011
この作品はあくまで、著者の趣味の範囲での作品となります。
期待をされる方には申し訳ありませんが、ご理解下さい。
私の提案を思案する公爵によって、部屋は沈黙が支配していた。
時間にしては、どれくらい経ったか分からない。
私は公爵の返事も心配であったが、マリーが背後であくびをしたそうな気配を感じる。
こんな没落した貴族家の為に付いてきてくれた事には感謝している。………が、本当に臣下に恵まれたのかどうか不安になってくる。
ロックはロックで未だにマリーの事実に気付かずに、全く通じないアピールをしていたし、マリーはマリーで母が居ない場所では長時間に渡ってのまともな活動が危うい。
いや、没落したから貴族の体面なんて気にする必要はないのは分かってはいるのだがな………。それでも色々と察して欲しい気持ちはあるのだ。
「これはすまない。不安にさせてしまったようだ」
私の別の不安が顔に出てしまったようで、公爵がそれを見て謝罪してくる。
このような状態で、他の心配をしている私も残念な2人の事は言えないのかもしれない。それでも勘違いしてくれた方が良さそうなので、そのまま誤解は解かないでおく。
「先ほども伝えたが、私たちが君たちへの害意はない。希望については快く受け入れよう」
公爵が提案を受け入れてくれた事によって、私だけではなくマックスさんとお嬢様も緊張を解いたのが分かった。
背後にいるマリーの気配に変化がなかったので、本当にマリーはいるだけの存在だ。母への話し合いの結果報告は、マリーに任せずに私が直接行なった方が良いだろう。問題はどのようにマリーの機嫌を損なわないように対処するか………。悩みは増えるばかりだ。
「長考させて貰ったのは、受け入れるかどうかではなく、条件にあった土地があったかどうか考えていたからだ」
また、私が表情を曇らせたからだろう。
公爵が再度安心するようにと念押しをしてくれる。
「ラピス。お前が管理を任されている孤児院の周囲に人は住んでおるか?」
「いえ、お父様。殆どの住人はおそらく共和国へと向かったようで、今はほぼ人はおりません」
「そうか。マックス。孤児院の周りの土地を買い取って農地にする事は可能か?」
「はい。可能でございます。元々あの地は人気がございませんので、既に孤児院の周囲はラピスお嬢様の警護の為に買収済みです」
「分かった」
私が公爵の念押しに頷いた事で、話は次に向かったようだ。
「クロムウェル君。薬草の栽培の為に用地は確保していたが、希望に合う土地になると、今話しに出たこの公都の中になってしまう」
公爵の答えから、私の希望した提案は公爵側にとって予想外であった事が分かる。
それでもすぐに希望に合いそうな場所を思いつくんだから、この人はちゃんと仕事をしている人だ。
うちの逃亡した父は仕事をしていなかったから、領地の事を教えてもらった事はない。これは単純に田舎貴族と中央貴族の違いとは言えないだろう。
「こちらも早く安定した栽培を実現して貰いたいのだ。そこで率直に教えて欲しい。即席で用意した農地で栽培は可能か?」
「実際に土地を見てみないと確証は持てませんが、可能だと思います」
「日が射さないようにして栽培していると聞いたが、ほぼ1日中ずっと日陰でも問題ないものなのか?」
これはコールウィン公国の首都までの旅路でマックスさんと話をした事だ。普通なら信じられる話ではないから確認しているのだろう。
「問題ありません。それにあまり昼間と夜の温度に差が出ないのと、風がないのが理想です」
引き篭もりを育てるような環境でお願いしますと言って通じれば良いのだが、この世界にその概念がないので、とても残念だ。
「分かった。マックスすぐに指示を出してくれ」
「かしこまりました。クロムウェル様。一旦失礼致します」
私の答えを聞いた公爵が即断して、マックスさんが他の者に指示を出す為に退席する。指示を出したら戻ってくるようだ。
「マックスが戻ってくるまでに、用意する環境について説明しておこう」
先に説明をしなかったのは、急いでいるからと私の条件をしっかりと満たしていると判断されたからだろう。
これで中途半端に強行するような状況だった場合は、完全に私の信頼を失う事になるのだから。
「公妃候補の者たちは、皆この公都で孤児院を管理している。この孤児院の表向きの経営者はアメジスト教会が行っている。この事を説明した方が宜しいかな?」
「各公爵家がアメジスト教会に寄付して、そこから候補の方々が公平に分配された資金を使って運営をして、次期公妃に相応しい人物か国民に知らせる為ですね」
まあ、ただの国民の人気取りの為だ。資金も実際は各公爵家から支払われたお布施の額によって増減しているのだろう。
公爵が言いたいのは、アメジスト教との繋がりはこれで良いか? と聞いただけだ。
「うむ。オルフォース公爵家は先ほども話をしたとおり、公爵家内の序列で言えば1番下に位置している」
公爵が何に納得したのか分からないが、話を続けてくれる。
「ラピスが候補となった当時は、外壁に近く、あまり国民への宣伝にならないような孤児院を押し付けられたが、それが役に立つ日がくるとは、世の中何が起こるか分からないものだ」
せっかく頑張って候補になった公子が馬鹿公子だったなんて、何が起こるか本当に分からないものですね。と、世間話をするべきだろうか?
「その孤児院はそんなに立地条件が悪いところなのでしょうか?」
一応、ブラックジョークを言える心の余裕はあるが、実際に口に出すわけにはいかない。口に出したら馬鹿公子と同レベル扱いされても文句が言えなくなるからだ。
「あとで確認して貰えば分かるが、公都内で貧しい者が住み着くような区画だ。隣国の共和国が力を付けてきたおかげで、今は殆ど無人だ。治安はこちらから人も出すので安心して欲しい」
うむうむ。貧しい人たちは国を捨てて、希望のある共和国へ行ったという事か。
………………その先に待っているのは奴隷か何かだろうけど、本人たちが望んで国を捨てた結果だ。何も言うまい。
「人がいないから、秘密も守りやすいということですね」
「うむ。まさか聖女の雫が栽培され、しかも公都で行なわれているなど誰も思うまい」
確かに。
治安と秘密維持の為に、公爵も人を派遣して偽りの区画が作られる事になるだろうから、安心………かな?
「アメジスト教との交渉については、かねてより向こうから聖女の雫の入手先について相談されていた。すぐに話し合いをまとめよう」
うん。これで条件としては問題ないだろう。
「わかりました。それで一度お願い致します」
「うむ。問題があれば他の案を考えよう」
この提案は、表立った問題は見つからないが、実際に何か問題が起こる可能性も十分に考えられる。
例えば、私がアメジスト教との交渉に失敗した時とかな!
そんな時もフォローしてくれると公爵は約束してくれた訳だ。これで公爵と一蓮托生になったと言える。
「申し訳ございません。恙無く指示は全て完了いたしました」
私と公爵の話し合いが終わったところで、マックスさんも仕事を終えて戻ってきた。
突然の提案にも関わらず、恙無くと報告したマックスさんは本当に優秀なのだと思った。
私もそんな部下が欲しいものである。
やっぱり贅沢は言わない。ロックみたいなヘタレでも、マリーみたいな母のストーカーでもない普通の部下が欲しい!!
その事は置いておいても、タイミング的にも丁度良いだろう。
今度こそ、私の転生チートを見せて上げようじゃないか!!
あ、孤児院に住むのは何となく分かったけど、立場はどうなるんだろ? 院長さんになるのかな?
-後書き-
次の話は、それほど間が空かずに更新します。




