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8時

なんとか新しい街にたどり着いて、有り金全部はたいてこの街に住む権利と生活に必要な物資を買って、一日目。仕事を求めて職業案内所へ行く途中のことだった。


ぱたりと足を止めれば見れば目に止まる、街の中でも浮いた格好の集団。いや、目に止まったから足を止めたのか、それはどうでもいい。その中には先日見かけた三人もその中にいた。こちらにはまだ気がついていない。


「あれが気になるかい。兄ちゃん」


フードを被って立ち去ろうとしたら、噂好きそうな市場のオバさんに捕まった。これからこの街に住むのだから無下に扱うような事はせず、普通の対応をする。


「今までちと旅してましたがね。あんな格好の連中は見た事も聞いた事もない。ありゃ一体何です?」


顔つき、体つきからして騎士団ではないだろうし。格好さえ除けばそこらの市民と見分けがつかない。しかし、それが纏まって行動するのは不思議だ。


「アタシもくわしくは知らないんだけどね。なんでも、勇者だと呼ばれてるのを見たって噂が流れてるんだよ」


勇者とは何だ。英雄の親戚だろうか。英雄と言っても二種類あるが、人同士の戦争で大きな戦果を挙げた者、五つの魔と戦った者。魔は討伐されたきり今まで蘇ることはなかったし、これからも蘇る事はないだろう。

とすれば、戦争で戦果を挙げた者達の事を言うのだろうが。最近戦争なんて起きちゃいないしな。


「近々戦争でも?」


勇者が英雄の元ならそれがあり得る。勘弁してほしいが。


「そんな気配はないけどねぇ。隣の国とも仲良くやってるそうだし」

「謎ですな」

「そうだねぇ。ところで、果物買わない?」

「越したばかりで持ち銭が少なくてね。また今度買わせてもらうよ」

「また今度かい。絶対買っておくれよ」


上手くおばさんをあしらって、職業斡旋所に足を向ける。とりあえず、越して来たからには何が手に職をつけなければなるまい。生活するには金がいる。盗む以外では借りるか働くかでしか手に入らない。





「……が居たんだと」

「マジか。俺たちにも、一獲千金でようやく日が当たるようになるんじゃねえの?」


職業斡旋所には、さっきの異色の集団と同じ格好の人間が何人か居て。入ってすぐに注意を向けていると、少し気になる話が聞こえてきた。

職業斡旋所に居るような奴が一獲千金、嫌な予感がするな。俺関連か。いや、しかしこの街じゃまだ一度も魔法は使ってない。


「しかしこんなでかい街に居るなんて、誰が思うよ」

「灯台下暗し。近すぎたら案外気付かないもんだな。やるなら逃げられる前に。今夜にでも襲うか」

「俺たちだけで行けるか?」

「どんなに喧嘩に強くても、不意打ちでナイフ刺せば簡単に倒せる。魔法は怖いが使わせなきゃいいんだよ」


話は一段落したようなので、声をかけてみる事にする。俺に関係する事かどうかは、反応を見ればわかるはずだ。


「よう、ご同輩。二人で秘密話をして、いい仕事でも見つかったか?」

「あ? てめえにゃ関係ねえ。どっか行けよオッサン」


オッサンとは……酷いな。正しい年は憶えてないが、まだ20年前後しか生きてないし。見た目の年もそれほど変わらないだろうに。


「そうだ。ぶっ飛ばされねえ内に消えな」

「へいへい……」


少々腹が立ったが、言われた通りに離れていく。あの反応からして、俺には関係ない話らしい。では、普通のお仕事を探そうか。

壁に貼ってある仕事を見て自分に出来そうなものを探してみる。

草むしりとか、皿洗いとか、そこら辺の雑用が主に貼られている。たまに薬草の採取依頼だとか、やけに高額な報酬で、しかも全額前払いとか。そんなのも貼られてるが、パス。どうせ碌なことにならない。

と言うわけで、選んだのはとある家の草むしり。安全だし、肌を晒さずに済む。


紙を取り、受付に持って行く。


「こんにちは」

「はいこんにちは。仕事の案内ですね。紙を渡してください」


ハキハキと喋る、触りのいい受付の女性の前に座って、紙を渡すと、彼女はハンコを持ち出して書類に押した。それから、俺の顔を見た。一瞬だけ目が合い、その後すぐに興味なさそうに俺の手元の書類に目を落とす。


「手を出してもらえますか?」

「はい?」

「手袋を脱いで、手を出してください。書類と手にハンコを押して、依頼人に依頼を受けた人の確認をしてもらうので」


なんだ、そういうことか。そういう事なら仕方ない。言われた通りグローブを脱ぎ、手を台の上に乗せる。手首から僅かに黒い刻印が覗く。


「あら、刻印。魔法使いの家系の出身だったんですか。それならもっといい仕事がありますよ」

「いやいや、これでいいんです」

「どうしてです?」

「実は、訳あって家を追い出された身でね。生かしておいてやるから、魔法は使うなと厳命されてまして。別の街でも、万が一親に知られたらどうなるやら。だから魔法は使いたくないんです」

「それなら仕方ないですね」


そう言って、ハンコを手のひらに押される。黒い炭が文字の形になって手のひらに着き、それは書類と同じ文字。


「ところで場所はわかりますか?」

「いえ。できれば案内をして貰いたいですね。お姉さんみたいな美人に連れていかれるなら、面接も気分良く受けられそうだなと思うんですが、どうです?」

「案内料金は高くつきますよ。金貨一枚」

「払ってもいいと思う。あなたはその位に美しいが、残念ながら手持ちがない。ツケじゃダメですかね」

「また今度。お金を持って出直してきてくださいね。はい案内用の地図どうぞ」

「はは、残念」


手を振って受付から離れ、怪しい二人組の横を通り抜けて建物から出て行く。本日もナンパは失敗。伴侶を得るにはまだまだ遠い。しかし、この血を残せるのは一体いつになるやら。厄介な刻印と、血と、魔法でも先祖代々受け継がれて来たものだ。俺一代で終わらせるのは、先祖に悪い。


そのためにも、なんとかして定職につかねば。

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