2:父様ができた~難儀な性格だけど~
この父親のせいでセレネちゃんが本質が見抜けるというよくわからん力を持ってる設定になった。ぶっちゃけここまでは前と流れは一緒。だけど次から全然違う流れになるんだけど……まぁいいよね★(追加)セレネちゃんのセリフを漢字に直しました。作者が書きにくかったとかそんなんじゃないよ?
くぐもった悲鳴が聞こえ、意識が浮上する。
動き出した五感は急速に周囲の情報を取り込んでいく。
冷たい地面、背中を預けている岩のゴツゴツとした感触。
蝙蝠が飛んでいるのか、羽ばたいている音が空間に反響してよく聞こえる。
瞼を閉じているはずなのに迷路になっている洞窟の形が手に取るように解った。
目を開けるとどこからも光が入る場所はないのに薄暗くとも隅々まで見ることができた為、私の周りで蠢く影をハッキリと見てしまった。
「あー……チッ、ペッ」
一瞬驚きで固まってしまったが、落ち着いてしまえば割と簡単に“思い出せた”。
蠢く影は影属性の適正が高いせいで、私が無意識に動かしているだけ。
勿論思い通りにも動かせるが、眠っていたりすれば勝手に周りの安全を“確保”してくれる。
今回も例に漏れずに、影の中にいつの間にか入れられていた巨大な竜に意識を向ける。
強制的に眠らされ、ここに“捨てられた”時に敵対行動をして影に処理されたんだろう……閉じ込められただけで、別に生きてるけどね。
まぁ影の中は普通に空気があるし、時も止まってない。
ただやっぱり影という異常な場所だから、ずっとそこにいると段々精神が狂っていく。
私にとっては無害なのだが、他の生物は中に入れてから数時間後には死んでいた。
さっき吐き出した影に包まれた“猛毒”を影の中に入れながら、これからどうするのか考える。
毒は寝ている時に無理矢理、口に含まされた物を影が無効化していたのだ。
これは消したい人を殺す時に使おうかな。
暗殺とかに使えば入手経路を探られるかもしれないが、私を捨てたアイツ等が怪しまれるだけだし。
「とりあえず、竜を出すか。次に敵対されたら殺すってことで」
舌足らずな声で喋りながら、立ち上がって私の少し前に影を集める。
今いる空洞の半分くらいを埋めてからやっと竜の大きさに至った。
影から三メートル程の高さの巨体が、影という水から出てくるように姿を現した。
気を失っているのか震えて倒れている竜を観察する。
形は西洋の竜に似ていて、四足で地面を踏むような姿だ。
夜の闇よりも尚深い漆黒の鱗に覆われた体に、広げると本体よりも大きそうな二対の翼。
額には透き通った黒い水晶が二つ生えていた。
生物が纏う色は基本的に、その個体の属性適正が高い色になる。この竜は見た目通りに闇属性に特化してるんだろう。
因みに例外というものがある。
それは私みたいなので、何故か影属性に特化していると自信を持って言えるのに、髪と瞳の色は私が持っている属性の中で一番属性適正が低い治癒属性の薄い金色が出ている。
そのせいで捨てられたんだけど、別に憎んでいない。
「もう放置して、ここから出るか」
気を失ってるのなら下手に起こさない方がいい。
どうせ敵対されてもされなくても、今後関わる予定はないんだから。敵対された時はこの竜と世界が永久の別れになるだけ。
そうと決まれば、何処に行こうかな。
元の国に行くのは論外、他の大陸に渡るのもここまで詰め込んだ常識が通じなくなるから排除。
とりあえず隣のモシャイル王国にでも行ってみるか。
ポチャンと影に潜り込む。私の力を全力で使えば世界の裏側にも移動できるが、今回はたった数十キロなので数秒で目的地の影を支配する。
モシャイル王都の近くにある森の湖に狙いを付けて影属性の移動系魔法【影縫い】を使う。
影に潜った時から竜が身じろいでいた気がするが、気のせいだろ……うん、気のせいだ。
「……っ」
今まで真っ暗な場所にいたせいか、影から出ると太陽が出ているこの場所は眩しすぎて涙が滲む。
それも少しの間だけで、慣れるに連れて徐々に落ち着いていった。
慣れた目で周りを見渡すと、透明度が高く鏡のように周りの景色を写し出している湖が広がっていた。
その周りには花畑があって、奥には森らしき木々の集まりがあった。
「なんか、和むな……」
こんなに心穏やかになったのはいつ以来だろう?
多分この世界に生まれてから初めてじゃないかな。
……別に生みの親や使用人は信じられない人ではなかった。
忠誠を誓った者には例え脅されても裏切らない程、一度でも信用を得られれば裏切りは心配ないと言い切れる程には信じれる人たちだった。
だけど“存在”自体を否定されていた私は信用を得る以前の問題で、私はアイツ等の中では存在してなかった。
“人”として見ようとしない者にどれだけ信用を向けても不毛なだけだ。
まぁ属性適正が安定する五歳まで衣食住が与えられて、暴力を振るわれなかっただけマシなのかもしれない。
でも“人”として扱われないのは辛い。本当に人ではないような気がしてきて怖い。
ゴミみたいな五年間のことを思い出して、気が滅入りそうになるのを頭を振って忘れる。
ついつい今後のことを考えないといけないのに、その穏やかな光景につられて湖の傍に腰を下ろしていた。
涼しげな風が私の頬を擽る。上を向くと雲一つない晴天の空。……平穏だ。
「さてと」
暫くぼーっとしてから勢いよく立ち上がる。
自分の姿を確認する為に湖の淵ギリギリまで行く。この湖に一旦来たのは、この為だ。
五年間、鏡を見たことも誰かと接したこともないので、どんな容姿になってるのか検討もつかない。
願いによって吐きそうな程の不細工にはなってないと思うが……見るのが怖くなってきた。
両手を地面について水面を覗き込む。そこに写された姿に私は息を飲んだ。
すぐに視線を外してから、覚悟を決めてまた覗き込む。
「凄いキレイ」
息を呑む程の美貌とはこのことなんだと思った。
自分で言うのはナルシストっぽいけどさ。
生みの親と似てないことに安堵したのはここだけの話だ。
ほくろ一つない透き通るような白い肌に、絹のようなプラチナブロンドの髪が真っ直ぐに腰まで伸びている。
一番目を奪うのは、宝石をはめ込んだような淡い金色の瞳。
神が丹精込めて造り上げたかのような美しさで、黙っているとドールのようにも見える。
子供らしい丸みを帯びた輪郭なのに、人目を惹く顔立ち。将来が末恐ろしいね。
「……ははっ」
神の本気加減がチラリと垣間見える美貌から視線を外し、気が抜けたように座り込む。
力が人外と呼べる程強かったので、容姿も美しすぎて空恐ろしいと感じる程なのかと懸念していた。
それが美しいと言っても、まだ人の枠に収まっていたので安心したのだ。出過ぎている杭は波乱を呼ぶから。
笑い出すと止まらなくなって、少しの間私の笑い声が響く。
気持ちを切り替える為に頬を叩いた。
「これからのことを考えないと」
王都に行くことは決定事項。教会にでも行けば、孤児でもある程度まで養ってくれる。
入るには検問をやっているだろうけど、【影縫い】で勝手に入れる。
王都に態々来たのは、人が多いから一人くらい潜り込んでも目立たないことが大きい。
それとは別にもしも王族の中に仕えたいと思った人物がいれば、すぐに忠誠を誓える近さにいたいのもある。
そんな簡単に普通は王族に会えないんだけど、治癒属性は国は喉から手が出る程欲しい。
だから国に仕えないかと声が掛かるはずだ、それも王が直接会って。
まぁここで考えても、王族と直接会わないことには解らない。国に仕えるのも面白そうだと思っているだけだ、今は。
少し休憩してから行こうと思っていると、背後に魔力を感じた。
バッと後ろを振り向くと、銀色に輝く魔法陣から男が出てくるのが見えた。銀色ってことは時空属性の色だね。
ならあの魔法陣の効果は移動系魔法の【転移】か。
と言っても魔法を使う時の魔法陣は私にしか見えないらしいけど。
「……子供?」
転移してきた男性を見た瞬間、暖かい目で見てしまった。
笑顔を貼り付けて、本心を知られるのが怖い臆病な子供。裏切ることはないけど、試すように甘えてそれで誤解されそうな性格をしていた。
前世の友人にこの男性と同じタイプがいたが、今回もまた安堵という感情が流れ込んでくる。
何故か私を見ると受け入れられたような、許されたような気持ちになるらしい。
年齢は二十代前半くらい。外見はサラサラとした銀髪を後ろでくくり、知的そうなアクアブルーの瞳。
穏やかそうな顔立ちなのに、何処か近寄りがたい空気を纏っている。服装は白いワイシャツに黒いベスト、長い脚を強調するスラっとしたズボンを着ていた。
信用できる相手のはずなのに、これまで“人”扱いがされなかったのでどうしても人を前にすると一瞬身構えてしまう。
目を見ればちゃんと私を人として捉えていると解るので、本当に一瞬だけだ。
「こんにちは」
とりあえず声をかけてみた。無視して王都に行ってもいいんだろうけど、何となく私を拾ってくれそうな気がする。
男性は信用できるし、なんとなく友人を彷彿とさせるから放っておけないというか。
私という存在に困惑している男性は、それでも私と視線を合わせるようにしゃがんで一見すれば柔和な笑みを浮かべた。
少しでも敏い人が見れば意味深な笑みに見えてしまう、そんな笑みを。
「僕はロイワール=カステヤノス。王都で冒険者ギルドのギルドマスターをしているんだ。君の名前は?」
私の目から視線を外さないロイに、私は笑顔を向ける。「私は貴方を信用している」と伝わるように。
それにしても名字があるといことは貴族、しかも王都の冒険者ギルドのギルドマスター。
腹の読み合いをすることも時にはあるだろうけど、どうしてここまで本心を知られるのが怖いと思うんだろう?
予想はついているが、それが正解なのか解らない。
「セレネティアと言います。今日で五才になりました」
「セレネティア、か。良い名前だね。セレネって呼んでいいかい?」
五年間で一度も呼ばれなかった名前を伝える。
生みの親と会話した記憶がないので、本名かは知らない。だけどリンネちゃんに付けられた時から、私はセレネティアになった。この名前以外は要らない。
頷いた私の存在になれたのか肩の力を抜いたロイさんは、周りを見てから純粋に質問してきた。
「どうしてここに?両親は?」
「……捨てられました」
「家族なんていない」とでも言おうかなと思ったけど、それを言うと話がややこしくなりそうだったので辞めた。
だから客観的に伝えてみたら、頭を撫でられた。慣れてない手付きで触れるロイさんに好きなようにさせる。
同情、というよりも怒ってるのかな。
でも私にとって、捨てられたのは幸運だった。下手に何処かに売られたり、実験体になったりすることもなかったから。
「……セレネは捨てた親を憎んでいるかい?」
「いえ」
「へぇ復讐とか考えてないの?復讐は気が済むまで殺るのが基本だよ。敵の心が砕けるまでね」
軽い口調で珍しく本心を言っているロイさんに、そこまで私を内側に入れてくれたのかと驚いた。
否定されたらとか、怖がられたらとか色々考えて私から視線を外しているロイさんには悪いけど、同感だと思っている私はロイさんの同類だろう。
憎んでいたらどんなことをしても、社会的・精神的に抹殺していただろう。
でも私はアイツ等に恨みや怒りを覚えたことは一切ない。逆に愛情や執着なんかの類も持ってないけど。
だから復讐なんて物に体力を使う程、アイツ等に興味がある訳じゃない。
好きの反対は無関心ってよく言うけど、そんな感じだ。
まぁ闇属性にも、それ以上に一族が切望していた影属性にも特化していたとこをずっと教えずにいたことが、私なりの復讐なのかもしれない。
「そうですね……復讐はやりましたよ。アイツ等にとって一番効く復讐を」
惜しいのはアイツ等がそれを知った時の反応を見て、爆笑することができないという点だ。
悔しそうに地団駄を踏むに違いないと確信してるけど、答え合わせはできない。何故なら私の人生において、アイツ等と今後関わる予定は皆無だから。
心なし胸を張って言えば、ロイさんは堪えきれずに漏れ出したとでも言うように笑った。
それは極自然に暖かみがある笑顔で、穏やかな笑い声が空間に消えていく。
「セレネ、僕の子供にならないかい?気に入っちゃったんだ」
悪戯っ子のような笑みを浮かべながら、首を傾げる。
冗談だという雰囲気を纏いながら、感情はどこまでも真剣味を帯びていた。
知られたくない、けど知って欲しいという難儀な思いを持っているロイさんに、冗談を含んだ声音で返事を返す。
「変態ですか?」
「酷いな、変態じゃないよ」
冗談で返したことに残念に思いながらも、それに乗るように負の感情が微塵も入ってない声で詰ってきた。
テンポのいい返しに気分が良くなる。こんな日々を送れるのなら、ロイさんの子供になりたいな。
「不肖の身ですが、よろしくお願いします。“父様”」
貴族の子供って父親のことを父様って呼んでるだろうな、という勝手なイメージで父様と呼んでみる。
違う呼び方がいいと言われれば素直に変えるけど。
笑顔を浮かべながら父様の反応を待っていると、父様は数秒固まってから感極まったように私をギュッと抱きしめた。
少し強い力に「慣れてないな」と思いながらも、私の体も人肌の温もりに慣れてないからお互い様だろう。
作者の無駄知識ー♪モブは特にいなかったのでさよなら~てことにはならない(笑)。
セレネちゃんの性格は転生する前から変わってません。内に入れた人間と外にいる人間を区別?差別してるだけです。これ以上はネタバレになるのでお口をチャックします。
所でずっと信じられる人なんていないと思うんだ。環境や時間によって性格って変わるから、セレネちゃんが信じる人は本当にどんなことがあっても信じられる人。という設定でお願いします。というか前書きとか後書きとか見なくても別になんの支障もない。
(修正)矛盾している部分が出たので、書き直しました。なんですぐに気付かなかったんだと落ち込んでいます(笑)