーを見守ろうと決めたんです。マリーが結婚しないなら、いずれは報われるかもしれませんから」


「あぁ………うん」


 ないね。そんな日は一生来ないね。


 あれか、慰められた相手は男色じゃなくって、ストーカー養成者だったって事だな。


「そんな訳で、その知り合った人の伝で衛士になれそうなんで、坊ちゃんたちの護衛はここまでです」


 実際に護衛をされるような事はなかったからね。オルフォース公爵家へ出向く時は、自分から断っていたよね?

 それでも、本人が納得しているなら、私も納得しよう。色々と不本意だが。


 ロックの将来については、この世界にストーカー対策法なんて存在しないのだ。私に出来ることなど、何もない。

 ………それにヘタレロックの事だからマリーに手を出す事もないだろう。


「ロックが、それで幸せなら、私は何も言わない。こちらもロックが衛士になれるように手を貸そう」


「ありがとうございます。坊ちゃん!」


 いや、私の目の届かないところで問題を起こさない為の処置だからな? そんなキラキラな瞳で見ても、私の目は死んだ魚のままだからな?


 この処置は、ロックが、比較的、無害なストーカーだと私は理解しているが、街の人に理解している訳ではない、ゆえに迷惑を掛けるわけにはいかないから、その為の処置だ。

 言うなれば、拾ってしまったペットの面倒は最後まで見なきゃダメって奴だな。





 話を聞き終えた私は、ロックの私物の荷造りを手伝った。

 ロックは当分はストーカー養成者のところにお世話になるらしい。問題児は一箇所にまとめておいた方が監視しやすいので、私は止めなかった。


 大した荷物も持っていないロックに、当面の生活費を渡して別れを告げて見送る。

 

「「誠に申し訳ございませんでした」」


 ロックを見送った後に、宿の既婚従業員と私が向かい合って、同時に頭を下げる。


 知らず知らずにストーカーに付き纏われていたというのにも関わらず、私に対して頭を下げるこの女性は、間違いなく普通の人だ。

 出会った中で数少ない普通の人だ。貴重な人なので、狙っているストーカーについても、私の方で対処しよう。


 周りに人から止められるまで、お互いにひたすら謝り倒したが、前世の記憶にある五体投地(どげざ)の極意を知る私が最終的に勝った。前世の私は一体何者だったのだろう………。


「孤児院の前に詰所を作って貰って、そこでロックと纏めて監視する事にします」


 どうせ、公爵家から………下手したら公妃(くに)から、私も監視される身だ。

 監視する対象が、1人増えるが、一箇所に固まっている方が、監視する人たちも仕事も楽だろう。


「何から何までお気遣い痛み入ります」


 あなたは大事な私の普通の知り合いですからね。本当に貴重な存在ですからね。


 翌日には、親方兼、オルフォース公爵家との連絡係を務めるバッカスさんを通して、正式にロックを街の衛士と採用して貰った。


 当然、勤め先は孤児院の前だ。

 最優先で詰所兼自宅を作って貰っている。せっかく孤児院のリフォームで廃材を使って節約しようとしていたのに、赤字になってしまった。


「そんな奴の家を建てるってのは、どうも納得がいかない。おまえら! 手抜きで良いぞ!!」


 人情派の親方は、ロックともう一匹の計2匹のストーカーに嫌悪を抱いていた。自業自得だから私もフォローはしない。

 隙間風の吹く小屋みたいな建物になっても咎める事はしない。存分にやってください。親方。


 と言っても、さすがは職人の為のか、私のプランター作りや孤児院の修繕作業を見ることを後回しにして、ロックたちの小屋を作っていた。

 この親方も貴重な普通の人だ。普通の人たちとは、この件が終わっても良い関係を続けていきたいものだ。


 元々、私の屋敷を作る予定もあったのか、私たち家族が孤児院へ引越しをする前日にはロックの小屋が出来上がった。


 詰所を兼ねているせいか、玄関には扉がなく、まるで大きな犬小屋を見ているような気分だった。

 その小屋を見て、ロックの私の中の認識が確定した。



 ロック ≦ ペット < 普通の知り合い。だね!


-後書き-


プライベートでいろいろあったせいで、予定より長くなってしまったと反省しています。



そして、著者よりひと言。


ロックは主人公じゃありません!!(o言o)


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