021 ※15歳未満の方はご遠慮下さい
side story 新しい扉
既に手遅れの可能性があったが、これまで一緒にいた仲間を見捨てる事が出来ずに、疑惑のある者の家へと足を運ぶ。
いつも、こっそりと後から付いて来る護衛の距離が、かなり開いている事で、噂の信憑性が高まる気分だ。
欝だ。
その者の家は、珍しく扉が、ウエスタンな時代劇に出てきそうなバーの入り口の扉のように、特に鍵が掛かるような仕組みもなく、押したら左右に簡単に開く作りの扉だった。
本当に嫌な予感しかしない。
まあ、後で知ったことだが、衛兵の詰所を兼ねていたらしく、そういう作りの家が他にも複数あるそうだ。
分かりやすく言うと交番みたいなものだ。
………保護された方が危険な気もする交番だ。
「どうぞ~」
扉の横に木槌がぶら下がっていたので、それを使って扉を叩き、相手に来訪を知らせる。すぐに、扉の奥から声が返事が聞こえてきた。
この声の主に聞き覚えがある………。間違いなく奴はここに居る。
扉を潜ると、中は少し薄暗かった。
書類仕事をする為の机と、来訪者が多いときに備えてのベンチのような椅子しかない。とてもシンプルな作りだった。
そのベンチに、心配をさせていた人物が座っていた。
本人は呑気なものである。
「坊ちゃんじゃないですか。心配して迎えに来てくれたのですかい?」
2日前に振られたとは思えない程に、元気な姿を見せてくれる。
単純な奴であるとは思っていたが、ここまで急に変われるものなのかと不安が頭を過ぎる。
その不安が正解であるかのように、奴はこの街の衛士の上着を着ている。
ただ、サイズが合っていないせいだと思いたいが、上のボタンがいくつか外れている。
そのベンチに座っている男はただ暑いだけであろうと思い、気にしない事にした。まあ、今は冬なのだがな………。
「どうしたんですかい? 坊ちゃん」
私が固まっているのを見たせいか、不審に思って声を掛けて来る。
だが奴はベンチに座って足を組んだままだ。
その態度に、奴は私の知っている奴ではなくなってしまった事を悟った。
奴はまだ暑いのか上着のボタンに手を掛けるのが見えた。
「ヤ………」
次の瞬間、一目散に扉から逃げた! この詰所の扉を開いてはいけなかった!!
私はその後悔を胸にひたすら走った………。
という感じの夢を見た。という名の前書き。
例によって本篇はこちら↓↓↓ (๑•̀ㅂ•́)و✧
ロックの貞操の危機に関する話は、本当に噂の域を出ないようだった。
親方から聞いた内容だけでは、辻褄が合わない箇所がある為、確信を持って男色だ! とは断言できなかった。
その為、手遅れかもしれないが………まあ、まだ大丈夫だろうという事で、ロックは後回しにする事にした。
「午後からは、薬草の栽培を始めます!」
子供たちが食後のお昼寝をし始める頃を見計らって、話を切り出す。
お昼寝タイムは、大きな音が出る作業は中断だ。
「やくそう?」
眠そうな声で私の声に反応したのは、孤児院で一番小さな女の子だった。
「薬草ってお花が咲くの?」
1人が反応した事で、その子と姉妹のように仲の良い子も興味を示してくれた。
うん。2人居れば、十分か。
「お花が咲くものもあるけど、殆どがお薬にする為に葉っぱしか生えないね」
私が2人を相手にしているうちに、エイシアさんが残りの子供たちを寝かしつけている。
親方も面倒見が良いので、孤児院内で唯一の男の子の寝かしつけの面倒を見ていた。
「エイシアさんの身体を治すのにも使えるんだよ」
興味を持った2人に説明していたが、エイシアさんの名前を聞いて、もう1人興味を持った子が現れてしまった。
院長先生大好きなシルキーだ。
3人とも女の子だし、どうせ水遣りしかさせるつもりはないから、3人でも問題ないか。
「お昼寝が終わったら、一緒にやろうか」
私は興味を持った3人に話しかけると、3人とも楽しそうに頷いてくれた。
そして、私も妹がいた事で、面倒見は良い方なので2人の女の子を寝かしつける。考えていた予定は無事消化出来そうだ。
それに、子供との交流で親方に負けているわけにはいかないしね!
子供たち全員が眠ったのを見計らって、エイシアさんと親方に、今後の予定を相談する。
近くで子供たちが眠っているので小さな声で話をする。
子供たちの寝顔は天使だ。
時期としては冬なので、孤児院の庭は、今は利用されていない。
そこに、持ってきた気まぐれ草の苗を植える事にした。気まぐれ草が育つ季節は決まっていない。条件を満たせば年中無休だ。
子供たちにやって貰うのは、水遣りだけだ。
朝と夕方に水遣りをする必要があるので、現在の宿暮らしでは、一週間ほど水遣りが出来なくなる。
その為に協力してもらう訳だ。
親方の部下たちに頼めば、問題ないのだが、子供たちの価値を高める為にも子供たちにやってもらう必要がある。
気まぐれ草の栽培は、種を渡してあるから、きっと他のところでも育てていると思う。
まあ、成功はしないだろう。
そんな所に、孤児院で栽培に成功すれば、お手伝いをしていた子供たちの価値が高まるという訳だ。
例えそれが、相手に誤解させた結果だとしても………。
「では! 今から水遣りを教えます!」
気まぐれ草栽培の講義に参加するのは、子供たちの保護者であるエイシアさんと興味を持った3人の子供たち、そして、恐らく監視役も頼まれている親方だけだ。
残りの子供たちは、孤児院の周辺の家の解体作業の手伝いだ。
ちゃんとお給金が出るように、手配しておいた。子供のお小遣い程度だけどね。
「まずは、お水は、この瓶に入ってるのを使って下さい。瓶への水の補充は大変だから、やらなくていいよ」
私の言葉に、子供たちが安心するのが分かる。
井戸からの水汲みは、重労働だからね。その為に、子供でも簡単に水汲みが出来る、水瓶を用意して貰ったのだ。
「お水はこの通り、私が補充します!」
手に水球を作り、それを水瓶へと落としていく。
子供たちは、初めて魔法を見たらしく興奮気味だ。
「私がいる時はやらなくて良いけど、いないときは水撒きをお願いね」
子供たちの元気な返事を聞いて、こっちまで元気を分けてもらっている気分だ。スローライフ万歳!!
エイシアさんの指導の元、苗を1つずつ手作業で孤児院の庭に作った畑へ埋めていく子供たちと、私と親方のプランター造り班に分かれての作業をした。
ここでも前世の記憶が役に立った。いや、どちらからというと記憶に宿った職人の魂が暴走したようだ。
あまり使った事のない道具も、すぐに器用に使いこなして、釘を使わずに木材を組み合わせるだけで、プランターを作り出してしまった。当然材料は廃材だけなので費用はタダだ。
つくづく私はスローライフ向きの転生を果たしたようだ。
「なるほど、木の僅かな弾力を利用して噛み合せているのか………」
この世界で、木材の組み合わせは釘を使うのが一般的らしい。
私の作業を見て、親方が真似しようとしているが、上手くいかないようだ。
長年の経験みたいなものを私は前世の記憶として持っているから、あっさりと上手く出来たのだ。本当にささやかだが、チートだな。
「よ~し。暗くなるなら植えた分だけ、水遣りをするぞ~」
当然、半日では作業が終わるわけがない。今日はひとまず終わりだという意味も兼ねて、子供たちに水撒きをさせる。
3人とも、楽しそうに作業しているので、少しずつ独立の為に、色々と教えていっても良いだろう。
「じゃあ、今日のお手伝いのお駄賃だ」
手伝ってくれた子供たちに、お小遣いを渡す。子供たちにとっては初めてお給料だ。
まあ、渡す金額は将来金銭感覚が狂わないように、適切な額を渡した。
孤児院に本格的に住み始めて、時間に余裕が出来たら、買い物に連れ出してあげても良いだろう。
私が出かければ、公爵家の護衛が勝手に付いて来てくれるのだから、安心して出かけることが出来る。
子供たちに癒されて、すっかりオルフォース公爵家のどろどろとした闇のストレスから解放された私は、後回しにしていたロックの貞操の為に行動を開始した。
さすがに放置は目覚めが悪いからである。
とりあえず、噂の真偽を確かめる為、一番近しそうな人物に話を聞く事にした。
「ロック様がお世話になっている方についてですか?」
話を聞いた相手は、先日、ロックの居場所を教えてくれた宿の従業員の女性だ。
「前に昔馴染みらしいと聞いたので、詳しく聞いておきたいと思ったんだ」
男色の噂が真実であるなら、この従業員の女性が何かを知っている可能性が高いと思う。
「そうですね。彼は、どうやら同じ町で育ったらしいのですが、私は全く覚えていないのです」
ちなみに、堅苦しい態度は不要であると伝えてある。あくまで世間話の範囲で教えて欲しいと言った訳だ。
その成果か、ちょっと面白そうな話が聞けそうな予感がした。
「この町で再会を果たした時に、告白をされまして………」
なんだろう………オルフォース公爵家の関係者は、恋愛関係に問題を抱える呪いにでも掛かっているのか? 嫌な予感しかしない。
「ご覧の通り、私は結婚しております。告白を受けた当時も結婚した後でした」
ちなみにこの世界は指輪ではなく、腕輪を贈る。
服の上から腕に付ける者もいるが、服の下に隠している者もいるので、一見すると気付かない事もある。
この従業員の女性は服の上から腕輪を付けている。誰が見ても、結婚しているか一目で分かる程にハッキリと腕輪は磨かれていた。
「当然の事ですが、その場でお断りさせて頂きました」
まあ、当然の事だな。その告白してきた男は、ロック臭がぷんぷんする。
「一応、私という縁があるので公爵家の権力が届くこの街の衛士になっております。その後は何度か見回りでいらっしゃる以外に、特にお付き合いはございません」
あれだ。ガチでロックと同じ種類のストーカーの可能性が出てきた。
世の中には似た人が3人いると言われているが、この世界でも同じ言葉がある。
その1人がロックの保護をしてくれた者だったのだろう。
え? 意味が違う?
まあ、振られた後に男色に走った疑惑は捨てきれない。やはり、直接本人に確認するしかないのだろうか?
………なかなかに勇気がいる選択だな。出来れば直接対決は避けたい。
「教えて貰えて助かった」
とりあえずは、お礼を従業員の女性にお礼を言って解放し、今後の事を考える。
この従業員の女性から見れば、街の衛士という立場だから、ロックを保護していても問題ないのだろう。
実際にこの女性から見ても、その人物は衛士以外の認識はない。
………………ゴミ虫を見るような目を向けられたロックよりはマシか?
-後書き-
はい! またやりました!
反省していない。このタイミングしかないと思った。きっとまたやる٩(•౪• ٩)
サブタイトル名の採用については、もう少し時間が経ってから決定したいと思います。
案を出して下さっている皆様、この場を借りて感謝を申し上げます(灬╹ω╹灬)




