街角の少女
外は大雨が降っていた。
時はある年の六月。ここ最近ずっと続く梅雨に、僕はうんざりしていた。
――というか、この日だけはうんざりというかビックリしていた。
「…………」
可愛い少女が街角で座っていた。じゃなくて!
いや、女の子が可愛かったのも合ってるし街角で座っているのも正解なんだけど、というかこんな子がこんな所にいる時点で色々間違いだらけだった。
時間は…既に午後の11時を指している。そもそも僕みたいな学生がこんな所にいるだけで変なのだ。
えっと、あの。
どうすればいいんでしょうか。
見たところ、歳は13歳くらい…中学生?
長い髪が雨で濡れて肩にかかっている。どこかの学校の制服だろうか、白いワイシャツがぺったりと彼女の肌に貼り付いて…
貼り…付いて……
「う……」
しまった。
気付いてしまった。
いや、何というかその、気付いてしまったのだ。
その服の下に隠された、水色の布切れを。
お、落ち着け。落ち着くんだ僕。
ただの―――ただの中学生の下着だぞ?!
ブ、ブラ――ブ―――うおおおぉぉぉっ!!
ダメだ、もはや直視できない!!
その膨らみは小さく、少女のあどけなさを残している。
そしてまたその破壊力も、高校生として、一人の男の目にとっては猛毒だった。
と、僕が一人悶絶していた時の事だった。
目の前の水色――じゃなくて!
中学生であろう女の子が上を向いた。
俯いた顔を上げた。
要するに、目の前で悶絶している変質者(僕)が彼女の目に入って。
網膜に焼きつかれて。
まあつまり、僕は今とんでもない姿を見られてしまったのだ。
「――あ」
絶句。
女の子は何も言わない。
否、何も言えない。
or、何も言わない。
「えっと、その」
「話しかけないでください」
きっぱり。
僕が何かを言う前に、彼女は遮った。
拒絶された。
「というか、警察呼びますよ」
「ちょっと待て、僕はまだ何もしていない」
「まだ?という事はやっぱり私に何かしようとしていたんですね……」
しまった…墓穴を掘ってしまった。
恥ずかしい!穴があったら入りたい!
いや、自分で掘ってた!
「しかも私の胸をじーっと見て……サイテーです」
「いやその…な、何でこんな所に?」
招かれざる誤解を招いてしまった。説得の隙が無いので、半ば無理やり話を変えてみる。
「なんでも何も、あなたには関係ありません」
「まあそう言わないでさ、ほら洗剤とか、あっ野球のチケットとかもあるよ」
「新聞屋ですか」
「違う、押し売りだ」
「なら結構、私はセールスお断りなので」
「そりゃ残念、良い商品持ってきたのに……」
いや待て。
むしろ話を反らされてるのは僕の方じゃないか!?
しかも僕よりも巧妙に!
「で、結局――」
リトライだ。
「君は一体――何でこんな所にいるんだよ?」
はぁ…、と彼女は一つ。
ため息をついた。
「強いて言えば…家出ですよ」
「――はい?」
「聞こえなかったんですか?家出ですよ。何度も言わせないで下さい」
はぁ。
さっきのため息と読み方は全く同じだけど、意味合いは全く違う。
家出?
「どうしてまた」
「教えません。てゆーかそれこそプライバシーの問題ですよ」
「それもそうだ」
「とにかく話しかけないで下さい。私は好き好んでやっているんですから」
「――そっか」
これ以上反論の余地は無いと判断し、僕は回れ右をする。
何て子と出会ってしまったんだ。
ちょっと小生意気で、可愛くて、ずぶ濡れで、家出少女。
まあ僕にそんな趣味は無いけど。
一応心配っちゃ心配なワケで。
「――はあ、仕方ない。後で交番にでも知らせとくか」
ごぎゅるるる……
今まさに歩き出そうとした瞬間、謎の音が聞こえた。
もちろん、僕ではない。その音は――彼女の、お腹によるものだった。
「……」
無言で俯く女の子。その頬は少し赤らんでいた。
うっわ、可愛い。
何だろう、メッチャ可愛い。
「えっと――腹、減ってるのかな」
「――――」
黙秘。
でも彼女のお腹はぐーぐー鳴り続ける。
「――はあ」
今度は僕がため息をつく番だ。
「お金――は、あるよな。よし、じゃー行こうか」
「――え?」
体育座りをする女の子に語りかけると、驚いたように彼女は首を傾げた。
「決まってるだろ。ご飯食べに行くんだよ」
今僕たちがいるのは、僕の家の近くにあるファミレスだ。こんな遅くまで営業してくれて助かった。
始めは中々行きたがらなかったけれど、やはり空腹には耐え切れなかったんだろう。嫌々ついてきた。
嫌々ついてきた――割には良く食べるわ食べるわ。
それはもう、僕は説明下手だからあえて単刀直入に言おう。
たらこスパ三皿、デミハンバーグ4皿、ドリンクバー、約30杯。
そして今四皿目のたらこスパに手をつけようとしている。
結局腹減ってたんじゃないか――素直じゃないな。
財布が薄くなる実感を感じた。
「ったく――よく食べるよな、君」
僕の声を聴き取ると、今なおもしゃもしゃとたらこスパを食べる手と口を休めた。
「まあ――お腹、空いてたもので」
「ソレ食べたらいい加減家に帰るんだぞ」
「――――」
黙秘。
彼女は答えない――いや、答えられそうになかった。
「――です」
「ん?」
辛辣そうな表情を浮かべて、彼女は言った。
「無いんです。家――」
もう、遅かった。
聞いてはいけない事を、僕は聞いてしまったのだ。