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第一話

 1000年の昔、神がこの世を作った時。神は五体の強大な魔龍を世界に遣わした。火の魔、水の魔、風の魔、土の魔、そして最後に時の魔が居た。それぞれは人々に課せられた最初の試練であった。過去の人々は多くの犠牲を払いながら、五人の英雄を生み出し、その英雄が龍を倒したとされる。そして英雄は魔法を手に入れ、世界に広め、その血を濃く受け継ぐものが貴族となった。


 というのは、小さいころ親から寝る前によく聞かされた話。覚えている限りでは昔の神話らしいが、世に知られている今の神話とは少し違う。今の神話は五人の英雄が力を合わせて四体の魔を倒したところで、内の一人が裏切って魔の側について、残りの四人を一度は追い詰めて殺された。そして怪我を負った四人の英雄が、最後の一つの魔に挑み、殺された。そういうお話になっている。

 どっちが正しいのかというと、どちらも正しい。昔の神話は昔の教皇が読み上げたもので、今の神話は今の教皇が読み上げたもの。他所の国でいうところの国王の政治方針のようなものだ。それだけなら大多数の市民にはあまり関係のない話。

 ところがそれだけで終わらないのがこの話の面倒くさいところで、今の俺の状況にかなり深く関係している。


「時魔法使いは見つかったか?」

「いや、こっちには居なかった」

「もっとよく探せ! あいつを捕まえたら金貨五枚の報酬なんだぞ!」


 屋根の下には俺を血走った目で探す人々が。全く面倒くさいことに今代のクソッタレの教皇は何があったのか、ある日いきなり時魔法使いの貴族を捕まえて、土地財産を全て没収した上で処刑した。おまけにそれだけじゃ済まず、大貴族とは家系図にも書かれないくらい遠い親戚で、もはや平民とほぼ変わらない程度の血の濃さの我が家にはそんなのは関係ないだろうと思っていたら、今度は市井の時魔法使いにも賞金をかけて狩り始めた。

 おかげで毎日葡萄酒を作って熟成させたものを売り、慎ましく暮らしていた我が家も崩壊。祖父母も両親も家に雪崩れ込んできたお客様に殺され。俺は命からがら幼い妹と逃げ出すも、その妹はちょっと目を離した隙に魔物に攫われて美味しいご飯にされて。

 それから一人身分を隠して放浪の旅を続けて幾年か。久しく誰かに時魔法を使っているところを見られていなかったからと油断して、宿の一室で食料に遅延魔法をかけて保存を良くしていたところを見られてこの有り様。油断した自分も悪いが、全くひどい話だ。


「この街はもうダメか」


 フードを被って旅に使う革袋の中からつけ髭を取り出し、唾で濡らして唇の上に貼り付ける。簡単な変装道具だが、暗い夜道だ。ちょいと見たくらいじゃわかりゃしない。ひょいと屋根の上から人の少ないところへ飛び降りて、地面に降りる。

 それから息を大きく吸って、声を張り上げる。


「こっちだ、居たぞー! 時魔法使いだー!」


 自分から大きく声を出すと、人が牧羊犬に追い立てられる羊のように人が固まって押し寄せてくる。ほとんどの人が松明を持っているから、ここに油でもかければ火事になって、騒ぎに紛れて簡単に逃げられそうだが。あまり殺生は好きでもないのでできるだけ穏便な手段を取る。


「どっちだ!」

「あっちだ! あっちの方へ走っていった!」

「そうか! ありがとよ!!」

「賞金はいただきだ!」

「いや俺のもんだ!」


 そう言って人々は我先にと指さした方向へと、イノシシのように突っ込んでいく。人ってのは実に単純だ。その間に自分は一人で宿の馬小屋へと入って誰のものとも知らない馬を見繕い、適当に健康そうで大人しそうな馬を選び手早く馬具を付けて、柵を開く。

 急がないと連中が戻ってきてしまう。さっさと鞍に跨がり、馬の首を撫でる。


「よしよし、街を出るまでいいから。言うことを聞いておくれ」

「ブルルルル……」


 外の騒ぎに少し怯えているようだが、関係ない。腹を両足で挟みこむように蹴り、無理やり走らせて馬小屋から出て行く。この騒ぎが大きくならない内に街の外へ出なければ、騒ぎを聞きつけて街の警備にあたる騎士かやってくる可能性もあるから移動は素早く。

 この糞田舎の警備に回される騎士でも。いや、こんな糞田舎の警備をする騎士だからこそ、普段から人里の周囲を徘徊する魔物や亜人種と戦って、下手な都市の騎士より鍛えられている場合がある。そうであっても、そうでなくても、市民よりはずっと装備が充実している。そんな危ない奴と戦うのはあくまで最後の手段。

 その鉄則を守って今まで生きてきたのだから、これからもそれは守らなければ。


 

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