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白い世界の女神



まどろみの中で、俺は目を覚ました。

「あれっ?ここ何処だ?」


辺りを見回すと、体育でも、自宅でも保健室でもなかった。


かなり広い空間のようだ。

壁や地面は真っ白で他には何もなかった。


見たところによると、日差しも電球も無いのに明るい。

なぜだろう。


「はぁー」

と、俺は大きい溜息をつく。


「やっちまった、もう二度と顔を合わせられないや……」


将来への不安が募る。進路についての事も心配だ。

受験を無事に乗り越えられるかもわからない。


あの悪夢のような生徒会演説のせいで、もう自分には高校に行く気力がない。と、いう事は必然的に就職も進学も不利になってくる。


《これから、俺はどうなる?》


そんな考えを巡らせた。

ニートか、フリーターか。

はたまた、どこか都会の路地裏で野垂れ死んでいるかもしれない。


「それにしても、ここ何処なんだろう?不思議だ。考えてみれば不思議だ」

俺は頭をかきむしりながら、そう呟いてみた。


だが、答えが見つかる事はなかった。

その疑問はだんだん焦りに代わっていた。


「いや、ホントにまずいぞ。この状況!」


見渡す限り、真っ白く何もない世界。

この状況は絶対におかしい。

だが、考えても仕方がなかった。


明らかに異常な事が起きているにも関わらず、俺は比較的冷静だった。


先ほどの悪夢のような演説に比べれば、他にどんな事が起きようとも別に大したことではないのである。


ふと、目を閉じてみた……なにも聞こえない。

静寂である。


そしてまた、人生に対する不安がこみあげてきた。

「どぉおおおしよぉおお、これからぁあああ」


その声が、この空間に児玉した。

それからしばらくたっても一向に変化が見られない。


また叫んでみようか、とも考えたが虚しくなるだけだと思いやる事にした。

と、その時だった。


「……目を覚まされたのですね。西園寺スバル」


ふと後ろから声を掛けられた。俺はギョッとして振り向く。

立っていたのは女性だった。透き通るような金色の髪の毛を肩まで伸ばしている。


顔立ちは整っていて色白で、目の奥からは女神のような優しさがうかがい知れた。


再び驚いた。いや、その美貌にだ。

おそらく俺が人生の中で見てきたどんな女性よりも、である。


「あ……はい」


俺は混乱のために、そっけない返事しかできずにいた。

だが、まだ疑問点がいくつも残っていたので、この美しい女性にいろいろ話を聞くことにしたのである。


「あの、ここは一体どこなんですか」

「案内所です」

女性は即座に答えた。


「はあ、何の」

「人生の……」

しばらく沈黙があった。


《いや、俺が聞きたいのはそういうことじゃないよ》


そう心の中で叫び声を発して、質問を変えた。

「ここは日本なのですか?」


「いいえ、日本ではありません」

「海外、という事ですか?」

「いえ、ここは死んだ人間が来世をどのように生きるか決める案内所です」


ギョッとした。

しばらく、その言葉を飲み込めずにいたが、

「俺は、死んだんですか?」

とテンプレのような質問を投げかけた。


「ええ。貴方は生徒たちに押しつぶされて、窒息死しました」


《いやいや、だって噓でしょぉよ》


「でも、こうして貴女とお話ができますよね」

「あなたも幽霊。私も幽霊って事です。そして私はこの世界の案内人です」

「はあ……」


俺はそれからしばらく、この女性と話し合いを続けていた。

数分この世界の事を聞いていたがどうやら、自分は本当に死んだらしい。




「そうですね。転生いたしますか?」

「……転生?」




「はい。一応あなたは前世で特に悪い事はしていないようですし、天国か転生か選ぶことができますよ」


「じゃあ……そうだな転生、にしようかな」

「かしこまりました」


女性はそういってから、しばらく動かずにいた。

「ん?どうしたんですか?」

「少々お待ちください」


そういわれてしまったので俺はしばらく待つことにした。

「あなた……前世では悪いことはしていないみたいですが、良いこともしていないようなので、人に生まれ変わるのは難しそうですね」

彼女は表情一つ変えずにそういったので、俺はいささか驚いた。


「ええっ。ていう事は動物か昆虫になるんですか」

「嫌ですか?」

「嫌です!!絶対人が良いです」


「そうですか。分かりました……そうなりますと、転生ではなくテレポートになりますね」

「テレポート?」


「肉体は西園寺スバルのままです。年齢も16歳、身長170センチ体重57キロ……このまま異世界に飛ばす事になりますが、そうなりますとですね。両親もいないうえに魔法も使えず、着の身着のまま飛ばされる訳ですから、死にますね」


「…………えっ」

「でも、人間が良いのでしょう?」

「はあ」


「当然、昔あなたがいた日本のような治安のいい場所とは限りませんからね。魔物がゴロゴロいるような場所になるのかもしれないです」


「えーっ。困りますね」

「じゃあ、天国に行きます?地獄っていう手もありますね」

「うーん。転生先の異世界で死んだら、またここへ戻ってこれますか?」

「もちろん戻ってきますよ。異世界の行いによっては地獄へも行く場合もあるし、その行いがよければ天国でも優遇が受けられますね」


 俺はしばらく考えた。

 考えて、異世界での生活を見物してからでもいいかな、と思い声を発する。


「ああ、じゃあお願いします」


「いいんですか?必ずしも安全な場所とは限りませんよ。はやりの異世界転生モノとは違って私はあなたに何も能力を与えていないのですからね。あっ一応言語は分かるようにしておきましょう。せめてもの慈悲です」


「ありがとうございます。それと前世では派手に恥をかきましたからね。自分への活だと思って異世界でも見物します。多分すぐ死ぬと思うんで天国に行けるようがんばります」


「そうですか。ではごきげんよう!」


そういってこの目の前の女神のような女性がバイバイと手を振ると俺の視界は暗くなった。



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