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中編

 





 旅に出て暫く。

 勇者たちは旅の途中でたくさんの魔物を倒していきました。

 ある時は襲ってきた魔物を。

 ある時は畑を荒らしていた魔物を。

 ある時は人を襲っていた魔物を。

 魔族と戦ったのはまだ数えるほどしかありません。

 しかしどの魔族もとっても強く、魔物を倒すほど簡単にはいかなかったので、勇者はできるだけ魔族とは戦いたくないなぁと思っていました。

 戦い方を覚えていくら強くなったと言っても、勇者だって痛いのは嫌だったのです。

 そうして魔物とたまに魔族を蹴散らしながら旅を進めていたある日、勇者はとある魔族と出会いました。

 捨てられていた人間の子どもを育てている魔族です。

 今まで戦って倒してきた魔族は人間を虫の如く殺したり奴隷にしたりと酷い奴らで、倒して当然なものたちでした。

 ですがこの魔族はどうでしょう。

 家族を失った人間の子どもを我が子のように慈しみ愛おしむその姿を、勇者は悪しきものだと思うことができませんでした。

 ですが、勇者の仲間たちはその魔族を倒すべきだと口々に言いました。

 あの可憐な侍女でさえも、怖い顔をして言うのです。

 魔族は悪いものだから、倒すべきなのだと。

 勇者は悩みました。

 悩んで、苦しんで、そうしてその魔族を……


「あいつは倒したよ」


 勇者は仲間たちに泣きながらそう伝えました。

 その言葉に、仲間たちは満足したように勇者を誉め讃えました。

 その土地を離れる際に、勇者は誰も気付かないような小声で呟きました。


「どうか、幸せに」


 倒したと見せかけて遠くへと逃がした魔族と人間の子どもに幸福が訪れるようにと、勇者は祈ることしかできませんでした。




 そして、この魔族との出会いが違和感の始まりでした。

 いえ、元々違和感は少しだけ抱いていたのです。

 それをはっきりと自覚したのはこの時からでした。


 お城にいる頃に王子様やお姫様お城の人たちから魔物、魔族、魔王はそれはそれは悪いものだと教えられていました。

 確かに魔物は人を襲い田畑を荒し人間にとって害のあるものだと思います。

 しかし魔族はどうでしょう。

 人を殺したり奴隷にしたりと倒してきた奴らのような極悪非道な魔族もいましたが、全てが全て、魔族が必ずしもそうだとは限りませんでした。

 あれから旅の途中で何度も色々な魔族たちに出会うことがありました。

 極悪非道な魔族とは違うもの。

 それは極自然に人間に紛れている魔族たちでした。

 勇者は勇者だからなのかすぐに気付きましたが、仲間たちが魔族だと気付かないほど見た目も馴染んでいる魔族もいました。

 そういった魔族たちの方が出会った数で言えば多く、そして魔王へと近付けば近付くほど多くなりました。

 魔族を受け入れる人間たちの姿もよく見るようになり、魔族と人間、その差など感じないほど仲睦まじいものたちもたくさんいました。

 友人として、恋人として、あるいは家族として。

 その在り方は人間とさしてかわりないものでした。

 とても親切で優しかった王子様やお姫様、お城の人たちはどうしてあんなにも罵りながら魔族が害悪だと言っていたのだろう。

 いつしかそんな疑問が浮かぶようになりました。

 その頃には違和感もとても大きなものになっていました。

 変だな、と勇者が思ったのは魔族のことだけではありません。

 仲間たちも、なんだか変だったのです。


 お城にいる頃からなにかと勇者を気にかけてくれていた仲間たちは、旅に出てからよりいっそう勇者に構うようになりました。

 朝のおはようから始まり夜のおやすみまで、ほとんど誰かが勇者の側にいます。

 そして、勇者を誉めそやしたり、甘やかすようなことを言うのです。

 最近では肩や腰を抱こうとするなど前々から多いなと思っていたスキンシップが派手なものになってきていました。

 いくら親しくなったとはいえ、あまりにも馴れ馴れしすぎる行動に勇者はうんざりとしていました。

 毎日毎日、そうされる前に素早く逃れる日々を過ごすうちに、勇者はもしやと思うのでした。

 これは自分を口説いてオとそうとしているのではないかと。

 一人ぐらいならこの顔も体も平々凡々な勇者に恋をする物好きがいたとしてもそうおかしくはありませんが、容姿も地位も上等な男たちが揃いも揃って平々凡々な小娘の機嫌をとっているのは、裏がありますと言っているようなものです。

 それに、どうにも仲間たちには魔王を倒すぞという意気込みよりも、勇者を籠絡するぞといったような意思の方が強いように感じました。

 なんなら侍女さえも勇者にしなを作るのです。

 もしや、侍女はイケメンがダメだった時の保険だったのでしょうか。


 旅が進むほど露骨になってきたそれと聞かされていた魔族と実際に見知った魔族とのギャップに、とある国の人々が言っていた言葉を鵜呑みにしていた勇者も色々と疑うようになったのです。


 とある国は、自分を取り込んで使い勝手の良い手駒に加えたいのかもしれない。

 すでに魔王を倒すための手駒ではあるけれど魔王を倒した後もとある国に繋ぎ止めて操るための餌としてイケメンの王子や騎士、魔術師や神官に秋波を送るように命令でもしたんだな。


 と、そう思い至った勇者はすっかり魔王退治にたいする意欲を無くしました。

 悪くもない魔族を悪だと罵ったりもはや鬱陶しいほどの甘い言葉と多量の触れ合いを押し付けてくる仲間たちに、勇者は辟易としてとても逃げ出したい気分で日々をすごさなくてはなりません。


 しかし、勇者は旅を止めませんでした。


 この異世界で勇者という肩書きが無くなれば、勇者はちょっとばかし腕のたつただの小娘にすぎません。

 衣食住をとある国に頼っている今、勇者を止めるということはそのどれもを手放すことになってしまいます。

 勇者にとって、それはかなり惜しいものなのです。

 そう考える程度には勇者は打算的でした。

 それにとある国が勇者を止めることを許すはずがありません。

 旅を放って逃げ出したとしても、たくさんの追手を使って勇者を捕まえることでしょう。

 仕方がないので、勇者は魔王のところまでは大人しく勇者として過ごすことに決めました。


 何となくですがこの調子だと魔王もとある国の人々が言うような倒すべき悪ではないような気がしてきていた勇者は、諸々のことは魔王に会ってから考えようと当面現実から目をそらすことにしたのでした。






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