7;教会でオネェさんに会いました~神官、気をしっかり!~
お久しぶりです作者です。今回はオカマ回です。作者はカッコイイオカマ、可愛いオカマが大好きです。とは言ってもオカマ好きになったのは高校時代に友人から「カッコイイオカマとは」やら「絶対に一人はオカマを入れるべき」と三十分程熱く語られてからだから、洗脳……ゴホンゴホン。いえ、何もないです。
この世界の教会は権威はあっても権力はない。
簡単に言うと政治に干渉できる力はないという一言に限る。それは逆に国に干渉されない、という意味でもある。
だから教会は国境関係なく存在し、そして困っている人の助けになることができるのだが。
そして地球の宗教との最も大きな違いは、神が本当に存在するという点だ。
神子が神の声を聞き、またその身に神を降ろし神の意思を伝える。
国によって降臨する神が違い、主要な神殿にはその降臨する神の名前がつけられている。
神がいるお陰か、教会には腐った神官がいない。いや、いないというのは言い過ぎか。
いるにはいるが、影響力が出る程の立場の神官にはいないというのが正しい。
つまり何が言いたいのかというと、立場が高い神官は全て神の厳しいチェックが入っているという訳だ。
「初めまして、ワタシはユウスリアス神殿の大司教のジュアンよ。セレネティアちゃんを歓迎するわ」
そしてこのガッシリとした体型の男前オカマさんは、癒しの神ユウスリアス様に見定められた大司教である。
神のチェックが入っているお陰か、性格は文句なしにいい。
信仰心は高いし、裏切らないし、口も硬いので相談役にはピッタリ。皆のオネェさん(お姉さん)的存在だ。
外見もクールな冷ややかな顔立ちをしているが、雰囲気や笑みがその印象を相殺している。
そして金髪青目という治癒属性を抜かせば回復系魔法の威力が一、二を争う程強い光属性と水属性の適正持ち。
聖職者としても医師としても優秀な人材だ。
慈愛に溢れた笑みを浮かべるジュアン大司教に、ペコリと頭を下げる。
父様も柔和な笑みを浮かべながら、親しそうにジュアン大司教に話しかけた。
「お久しぶりです、ジュアン大司教。僕は歓迎されてないんですね」
「あら、勿論ロイワールちゃんも歓迎してるわよ?」
双方、気を置けない関係としての認識がある為のやり取りなのだが、傍から見ると腹の探り合いをしている印象を持つ。
とは言ってもそれは二人共が余裕そうな雰囲気を醸し出しているせいなのかも知れないが。
ふふ、はは、と笑い合う声を聞きながら、通された部屋のソファに腰掛けようとした。
しかし途中で流れるような動作で、私は父様の膝の上に降ろされた。
その行動にジュアン大司教は一瞬驚いたが、何事もなかったかのように向かい側に腰を下ろす。
「それで話というのは、セレネティアちゃんの後ろ盾になって欲しいってことかしら?」
「えぇ」
部屋に控えていた神官が入れてくれた紅茶を飲んで、一息付いたジュアン大司教がそう切り出す。
ジュアン大司教は私の意思を尊重したいようで、父様が答えたことに少し不思議そうにしながらも続けた。
「教会としては、治癒属性持ちの後ろ盾になるのに異存はないわ。でも大勢、そうね……都市一つが飲み込まれる程の災害に見舞われた時には駆けつけるのが条件なのだけど、それは了承済みかしら?」
前から知ってはいたが、その話はここに来る前に父様に聞いていたので頷く。
街一つとは言っても教会からも神官が派遣されるので、私が出張るのは両手の指で数えれる程。
将来神官になりたいのなら、その限りではないのだけれど。
……そう言えば知識を貯めるのが面白くて、将来何になりたいのか明確なことを考えたこともなかったな。
希少属性持ちだから何になるとしても、厄介事が起こるのだから納得できる職に就きたいとは思っているけど。
ぼんやりと前世ではできないようなことをやりたいとは思ってる。
でもまだ五歳なんだし、じっくり考えればいいだろう。
「それで、セレネティアちゃんはロイワールちゃんと一緒に住むってことでいいのね?セレネティアちゃんが望むのだったら、教会で保護ーーー」
「セレネは僕が育てますから」
ジュアン大司教の言葉に被せる形で父様が吠えた。
絶対零度の暗黒微笑でジュアン大司教を威嚇しながら、父様は私を抱き込む。
それは獣が我が子を取られまいとして、噛み付く隙を探しているかのように。
ジュアン大司教は全く笑っていない目をしている父様に興味深そうな視線を送ったが、何も言わずに私に問いかけるように首を傾げてきた。
ギュッと強くなる腕の強さに、朝食が口からこんにちはしそうになる。
「大丈夫だから」と伝わるように、トントンと腕を叩いた。
父様の腕が緩んだのを確認してから、ジュアン大司教に笑みを向けた。
「ありがたい申し出ですけど、私は父様と一緒にいたいのでお断りします」
「そう、残念だわ」
悲し気に伏せた睫毛を震わせているジュアン大司教の瞳には、安堵の色が見え隠れしていた。
確かにジュアン大司教は慈愛に満ちている人物だが、それだけでは教会の中で幹部相応の立場にはいられない。
国との駆け引きもするはずだから、仮面の一つや二つ持っているのも変ではない。
教会としては出来れば私を保護したい。何故なら一緒に過ごした時間だけ、情が移るのが“人”だからだ。
情が移れば義務だけではなく、自発的に治癒魔法を患者にかけてくれる可能性が高くなる。
でもジュアン大司教個人としては、本心を出すのを怖がっていた父様が漸く大切な者を作ったことに対する嬉しさ。
そしてそんな私が父様を選んだことに安心しているといった所か。
「……あら、ロイワールちゃんでもそんな顔をするのね。いいものを見たわ」
僅かに目を見開いたジュアン大司教が、微笑ましそうに顔を綻ばせる。
チラリと視線を上げようとすると、見るなとでも言うように手で目を塞がれた。
外してもらおうと数回呼びかけるが、うんともすんとも言わない。
無理してまで見たい訳ではないので、すぐに諦めてくたりと父様に寄りかかった。
「うふふ……っと話が横道に逸れたわ。セレネティアちゃんたちも暇じゃないだろうし、話をさくさくと進めようかしらね」
「……んん”……そうですね。この後の予定は特にないのですが、早く終わらせるとしましょうか」
二人共少し震えた声で話しているが、そこに入っている感情は真逆だった。
ジュアン大司教は笑いを堪えようとして堪えきれなくて震えていて、父様は恥ずかしすぎて半泣きになりそうで震えている。
視線は塞がれて暗闇しか見えないが、私の言葉に嬉し泣きしそうになった父様がジュアン大司教に弄られているという光景が目に浮かぶ。
即座にピリピリした空気を感じて、そろそろかと覚悟を決める。
父様が私の扱いの落としどころを何処にするのか、全くと言っていい程知らないので少し緊張する。
「それでセレネティアちゃんが教会の治療院に回復系魔法を習いに来るのは週に何回かしら?」
「ジュアン大司教、もう焼きが回ってきましたか?希少属性持ちは例外なく本能で使い方を知っています。習う意味は全くといっていい程ありません」
「ホント、ロイワールちゃんって辛口よね。オネェさん悲しいわ」
しくしくと態とらしい泣き真似の声が聞こえた。
視界が機能してないせいで他の感覚が鋭くなっているのか、喋っていない控えている神官の呆れた感情も流れてくる。
とは言ってもやっぱりジュアン大司教が選んだだけあって、私と父様のどちらもそれとなく警戒しながらだが。
「週一でもダメかしら?」
「……僕が王都を離れる時には吝かではありません」
「ロイワールちゃんが王都を離れる時って災害があった時よね、それ。そんなに嫌なのかしら」
ジュアン大司教の呆れた声に父様は「何を当たり前のことを」と鼻で笑った。
父様は私に冒険者ギルドにいて欲しいのだ。冒険者ギルドは父様にとって自分のテリトリーみたいなもの。
そこに私がいれば、何らかのトラブルに巻き込まれてもすぐに助けに行ける。
だから極力自分の権力が届かない場所に、私が一人でいるのは心配で仕方ないんだろう。例え預けている所に信頼している者がいるとしてもね。
「はぁどうしてもダメなのね……。あ、そうだわ。セレネティアちゃんはどう思ってるのかしら。治療院に来たくない?今ならお菓子も出るわよ」
「お菓子なら僕が買います」
売り言葉に買い言葉とでも言うように、ムキになっている父様に苦笑する。
そんなに警戒しなくても、父様が嫌なんだったら私はそれに従うよ。そう約束したし、それを裏切るつもりはない。
でも少しくらい妥協してもいいとも思うんだ。
ジュアン大司教は一人でもいいから、私に患者を診て欲しいだけなんだから。
まぁとりあえずは目を塞いでいる手をどけようか、話はそれからだ。
「お菓子食べたことないから、どんなのが好きか知らないけど、父様それよりもまずは手をどけて」
「じゃあ食べ比べできるように色んな種類のお菓子を買おうね。セレネが気に入るお菓子はあるかな?」
「……ジュアン大司教」
「何かしら?」
話を逸らそうとする父様を無視してジュアン大司教に直接話しかける。
微かに力が入った腕に手を添えた。
きゅっと握ると、邪魔しようと開きかけた口を閉じたのがわかって笑ってしまう。
さっきまで張り詰めていた空気が、父様のせいでどっかに行ったようだ。
「いつもとは限りませんが、冒険者ギルドにいる怪我人や病人なら治しましょう。ただし、教会はこの話を広めないでください。私の“気まぐれ”で治すんです。気分が乗らなければ、無視することもあります」
私的には条件がなくても良かったんだけど、そうすると冒険者ギルドに患者が溢れてしまう。
そうなったら父様の、ひいては冒険者ギルドの関係者にも治療院にも迷惑がかかる。それでは最初から誰も治さない方が遥かにマシだ。
まぁ治療院でやれば問題は全て教会が解決してくれるから、本当はその方がいいんだろうけど。
父様が嫌がっているから、妥協はここまでしかできないかな。
「教会が広めなくても、勝手に広まるわよ?」
「承知の上です」
「……そう、セレネティアちゃんの“気まぐれ”に感謝するわ」
嬉しそうな声音とは違い、ジュアン大司教の心は大いに荒れていた。
ジュアン大司教は理解しているんだろう。
もし私が拒否した時にどんな批判をくらうのか。
それでも一人でもいいから助けて欲しい、と願うのは止められない。
とは言っても、私もただ暴言を黙って聴いてるなんてできない。
言い返すし、文句があるなら正論で心まで砕いてあげる。
父様にまで引き合いに出してきたら、国の反逆者にでもなってもらおうかな。
「ロイワールちゃんもそれでいいわよね?」
「……セレネの初めての可愛い我が儘ですからね」
随分と時間を貯めてから、父様は「しょうがないな」と言うように呟いた。
それにジュアン大司教は吹き出したような笑い声が聞こえた。
それに父様は冷ややかな雰囲気を出しながら、遠まわしに黒い言葉を吐く。
そのまま表面上は穏やかに、少しでも深読みすれば恐ろしい意味合いを持つ毒をお互いの心に注ぎながら、息を合わせたように次々と話を進めていく。
やれ災害時には誰を向かわせるとか。やれ各国にはどこまで伝えるかとか。
言葉のキャッチボールじゃなくて、言葉の銃撃戦になりながらも決まっていく。
楽しそうにじゃれ合っている二人を余所目に、紅茶のお代わりを頼んだ。
前世では苦手とすら思っていた紅茶が、こんなに美味しい物だとは思わなかった。
やっぱり市販の安い紅茶と茶葉から入れる紅茶は別物なんだとしみじみと頷く。
一口目はクンクンと紅茶の匂いを嗅いで恐る恐る飲んだから、神官の人にほのぼのと微笑まれたのは恥ずかしかったけど。
因みに言い合いが始まってすぐに、目を覆ってた手は外れたというか外した。
父様の意識がジュアン大司教との会話に向いていたから、結構簡単だった。
「これもどうぞ」
ソっと出されたお菓子を見て、笑顔で礼を言う。
スイートポテトに似たそれは、食欲をそそる匂いを醸し出していた。
添えられている小さなナイフを手に持ち、一口サイズに切り分けてそのまま刺して口に運ぶ。
途端に広がるまろやかな甘さ。自然と口元が緩むのを抑えられない。
五年間食べてなかったから、余計に美味しく感じる。
殺伐とした部屋で私と神官の二人だけはほのぼのとした空気が漂う。
ふとじゃれ合いに耳を傾けると、私の害になりそうなことは全てばっさりと切っていく父様に、やっぱり心配は無用だったとくすりと笑った。
助けを求めるジュアン大司教の視線に気づかないフリをして、お菓子をまた口に運んだ。
とりあえず、後一杯くらいお代わりしてから私も話に加わろうかな。
ジュアン大司教と父様の意見が食い違うと、いつまで経っても平行線を辿るだけだよ。
だって父様もジュアン大司教も妥協しようとしないからね。
何処か前世の友人たちを思い出させる光景に、泣き出しそうな顔がチラリと脳裏を過ぎったが、頭を振って追い出す。
……いつか前世の記憶が懐かしい思い出になるのだろうか。
「あら、もう夕方なのね」
ジュアン大司教の声に釣られて窓を見ると、空が赤く染まっていた。
思った通りに私が話に加わるまで、父様とジュアン大司教の意見が食い違う内容の話は均衡を保ったままだった。
それをどうにかこうにか父様を宥め、お互いが妥協できる範囲の中で決めていくこと数時間。
普通なら昼前には終わるはずだった話は昼を跨ぎ、日が暮れるまで続いた。
これには控えていた神官も口元をヒクつかせながら、大慌てで昼食の準備やスケジュールの調整に騒がしくしていた。
「ついでだから夕飯も食べていかないかしら?」
ジュアン大司教のその言葉に、疲れで表情が抜け落ちていた神官の目から光が消えた。
作者の無駄知識ー♪
神官:ジュアン大司教の執事的立場の人。セレネが来た日は前日にロイから連絡が来てたので午前中のみスケジュール調整をして空けていた。午後には神子との会議などが入ってたり、夕飯時には国王との食事会があったのだが……。とは言っても治癒属性持ちとの直接会っての話し合いだったので、特に問題は起きなかった。逆に神子には是非治癒属性持ちが皆に回復系魔法を使ってくれるように頼まれ、国王には国との繋ぎを作って欲しいと歓迎された。