012
やっと婚約破棄のタグが追加出来る!
そして、早くスローライフの物語に入りたい………。
「公爵閣下。婚約候補の座からの離脱する為に、もう1つ手を打つ気はございませんか?」
基本的に謀略なんていうものは成功率が低い。実行しても2割が成功すれば上々だ。
だから、有効と思われる案は話を聞くだけでも損にはならない………はず。
自信満々に転生チートを見せると言ったが、他の人の意見を聞かないと成功するかも分からないのが実際だ。
「その案の為に、先ほど第1公子の事を聞いてきたのだな」
「ご推察のとおりです」
やはり私が馬鹿公子の好みを聞いた事は、疑問に思っていたようだ。
「我々は同志だ。上手くいくかもしれない案があるのなら、聞く事は損にはならぬ。教えて貰えるだろうか?」
同志認定は、覆らないようだから諦めるとして、この返事からも話し合いの結果からも、ある程度は信頼してもらえた事が分かる。
まあ、どの辺が信頼される結果に繋がったか分からないけど。少なくとも、口だけの同志ではないようだ。
「かしこまりました。まずは私の第1公子殿下の人物像が合っているかどうか確認をさせて頂けますでしょうか?」
「うむ。分かった」
「本人は優秀なつもりで、あまり周りの意見は聞かない。学んだ事をそのまま行なう程度の考える力はある為、公の場ではそれらしく見えるが、周りからとっくに見限られており、その自身の評価に気付かない」
「う、うむ」
「恐らく、婚約者選びの際にも、『平凡な顔だな』とか『普通の顔だが我慢してやる』とかいう事を平然と口にする、一時的に傲慢な時期があり、内面的にはその傲慢なまま成長していると思われ」
「………………」
「現在は学園に通っていると思われますが、取り巻き以外に親しい者もおらず。周りの者は殿下に関わらないように行動しているのが実情だが、本人は自分が偉大であるからと勘違いしていて、取り巻きも含めてその事を気付いていない」
「そ、そこまで言わなくて良いのではないか?」
「結論として、自身に都合の良い甘言を受け入れ、あまり考えずに行動を起こす可能性が高い人物と推測致します。如何でしょうか?」
あまりにもテンプレートどおりの馬鹿王子だったらしく、公爵もフォローをしようとしたが否定はしなかった。
「ご、ごほん。………ラピス。身近にいたお前から見た殿下と違っていたら答えよ」
そして、公爵は自身での発言を控えたようだ。っていうか娘に押し付けるな! おっさん!!
「た、確かに殿下と初めてお会いした時に、そのような事を………言われたような事があったような………」
急に話を振られたお嬢様も、視線が泳ぎながら答えてくれる。
「マックスさん、如何でしょうか?」
「クロムウェル様のご賢察ぶり、大変に驚きました。その通りでございます」
実際に私が口にしたのを誰かに聞かれたら不敬罪か何かになるだろう。
そんな発言をして慌てる公爵とお嬢様では、埒があかなかったので、マックスさんに答えを求めたら、すんなり正解だと教えてくれる。
そして、オルフォース家が公爵家内で序列が1番下な理由も何となく察したが、今は触れないでおこう。
ちなみにマリーは途中であくびをしていたが、私の発言に驚いていたようで、マリーの行動は他の人たちにはバレてはいなかった。
「ご、ごほん。………婚約者選びの時の話はどこにも漏れていないはずだが、どこで知ったのか教えてもらえるか?」
「甘やかされて育った典型的な人物を元に推測致しました。むしろ、そんな人物が実在していた事に、私も驚いております」
前世の記憶に、類似品? パチもん? がたくさん居たからですよ。なんて答えるわけにはいかない。
本当に馬鹿王子が実在したなんて、こっちこそ驚きだったしね。
「わ、分かった。とりあえずはそれで納得しておこう」
まだ、私の発言の衝撃から立ち直れない公爵が、お茶を入れなおすようにマックスさんに指示を出す。
私はついでに暇そうにしているマリーに手伝いをするように告げて、母に話し合いはまとまった事だけ伝えるよう伝言も頼む。母成分を補充すれば、もうしばらくは話し合いに耐えてくれるだろう。
「では、そのような人物の婚約者候補を外れる方法を教えて貰えるだろうか?」
先ほどまで無表情だった顔がホクホクとしているマリーの顔と私の顔を見比べながら、公爵が話を再開した。
「はい。殿下の周りに今までは排除していたであろう人物像の者を、学園に通わせて、殿下を褒め称えて、自尊心を満足させるように仕向ける事です」
「………もう少し詳しく教えてくれないだろうか?」
残念。これだけでは伝わらなかったようだ。
お花畑ヒロインと馬鹿王子の末路だけで、通じると便利なんだが、上手くいかないものである。
「殿下の好みの女性が、貴族のお嬢様らしい方でないのは明らかでございます。おそらく殿下の好みは、自分に甘えてくれて、真っ直ぐな好意を向けてくれ、最後は自分の全てを褒めて認めてくれる女性だと推測致します」
「ふむ。ラピスや他の婚約者候補とは仲が悪いからだな」
「はい。それと殿下の性格から推測致しました」
テンプレートという神のお告げみたいなものだ。ほぼ間違いないだろう。
「さらに具体的に言えば、目は大きくハッキリと開いていて優しく見え、髪はピンク色でストレートに他では見ないような特徴があると良いでしょう。さらに表情や仕草は庶民の間で人気になりそうなあからさまに媚びた、私たちからしたら「ないわ」とつい口に出てしまうような、そんな女性が良いと思います」
「本当に具体的だな………」
「設定としては、貴族の庶子で、親が亡くなった為、父である貴族に引き取られる。その貴族の爵位が男爵か子爵なら完璧です」
「せ、設定!?」
「そんな人物が学園に入学すれば、悪目立ちすると思われますので、そこで殿下が手を差し伸べられるように仕向ければ、恐らく自分の顔が良いと思っている殿下は勝手に自分にも惚れたと勘違いしてくれるはずでございます」
何をそんなに驚いているのだろうか?
今度はマックスさんも、驚いている。
「たびたび、話を中断させてすまなかった」
再度のお茶休憩を挟んで、公爵が再び話をするように促してくる。
「結論と致しましては、『私はこのアメージ(仮)と婚約する! お前たちとは婚約しない!!』と大勢の者がいる場で言わせる事でございます。あ、アメージとは今私が考えた適当な名前でございます」
「な、なるほど。さらに外部の候補者を作って押し付けるのだな」
お茶を口に運ぼうとした手が震えて、食器が少し音を立てる。
動揺しすぎだよ。公爵様。
「はい。これなら現在、第1公子殿下を押し付け合っている公爵家同士が手を取り合えると思われます」
「うむ。確かに」
「問題があるとすればその騒動を起こす事で、家の名前に傷が付く事でございます」
発想自体はテンプレートを元にしているが、何もそれだけ考えていた訳ではない。
「閣下はおそらく、第1公子殿下を押し付ける事が出来れば受け入れて下さると思いますが、私には他の公爵家の状況は分かりません」
今の状況で、思いつく限りの問題は先に話をしておくべきだ。
この事を疎かにすると、後でツケを支払わされる事になる。
「先ほどの話を聞く限り、候補者は第1公子殿下に対して嫌悪を抱いておられるので、ラピスラズリ様が説得できれば、学園内での協力をして頂けるのではないかと思います」
これは各候補者のお嬢様方がどれくらい第1公子殿下を嫌っているのかに掛かっている。まあ、協力しなかった方が1人なら、その方にご婚約していただく方向へ変えても良いし、応用は利く。
「もし、公爵の説得が上手く行かない場合は、アメジスト教を通して、美容薬を提供する事で交渉して下さい。他の公爵も、奥様に隠し事をしていて、機嫌をとりたい事情の1つや2つは抱えていると思われますので」
私の言葉に、目の前にいる公爵も視線を逸らす。
1つや2つじゃ足りないようだ。私の栽培している気まぐれ草は、公爵とオルフォース公爵夫人の間でも使われているのが分かった。
「クロムウェル様。大変素晴らしいご提案でございます」
視線を逸らした公爵に代わって、マックスさんが賛同してくれる。
勝算は全くないわけではないようだ。
「う、うむ。ラピス。殿下はそのような女性に会ったら、その者を婚約者にしたいと思うか?」
また、おっさんは娘に話を流しやがった。
「申し訳ございません、お父様。学園も含めて今まで殿下の周りにそのような方がいらっしゃらなかったので、分かりかねます」
お嬢様も、公爵がやましい事情を持っている事を理解したのか冷たい視線を向けて返答する。
公爵の家庭内事情は自分で解決して頂くとして………。
「実際にそのような人物を探し出すのは大変かと思われますので、報酬と引き換えにそのような大役を担ってくださる女性と、自身の庶子として引き取って下さる貴族の方はおられますか?」
表面上は、公爵へ向かって投げかけた言葉だが、実際には使えないおっさんをすり抜けて、後ろに控えているマックスさんへ聞いてみる。
「問題ございません。没落しかけている家の者に話を通せば、すんなり用意できると思います。ただ、こちらの意図を理解した上で行動して下さる方を宛てがった方が良いと思われますので、他の公爵家の協力を先に取り付けた方が良さそうでございます」
ふむふむ。私の予定通りにマックスさんが答えを返してくれる。
「なら、その大役を担ってくださる女性には、役目が終わった後に別の生活を保障してあげる事は可能ですか?」
「………………なかなかにクロムウェル様も残酷な事をお考えになります」
いや、マリーのロックへの態度ほど残酷じゃないよ?
-後書き-
特定の1名の方へ。
悪意はないよ! 本当だよ!!( •॒̀ ູ॒•́๑)
白タイツじゃなくって、ピンクのカツラが必要になるかもね?(・ε・`)
次回から少しずつ恋愛要素が入ってきます。




