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六時

なんとなく、ほっとくに罪悪感を感じたので、書いて更新。

 新品の鉈を腰にぶら下げて、盗んだ馬にまたがり道を往く。前の街とはもうおさらばした。前の前の街と同じ失敗をしたわけではない。一度した失敗を、間を置かずに二度も起こすものか。それほどに間抜けならとっくの昔に俺は死んでる。

 逃げ出す羽目になった原因は、昨日の昼間に魔物から助けてやった二人の内、仲間を見捨てて逃げ出した小娘にある。周りには誰も居ないと思って一人を治療してやったのだが、あのクソアマはその様子を遠くから見ていたのだ。

 そして、夜になってから時魔法使いが居るという情報を流した。全く最悪だ。おかげで小銭を求めて迷宮に潜る荒くれ者共にも追いかけられるし。本当に、最悪だ。


「賞金はもらった!」


 馬に乗ったまま横から突き出される槍を左手で止め、その止まった武器を握って転ぶアホが一人。群がる糞共を一掃するのは簡単だが、それをするにはまず一度馬から降りなければ、馬まで魔法に巻き込まれて老衰で死んでしまう。


「チッ、仕方ない」


 右手で馬に触れ、馬の時間を徐々に、ゆるやかに加速させていく。それにともなって速度が上がり、その内に振りきれるかと思ったら、今度は俺じゃなく馬に矢が突き刺さった。自然痛み員暴れだし、加速した馬の暴れ具合を止めることはできず、手足を離して地面に降りる。というよりは、落ちるが正しい。制御を失った馬は乗り手の俺を置いて遠くへと走り去っていき、見返りもしない。

 そして落馬した俺を囲むように、金に飢えた冒険者達が集まってくる。その内の誰もが手に武器を持ち、徐々に輪を狭めて寄ってくる。

 話し合いはするだけ無駄だろう。クソ法皇様のおかげで、今はこんな状況に陥っている。全くいくら感謝してもし足りない。


「卑小な者よ。時に身を任せよ」


 二小節。ほんの僅かにだけ、魔法の効果範囲が広がる。具体的に言うと、自分を中心に腕二本分ほどの円形の範囲。それよりも内側にある物は、生きている物も生きていない物も自分自身を除き全てが一瞬で命が老い果て、風が吹けば倒れる枯れ木となる。

 当然、その中には人間も含まれる。俺に向けて剣を振り下ろそうとした男たちは皆見る影もない老人となり、振り下ろされる刃には元の輝が消え失せ、錆だらけの鉄の棒になってゆっくりと振り下ろされるのみとなる。避けるまでもない。あたったとしても、傷を受けるほどの鋭さも勢いも失われている。

 

「おい……まじかよ……」

「こんなにヤバイなんて聞いてねえ!」


 自分よりも遥かに強い、束になっても敵わない。そう思わせれば簡単に狩人の群れは四散する。相手の手の内を知らず、自分よりも下のただの獲物としてしか認識せずに襲いかかる。愚か、としか言いようがない。とはいえ時魔法使いの大粛清が起きたのは何年も前のこと。時魔法の使い手はあらかた狩り尽くされて、今は誰かに知られることを恐れてひっそりと暮らしてる。どんな魔法を使うか知らない奴が増えたのも仕方ないことか。


 そして、最後に残ったのが一人だけ。よほど腕に自信ありと見える。相手を注意深く睨みつつ、ゆっくりと。ジリジリと引き下がってゆく。見たところは剣士だが、もし相手が刻印魔法の使い手なら魔法が全くの予備動作なしで飛んでくる。

 引けば追ってきて、進めば下がる。しかしながら、僅かずつ相手との距離が縮まってくる。緊張が高まる。魔法を使いたくなるが、我慢だ。おそらく相手は魔法の有効距離と発動速度を図っているに違いない。


「俺の首がほしいか荒くれ」

「応とも! いい金になるしな! 迷宮に潜るより手っ取り早い!」

「盗賊でも狩るか、男娼にでもなった方が手っ取り早いし簡単だぞ」


 買ったばかりの鉈を右手で抜き、左手の指に紐付き投げナイフを挟む。相手がやる気なら、こっちもそれなりの対応をする……フリする。元、という一字が頭につくとはいえ葡萄酒農家の息子が、戦いが好きだったり、得意だったりするわけがない。できれば上手いこと逃げ去りたい。


「お、さっきの魔法は使わないのか」

「純血じゃあるまいし。あんな大魔法ホイホイ使えるか」


 純血の貴族と混血の平民とでは、一つの魔法に使用する魔力量に大きく差が出る。全ての人間は器の大きさは等しく、そこに入る水の量に差はない。差があるのは効率の問題。血が濃ければ濃いほど、その血に合った魔法を使う際に必要になる魔力量が減る。血に合わない魔法を使えば、それだけ効率が悪くなる。平民はほとんどの属性が入り混じっているので、大規模なものでなければ全属性使える。だが、純血の貴族は血が濃すぎるだけに、他の魔法を使うにはあまりに効率が悪い。その分、強力な魔法を使えるのだが。

 ただし、時魔法は各種属性の中でも消費が激しい。だから血がある程度濃くないと発動すらできない。その代わり、消費に見合って効果は激烈かつ凶悪極まる。


 そんな大技を一発見せつけたらビビって逃げるだろうと思っていたのに、とんだ予想外だ。


「……嘘だな?」

「だと思うか?」

「アホ。自分から手札を晒す奴が居るか」


 アホにアホと言われるのは心外だが、言っていることは全くもってその通り。そりゃ勿論魔法を一階使っただけで終わるわけない。アホに見えて、あんな嘘に引っかかるほどアホじゃなかった。度胸もあって、馬鹿ではない。敵に回すと厄介な相手だ。逃げるか、戦うか。よし、逃げよう。加速して、一歩踏み込む。反応して相手が一歩下がったのを見て、土を蹴りあげる。加速した肉体で蹴り上げられた土は大きく舞い上がる。


「永遠にその姿のままで」


 一小節。蹴り上げられた土の時間が止まり、彼我を分かち、視界を遮る壁となる。これで魔力はほとんどなし。あとは自分に加速をかけて、魔力は完全にゼロ。全力で走る。手の内の分からない敵の相手などしてられない。

 次の街では、ヘマを踏まないようにしたい。

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