016
本格的に熱が上がってきました。日にちが空いて、既に考えがまとまっていた話を忘れないうちにアップしておきます。この後の更新は、最低でも3日は空くと思います。休載はしないです。やっと書きたいところを書き始められたのだから。
私が話し合いを提案したのは、孤児院の中にいた子供の不安な瞳を見たからだ。
私の予想が正しければ、元々彼らの扱いは悪いだけではなく、私という秘密を守る為に、少なくとも何かが起こる。
子供の瞳が私の予想が核心に近いものだと感じさせるには十分であったのだ。それだけで動く理由になると思っている。
私が孤児院に興味を持った事を告げた事で、予想通りというか、予想以上というか。
レオノーラは貴族側としての感情を露にしたのだ。
一緒に旅した間と、この都市にいる間にある程度の信頼関係を築いていたと思う。
私も田舎貴族だったとはいえ、貴族なりの考え方を失踪した父から教わっていた。だから、レオノーラ側の考えも分かる。
ロックに同情したりしてくれる程度には気配りが出来るので、個人的にも相手としては悪くなかったと思っている。
でなければ、篭絡の話が出たときにあんなに心躍ったりしない。
もちろん、相手の気持ちを優先した上で、話を受けようかとどうしようかと、夜もぐっすり眠れる程には、しっかりと悩んだ。
ただ、すぐにどうこうするつもりはなかった。
相手の気持ちを確認する為の時間も当然の事だが、私も生活基盤を築く為に忙しくなる事と、そして………。
「私と共にロックの絶望的な結末を見てみないか?」くらいしか口説く台詞が思いつかなかったからだ。
本当に良く考えれば、お互いの事をよく知らないのである。共通の話題といえばロックの失恋話しかないだろうからな。
まあ、そんな事を考えてしまう程度には、私もレオノーラを意識していたが、先ほどの態度で、私の心も彼女から離れてしまったと思う。
基本的にレオノーラの立ち位置は貴族側。私の立ち位置は庶民側。それだけの事だった。
「こちらは孤児院の院長をしていらっしゃるエイシアです」
「エイシアと申します。よろしくお願い致します」
私の我侭で突然用意された話し合いの場ではあったが、しっかりとお茶の美味しそうな香りが漂う場を用意してくれた。
ただ、紹介したレオノーラさんと紹介されたエイシアさんの視線が痛い。というか冷たい。私の隣に座っている親方からは逃げたいという気持ちが痛いほど伝わってくるが、逃がさないよ?
「まずは、自己紹介を」
私のこの言葉にレオノーラが反応したが、私は手で制して止める。
「私がクロムウェル=リヒュルトと申します。国はなくなりましたので、今はただのクロムウェルです」
この挨拶も何だか懐かしい。
この挨拶に、隣に座っていた親方が驚き、正面のエイシアさんは、驚きの後に警戒心をさらに強めたのが分かった。
レオノーラの表情には失望の色が見える。
その事から、レオノーラは完全にオルフォース公爵家側である事が分かった。ゆえに恋愛は難しいだろう。さよなら、淡い私の恋心という名の発情期。
「勘違いをされないように先に申し上げますが、亡国の貴族だからと言っても、家の再興の為に何かをするつもりはございません」
野心なんかないですよ。あるのは少年特有の淡い恋心と失恋の傷心だけですよ。
「………………私たちをどうされるおつもりなのかお聞かせ頂いて宜しいでしょうか?」
エイシアさんは、普通の人のようだ。貴族の争いに巻き込まれようとしていて、自分たちに降りかかる運命を黙って受け入れるしかない。この世界では、ただの普通の人だ。
「レオノーラさん。この孤児院の扱いをどうする予定だったかお聞きしても良いですか?」
エイシアさんが私に話しかけた事を非難しようとしたレオノーラを、私が口を挟んで止める。
「どうもこの状況は、公爵閣下の指示ともマックスさんの指示とも違うような気がしているんですよ」
私の敵意ある言葉に一瞬声を詰らせた事で、さらに私は言葉を追加する。
「この区画だけ隔離して、この場所へ近づく為の通路を監視できるような環境作るようにしていたのは、馬車の中から見ただけで予想が付きました。如何でしょうか? バッカスさん」
私が明らかにレオノーラとバッカスさんへ敵意を向けたことで、孤児院の責任者であるエイシアさんが、困惑の表情を見せる。
「確かにそのように整備するように依頼を受けている」
私の質問にバッカスさんは素直に答えてくれる。だが、現場の人間である親方には隠し事なんて出来ないようだ。
「それと私の行動を監視しやすいように。ですね?」
いや、明らかにそんな表情されたら、分かりやす過ぎますよ。バッカスさん。
「その事は口止めされているようなので、返事は結構です。さて、レオノーラさん」
バッカスさんの役目は分かった。あくまで現場の人間でただ指示通りに動くだけの人物である事も。
「先ほどもお伝えしたとおり、この件は公爵閣下の指示でもマックスさんの指示でもないと思っています。そして、私はこの事を不快と思っています」
ここまでハッキリと告げても口を開かないという事は、公爵やマックスさんとオルフォース公爵家内で同等の力を持っている人物がいるという事だろう。
「では、話を変えましょう。エイシアさん」
「は、はい!」
私が一方的に、エイシアさんから見ても、逆らえない相手であるレオノーラを問い詰めた事で、エイシアさんを酷く緊張させてしまっていたようだ。いや、怖がらせるの間違いでしたよ。分かってます。反省しています。私にSの趣味はないからね。
「申し訳ありません。エイシアさん。私にあなたや孤児院の子供たちを害する気持ちはありません。むしろ、今のままだと望ましくない結果になりそうなので、教えて頂きたい事があります。宜しいでしょうか?」
「………はい」
ストレートに害意はないと伝えたが、まだ困惑している様子だった。
それでも、最初の明らかな敵意の瞳ではなくなったので、少しは話をして貰えるだろう。
「まずはエイシアさんの先ほどの質問に答えたいと思います。私はエイシアさんが望むのであれば、このまま子供たちと暮らして頂きたいと思っています」
困惑の表情は変わらなかったが、何となく全体の雰囲気が少し落ち着いたように見えた。
「なので、是非教えて下さい。エイシアさんは今後どうするように言われていましたか?」
エイシアさんがレオノーラの表情を見て答えてよいものか迷ったようだが、少しずつ口を開いてくれた。
「………私は身体を壊している事もあって、他の場所で療養するように言われておりました」
まあ、予想通りだ。私の秘密を守る為に、この周辺は全てオルフォース公爵家の手の者で固めるつもりだったのだろう。
「エイシアさんの今の立場を聞いても大丈夫ですか?」
私が再び質問をすると、やはり一度エイシアさんはレオノーラの表情を確認する。
「クロム様。申し訳ありませんでした」
エイシアさんの2度目の視線を受けた事で、レオノーラがようやく口を開く。
「エイシアの立場は、表向きは教会から雇われていますが、この孤児院の人事権は公爵家が有しております」
つまり、公爵家の指示でどこかに飛ばそうとしていました。って事だ。
「で、誰の指示ですか? 公爵閣下やマックスさんはこの事を知っていますか?」
「父の指示です。旦那様と祖父はこの事を知りません」
話し合いは上手くまとまったが、物事が順調にいくとは限らないという事だ。私も良い勉強になった。
「大方、私がアメジスト教と交渉する前に、私の周りを公爵家で固めてしまおうと言ったところでしょう」
私の推測を口に出してみたが、今度は答えはなかった。おそらくレオノーラは、指示以外の事は話されていないが、目的は分かってはいるという事は推測出来る。
「では、エイシアさん。改めて聞かせて下さい。あなた、どうされたいですか?」
素直な気持ちを教えて下さいと、相手の目を真っ直ぐに見つめて問い質す。
「………私はこの孤児院で出来れば、子供たちとこれまで通りに暮らしていきたいです」
混乱して緊張もしているが、最初の敵意の瞳は完全になくなった目で、相手も真っ直ぐに私を見つめて答えを返してくれる。
「という訳で、そのように取り計らって頂けますか? レオノーラ」
マックスさんの息子である現執事長のレオノーラパパが、どれほどの力を持っているか知らないが、この件に関しては私が上ですよ。と分かり易いように名前を呼び捨てる。
「そして、バッカスさん。私のお屋敷を建てるのは待って下さい。少しこちらで交渉する事が出来ましたので」
レオノーラの態度とは違い、バッカスさんは強く頷いてくれる。
公爵家に雇われているとはいえ、現場人間であるバッカスさんは、庶民側の人間のようだ。
「交渉に時間が掛かるかもしれませんので、その間に、孤児院の修理に使えそうな木材を用意してもらえますか? 金貨5枚くらいなら即金でお渡しできますので、その範囲で、とりあえずお願いします」
「私、いや俺の事はバッカスと呼び捨てにしてくれて構わない。クロムウェル様」
バッカスさんは、指示された内容は言えないが、協力できる事は協力してくれると言ってくれる。
「では、私もクロムとお呼び下さい」
「いや、そういう訳には参りません」
うむ。立場的な事は守らないといけないのか。
「なら私も他の職人と同じように親方とお呼びしても良いですか? これでも建物の修理程度は出来る腕前はあると思いますよ」
相手の立場もあるが、私には1人でも味方が欲しい。訳の分からない位置関係にある人物を相手取るのだ。その為に、目の前の人ひとり口説き落とせないでどうする?
「わかりやした。私もクロムウェルの旦那と呼ばせて頂きます。これが精一杯です」
敵対はしないが味方も出来ないという位置に落ち着いたようだ。今はこれで満足するとしよう。
「そろそろエイシアさんの心配をする子供たちが限界になりそうです。今日の話し合いはこの辺にしておきましょう」
私の提案を即時に実行する権限のないレオノーラさんを促して、孤児院を後にする。
エイシアさんは最初とは違い、立ち去る私を見送ってくれた。
よく見れば、孤児院の扉も立て付けが悪いのか傾いている。これはスローライフの最初の活動は孤児院の修理かな?
そんな思いを胸に抱いて、新しい生活の初日を終えた。
あぁ、ロックは子供たちの相手をして貰っていた。どうやら子供の1人に足を蹴られたらしい。
私は話し合いの結果、格上である事を示せたが、ロックは子供以下である位置に無事にたどり着いたようだ。………情けない。
では、次はお義父さんになったかもしれなかった人に会いに行こうか!!
-後書き-
紅茶について語りたいのですが、限界です。
この話は、忘れないように急いで書いたので、変なところが多いかもしれません。
ご指摘頂ければ、体調が戻り次第、普段通り対応させて頂きたいと思います。
_ノ乙(、ン、)φ...もうダメぽ。犯人は爆弾魔ではないかもしれないかも




