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この回は説明回。オチも弄りもありません。
聞いた話をまとめると、コールウィン公国には4つ公爵家があり、大公の跡継ぎとして期待された第1公子が生まれたのと同時期に、各家が一斉に婚約者となれる女児を生んだ事が事の始まりらしい。
最初は各公爵家とも第1公子の婚約者とするべく奔走した結果、4人の公爵令嬢が婚約者候補として、権力争いが始まる事となった。
ここまでは、良くある話と言えばよくある普通の権力抗争だ。
語ってくれたオルフォース公爵の家は、当時は公爵が入れ替わったばかりで、公爵家としては1番格下の扱いだったそうだ。
え? 今もそうだって?
表情を読んで教えてくれるっていうのは便利なのか不便なのか分からない。
とにかく、オルフォース公爵家のお嬢様は、当初は名前だけの候補者だったらしい。
その状況に変化が訪れたのは、ある第1公子のひと言だったそうだ。
『大公の仕事が無くなるように、うちの国も共和国にすれば良いじゃないか』
次期大公として、政務に関わるようになった矢先の出来事だったらしい。
偉い人はパンがなければ、お菓子を食べれば良いと思う病気にでも掛かっているのでしょうか?
語らなくても分かるとおり、共和国になれば民主制。つまり大公はお役御免になる。つまりはそういう事だ。
この発言を聞いて慌てたのが、評議会のメンバーと4人の婚約者候補の親たちだったという訳だ。
そこからはすぐに、評議会から第1公子は次期大公の資格なしと見なされて、臣籍降下をするかしないかで、馬鹿公子の親である現大公との言い争いになっているらしい。
現大公としては、婚約者の家が第1公子を支えてくれる事を期待していると言った結果、水面下で各公爵家同士の押し付け合戦が勃発という訳だ。
コールウィン公国も出た方が良い気がしてきた。
この国もダメっぽい。
「そして現在、我が家のラピスが第1公子殿下の婚約者としての有力候補となっている」
公爵家内で1番格下だからね。見事に押し付けられている状況な訳だ。
確かに説明を聞いて、オルフォース公爵家の立ち位置と私が誤解をしていた事は理解した。
だが、気まぐれ草の話がどこに関わるのか分からない。むしろ、どこにでも使えそうではあるが………。
「ちなみに、国の民はラピスが次期公妃という認識を持っており、各公爵家が第1公子の婚約者から降りたがっている事実は知らない」
話を聞いた上で、色々と今後の事を考え直していると、嬉しそうな公爵の声が聞こえる。
その声と同時に私の血の気も引いていく。
「冬が明けて、さらに1年後には各婚約候補者の公妃殿下による教育の結果報告を受けて、正式に婚約者が選ばれる」
つまりは、気まぐれ草を使った美容薬は、公妃に献上する賄賂という名の逆転狙いの切り札という訳ですね。
そして………。
「私たちと君は一蓮托生という訳だ。そんな君やその家族を危険に合わせるなんて私たちがすると思うかい?」
国家機密という言葉をご存知でしょうか?
私は知らず知らずのうちに、それを知ってしまいました。
さて、そんな人間が国を出ようとすると、どうなるでしょうか?
答えは、『国家単位での口封じ』が待っております!
この事をハッキリと理解させる為に、強欲ピーマンが口封じされて、お嬢様の口から口封じという言葉を聞かされたわけさ!
これに気付いた瞬間に血の気が引くのは当然だろ!!
「第1公子殿下が、そのまま大公になっても、臣籍降下しても、多大な労力を強いられる。下手したら巻き添えという事ですね」
「クロムウェル君は本当に頭が良いね。娘のラピスと同じ年だとは思えないよ」
私が理解した内容を口にして、公爵はそれが正解であると教えてくれる。
そんな公爵を睨みつつ、他の人たちに視線を向けると、マックスさんには視線を逸らされ、お嬢様には申し訳なさそうな顔をされた。
私の背後にいるマリーは、話の内容を理解していない。早く話が終わって母に会いたいとか思っているのだろう。
薬は消耗品だ。だからこそ定期的に気まぐれ草を入手する必要がある。
時間を掛ければ、栽培に成功するかもしれないが、残されている期間が少ない。ゆえに私に危害を加える事は出来ず、お願いするしかないという訳か………。お願いっていうか脅しに非常に近いお願いだけどね。
「いくつか質問を宜しいでしょうか? 閣下」
「私たちは同志だ。遠慮なく聞きたまえ」
いつの間にか同志認定を受けているが、話を聞く限り、協力者でいる限りは最高の待遇を保障してくれているようだ。
実際に、この国に来るまでの間は想像以上のもてなしを受けていた。その事からも、協力すれば私たちの望みは無理がない限り叶えてくれるのだろう。現に成功報酬で滅亡した他国の貴族家の再興を提示してきたので、ほぼ間違いはない。
「婚約者を選ぶ際に、第1公子殿下の意志は関係ありますか?」
「………いや、陛下と公妃殿下と評議会で最終的に決定する。第1公子殿下の意志はそこにはない」
私の質問内容が意外だったのか、公爵は少しだけ遅れて答えてくれる。
「では、もう1つだけ。候補の方の中で第1公子殿下の好みの方はおられますか?」
私がこんな事を聞いている理由はちゃんとある。
「いや、どちらかというと、全員互いに険悪な関係だ。一応、表立った式典や夜会ではそれらしく振舞っているが、貴族間では有名な話だ」
それで、どうして婚約者候補を継続させているかが分からない。本当にこの国は大丈夫か?
いや、他の貴族たちも関わりたくないから、現状維持しか出来ないのだろう。
まあ、そんな事はどうでも良い。この面倒くさい事に巻き込もうとするお貴族様たちに、私の転生チートを見せて上げようじゃないか!
っと、その前に報酬を含めた交渉が先だ。何から何まで相手の思い通りに話を進める必要はない。
現状では巻き込まれる事を回避する策はないし、個人的にも今後の為に気まぐれ草を栽培できる環境を整えられるのは悪くない。
だが、言い方は悪いが、気まぐれ草の価値を考えたら、その事を秘密にする為に人ひとりを、平気で始末出来る権力は心強い。
世の中は、綺麗事だけでは生きていけないのだから。
「お話を受ける前に、こちらからの条件を宜しいでしょうか?」
「当然の話だ。好きに希望を言ってくれ」
私が状況の確認を終えたと判断した公爵が、何でも叶えるぞと言ってくれる。
「まずはオルフォース公爵家以外に、私たちの後ろ盾になれる抵抗勢力を紹介して頂きたい」
この言葉の意味をストレートに取ると、お前らは信じられないから他と組むと言っている。
「我が家と直接取引はせずに、仲介者を挟んで互いに危害を加えぬよう監視させようという事か?」
さすがは公爵。こちらの意図をちゃんと汲み取ってくれる。
「えぇ。それに利益の一点集中は避けた方が良いと思います。それに協力者の選択さえ間違わなければ、より長く秘密を守れます」
気まぐれ草が生み出す利得は分散した方が監視の目から守るものが増え、私たちはいざという時に鞍替えする為の保険となる。
この交渉は、主導権を渡すつもりはないという意思表示と共に、協力者を増やすチャンスと権力拡大も行なうよう提案しているのだ。
私はこの国については公爵より当然知識は少ないが、他の国に関しての知識はある。
オルフォース公爵家が手を組む事が出来て、共に気まぐれ草の価値を重視する相手は一カ国しかない。いや、国というには少し違うのだが………。
公爵も私が提示している相手が誰かは分かっているのだろう。
国の問題に他国………いや宗教を関わらせる事を恐れているのだ。
「何も候補争いに関わらせる必要はございません。ただ聖女の雫をアメジスト教に納めて、私たちの家族と栽培に関する秘密を守る協定を結んで貰うだけで構いません」
残りの交渉は私でしますので。という意味を含ませて、最後の決断は公爵に託す。
公爵の答え次第で、私たちの運命が決まる。
これは私の切り札だ。気まぐれ草は、アメジスト教国という宗教国家で最も大事にされている薬草である。
他国に聖女の雫と名前を付けさせる程に、価値としては高い。それを納める事である程度の庇護を得る事は出来るはずだ。
まあ、女性の美に対する追及より、いろいろと高いかは分からないけどね。
-後書き-
色々と辻褄が合わなくならないように気を配る事が増えてきました。
ここから少しずつ更新ペースが落ちてゆきます。




