knife
手に握られた果物ナイフの刃先に、まるで絵の具のような鮮やかな赤が見える。
頭上にある街頭からの光を刃の表面が反射し、眩しくて目を細めてしまう。
目の前には息絶えた人間が一つ転がっていて、その体から錆びた鉄の臭いが周囲に漂い、またそれが鼻をついて噎せ返りそうになる。
でも、満足してるんだ。
初めこそ、此奴の話し方が気に入らないと思っただけだった。いつしか行動や姿を目にする度に無意識にストレスを溜め続け、殺意が湧くまでに至った。
だから今の気分は最高。もう、あの苛立つ話し方を聞く事も、へらへらしてだらしのない笑い顔を見る事も無いと思うと嬉しくて嬉しくて堪らない。
此奴を殺した理由はそれだけじゃない。
自分が、これ以上の生きる意味を失くしたんだ。
死ぬつもりなら、殺さなくちゃ気が済まない。そう思ったから行動に出た。
後悔?有る訳もない。
此奴は天国、僕は地獄へ堕ちる。それで構わない。
こ ん な 人 間 を 見 な く て 済 む な ら 。
居心地の悪い世界とは、一刻も早く別れてしまおう。