表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

兵士の終わり

作者: ken

 僕は姫様が好きだ。美しく気高い姫様が大好きだ。

 その気持ちは初めて姫様を見た時からずっと変わらない。

 だから僕は兵士に志願した。

 ありふれた一般人である僕が姫様に近づける方法はこれくらいだったから。

 目指す先は姫様の近衛兵。そうすればお側にいられる。同じ空間にいられるのだ。


 兵士志願から数年がたった。僕は全く昇進出来ずにいた。

 理想を描く前に自分をしっかりと見ろ。そう言われた事は何度あったか。

 僕は生まれつき体が弱く、筋肉も少ない。剣に振り回される事だってよくある。

 それを見た周りの奴等は皆が口をそろえて兵士を止めろと言ってくる。

 嫌味ならばどれだけ楽だったか。ハッキリ断れずに僕は毎日が辛かった。

 本当に辞めてしまおうか、と何度も思った。

 でもその度に姫様の顔が浮かぶ。

 もし兵士を辞めれば城にはいられない。そうすれば姫様を偶然見かけると言った事も無くなるのだ。

 それは絶対に嫌だった。

 だから努力を重ねた。挫けそうな時は大好きなあの人の顔を思い浮かべて耐えぬいた。


 結果。僕は剣をまともに扱えるようになった。

 上司からは昇進も近いと言われた。

 まだまだ道のりは遠い。でも、きっと何時か側に……。


 内戦が起こった。

 反乱軍の数は大きい。しかし、普段の兵力なら問題無く制圧出来た。

 そう普段の兵力なら……。

 西の隣接国が攻めてくると偽情報を掴まされ、兵士がそちらに流れていたのだ。

 城に残っていた兵士達は必死に戦った。

 苦楽を共にした仲間が死んでも、歯を食い縛って涙を流して必死に戦った。

 そんな奮闘も虚しく、反乱軍によって城下町は占拠された上に城内にまで踏み込まれてしまった。

 混乱する城内を僕は走った。大好きな姫様の元へ。あの人にだけは死んで欲しくないから。

 頭に入っている城の地図を引っ張り出し、位の低い僕が入っては行けない場所を進む。

 道中。幾つも死体が転がっていた。僕は知っている。この人達は姫様の近衛兵だ。

 姫様、どうかご無事で……。

 必死に願って叫びながら、姫様が普段いる場所を探した。

 幾つかの場所を巡り、姫様を見つけたのは彼女の寝室だった。

 彼女は反乱軍らしき男達に囲まれており、下着姿で縛られていた。

 まだ、何もされていない。ただ縛られただけだ。

 でも彼女の涙を見た僕は怒りで頭がおかしくなった。

 雄叫びを上げて飛び掛かり、姫様の為に鍛え上げた剣を存分に振るう。

 首を撥ね、心臓を貫き、頭を叩き割る。

 血塗れになりながらも必死に戦い、僕は勝った。

 代償は左腕一本。好きな人の純潔を守る代償としては軽いだろうか。

 貧血で目眩がする。今にも倒れそうだ。だが、まだやる事は残っている。

 ふらつきながらも姫様に近づき、縄を切り解く。

 その時に気付いた。

 姫様が僕を見ている。高嶺の花である姫様が、ちっぽけな存在である僕を。

 それは名前も知らない兵士に向けたもの、不特定多数の兵士の一人へと向けたものだ。

 でも、見つめ合えた。それだけでどうしようも無い程に幸せだった。


 …………もう十分かな。


 必死に繋ぎ止めていた意識を僕は手放した。視界が闇に染まっていく。

 悔いは無い。大好きな人を守って死ねるのだから。

 充実した人生だった。




















「起きなさい!」


 鈴を転がしたような声と同時、僕の頬が叩かれた。

 目を見開くと姫様がすぐ側にいた。


「貴方は今日から私専属の騎士です!」


 訳が分からない。でも、姫様が声を掛けて下さっている。

 僕は手を付いて飛び起きようとした。だが、左に勢い良く転んでしまった。

 そうなるのも当たり前だ。だってもう左腕は無いのだから。


「落ち着きなさい。もう反乱軍は西に向かっていた兵士達が帰ってきて討伐されました」


 辺りを見てみる。

 僕は清潔感のあるベッドに眠らされていた。窓の外では復興作業が進んでいるようだ。


「ですから落ち着いて聞きなさい。功績を称えて貴方を私の騎士にします」


 姫様は一呼吸置いて続けた。


「ずっと側で、私を守り続けなさい」


 姫様は僕をしっかりと見据えていた。不特定多数の兵士では無く、僕個人を。

 今日から僕は騎士になる。大好きな人の騎士に。

 ただの兵士は終わりだ。

 連載中の作品が盛大に行き詰まったので、短編を書いて息抜きを。

 主人公死なせるか悩みました。

 でもハッピーエンドがいいな~、と思ったのでこんな終わりに。

 ここまで読んで頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ