018
物語の中核を成す?、貴族側とのお話は、あと半話くらいで終わります。
この時点では私はまだ知らなかった。この公爵家の本当の恐怖を………。
「冗談でございます。素直な方ですね」
優しく微笑む公爵夫人の笑顔を、もはや真っ直ぐ見つめ返す事が出来ない。
「とはいえ、レオノーラの処遇にも関わってくるお話になりますので、聞いて頂けますか?」
公爵夫人の瞳の奥は、何とも深い色をしていた。そんな瞳に見つめられて、NOと言える人がいるだろうか………。そう考えてしまう程に、私はその瞳に追い詰められてしまっていた。
「レオノーラは、私の夫であるアウインの実の娘で、私の義理の娘にあたります」
え?
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はい! 色々とアウトォォォ!!
あの公爵は何やってんの!?
前に奥さんにやましい事の1つや2つあるみたいに言ったけど、あの公爵、絶対に1桁じゃ足りない程やましい事しているよ!
そして、公爵夫人の口から紡ぎ出された言葉の意味を理解して、この屋敷に足を踏み入れた事を完全に後悔した。
「今回、クロムウェル様を不快にさせる事となった企みは、レオノーラの養父が自分の娘を守る為に画策したと白状致しました」
さて、皆さんはこの僅かな情報でどれだけの事が思いつくでしょうか?
昼ドラ? 略奪愛?
そんな生易しい内容を想像された方は、今なら引き返せますよ?
「それはマックスさんと公爵閣下の方針に反対をされたという事でしょうか?」
「はい。そうなります。ゆえに我が家の執事長を勤める事は出来ません」
当主様の方針に逆らって勝手にやろうとした。という事であれば、当然の反応だ。
だが、私はまだ「秘書が全てやった事だ!」説を捨てた訳ではない。
「本来であれば、処断するところでありますが、我が家の事情もありまして、本人には領地で仕事をして頂く事になりました」
あれでしょう?
落胤であるレオノーラを引き取ってくれた恩があるからでしょう?
「それも義娘を愛するがゆえの行動ですので、クロムウェル様へ危害を加える事が出来ない立場へ追いやる事でお許し頂けませんでしょうか?」
私としてはマックスさんの息子に当たる人物であるから、厳罰は特に望んでいない。
むしろ、話し合いで解決したいと思っていた事だから、願ったり叶ったりだ。まあ、レオノーラパパは日の目を見る事はなくなってしまったが、貴族の家に仕えて、主を裏切る行為をしたのだから自業自得だ。
ただ、それでも気になっている事がある。
レオノーラが私の篭絡要員とされた事で、行動を起こしたと推測出来るが、果たしてマックスさん程の人物の息子で、一時とはいえ執事長として認められた人物が、貴族社会であり得る話に対して主を裏切る行動を取るものだろうか?
「つかぬ事を伺いますが、愛するとは溺愛という事で宜しいでしょうか?」
「いえ、そのまま愛するという意味でございます」
はい! アウトォォォォ!! ツーアウト来ました!!
あれか! 公爵家当主は夫人に内緒で子供を作って、後始末は当時の執事長の息子がして、その息子がその子供を愛しちゃって、他の男が近づこうとしたので排除しようとしたって事!?
想像以上にやばいぞ! オルフォース公爵家!!
「かしこまりました。私たちに害が及ばないのであれば、それで構いません」
むしろ関わりたくないので、もっと遠いところへ送って下さいと言いたかったが、この辺で妥協した。さっさと帰りたい。スローライフを諦めてでも帰りたい。
「ありがとうございます。それと………」
まだ何かあるの!? もう、ワンアウトでチェンジだよ!?
「我が公爵家だけではなく、国を救う発案をして下さいまして、ありがとうございます」
今度は普通のお礼だった。だが、私はもう騙されない! 絶対に他にも何かある!!
………ん? 国を救う??
「クロムウェル様もお気づきのとおり、共和国が力を付けている状況で、第1公子殿下の事で公爵家同士が争っていては国が滅びるきっかけを作りかねませんでした」
あぁ、そういう事ね。
庶民からしたら馬鹿だよねって思う内容だからね。
馬鹿公子の押し付け合いを国民が知らないのは、情報の遮断をしている人がいるからだろうと想像していたが、この公爵夫人がその1人か。
「今の共和国なら、国としての力を付けたとしても共和国が滅びるだけだと思いますが、それでも公国が内輪揉めをしている場合ではないとは思っておりました」
貴族家のドロドロとした内容の話ではなく、真面目な話になったので真面目に返したら、公爵夫人が驚いた表情を見せた。
なんというか、驚いた表情も絵になる。公爵はなんでこんな美人がいるのに浮気をしたやら。
「共和国が滅びるですか?」
そっちに反応したのか。これは私の失策だ。
「現在の共和国は、国としては未完成です。公国で貴族にあたる者たちは、共和国ではただの金を持っている者たちであって、国を治める事よりも自身の利益を優先しております」
国が君主制から共和制に変わって成功する条件が、王権の衰退による政権がそのまま独自性を保って事実上の共和制に移行していく事か、国民に革命を起こしての共和制だ。
ただし、革命によっての共和制は長く維持しない事も多い。革命によって共和制への移行が成功するようになったのは、共和制の国が増えてからの事だ。
この世界での共和国は、私が知る限り、公国の隣国である1国あるのみで、他の国から注目されている。
しかも革命というより内乱によって誕生した事は知っている。この国に来る間にマックスさんに色々と話を聞いたり、旅の途中で書物を読み漁って詳しく知った。
「現状は国であれば難民とも言っても過言ではない他国からの流民の移住を制限している様子がございません。これは国として纏まりがない事を意味しております」
移民の受け入れは国として優先しなければいけない問題のひとつだ。主義主張や考え方の違う者たちが国内に無秩序に流入すれば、混乱が起きるのは明白である。
前世の現代社会でも、国外からの流民が犯罪を犯して、犯罪の凶悪化が問題となっていた。
噂で、貴族はなく、平民は平等と謳っていれば、聞こえが良いのだろうが、実情は治安が悪く、貧しく力のない者たちが搾取されるだけの国だと推測している。
「恐らく、そう遠くない未来に破綻するものと思います」
例えば、元王族の生き残りとか、他国に嫁いだ子孫とかが正当な後継者であるとか言い出したりね。
流民が制限されないという事は、国としての諜報員も入りたい放題という訳だ。国が纏まっていないと分かれば、内側から崩せば良いだけだ。例えば一部のお金持ちを唆せば良いだけだしね。
「素直に驚きました。マックスが自分の孫を宛てがってでも、取り込むべきと主張した事に納得いたしました」
なるほど、本当に迂闊だった。マックスさんとは旅の途中で沢山の話をした。当然、国における考え方も聞かれた。当初は移住する上で危険人物でないか確認されていると思って色々と答えてしまった。その時点で目を付けられていたのか………。
「クロムウェル様がご想像のとおり、公妃様も私も共和国は幻のような国だと考えております。そして近いうちに混乱が起こると予想もしております」
ふむふむ。オルフォース公爵家内の力関係やコールウィン公国の内情も予想がついてきた。
………泥沼だな。そして、私の栽培した気まぐれ草が、既に権力争いに使われているのも分かった。これはもう逃亡出来ない。そして、公妃様が私を逃がすつもりはないのだと分かった。
女性が美の追求を追い求めるだけの生き物だという認識を改めよう。
この国を支える女性は既に美しい。
「オルフォース公爵夫人。私と話をしてみて、如何でしたか?」
「元他国の下級貴族とは思えない程の賢者ぶりに驚いております」
私が腹芸なんて出来ないから、素直に話をして下さいと言うと、公爵夫人は、迷いなく言葉を口にしてくれる。
「では、私の待遇はどのようになるのでしょうか?」
こう言っては何だが、私は結構無礼を働いている。何の権力もない私が、公爵家に対して「気まぐれ草が欲しければ便宜を図りな!」と言い続けてきたのだから。
実際に気まぐれ草が、国同士の諍いにも利用されている程に重宝している事が分かった。今となってはガクブルものの話である。
そして、近いうちに混乱が起こるという公爵夫人の言葉の意味は、既に公国側から、力を持っている共和国の者を唆していると言った訳だ。
田舎でスローライフを満喫していた時点で、この世界はあちこちに争いの火種を抱えていた。私は既にそれに巻き込まれている。
何も考えずに気まぐれ草の栽培に励んでいた昔が懐かしい。そして、そんな頃の自分を殴りたい。
呑気にスローライフを満喫している場合じゃねぇよ!っと………。
-後書き-
紅茶について!
「ないわ」派の方が多かったですが、チャレンジして下さると言って頂いた方がいたのは驚きです。
それとは別に、同志が1名見つかりました!
これだけでも生きていて良かったです(ノД`)
私がコーラを紅茶に入れたきっかけは、豚肉の紅茶煮という料理を作る時でした。
豚肉の紅茶煮は、長期保存が利くので非常に重宝していますが、その分、炭酸煮込みと比べるとお肉が硬くなります。
そこで紅茶と炭酸を配合したり、炭酸で煮込んだ後に付け込むタイミングで紅茶を入れてみたりと試行錯誤していた時に、味見していて気に入る結果となりました。
紅茶のティーバッグは基本的に揺らすと苦味が出ます。
私はホットではその苦味が好みなので、炭酸を入れる事で私好みの苦味を調整できるので、好きです。
逆にアイスはティーバッグをとってからコーラを注ぎます。冷たい苦味は美味しくないので。
(スプライトを入れると感想をくれた方も良く分かっていると思いました。私もアイスティー+スプライトはかなり美味しいと思っています)
紅茶煮についても、炭酸を使って苦味を上手く抽出すると、色がついて染みた部分が硬くなって、チャーハンの具材としてとても適した感じになったりで美味しいです。
まあ、紅茶にコーラ入れる人の味覚を信じられない方も多いと思うので、また「ないわ」の感想はお気軽にどうぞ。結構、著者を凹ませる事が出来ます!
ドSな読者たちはそれで満足しやがれ!!・゜・(つД`)・゜・




