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著者が恋愛物とスローライフ物を書きたくなって書き始めた作品です。
今までの作品と明らかに趣向が違います。ご注意下さい。
数ヶ月前までは貴族だった。
子爵という位を賜っているにしては貧乏と言っても差し支えない程に貧しかった。
屋敷は狭く、8LDKだ。
一見すると部屋が多くて良いように思えるだろうが、家族は両親の他に妹だけだが、執務室や客間や来客用の接客部屋を考えれば、必要な部屋の数にギリギリ足りている程度だと分かって貰えるだろうか?
そんな貧乏貴族だった私は、この度めでたく庶民となりました。
裕福な商人よりも貧乏生活をしていた私にとっては、あまり大差がないので、この辺は特に気にしていない。
ちなみに家は没落したのではない。
国自体がなくなったのだ。格好良く言うならば亡国のお貴族様というやつだ。
そうそう、自己紹介が遅れました。
今は無きリヒュルト子爵家が嫡男クロムウェルと申します。以後お見知りおきを。
うん。この挨拶はないな。
この度、庶民になりました。クロムウェルです。
これもないな。
まあ、今後に出会う方々への挨拶は後ほど考えるとして、今は大事な用事を済ませよう。
「お世話になりました。ビリーさん」
「こちらこそ、書類仕事まで手伝って頂いて助かりました」
国がなくなったのは半年前、その事を知ったのは王都が攻め落とされた半年前の1ヵ月後。つまり今から5ヶ月前だが、そんな重大な噂が届くのさえ、1ヶ月掛かるリヒュルト領がどれだけ田舎か分かって貰えるだろうか。
田舎でも侵攻してきた国から降伏勧告の使者がやってきて、私たちはあっさりと降伏した。
家の警備兵でさえ、2名しか雇えない我が家に抵抗する為の戦力などありはしなかった。
まあ、侵略国の使者とお付きの兵も10人と満たなかった為、リヒュルト領の扱いがどの程度か語らなくても問題ないだろう。
そういう事情があり、我が家は戦争に参加しなかったという事で特に家族全員の命が助かる条件で、降伏という話し合いはあっさりと終わった。
領民………元領民にとっても、税金が安くなるので悪い話ではなかった。
私が領主代行として、領民を説得した際も誰も抵抗することなく、穏便に全てが片付いた。
そんなこんなで、諸々の手続きを終えるまで、数ヶ月を要した。
元リヒュルト子爵家は特に国に必要とされる程の能力もなかったので、めでたく亡国の貴族となり、土地を追われる事になりました。
「私としては、我が国に残って頂きたいのですが、私には何の力もなくて申し訳ない」
「いえ、最低限の資産の所持を認めて下さっただけでも、十分にお力になって頂きました」
国が滅亡して半年も経つと、少しずつ噂が入ってくる。
主にどの家が、どのような末路を辿ったのか………。そんな聞いても楽しくない噂で、私財を全て没収された家がどうなったのかを知っている。だから、それに比べれば、この我が家の扱いはとても感謝するものだった。
「私も、あと1ヶ月で別の領へ赴く事になります。おそらく手紙のやりとりも難しい状況になります。ですので、これで本当にお別れです」
侵略国からの代官として派遣されてきたビリーさんは、元リヒュルト子爵領以外にも2つ直轄地を預かる程度にはお忙しい。
そんな忙しい中、我が家の為に骨を折ってくれた。
「はい。ビリーさんもお身体に気をつけて」
出会って2ヶ月ほどしか経っていなかったが、その別れは少し寂しかった。
生まれてからずっとこの元リヒュルト子爵領の外へ出た事はなかったので、これからそこを離れる寂しさだったのかもしれない。
そんな人と住みなれた土地との別れを済ませ、私たちは新しく生活する為の土地を求めて旅立った。
初めての長旅が、国を追われての逃亡生活ではなく、自由を求めての旅であった事は幸いだった。
田舎という事もあって、治安自体は特に問題はない。
魔物などもいるが、街道沿いに進めば、遭遇する事はまずない。
旅の同行人は、母と妹。それに長年リヒュルト子爵家に仕えてくれた侍女のマリーと家の警備をしてくれていたロック。
私を合わせて5人だ。
え? 父はどうしたかって?
父は失踪しました。降伏の使者がお帰りになった翌日に。
まあ、居ても居なくてもここ数年は私が領主代行として領地経営をしていたので、その後の話し合いは問題なかったです。
代官のビリーさん曰く、一家揃って逃亡しているケースも多いようなので、しっかりと引継ぎの用意をして待っていた私たちに驚いたそうです。
そういう事なので、父は自分を逃亡貴族と勘違いして、今もその逃亡生活を満喫していると思う。
母と妹は、何の相談もなく、たった一人で逃亡した父は既に亡くなった者として扱っている。うん、自業自得だね。
そんな状況でも、私たちに付いてきてくれたマリーとロックには、心底感謝している。
「ねぇ、なんでロックは私たちに付いてきてくれたの?」
「………そうだね。ロックからはハッキリと理由を聞いていなかったね」
「お嬢様に、坊ちゃん………」
馬車の御者をしてくれているロックに、妹が旅の景色も飽きた頃、そう話しかけていた。
「リヒュルト子爵家から2年分の給料を先払い頂きましたからね。雇われてた以上はご一緒させて頂きますよ」
「2年分のお給料って退職金じゃないの?」
「そうだよ。ロック。あのお金は長く我が家に仕えてくれた事による退職金だよ」
私は心の底から母に仕えてくれる侍女のマリーとは違う理由で、ロックが一緒に付いて来てくれる理由を知っている。
「ぼっちゃん、分かってて言っているでしょう?」
つい、微笑みがこぼれてしまったのか、ロックが恨めしそうにそう言ってくる。
「お兄様は理由を知っているのですか?」
領地が田舎で、住んでいた領主館の近くにも村はあったが、街はなかったので同年代の子供たちとそう言った話をする経験は乏しい。
まあ、私も友達と呼べるような相手はいなかったけどね………。
村の子供たちはみんな親の手伝いで忙しかったのですよ。決して私がコミュ障だからじゃない!
「………お母様がいる限り、ロックは離れないよ」
「まあ、マリーと同じでロックもお母様が大好きなのね!」
私は嘘を言っていないのに、ロックは私に恨めしそうな視線を向ける。
妹の大好きの意味は、尊敬していると同じ意味だ。ロックも母を尊敬しているのだから、間違っていないだろうに。
私は口の動きだけで「本当の事を言っても良いの?」とロックに投げかけると、諦めたように馬車の御者の仕事に集中する事にしたようだ。
「今日は暖かいですわね。お兄様」
ロックが会話の相手をしてくれない事が分かったのか、妹は私を話し相手に切り替えたようだ。
話題選びも会話をするうえで、大事な事なんだよ。そう、心の中で妹へ向かって告げて、妹の話し相手をする事にした。
「もう収穫の時期だから、少しずつ寒くなっていくよ。旅の途中で寒くなってきたらお母様の馬車の方に乗るんだよ」
この旅は2台の馬車で旅をしている。1台は貴族時代から使っていた移動用の馬車で、そっちには母が乗って侍女のマリーが御者を勤めている。
もう少し寒くなってきたら、御者は私が変わるつもりだ。これでも貧乏貴族の端くれだ。大抵の事は自分自身で出来る。
私たちが今乗っている馬車は、買い出しに使っていた荷台に幌を張った幌馬車だ。主に旅に必要な物を積んである。
母が乗っている馬車と違って正面の景色が良く見える為、妹はこっちの幌馬車の方がお気に入りのようだった。
「はい。お兄様。それで私たちが向かっている国ってどんなところなんですか?」
この旅自体に、しっかりとした目的地はある。
貴族として生活出来なくなった直後に、今後どうするかをすぐに考えて母と共に決めた。
「国の名前は前も教えたけど、コールウィン公国。王様みたいな大公と呼ばれる人と評議会と呼ばれる貴族で構成された組織。この2つの大きな権力を持っている人たちが治めてる国だね」
妹に立憲君主制だよって言っても理解出来ないので、噛み砕いて説明する。
そうそう、説明は妹だけじゃなくって、他の人にもしないとダメだね。
私は滅亡した国の貴族をしていた転生者クロムウェルです。
夢や憧れはスローライフ! 現在はその夢と憧れの生活を今一度叶える為に、これから頑張ります!
「えっと、評議会という人たちは大公さんより偉いの?」
説明って難しいよね。
「大公は、コールウィン公国の王様の事で、王様と同じように陛下と呼ぶんだよ」
一度に複数を教えようとしたのがいけなかったのだろうと考えて、すぐに説明方法を変える。
これも転生前の経験によるものだ。この説明に妹も納得したように頷いている。
「評議会は貴族の中でも偉い人たちが集まってるから、その集まっているみんなが協力すれば、大公と同じくらいの力があるんだよ」
「同じくらいなんだね。うちの国も同じようにしておけば、国がなくならなくても良かったのにね」
「あ、そうだね。うん」
妹は天然なところがあるせいか、少し返答に困る事を言う事がある。
ただ、しっかりと教えれば、そこは理解してくれる。現に前に国が滅んだ理由を説明したら、ちゃんと理解はしてくれているようだ。
ただ、言葉以上の理解は難しいだけで、お馬鹿ではないはず………………だよね?
-後書き-
この物語は恋愛とスローライフに重点を置いた物語です。
婚約破棄ものではございません。ご注意下さい。
そして、ここに著者の新たな黒歴史が始まる!ヽ(•̀ω•́ )ゝ✧